笑わない王女様が笑った時には外堀全埋めされてた件   作:恋狸

1 / 21
Prolog&0日目&1日目

「すまないな……どうしたってお前の呪いを解くことができないようだ」

 

「いいえ。お父様のせいではありません」

 

 煌びやかな装飾が施された部屋。天蓋付きのベッドや、高級家具が置かれている部屋には、頭を下げる初老の男と、眼を奪われる美貌を誇る少女がいた。

 銀髪碧眼、艶やかな長い髪は重力に従っている。職人の細かな意匠が施されたドレスを押し上げる胸、目にした者の時を止めてしまうほど圧倒的な美貌。

 まさに『美』と体現できるほどの少女だが、彼女は口元に一切の笑みを浮かべることができなかった。

 

 それはこの世界にたった一人しかいない()()の呪いである。

 

 ここ、リング王国の第一王女である『ルミナス・フォン・リング』彼女に対して頭を下げる男は、父である『カマエル・フォン・リング』。

 正真正銘、この国の王である。

 

 王は親バカである。誰よりも娘を愛しているが、故に笑顔を取り戻したいのである。

 8歳の時より『笑うことのできない』呪いにかけられて早10年。大陸中の魔法使いや、治癒師を呼び集めたが、結果は芳しくなく呪いを解ける人物はいなかった。

 

 王は鬼気迫る勢いで治療法を探した。それは、かの幽王のように、一時期国政を疎かにするほどであったが、娘自身に窘められ何とか激情を胸に抱えながらも日々を過ごしていた。

 そんな王が五年前より行ったのは、他人に任せることであった。

 すでに王自身は手を尽くした、ならば他の人が、娘を笑わせることができたならば、と始めたのが──一ヶ月間の猶予中に娘を笑わせることができたら、褒美としてできる限り何でも願いを叶えるというものだった。

 

 当然、応募者は殺到した。

 公平を期すため抽選で、しかしキッチリと素性を調べた上で選んでいった。

 

 五年で挑んだ人物は様々で、大陸を渡り歩く奇術師、美しさが国を超えて語り継がれる貴公子、百年に一人現れるという聖女、売れっ子の芸人、魔女に匹敵する魔法の腕前を持つ賢者……etcと……公平を期すためとか言ってる割に王の独断と偏見で選んでることが丸わかりな人選であったが、誰もが超優秀な各ジャンルのスペシャリスト。

 

 だがしかし、誰一人として彼女を笑わせることができなかった。

 

 総人数六十人。五年をかけてもなお、笑わせることができなかった王は嘆き、そして、この方法を来月で終わらせることに決めた。

 

「最後の人物は、なんと『魔剣士』殿だ。『闇』は潜ませておく……と言っても『魔剣士』の称号を冠する者に勝てるとは思わないが……」

 

「……はい、わかりました」

 

 彼女は頷くことしかできない。『魔剣士』と聞いても驚くことはない。

 

 そして、王は、願わくば最後の人物が笑顔を取り戻してくれるよう、ただ一心に祈っていた。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

「はっくしゅんっ!」

 

 当本人の青年はと言えば、明日からの王城生活を楽しみに『らぅめん』をすすっていた。

 

「誰か噂でもしてんのかな」

 

 呑気な事を考えている青年。頭に占めているのは、どう彼女を笑わせようか…………()()()()()()()()()()()()

 

 ただ彼は、一ヶ月間の間、王城で無駄飯食らいをすることしか考えていなかった。

 

「うわぁ、別に何もしてなくても一ヶ月間衣食住の補償とか最高すぎね?」

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

「相変わらずでけーなー」

 

 俺は超ドでかい王城を見上げて呟く。

 リング王国首都『リゲート』に構える城、城の大きさは国の権威を表すなんて聞いたことあるけど、それをまさしく体現したような形だ。

 正直、住めるスペースがあれば満足する、実に庶民派の俺からしたら、うっ、とくる。

 

 そもそもこの国じたいがそういった風潮があるから、どうも馴染めない。

 あ、俺は結構遠く離れたヤマトって国から来たんだけど、慎ましやかに質素に生活しましょー、って風習があるから馴染めないのも当然かもしれない。

 

 なんてことを考えてボーッとしていると、俺に小走りで駆け寄ってくる人物がいた。

 豪華な装飾が施された赤色のドレスを身に纏った妙齢の女性だ。恐らく、王族の誰かだろうと察することは容易だった。

 

「あなたは、『魔剣士』のカタギリ・ヨウメイ様ですね」

 

「よせやい。魔剣士って肩書きは正直恥ずかしいんだ」

 

「ご謙遜を。単騎で国を相手にできる化けm……失礼、英雄の称号じゃないですか」

 

「ほぼ言ってるよな?」

 

「気のせいです。さっ、城をご案内いたします」

 

 わざとらしく、はて、と首をかしげてとぼけた女性はこういった手合いに慣れているだろうやり手だ。

 うへぇ、貴族っぽいなぁ。内心苦々しい心情を覆い隠す。

 ま、貴族相手に敬語を使う必要のない『魔剣士』の称号は便利だがな。

 でも、こういった迂遠なやり取り苦手マンの俺的に言わせて貰えれば、面倒臭い。これに尽きる。

 

 ドレスを翻して案内に向かおうとする女性……って名前を聞いていなかった。

 

「名前を聞いてなかったけど」

 

「あ、申し遅れました。わたくしはファミリア・フォン・リングと申します。一応、妃的な奴ですね」

 

「普通に妃じゃんか」

 

 こんな若そうな見た目して、俺より一回りも年上かよ。俺が20歳ちょっきりだから、40と……か

 

「何か、言いましたか?」

 

 年齢を思い浮かべた瞬間、ゴゴゴと空気が歪む音と、不自然な笑顔のファミリアさんと目が合う。目が笑っていなかった。

 

 

「いえ、ナンデモナイデス」

 

「ふふふ、敬語なんておかしいですねぇ」

 

「ハイ、ソウデスネ」

 

 年齢については禁句らしい。口に出してないけど。

 

 

 戦々恐々としながら、ファミリアさんの後を歩く。怖ぇーわ。もう、圧が違った。あれぞ年の功……ひっ、睨まれた! 

 

「キラキラしてんなぁ」

 

 目が痛い。

 高そうなツボ、絵画、鎧、剣とか。

 剣に関して専門家の俺的には、実用性に欠けるなとしか言いようがない。ひたすら価値を高めただけだ。剣が泣いてるぞ。

 口には出さないけど、どうも不愉快な気持ちになる。これも文化の違いかね。

 

 だだっ広い王城をひたすら歩くと、とある部屋に案内された。

 ベッドが一つに、ソファが二つ……客室だろうか。

 

「ここが一ヶ月間滞在中の部屋となります。まず荷物を置いて王へのお目通りをお願いします」

 

 ほーん。普通に高級ホテル以上だな。伊達に城じゃないか。絶対落ち着かないわ。

 

「というか、こういう案内って侍女とかがするんじゃないの?」

 

 ふと気になった疑問を口にすると、ファミリアさんは、にこやかな笑みから一転厳しい顔付きへと変化した。

 

「あのですね。『魔剣士』様相手に侍女を付けさせてはい終わりなんてしたら、国の権威を疑いますよ。もっとあなたの立場を考えてください」

 

「……確かにそうか。それはすまなかった」

 

「……いえ」

 

 素直に謝ると、目をぱちくりさせて拍子抜けな様子だ。

 そんなに謝ることが驚きなのか? ぶっちゃけ『ヤマト』じゃあ、何かあったらすぐ謝るのが普通だぜ。道を歩いててぶつかったらすみません。道を尋ねる時もすみません……ってこれは、謝るうちには入らないが。

 

 まあ、俺の立場を差し引いても一国の妃が案内するのもどうかと思うが……。

 というか、国王よりも上の立場の『魔剣士』とはいったい……。

 

 いやね、『魔剣士』なんて気がついてたらなってただけだからな?

 ただ百年に一度現れる魔王を単騎でぶち殺しただけだぞ? あいつは弱かった。

 

 でも、倒しても賞金とかねぇし。名誉とか貰って何になるの? いらねぇー。

 

 荷物を置いて、再び案内されて一際大きな扉の前に立たされた。

 

「では、こちらへどうぞ」

 

 扉が開かれる。

 進むとそこには、シャンデリアに照らされたマントを羽織る初老の男……第120代国王カマエル・フォン・リングと、側近二名が立っていた。

 

「よくぞ詣られた『魔剣士』殿。私はカマエル・フォン・リング。この国の王を務めている」

 

「お目通りできて光栄でございます。私は当代の『魔剣士』を授かった、カタギリ・ヨウメイと申します」

 

 俺が敬語を使ったのを聞いたファミリアさんが、ギョッとした顔で俺を見た。

 いやいや、失礼な。謁見って公式の場だったらさすがに礼節くらい尽くすわ。

 

 それに、王は本来俺よりも立場が下。なのに、威厳を持った態度で接するのは、ひとえに国を背負った重鎮として舐められないようにするためだ。

 それがわかってるから、別に咎めようなんて一切思わないし、逆にその思慮には感服するのみだ。だからこそ、敬意を持って接せねばいけない。

 

「まさか、『魔剣士』殿が引き受けてくれるとは思わなかった。ただ、一人の親として感謝する」

 

「いえ、気にしないでください。私も呪いに触れたことがある故、少々学術的興味も含んでおりますので」

 

 ごめんなさい嘘です。成果を出さなくても一ヶ月間食っちゃ寝できるって聞いたのでオファーしました。

 いや、呪いに触れたことがあるのは事実だし、興味がないって言ったら嘘になるけど、本来の目的は違うんだよ。すまん。

 正直『魔剣士』が個人に関わることがグレーゾーンだから勘弁してくれ。

 

 

「では、明日からお願いする。何とぞ、娘をよろしくお願いします」

 

 最後だけ敬語で。それは、王ではなくただ娘を愛する父親そのものだった。

 

 

 まあ、やれるだけやるか。

 魔女の呪いねぇ……。

 

 

 

 ()()()がそんな面倒な呪いかけるのかね。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 翌日。慣れない布団で眠った後に、早速、王女様とやらの呪いを解く作業に移ろうと、ご対面した瞬間、俺はさっぱり呪いを解く気力を失った。

 

「なんだ、()()()()ことか」

 

 とやかく言うのは面倒だから省くけど、とにかく俺はやる気を失った。王の嘆願とかも全部消し飛んだ。

 あー、はいはい、理想の食っちゃ寝生活でも始めますかね。

 

 さて、と。椅子に座ってじっとこちらを見る王女ことルミナス・フォン・リング。

 銀髪碧眼の恐ろしい美貌。しかし、無表情。

 呪いの内容は『笑えなくなる呪い』だろ? なのに無表情である理由を誰かは考えなかったのかね。

 

 まあ、良い。

 

「あー、俺はカタギリ・ヨウメイ。気軽によっちゃんと呼んでくれ」

 

「……ルミナス・フォン・リングと申します。カタギリ様」

 

 さらっと無視された件。

 

「まあ良いや。どうやら、昼食を抜いて七時間は一緒に行動しないといけないらしいから、まあ、俺は適当に過ごしてるから気にしなくていいぞ」

 

 誰だ、こんなストレスしか溜まらない仕組み考えた奴、と愚痴りながら言うと、ほんの少しだけ、驚きの色が浮かんだ。

 ふぅん、感情じたいはちゃんと存在してるのね、まあ、そうか。

 

「……あなたは私を笑わせようとは思わないのですか?」

 

 俺はへっ、と鼻で笑う。

 

「本人が望んでるならいざ知らず、望んでないことを叶えようとは生憎思わないね。偽善者じゃねーし」

 

「…………」

 

 ルミナスは口を少しだけ開けたまま、何かを話そうとして……話せぬまた無言になる。

 図星ってとこか? まあ、最初から望んでないことを一目瞭然だった。

 

 敢えての無表情。いくら、この国で高価だと言っても1枚はあるはずの姿鏡が何処にもないこと。他人の表情を見ないように俯きがちな姿勢。

 

 無表情は取り繕うため。鏡がないのは自分の表情を見ずに済むため。俯きがちなのは感情を知りたくないから。

 これだけヒントがありゃあ、望んでないことくらい明らかだろ。逆にどうして気が付かないんだか……。

 

 やれやれと呆れ果てる俺は、少しだけルミナスと距離を取って座禅をする。

 

「ふぅー、すぅー」

 

 瞑想。俺の日課のトレーニング。

 俺の戦闘スタイルは、『異能』と呼ばれる特殊能力と、魔法を滅多打ちにすること。

 瞑想は魔力を増やすのに一番言い修行法だ。つってもどうでも良いか。んなもん。

 

 たっぷり一時間ほど瞑想をして目を開けると。

 変わらず椅子に座ったまま、目を大きくパチクリと開いたルミナスがいた。

 そんなに俺の行動が奇妙だったか? 奇術師の手品を見たような反応しやがって。

 すると、ゆっくりと少し遠慮するように、小さい口が開かれ、鈴の音のように響く声が発せられた。

 

「……何を、しているのですか?」

 

 さすがにちょっとだけ興味が出たらしい。

 

「これは瞑想。北欧に伝わる魔力の修行さ。……んー、ずっと座ってんのも暇だしやってみるか? 魔力の適性は?」

 

「適性は氷です」

 

 答えたってことは興味があるらしい。聞いた話じゃ、どんな内容にも興味を示さないって言ってた気がするんだけど、噂は噂だったのかね。

 あ、適性っつーのは、自分が生来に使える適する属性のことだな。

 火、水、風、土、光、闇の六属性が基本属性って言われてて、氷は火属性の派生だな。

 水って思ってる奴は勘違いな。温度変化を司るのが火だから。

 

 ちな、俺は全属性使えまーす。ふっはっは!! ……火と風以外は器用貧乏とかそんなことないんだからね!!

 

「氷、ね。ぶっちゃけ俺の得意分野だな。魔法の修行は受けたか?」

 

「……いえ、呪いが魔力に影響して悪化したら大変だから禁止されています」

 

 俺はそれを聞いて大爆笑した。

 

「あーはっはっは!!!! 揃いも揃って素人多すぎ。良いか? 呪いってのは『状態を固定化』させる技なんだよ。だから、お前は笑えない。笑うって状態が固定化されて使えなくなってんだからな」

 

「……初めて聞きました」

 

「嬉しそうには……見えないな」

 

 俺は小さく呟く。

 自分の呪いについてわかったってのに少しも表情を動かさない。へー、そうだったんだー、くらいの感想なんじゃないか?

 まあ、良い。

 

 ふーむ、魔法の修行やってなかったと。どうせ、一ヶ月間暇だし、呪い解くカモフラージュも必要だろう。

 

「よし、一ヶ月間限定でお前に魔法の修行をつけてやろう。『魔剣士』の教えなんてお前が初めてだぞ!」

 

「……つまり、教えるのは素人だと」

 

「ぐはっ、言うねぇ」

 

 謎のダメージが胸に突き刺さったよ。ツッコミ……じゃねぇな、ただ単に感想言っただけか。だからこそ、心が痛いぜ……。

 

 

「じゃあ、やるか。魔法の修行は……瞑想だ!!!! 魔力増やさないと何にもできん! 年齢経ってるから魔力は溜まってると思うが、それを解放させないと意味がない。それに適しているのが瞑想だ。はい、ほら、さっさと」

 

 パンパンと手を叩いて急かすと、椅子の上であぐらを組むという器用なことをやり始めた。

 こいつ……動きたくねぇんじゃねぇか。

 

 そして、俺の真似をして目を閉じた。

 

「まあ、出来るなら良い……っておい!」

 

 次第にその体がグラグラ揺れ始める。そして、勢いそのまま椅子から落ちる。

 

 「間に合わん……ちっ、『範囲把握(レンジ・グラスプ)』」

 

 俺は即座に行動を移し、コンマ数秒の世界で、落下地点に瞬間移動をし……落ちる体を抱き抱えた。

 

「おい、危ないぞ」

 

 抱き抱える……俗に言うお姫様抱っこをしながら、注意をすると、瞑っていた目がパチリと開き、無表情のまま言う。

 

「……すみません。ありがとうございます」

 

「おいおい、この状況で動揺してねぇのはすげぇわ」

 

 別に、きゃあ変態! バチン! 的な反応を期待していたわけじゃないけど……もうちょっと何かあるだろうよ。ほら、何かがさ。

 

 はぁ……と嘆息する。一先ず怪我がないようで何よりだ。

 俺はルミナスを床に立たせ、瞑想は床でやるように、と厳命した。

 

 言ってから、そういえば靴のまま生活するんだったな、と思い出したが、躊躇なく床に座りだしたルミナスを見てどうでもよくなった。

 ある意味お姫様とは思えない行動ばかりだよ、あんた。整えた高級ドレスが床に座ることで崩れていく。長く美しい銀髪の髪が汚れることも厭わずに、一心に瞑想する様子はちょっと……イっちゃってると思う。頭がね。

 もう、ほと呆れ果てて何も言葉に出ない。こういう奴なんだ、と割り切るのは簡単であるが、何だか修行させてる間に常識を歪めてしまいそうで怖い。

 

 そして、俺は瞑想するルミナスを最後にチラッと一瞥してから、俺も再び瞑想を始めた。

 

 

 

 

 

 王女の護衛を担当する『闇』曰く、無言の空間でひたすら瞑想する二人は見ててちょっと怖かった、と後に語っている。

 

 

 

 

 




用語
『魔剣士』……この世界で言う勇者的ポジション。魔王は出現して1ヶ月で主人公に即倒された。可哀想に。
『異能』……一万人に一人が持つ特殊能力のこと。強さはピンからキリまであるから、持ってたらラッキーくらいの力。
『闇』……王族を護る護衛。特殊な訓練を受けており、許可された時以外、耳が聞こえないようになっている。これは、密談をする際に聞かないようにするため。
その代わり、『闇』は諜報系統の『異能』を持っているため、耳が聞こえなくとも護衛は問題ない。



 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。