キングと毎週末映画を観る話【ウマ娘短編集】   作:あずきめし

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でもマーちゃんの方がおっぱいおおきいです

 トレーナーさん、よそ見しちゃダメです。

 マーちゃんの方がお尻もふともももおっきいんですよ?

ばっちり鍛えているのです。ちゃんと見てますか? トレーナーさん。マーちゃんのレンズなのですから、目をそらしたらダメですよ。もっとちゃんと近くで見てくださいね。

 

 いいにおいもしますよ? シャンプーが新しいのです。えっへん。これがマーちゃんの香りです。近いからって息を止めてないで、ちゃんと吸い込んでください。匂いだけでマーちゃんだって分かるくらいに覚えてくださいね。

 

 これがマーちゃんの温度です。ばっちり健康体です。でもちょっとポカポカです。ナイショですよ?

 指先だけじゃ伝わり切りません。もっと近くに来てください。腰が引けてますよ。マーちゃんの温度を分けてあげるので、トレーナーさんの温度もマーちゃんにくださいね。

 

 マーちゃんはお肌もすべすべなのです。袖をまくるので触ってみてください。オススメは二の腕です。つまんでみたらよく伸びます。持ち上げてみてもいいですよ。ふんわり指が沈み込む魅惑の触り心地です。掌を広げると隙間からぷにっと肉球です。でも太ってないですよ。ほら、腰回りも触ってみてください。すっきりマーちゃんです。

 

 マーちゃんのつぶらな瞳を見てください。どうですか? マーちゃんの目は綺麗ですか?

 あなたのレンズにマーちゃんは映っていますか?

 あなたの目の中にマーちゃんが見えます。あなたが見ているマーちゃんの姿です。

 

 ちょっとほっぺたが赤くなっています。風邪かな。

 嘘。マーちゃんは健康です。トレーナーさんの目にはマーちゃんが顔を赤らめて見えるのですね。

 マーちゃんの主観では、いつも通りのマーちゃんです。はい。これがマーちゃんのいつも通りです。いつもこうなんです。あなたといる時のマーちゃんはいつもこう。

 

 いつからなのかは、忘れちゃいました。

 なんと、マーちゃんが忘れてしまうとは。本当は覚えていますが、忘れちゃった事にしておきます。その方が楽しいので。

 

 でも、レンズさんは覚えていますね。いいえ、わかる筈です。マーちゃんからは、あなたの目を通してあなたの見ているマーちゃんが見えています。

 

 あなたからは、マーちゃんからあなたがどんな風に見えているか見えるはずです。マーちゃんの目に映るあなたがどんな姿をしているのか見えるはずです。

 

 これは、ちょっと恥ずかしいですね。恥ずかしいのでもっとくっついて、マーちゃんのお耳を見せてあげます。触ってもいいですよ。ふわふわで、でも根本は少し硬めの手触りです。耳の厚さも、動きも、触って確かめてください。何度でも教えてあげますから。

 

 だから、マーちゃんにも教えてください。何度でも教えてください。マーちゃんはあなたの事を忘れませんから。

 マーちゃんが覚えていても教えてください。必要無くても教えてください。触れているようで、触れられなくても。同じ船には乗れなくても。その船が別の川に流れていても、マーちゃんがあなたを想像できるように教えてください。

 

 好きなものも苦手なものも教えてあげます。あげました。教えて貰いました。教えてね。

 

 はい、マーちゃんの眼鏡をかけてあげます。かけ心地はどうですか? 大きいですか? それとも小さいですか?

 これがマーちゃんのお顔の大きさですよ。トレーナーさんと比べてどうですか? 想像してくださいね。マーちゃんもしてます。

 

 ほっぺたにも触ってみます。頬骨。あご、お鼻、まゆげ。お耳も触ります。マーちゃんの手は小さいですか?

 トレーナーさんも触っていいんですよ。お返しです。髪の毛、つむじの向き、首筋、鎖骨。服の手触りも。マーちゃんを確かめて。

 

 マーちゃんもあなたの温度を感じます。くすぐったかったりしますか? これは中々楽しいですね。

 

 トレーナーさんはどうですか? マーちゃんに触るの楽しいですか?

 わたしと一緒に居ようとしてくれる、変わり者のあなたはどうですか? わくわくどきどきしますか? 思わず手が滑りそうになったりしますか?

 

 つるりつるり。はい。思わず滑った手が肩を通って掌に到着です。それによりマーちゃんは横に並びます。にぎにぎ。

 

 はい。お察しの通り、今日のわたしはアストンこあくマーちゃんです。うりうり。

 

 マーちゃんとは違う手ですね。大きさも、柔らかさも、お肌の感触も爪の形も違う。

 

 この手がマーちゃんの人形を作ったり、銅像を作ったり着ぐるみを作ったりするのですね。とってもエライです。撫でてあげます。よしよし。でもトレーナーさんは全部がエライので、いっぱい撫でてあげます。どこがいいですか? どこでもいいですよ。

 

 もちろんマーちゃんもエライので撫でさせてあげます。はい。マーちゃんの頭の重さをトレーナーさんの肩に教えてあげます。ふふ〜。

 

 お返しです。あなたにマーちゃんの事を覚えて貰うとき、マーちゃんもあなたの事を覚えているんです。変わり者のトレーナーさん。

 

 あなたの中のマーちゃんはどんな姿ですか? どんな存在ですか?

 忘れられない相手ですか? 忘れたくない相手ですか?

 覚えていたい相手ですか? いつか過ぎ去ってしまう思い出ですか? それともいつか懐かしむ思い出ですか?

 

 あなたの中にマーちゃんは居ますか? あなたの船に腰掛けて居ますか?

 笑っていますか? 泣いていますか? 服装は? まさか着ていなかったり? 大丈夫、マーちゃんは可愛いのでしょうがない専属レンズさんを責めたりはしませんよ。ところでそのわたしは何歳くらいですか? 髪の長さは? どこを向いていますか?

 

 あなたを見ていますか? 空を見ていますか? 下を向いていますか? 海の向こうを見ていますか? 言えなかったりしますか?

 

 たくさんマーちゃんの事を考えてくださいね。

 いつか海の底に消えてしまうとしても。この世界に永遠に残るモノが無いのだとしても。神様だっていつかは消えて、引き伸ばすことしか出来なくとも。マーちゃんは不滅なのです。だから今は、今この時は、あなたの中にマーちゃんを置いてくださいね。

 

──。

────。

──。

 

 そうです。置くと言えば。

 あなたの作ってくれたマーちゃん人形。とっても上手な可愛いあの子。

 四コマ漫画もどんどんクオリティが増していってます。マーちゃんへの理解の深まりを感じます。マーちゃんご満悦です。でも、でもですね。一回しか言いませんよ。耳を貸してくださいね。

 

 

 マーちゃんの方がおっぱいおおきいです。

 いいですか、マーちゃんの方がおっぱいおおきいんですよ。

 

 

 はっ、ニ回言ってしまいました。なんという知能犯。哀れマーちゃんはトレーナーさんの策略にはまってしまったのです。むねん。

 

 ……ふふ、作っている時、どんな気持ちになりますか?

 お尻とか、お胸とか。どぎまぎしますか? それとも何ともないですか? こちらを見てください。

 絵も、服を描く前に一度体のシルエットを下描きしてから服を着せるってネットで読みました。

 

 大丈夫、わかっています。お胸のサイズはわざとですよね。

 絵柄やマスコット人形の可愛らしさを表現するためにデフォルメしているんですよね。

 

 でも、もしも。もしもがあります。いいですか、もしもです。例え勝負服を作るときに全てのデータをつまびらかにしていたとしてもです。間違ったデータを残してしまうのはとても良くない事なのです。由々しき問題です。

 

 なので、はい。くっついてあげます。正しいデータを教えてあげます。

 あなたが知っていても、覚えていても、必要無くても教えてあげます。あなたの船であなたがマーちゃんの事を想像できるように。

 

 あなたの腕にぎゅぎゅっと。どうですか? 集中してくださいね。取り逃さないでくださいね。それと今は顔を見ちゃダメです。絶対ダメです。声に出すのもダメです。感じてください。感じて、触れて、刻んでください。

 

 ……アストンマーチャンです。アストンマーチャンですよ。わたしは忘れません。だからあなたも忘れないで。

 今日を、明日を、昨日の事を。世界でわたしとあなたしか知らない事を。

 

 アストンマーチャンです。わたしの、変わり者のトレーナーさん。あなたの、変わり者のウマ娘です。

 ……覚えていてくださいね。




あなたもマーチャン最高と言いなさい。いえいいえい。
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