彼女らはライブもするんだからトレーナーを目指すなら踊れたほうが良い───。
勉学に励む学生時代に誰かから聞いたその言葉を素直に受け取ったお兄ちゃんは、ダンススクールに通った。
お兄ちゃんは殊更に素直な男だった。
昼は勉学に励み、夜な夜な踊りの練習を重ねた。
凝り固まった体をテニスボールで押しほぐす。体の軸を意識し、軸、重心、インナーマッスルを操作する。
柔軟な股関節はついに180度の前後左右開脚を可能とし、体は引き締まりつつもフワフワと柔らかい筋肉に覆われてゆく。
お兄ちゃんのジャンルはジャズダンス。バレエを下敷きとした先生に習ったそれは美しくも妖艶。なめらかで伸びやかな体の使い方は、女振りのダンスを踊れば何やら女性よりも女性らしくセクシーに見えるほど。
だがそれはそれとして、お兄ちゃんはダンサーではなかった。
あくまでトレーナーなのだ。普段の居住まいはチョッピリ猫背気味。歩き方も靴のかかとがすり減るような普通の歩き。
いざ踊ればキレッキレでいつまでだってターンを回れるが、必要なければ別に回ったりもしなかったし、特に自分から喧伝することも無かった。
カレンチャンはそんなお兄ちゃんに対してなんとなく、お兄ちゃんって実は結構動けるのかなと思っていた。
ダンスについて相談したときの返答がやけに具体的だったのだ。
お兄ちゃん、よく見たら結構スラッとしててスタイル良いよね。何かやってたのかな。ちょっと聞いてみようかな。その程度だった。あの夏までは。
お兄ちゃんは───脱いだ。
夏合宿の日だった。スクール水着に着替え、浜にやってきたカレンチャンの前に居たのは同じく水着に着替えたお兄ちゃんだった。
圧倒的であった。いたいけな中学生には目の毒なほどに完成された大人の男のセクシーボディだった。
普段の猫背はなんだったの。その体でトレーナーは無理でしょ。
必要な筋肉にのみ的を当てて絞り込んだプロの体だった。正直エッチだった。
カレンチャンは周りからちらちらと向けられる視線を感じていた。
走れメロスの最後に出てくる服を持った少女の気持ちがなんだかわかった気がした。
ほんのちょっとだけ大人になった夏だった。
ただ、この感覚に流されたら何やらカワイイではない事になりそうだと思ったので───
カレンチャンは───耐えた。
ぐっと耐えた。
それは今考えても拍手喝采だった。
よくぞ耐えた。
反射的にカウンターでカワイイを叩き込んだ。
お兄ちゃんも───耐えた。
ノーガードの殴り合いだった。
砂浜に不思議な空気が満ちた。
その日の夜、カレンチャンはどきどきして眠れなかった。
お兄ちゃんもカワイイを直に浴びたせいで眠れなかった。
ウマ仙人が微笑みながら二人のゆく道を見つめていた。
ウマ仙人is何