ぐっとペダルを踏み込む。ぎしぎしと軋む籠付き自転車のフレームが、地面とがっちり噛み合って滑るように進み出す。
あくまでも柔らかく、それでいてスピーディに。これからどれほど長く自転車を漕ぐ事になるかは分からないが、ダイタクヘリオスはやると決めたからには、少なくとも本気で北海道を目指すつもりだった。
きゅぅ、と背後から腰あたりに回された手に力が入る。小さな手のひら。白く、美しく、細くて脆そうな、頼りない手のひら。
きっと上手く行くはずも無いのだろう。お互いにそれは解っていた。それでもヘリオスは、その彼女の手を取らずにはいられなかったのだ。
「お嬢、大丈夫? お尻痛くない?」
「……大丈夫です」
「そっか! もうちょっと行ったらクッションとか買うからさ〜! それまでもうちょっと待っててねぇ〜!」
小さく頷く気配。やはりママチャリの後ろは負担が大きいのだろう。彼女が二人乗りに慣れているとは思えないし、ヘリオスだって普段から人を乗せ慣れている訳でもない。できる事と言えばとにかく元気に振る舞う事と、なるべくスムーズに進むよう段差を避けることくらいだ。
だが、後には退けない。退く気も無い。
今日この日この時、ダイタクヘリオスは一人ぼっちで泣いているダイイチルビーを誘拐したのだ。目指すはでっかく北の大地北海道。向かう足はママチャリと、予定ではその都度の交通機関。身代金は4兆円だ。払えるもんなら払ってみやがれ。
【ヘリルビ短編】宝石泥棒
「うぇいうぇいうぇ〜い! お嬢ってば麦わら帽子メッチャ似合うくね? ヤバたん! チョ〜カワイイじゃん! ほらアイス食べて食べて!」
コンビニで買った帽子を被せて、努めて明るく忙しく。夏の18時はまだまだ明るく温度も高い。相手の体調を気遣いつつも、エネルギーを分け与えるようなつもりで大人しくなったルビーに接する。
2つでセットになったアイスを半分こしながらヘリオスはルビーの横顔をのぞき見た。冷たい甘さにふっと気が抜けたのか、眉間の皺が薄くなるのを見て、ほんの少し安堵する。
ヘリオスがルビーを発見したのはお使いの帰りだった。夏野菜とカレールーを詰め込んだレジ袋を自転車の籠に、上機嫌で寮へと向かう道すがら、歩道のフェンスに腰掛けて彼女は泣いていたのだった。
家出をしたのだとルビーは言った。ぽつりと言葉少なく、理由も言わず、ヘリオスの顔を見る事もなく。ただそれだけ。
当てもなくとりあえずトレセンまでやっては来たものの、とうの昔に実家から学園に連絡は行っているはずで、おまけに夏季休暇のため、数少ない知り合いは軒並み遠征やら実家に帰っていて居ない。
自分から帰る気にもなれず、ただ見つかるのを待つだけ。華麗なる一族からはかけ離れた自分の行為が重くのしかかり、情けないやら、恥ずかしいやら、悔しいやらでぐちゃぐちゃの心が、静かにぽろぽろと涙を流していた。
「でも、もういいんです。聞いて頂いて、少しだけ落ち着きましたから」
珍しく、本当に珍しく、ルビーの側から話しかけてくれた。電源を落としていたのだろう、ポケットからスマートフォンを取り出してボタンに触ると、途端に着信音が鳴り響く。画面に表示された名前は恐らく彼女の両親だろうか。彼女の細い指がスライドし、表示が通話中に変わる。
けれどもその時、ほんの少しの間だけ、ルビーは悲しげな顔をしたのだ。あの鉄面皮が。それに気が付いた瞬間、ヘリオスはルビーの手のひらから携帯電話を奪い取っていた。
「もっ、もしもし!? お、お嬢はウチが預かったし! だから帰れないんだぞぉ! ずっと遠くに連れていくんだ! 返して欲しかったら4兆円くらい払え! そ、それじゃ!」
相手の声も聞かずにまくし立て、通話を切る。ぽかんと目を見開いたルビーの顔が印象的だった。涙に濡れていた瞳が桃色に反射して、本当に可愛い。
けれども見惚れてもいられない。やっちまったは自明の理。きっとこのまま彼女を帰らせるのが一番丸く収まるのだろう。怒られて、話し合って、落とし所を見つけて、少しだけ大人になって。けど、今この瞬間、彼女は辛そうに見えた。ただそのために、刹那的に首を突っ込んで事態をかき回してしまった。
(今度こそグッバイ、ウチの運命……)
後悔は無い……多分。見逃して、たとえ上手く行くのだとしても、今この瞬間の彼女はきっと深く傷付く。仮にその先に、もっと傷付く可能性があったとしても。そう考えたら止まらなかった。
あーあ。どうしよう。バカな事をしてしまった。もう話すらしてくれなくなるかもしれない。そうなったら塩対応通り越して何だろう、無? 無に変わる的な? 今後の彼女との関係性の変化を思うと、ガチつらみざわで、どちゃくそしょんどい。*1
「……それで」
声をかけられる。びくりと肩が震え、そろりとヘリオスはルビーの目を見た。気分は刑の執行を待つ罪人だ。申し訳なさと、ひと思いにやってください。そんな気持ちでお腹に力を入れる。
けれども、続く言葉はヘリオスが予想だにしていない物だった。
「……貴女は私をどこに連れて行ってくれるのですか?」
ひたすらに国道沿いを自転車が走る。二人分のペットボトル、荷物置きにくくりつけられた黄色いクッション。麦わら帽子に風を受け、盗み出した宝石を背に、するすると進んでゆく。
そろそろ日も落ちてきた。ライトを付けるために少し身を屈めると、買い物かごから野菜の匂いがした。パーマー、ごめん。今晩のごはんは自分で何とかしてね。袋からそのまま齧れそうな野菜を取り出し、二人で食べた。
行き先も二人で話し合って、北海道に決めた。漠然とした、遠くのイメージ。向こうに着いたら何をしようか考えたが、思いつかなかった。
道中、沢山の他愛のない話をした。夕日が綺麗だとか、この辺りは来たことがないとか、何が好きで、何が苦手だとか。
思えば、彼女とこんなにたくさん話すのは初めてだった。こんな状況だというのに、心が弾んでしょうがない。
今までに、ただの一度も傷付いた事が無いかのように、二人は会話をした。穏やかな時間だった。
そうこうしている内に、次第に明かりは消えて、口数も少なくなっている。嫌な沈黙ではないが、お互いに疲れが見え始めてきていた。
そろそろ宿を探さなくては。野宿はできるなら避けたい。町中ではそもそも無理だし、かと言って道を外れると虫も多い。ヘリオスの私服はおへそも足も大胆に露出しているので、途端に虫刺されだらけになって体調を崩してしまうだろう。道はまだ長いのだ。
最初に考えていたネットカフェは、初入店時の会員登録で身分証のコピーを取られてしまう。学生証しか持たない二人には取れない選択だ。
同じくカラオケ等も、若者を夜間入店させないために色々と対策を取っている。ファミレスも考えたが、ヘリオスはいかにもティーンの若者で、ルビーに至っては少女と言える見た目だ。間違いなく補導されてしまうだろう。
最終的に行き着いたのは国道沿いの、古びたホテル。フロントに人を置かないタイプの、有り体に行ってしまえばラブホテルという物だった。
「お、おお……広くていい感じじゃね……?」
どぎまぎしつつ部屋を選び、並び合ってエレベーターに乗る。途中、一組の男女とすれ違ったが、特に見咎められる事もなく部屋にたどり着いた。
がさりと買い物袋をテーブルに置き、ベッドに腰掛けて深呼吸。壁と天井に囲まれた人工の明かりの下に入ると、なんだか許された気分になってくる。ほっと息を入れる。
ちょこんと肩が触れる位置にダイイチルビーが座る。耳と尻尾が跳ね、心臓が高鳴る。あんなにツレなかったお嬢と、こんな場所でこんな近くに居る。考えてみれば大変な事だ。途端に恥ずかしくなってくる。
「お、お嬢、ウチいま汗臭いからあんま近いと……」
「今更です。ずっと同じ自転車に乗っていたのに。……あちらの自販機で下着を売っていましたよ」
「ま!?」
「はい。ただ……買うのは少し勇気が要るかと」
「どゆこと?」
「その……布面積が」
「ぬ、布かぁ……」
コンビニで一緒に下着やシャツも買っておくんだった。このホテル近辺にはお店はあまり見当たらない。
今まで着ていた服は、ホテルのランドリーサービスを使うとしてもその間である。据え付けのバスローブを着ても、その下が全裸なのはきっと落ち着かない。ガラス張りで何一つ隠れていないお風呂場の入り口を見やる。
「……貴女はもうちょっと慣れているのかと思っていました」
「へ、何が?」
「その……ああいう下着とか」
「ちょちょちょちょ! お嬢ウェイ! ウェイティン! そんな事ないから! フツー! ウチちょーフツーだかんね!?」
「お部屋を選ぶ時も仕組みを分かっているようで……」
「ネット! ネットで調べてたん横で見てたっしょ!?」
くすくすと笑う声。からかわれたと気付いたのは、すっと細まるルビーの瞳を見てからだった。
「お嬢、笑ってる……」
「……私だって、笑いもします」
「ウチ死んだわ」
「なんですか、それ」
見惚れる。自分は、きっとこの顔を見たかったんだと思った。本当に綺麗で、可愛くて、心に直に染みてくる。泣き顔も可愛かったが、笑顔ならば天下一品だ。真っ黒な宇宙に輝く太陽のような微笑み。よかった。気分が暖かくなる。
目の端に溜まった涙を払い、楽しげに弓を描く瞳をそのままに、ダイイチルビーはベッドへと背中向けに倒れ込んだ。スプリングの効いたベッドが弾み、清潔なシーツの香りが舞い上がると、ようやく少しの安堵感を覚える。空調の音が部屋を包み、快適な空気に汗が引いていく。
くいくいと引っ張られる感触。目をやると、小さな右手のひらが、ダイタクヘリオスのシャツの裾に伸ばされ、ちょこんと端を摘んでいた。
「……誘拐された被害者が」
「お嬢……?」
まっすぐ目を合わされる。小さい体だ。こちらを見上げる桃色の瞳がヘリオスの琥珀の瞳を射抜いている。真剣な、決意を秘めたような瞳。耳と尻尾はあくまで平常。ただ、彼女の全身全霊がこちらに向けられているのが分かった。指先がむき出しのおなかをゆっくりと撫でていく。ぴたぴたと冷たい感触。
「誘拐犯に好意や共感を抱くようになる、という話をご存知ですか?」
「……たまに、映画とかで見るやつ?」
「……そうです」
するりと尻尾に手櫛を通される。むずむずとしてくすぐったい。恥ずかしさに身じろぎするも、やわやわとしたボディタッチは続き、慣れない刺激におへその裏がくすぐったくなる。
「一生懸命に自転車を漕いで下さって、お疲れでしょう」
「そ、そんな事ないし……お、お嬢の為なら全然ヨユーっていうか?」
「私、嬉しかったんです。びっくりもしましたが……」
「そ、それな。ごめんって」
どこまでも優しい手付き。そろそろと根本の方まで伸びてくる。脈打つ心臓が口から出てきそうだった。
「貴女が私に言う好きが、友情なのか、愛情なのか……どういう種類の好きなのかは、私には分かりませんが」
言葉を噛み締めるように一つ、区切る。
「今なら、なんでもいいですよ」
短い沈黙。
甘く、真剣な言葉だった。
そっとお腹に手を回される。お腹に顔を埋めるようにして、ぴったりと直に張り付いたルビーの白い肌が、桜色に染まっているのが見える。その言葉に嘘は無い。本当に、一時の気の迷いでもなく。お礼の気持ちは多分に含んでいるかもしれないが、今日一日の逃避行を経て、彼女はヘリオスの好きを、それがどんな形のものであろうと受け入れるつもりなのだろう。
そしてそれは、今なら、なのだ。
今だけの話なのだ。それがどうしようもなく寂しくて、悲しかった。
ルビーと向き合うように、そっと顔を向けさせる。ふわりと舞ったヘリオスの髪が重力に引かれて、二人の距離を短くしていく。両者の体重でベッドがへこみ、よりお互いを密着させた。浅い呼吸。自分のものではない。ダイイチルビーのものだった。手を伸ばして彼女の頬に触れた。柔らかく滑らかな白い肌が眩しくて、目も開けられない。曲げた肘が彼女の胸に触れている。同性のはずなのに、くらくらした。
潤む桃色の瞳がそっと閉じられるのを見て、ヘリオスは逡巡する。間違える事はできない。けれども、きっと今この瞬間は、何を選んでも間違いにはならない。そんな不思議な確信の元、自らの心に従って、彼女の額にそっと口づけを落とした。
ぴくりと尾が跳ねる。だが、そこまでだ。そのまま、ダイタクヘリオスはダイイチルビーの頬を優しく撫でつつ名前を呼んだ。
続く行為が無いことに、訝しげに彼女が目を開く。
「……カレー」
「……」
「今晩はさ、カレーのつもりだったんだよね。夏野菜いっぱいのパないやつ。パーマーと一緒に作ってさ。だから、お嬢も今度一緒に食べない? あの……ミラクルとかも呼んでさ!」
真剣な思いを込めて、話す。ルビーにも、ちゃんと伝わっていると信じて話す。
「……その。嫌とかじゃ、ないの。本当にさ。ウチ欲張りだからさー! 正直よく分かんないけど、メッチャくらくらしてるし、興奮してるし、お嬢いい匂いだし、柔らかいし!? なんか、もう、最後まで行ってみたい気持ちがありよりのありなんだけどさ! 今だけじゃ、ヤダっていうかさ……一回じゃ、ヤダっていうかさ!? いや、こう言うとウチが普段からそういう目でお嬢を見てるみたいなんだけど、そこは正直よく分かんないんだけど!」
自分で聞いても支離滅裂だが、勢いで押し通る。押し通す。ありのままの思いをぶつける。
「だから、今お嬢に触れたら、ここで終わっちゃうかもって考えたらさ、寂しくて……ほんとはチューとかめっちゃしてみたいけど、この先は、また今度っていうか……」
すんすんと語尾が小さくなっていく。先程までの雰囲気は霧散して、今やなんとも締まらない空気だ。でも、言いたいことは言ったつもりだった。
「……意気地なし」
「ぴえん!」
大ダメージ。
「普通、今この状況で他の人の話します?」
「それな……!」
「私が今貴女を誘うのに、どれだけの勇気が必要だったとお思いですか」
「マジごめんってぇ〜! でもウチだってせっかくお嬢と仲良くなったのに、今日で終わりはマジぴえん通り越してぱおんなんだってば〜!」
「そろそろよろしいですか?」
「うわ〜ん! ソルティお嬢に戻っちゃうよぉ〜!」
お互いに体を起こし、バタバタと騒がしく。置かれている場所は非日常なのに、この瞬間二人の間にはいつもに近い空気が戻ってきていた。ただ、悪くない。本当に悪くない。塩っぽいお嬢の事も、それはそれとして辛いものがあるけれど、ヘリオスは好きだった。そんな風に思って気を抜いたその時。
「ヘリオスさん」
「えっ、お嬢! 今ウチの名前……ひゃっ!?」
するりと首元に手を回され、ヘリオスはベッドに組み敷かれた。目を白黒させていると、眼前に黒髪の頭頂部。香油の甘い香りが鼻孔をくすぐると同時に、首筋にチクリとした痛み。
肌けた襟元から、強く、強く首筋を吸われている。感覚の鈍いそこでも分かる、湿った柔らかさ。
胸に置かれた小さな白い手が、じっとりと汗ばんでいるのが分かる。分かってしまう。
永遠にも思える時間が過ぎて、水気のある音と共に彼女の唇が離されると、最後にちろり、小さな舌がその箇所を舐めあげた。
「お風呂に行って参ります。では、ごめんあそばせ」
「ひゃ、ひゃい」
破裂しそうな左胸を両手で抑え、どことなく満足気な彼女を見送る。ちらりと横目で鏡を見ると、小さな印が首筋に浮かび上がっていた。そっとなぞる。ピリリとした痛みが走り、先程の体験が夢でなかった事を自覚する。
「や、やばたん……」
起きた事象へのオーバーヒート。放心のままに仰向けになり、鏡張りの天井を見上げる。
ふと、お風呂に向かったルビーの後ろ姿が見えた。ガラス張りで隠れる所など無いのだ。当然見える。
彼女は両手を頬に、へたりこんでいた。よく見ると、ふるふる震えて首筋まで赤くなっている。
(やっぱお嬢はウチの女神だわ……)
それからたっぷり一時間ずつ掛けて二人は交代でお風呂に入り、同じベッドに寝転び手を繋いだ。けれどもお互いに恥ずかしくて、顔も合わせられずに夜を越した。
翌日、ホテルを出て街へ向かうと、すぐに二人は見つかった。咄嗟とはいえ誘拐犯を名乗ったのだから、とんでもない大騒ぎになっているかとも思ったのだが、そういった事もない。
警察沙汰になっていなかったのは、なんの事はない、電話の直後にルビーが実家に一報入れていたからだった。
泣いている自分を見て、友人が啖呵を切ってくれたのだと。明日になれば必ず帰るから、私のために動いてくれた彼女を、どうか許してほしいと。
自転車は後日送って貰う事にして、二人で手を繋いで車に乗り込んだ。車に乗っている間も、二人は手を繋ぎ続けた。
ヘリオスは物凄く怒られることを覚悟していたし、実際に学園からはキツく怒られはしたが、ルビーのご両親からはお礼を言われたのが印象的だった。
「またね、お嬢」
「はい。……また」
こうして二人の小さな逃避行は幕を閉じた。刹那のような、永遠のような時間だった。
それからしばらく経ったある日、トレセン学園の大樹のウロの前に一人のウマ娘が立っていた。
「うおお〜〜っ!! お嬢がマジ塩いよぉ〜〜!! ヤダァ〜〜!! なぁんぅでぇ〜〜!? もっと仲良くしたい〜〜〜っ!!」
ダイタクヘリオスその人である。あの一件以降、仲良くなったと思っていたダイイチルビーとの距離感が、以前の物に戻ってしまった事への魂の叫びである。
なんで、どうして、ホワイ? 何があった。確かにあの直後は態度も柔らかくなっていたのに、徐々に硬化し始めて今やこの有様。あの夜に、確実に仲を深めた筈では? あんな、自分から首筋に……。
「ぬおおおおお〜〜〜〜!!」
思い出すと顔から火が出る。あの時のお嬢は本当に可愛かった。世界できっと自分だけが知っているお嬢だった。
関係ないが、あの日結局購入した、何一つ隠せていないお揃いの下着は箪笥の奥深くに封印してある。
「いや、でもウチネバギバだし! 絶対お嬢とまた仲良くなるし! リピパワなりけり、諦めてたまるかぁーーっ!!」
目指せズッ友! 場合によってはアチュラチュな仲?*2
いざや進まん、えいえいおー!
「……」
あまりの声の大きさに、少し離れたこの場所までしっかりと届いてくる。その内容を聞いて、仄かに頬を赤らめる少女が一人。両手に持ったレジ袋には、色とりどりの夏野菜とカレールー。
今日で終わりは嫌だといった癖に、いつまでも誘いに来ないのですもの。
状況が状況だったし、カレーの下りは咄嗟に出た一言で、ヘリオスは何を言ったのか忘れているのかもしれない。でも、私は私で、それなりに楽しみにしていたのだ。それ故のちょっとした悪戯。効果はてきめんで、でも少しだけ可哀想になってきた。
……あの頃と違って、彼女への思いは、別の意味を含んできた。ライバルとしてだけでは無く、塩対応にも少しだけ。ほんの少しだけ心が痛むのだ。
もう既に、メジロパーマーとケイエスミラクルには声を掛けている。だから彼女が最後。後ろから名前を呼んだら、ヘリオスはどんな反応を返すだろう。いや、名前を呼ぶだけではなく、脇腹でもつついてみようかしら。
色付く頬の仕返しを考えてみる。
ダイイチルビーがダイタクヘリオスを背後から抱きしめるまで、あと半歩。
奴はとんでもないものを盗んでいきました
……貴女の心です。