笑わない王女様が笑った時には外堀全埋めされてた件   作:恋狸

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9日目

 襲撃の翌日は、ルミナスの精神状態を考慮し休みとなった。

 じつは、ルミナスはやる気満々で王が止めたんだけど、だいぶ不満げだったな。肝が据わってやがる。

 

 そんなわけで暇になった俺。  

 別に街で好きなことをして過ごそうとも思わないし、ゆっくり散歩でもするかと昼頃から王城を歩き回ることにしたのだが……

 

 

「目の前の()()は見ても良いのだろうか」

 

 城内にある庭園。大小様々色とりどりの花や木々が咲き誇る場所で……金髪赤目の美人……イリア・ハインルージュが仏頂面を捨て、でろんでろんに頬を緩めて猫を触っていた。

 

「えへへ。や、痛いなっ、もうっ」

 

 引っ掻かれて喜んでる??

 俺は、てっきり真面目でチョロいデフォが仏頂面の女騎士かと思ったけど、そこにドMと猫好きが追加されたな。属性マシマシで笑える。

 

「はぁ……普通の猫も良いが、いつか猫獣人の耳とか尻尾とか触りたいなぁ……」

 

「やめろ、捕まるぞ」

 

 獣人が自らの耳と尻尾を触らせるのは番《つがい》のみだ。ヤると確定で捕まる。

 仮にも団長が捕まるのはやべぇ、と思わず声をかけてしまうと、ビクッ!! と固まる。

 

 

「ま、魔剣士殿? な、何故ここに?」

 

「あー、昨日の襲撃の件で今日は休みだからな。ちょっと散歩してたんだ」

 

「な、なるほど。ところで、何か聞きましたか?」

 

 落ち着かない様子で髪をくるくると弄びながら聞いてくる。

 俺は笑顔でグッとサムズアップする。

 

「いや、猫触って引っ掻かれて喜んでることとか、獣人触りたいって犯罪確定なことを呟いてることなんて全然聞いてないぞ!」

 

「全部聞いてるじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」 

 

 天に向かって咆哮する騎士団長(笑)。沈着冷静だと噂になっていた面影など何処にもない。

 人間、ああは成りたくないものだぜ。

 

「まあ、どんまい? うん、騎士団長がかわいいもの好きなんて知ったらきっと皆親近感増すって」

 

「そんな姿を見せてはいけないから騎士団長なのだ……」

 

 ガックリと項垂れて、もう私はダメだ……と落ち込むイリア。何を大げさな。

 と、そこではっ、と何かに気付く。

 

「あ、魔剣士殿。敬語抜けていました。すみません」

 

「普段使い慣れてない感がすごいな。別に普通に話してくれて良いぞ?」

 

「いえ、そんなわけには……」

 

 強情なイリアに俺はふむ、と思案し言う。

 

「イリア何歳?」

 

「は。えっと今年で二十歳になります」

 

「じゃあ、同い年じゃん。頼むから普通に話してくれ。敬語使われるの好きじゃねぇんだ」

 

 イリアは少し悩んでいたが、最終的にはわかった、と頷いた。

 

 それにしても、同い年か。その年で騎士団長とは将来有望だなぁ。

 見た感じ魔力の適性はないようだけど、その分剣技で成り上がっていったのだろう。

 しかも、普通はこの年で重職に就くと大抵は、調子に乗ったりするものだが、チョロいこと以外は精神的にも卓越している。

 

 そのチョロさで足元掬われそうだが。頼むぜ団長。

 

「それにしても、騎士団長の仕事は大丈夫なのか?」

 

「あぁ。実は私も今日は休暇なんだ。頼むから休んでくれと労働省の職員に言われてな……」

 

「うへっ、そんな働いてたの?」

 

 基本働けとうるさい労働省が休めと言うとは。

 イリアは悔しそうに舌打ちをして言う。

 

「さすがに30連勤はダメだったか……。29でやめとけば……」

 

「絶対問題点そこじゃない」

 

「じゃあ、もしかしたら、毎日残業4時間がダメだったのか……?」

 

「それもあるだろうな。問題はどっちにしても働きすぎだということだけど」

 

 頭おかしいんじゃないの? 30連勤て。毎日残業4時間て。社畜の所業じゃん。社会に飼い慣らされてやがる。

 

「では、私は休みに何をすれば良いのだ。剣を振るのもダメだと言われるし……」

 

「趣味とかないのか?」

 

「しいて言うなら剣だ」

 

 ルミナスとジャンル違いの狂い方してた。こいつも大概だな。

 内心引きつつ、俺はこのままだとイリアが確実にぶっ倒れることを察したので、何とか突破口を開くように誘導することにした。

 

「猫とずっと遊んでれば?」

 

「……猫アレルギーなんだ……」

 

「じゃあ、なんで触ってたし。……鍛冶屋で買い物とか」

 

「使い慣れてる剣の方が良いし、私が持つ剣は決して壊れない」

 

「まあ、言えてる。……友人付き合いは?」

 

「私に友人は少ないし、大抵忙しい」

 

「あっ……。こ、恋とか!」

 

「必要ない」

 

 ダメだ。こいつ仕事にステータス全振りしてやがる。対人関係ほぼゼロとか生きてけんのかこいつ。

 イリアの事情に心が痛くなってきた俺である。お手上げである。

 イリアの肩にポンッと手を置く。

 

「何かあったら何でも言えよ。相談くらいなら何時でも乗るぜ」

 

「何故そんなに憐れみの篭った目で見られるのかは皆目検討も付かないが。

 ……そうだな。少し相談に乗ってくれないだろうか」

 

 目を伏せって遠慮するような声色で言ったイリアに俺は笑顔で対応する。

 

「勿論だ。言ったのは俺だしな。……うむ、とりあえず場所を変えるか」

 

 庭園には座る場所がない。相談と言うなら落ち着ける場所にした方が良いだろう。

 イリアは頷くと、良い場所がある、と案内を始めた。

 

 見慣れない道を歩いていくと、イリアはある部屋の扉を開く。

 

「ここは人が使わない部屋だ。私の荷物置き場になってる場所だし、誰も寄らないだろう」

 

 少し埃の被ったソファが二脚置いていて、イリアの荷物らしきものが端に寄せられている。

 

「『クリーン』」

 

 埃は体に良くない。

 魔法で部屋全体を綺麗にすると、イリアが目を輝かせた。

 

「おぉ、魔法か! 私は生活魔法も満足に使えないから羨ましいな」

 

 確かにイリアの魔力はかなり少ない。生活魔法も日に二、三発使うのが限界だろう。

 ……魔法を使える人間が何か言ったところで嫌みに聞こえる。俺は曖昧な返答をすると話を促した。

 

 ドカッとソファに腰を下ろしたイリアは、少し逡巡し話し始める。

 

「実は……。私は団長としての器が足りているか不安になるのだ。当時、二年前に団長になった時は批判も起きたものだ。当然だろう。他の団長たちは皆ベテランだし、私には強さがあっても経験と、団員をまとめる統率力も不足している。

 だが、その批判も今は鳴り止んでいる。しかし、どうも陰で何かを言われている気がしてならない。団員にこんな弱音は吐けないし……。私はどうすれば良いのだろうか」

 

 初めて会った時の気丈な姿はどこにもない。弱々しげに震えながら話すイリアには、悲しみと自分への怒りが垣間見えた。

 団長としての重責。それもあっての仕事量なのだろう。

 俺も大層な肩書きが付いているものだが、実際そこまで制限や責任があるわけではない。細かな規則はあるものの、基本自由だ。

 俺とは違い、イリアの責任はただ重く、その苦労は計り知れない。

 

 

「イリアはさ。お前んとこの団員をどう思う? 良い奴らか?」

 

「当たり前だ。怠ける奴もいれば、ひた向きに前を見続ける奴もいるし、全員が助け合っていける。自慢の団員だ」

 

 誇らしげだった。嬉しげだった。 

 自分の団員のことをしっかり慮ってる様子は明らかで、俺は何も問題がないことがわかった。

 ふっと笑って言う。

 

「じゃあ、もう答えは出てるだろ」

 

「え?」

 

「言えよ。私は上手く団長をやれているだろうか、って」

 

「そ、そんなことはできない! 団長して、皆に弱い所を見せてはいけないのだ!! 常に完璧な姿を見せなければならない!」

 

「それは……団員よりも大事なことか?」

 

 イリアは言葉に詰まる。

 

「ッッ。違う。あいつらが一番に決まっている。だからこそ私は────」

 

 わかってないなー。

 鈍感とはこのことか、と笑いが込み上げてくる。

 

「少なくとも、完璧な姿ってのは見せれてないと思うぞ。団員たちにおちょくられてるのを見てれば」

 

「え、おちょ……?」

 

 目をまん丸に開き、何を言われているのかわからないという顔をした。

 これ、説明しなきゃいけないのか。

 

「えっとな。あの時の団長コールだけど。半数は笑ってたぞ」

 

「な、なんだと……!?」

 

 馬鹿な騎士が多かったが、本気で団長が俺に勝てると思ってる奴は少なかったと思う。それだけ『魔剣士』の箔はある。

 

「そ、それでは結局私は団長として信頼されていないということではないか……」

 

「なんか変な方向に勘違いしてるなぁ……。あのな、逆に信頼されてんだよ。お前がチョロい性格で、簡単に口車に乗せられることがわかってるから、あんなこと言ってる。少なくとも、団員たちがイリアを見る目は、尊敬と愛らしさだったぞ」

 

「愛らしさ!?」

 

「広義的な意味での団長じゃなくてさ。イリアはイリアなんだから気にする必要なんてないの。人によって出来ること、出来ないこと。それと同じくイリアにしか出来ないことを精一杯やれよ。

 自信持て、団長」

 

 イリアは団長と言うのを難しく捉えすぎだ。  

 確かに厳格で真面目な団長の元、尊敬という感情を贄に統率する組織というのは多い。

 だが、尊敬ではなくても人は集まる。少なくとも、団員たちはイリアの人間性に惚れているからこそ、あんなに楽しそうな表情で訓練をしている。

 あとは、それをイリアが気付くだけでいい。心配する必要はなかった、ってな。

 

 

「……私はもう少し団員を信頼することにしよう。そうだな……あいつらなら、こんな私でも付いてきてくれる。そんな気がするよ」

 

「悩みは取れたか?」

 

「あぁ。自分のすべきことがわかった」

 

 完全とは言えないが、少しスッキリした表情をしていた。

 そうだな、あとはイリア自身が行動を起こすだけだ。

 今の強さに自信が付いたイリアはどうなるんだろうな。

 

 強くなったイリアと対等な条件で戦ってみたいと少し思ってしまった俺も、大概戦闘狂なのかもしれない。

 

 

「感謝する。代わりになるかはわからないが、私に出来ることは何でもしよう!」

 

 清々しく言いきったイリア。

 そんなイリアに俺は少しだけ悪戯心が沸いたので、手をワキワキと意地汚い笑みを浮かべて言う。

 

「じゃあ、あんなことやこんなことをやっても良いと……?」

 

「うえっ!?」

 

 イリアは俺の意図を察し、顔を真っ赤にして、モジモジと体をくねらせて、

 

「け、経験はないが、魔剣士殿が望むなら……」

 

 爆弾発言を残した。

 お前何言ってんの?

 

「自己犠牲ダメ!! 冗談だから」

 

「し、知っていたさ。だから敢えて乗ったのだ!!」

 

 自棄糞だな。

 まあ、冗談だとわかってくれたなら良い。

 

「ま、願いは一つだけあるな。俺のことをよっちゃん、と言ってくれ。敬称は堅苦しい」

 

「え、そんなことで良いのか?」

 

 いや、まじで言ってくれるなら最高です。何せ怖がって誰も呼んでくれないからな。

 すると、イリアはごほんと小さく咳払いをすると、恥ずかしそうに俺の望む言葉を言ってくれた。

 

「よ、よっちゃん。こ、これで良いか?」

 

 うぉぉぉぉぉぉ!!!!

 なんか知らんけどめっちゃ嬉しい!

 俺はもちろん、と頷いて叫んだ!!

 

「最高だぜぇぇ!!」

 

「そこまで喜ぶのか……」

 

 イリアは少し呆れていた。

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