「『アイシクル・ランス』」
ルミナスが空中にルーン文字を描くと、何処からともなく、先の尖った氷の槍が3つ現れヒュウッと空気を切り裂き、高速で飛んでいく。
「ん。成功したようだな」
「はい。魔力の込めかたが少し難しかったですが、何とか」
少し肩で息をしながら自身の魔法についての講評を行う。
本当に大した才能だ。
ルーン文字はただ文字を覚えれば良いわけではない。文字に込める魔力の質を高め、上手く空気中の魔力と自分の魔力を一定の割合で合成させる必要がある。
言葉で言うのは簡単だが、常に集中を張り巡らせなければならない、ルーン文字を使った魔法は高等技術だ。
それを僅か一週間ほどで発動させるルミナスは天才ということになる。
それなりに才能ある人でも、1ヶ月以内に発動させることができれば御の字なのだが。
いやぁ、若き才能に嫉妬しちゃうね!
「やっぱり、適性だけあって威力強いな」
「その言い方だと適性がなくとも、属性魔法を使えるように聞こえますが」
目ざとい。俺は正解、と大きく頷いた。
「実は使えるには使える。ただルーン文字限定だし、多分一発使うと魔力枯渇しちゃう」
「それは……効率が悪いですね」
「そうだな。ぶっちゃけ使う意味もないし」
魔力が枯渇するとどうなるか。
魔法が使えない。それに、絶えず吐き気と頭痛に襲われることになる。
戦闘において、それは隙以外の何ものでもない。
「さてと。そろそろ時間だし帰るぞ」
「……」
「こら、無視するんじゃない」
修行場所は例の空間。
帰ろうと、声をかけるもそっぽを向いて可愛らしく無視するルミナス。駄々っ子か。
「時間過ぎると明日の修行時間が──」
「帰りましょう」
「俗」
魔法狂は伊達じゃない。
明日の時間が減ると言おうとしたことを察し、すぐさま返答したルミナスに苦笑し、
☆☆☆
最近は特に順調だと思う。
ルミナスの魔法の腕は着々と上がり、イリア含め、人間関係も問題なし。襲撃者は予想通り皇国からの刺客であったし、俺の教える腕も上がっている。
「そういえば、食っちゃ寝生活を送るはずだったのに、いつの間にか普通に仕事してるな、俺」
1日の半分以上はルミナスの修行を行ったり、教えるためのスケジュールを組んでいる。しかも、それに達成感や、やりがいを覚えている俺もいる。
まあ、良いか。自分の身になってるし。
そう、判断付け、部屋でゆっくりと過ごしていると、コンコンコンとノックされる。
一瞬だけ警戒するが、襲撃ならノックなどしないし、相手に敵意……はちょっとある気がするけど問題はなさそうだ。
「どうぞー」
ソファに座りながらノックに返答すると、ガチャと扉を開けて入ってきた人物は……銀髪碧眼ショートヘアの少女だった。
何処と無く顔立ちはルミナスと似ており、若干幼げな印象がある。
しかし、無表情がデフォのルミナスとは違い、目を釣り上げ、憤怒に満ちている。
「あんたが『魔剣士』ね! 全然ぱっとしないじゃない! あんた、本当に魔王倒したの?」
「挨拶が罵倒とは貴重な経験をしたぜ。ちなみに、ちゃんと魔王は倒したぞ」
「信じられないわ! 証拠を見せなさい、証拠を!!」
誰だか知らない少女が、訝しげに俺を見て魔王を倒した証拠を要求する。
証拠て。……あー、あるにはあるが。
「はい、これ」
俺は部屋に置いている荷物から禍々しい一振の剣を取り出す。
髑髏の紋章が柄に施され、紫色の剣は非常に毒々しい。最たるは、その刀身から溢れる闇色のオーラ。それは、視認できるほどに濃かった。
「な、なんなのよ、これ……」
その剣を見た少女は、碧の双眸に怯えを含ませ後ずさる。
俺は剣を荷物に戻して説明する。
「これは魔王が使ってた剣なんだけど、強そうだから持って帰ってきた」
「持って帰ってきた、じゃないわよ!! 明らかに呪いの剣でしょ、それぇ!」
「あっはっは! 魔王の剣なんだから呪われてるに決まってんじゃん」
「さも当たり前のように呪いの剣を肯定すんな!!」
なかなかツッコミの上手い少女だ。
このやり取りに楽しさを覚えてきた俺は、さらに『証拠』として様々な物を取り出す。
「これは魔王が被ってた王冠。強さの代わりに全部失う」
「意味無!!」
「これは魔王の装備してたマント。防寒機能しか付いてない」
「意外に虚弱ッッ!」
「これは魔王の寝室から持ってきたエロ本」
「やめてあげなさい!!」
「これは魔王ズボン。特に何もない」
「身ぐるみ剥がされてる!?」
「これは魔王の骨」
「身ぐるみどころか身ごと!?」
「魔王のマッサージ器具」
「近未来なの何で!?」
「魔王の好物」
「最早あんた、ただの盗っ人じゃない!」
ゼーハーゼーハーとツッコミ疲れて肩で息をする少女に俺はあはは!! と爆笑する。
いやぁ、面白い。ここまで遠慮なく色々言われたのは久しぶりでちょっと嬉しい。
「んで、『魔剣士』であること認めてくれた?」
「なんか良くわからないのもあったけど、あんたが『魔剣士』の皮を被ったクズってことがわかったわ」
「酷いな。ちょっと魔王城の至る所から盗んできただけなのに」
「盗んだって認めてるじゃない!」
青筋を立てて、眉がピクピク動いていて非常にご立腹な様子。
これ以上怒らせると話しにならない。ま、俺のせいだけど。
「で、何の用だ? というか、お前が何者かも知らんけど」
「はっ、あたしのことを知らないなんて世も末ね!」
「じゃあ、世も末だな」
「どういう意味よ!」
そんなに無い胸を張って自信満々に誇る少女は、仕方ないわね、と自己紹介を始めた。なんで、そんなに一々偉そうなんだよ。
「あたしの名はセリア・フォン・リング。正真正銘、この国の第二王女よ!! ふふん、崇めなさい!」
「あっはい」
想像通りであり、そしてあんまり興味もないので、ただ頷くと、それすらもセリアにとってはご立腹なようで。
「ぐぬぬぬぬ。あたしを見てその反応……やっぱりお姉ちゃんに惚れてるのね!!」
「おい、待て、なんでそうなる!!」
声を上げた俺に向かって、ニヤリと笑うセリアはやっぱり! と指を指した。
「今まで反応薄かったのに、お姉ちゃんのこと出した途端に大きな声出しちゃって。図星なのね! いい加減認めなさいっ!」
おかしな結論の出し方に、はぁ? と疑問に覚えるが、セリアの勘違いは止まらない。
「そうじゃなきゃおかしいのよ! あんたはお姉ちゃんが目当てで、呪いの依頼を受けて、悪い男でお姉ちゃんを騙したのよ!」
「おい、落ち着け。カルシウムちゃんと取ってる?」
「毎日牛乳を……って何言わせてんのよ!」
「何も言ってねぇよ」
小さい背を気にしているらしい。
それはそうと、こういう輩は一度勘違いをすると拗れるんだよなぁ……面倒だ。
ハァ……とため息を吐くと、目敏くセリアが指摘する。
「遂に諦めたのね!」
「違ぇよ。つか、どうしてそんな結論に陥った」
説明を何段階も飛ばしているセリアを嗜め、事の経緯について尋ねると、セリアはぷるぷると体を震わせ、天に向かって叫んだ。
「じゃなきゃ、お姉ちゃんが今まで見たこと無いほど嬉しそうで、幸せな顔するわけないでしょぉぉぉぉぉ!!!! あんたが騙したからそうなったのよぉぉぉ!!!!!」
「……なるほど」
ふいに俺の脳内に『やっほー、呼んだ?』と俺に笑いかけるカマエル王の姿が浮かんだ。
血は争えんな。
☆☆☆
お姉ちゃん大好きっ娘ことセリアは、あの後やってきたカマエル王に引きずられて帰っていった。あんたら本当に王族なの? 威厳もクソもねぇぜ。
「最近、やけに変な奴らに絡まれるな」
セリア然り、カマエル然り。
平穏とは何かと考えてる俺がいる。
別に騒がしい日々が嫌いなわけでもないけど、騒がしすぎるのも考えものだ。
「さて、行くか」
今日も今日とてルミナスに魔法を教えに。
☆☆☆
「あり得ないです」
俺がセリアのことを話すと、ルミナスは考えることなく吐き捨てるように言った。
「え? どうしてだ?」
ルミナスは顔を伏せ、悲しそうな声色で言った。
「私は……あの子に嫌われていますから。それに、私はあの子に嫌われて当然なんです」
その言葉には嘘も冗談も含まれていないようだった。紛れもなくルミナスは、セリアに嫌われている。そう思っている。
「何故だ……?」
だが、俺は昨日の一件から、セリアがルミナス大好き好き好きっ娘であることを知っている。あんなに激しく突っかかってきて、嫌いとかどんな演技派だよ、って感じ。
……うーむ、まあ話したくない顔してるし、家族の問題だからな。俺が介入するのはお節介にも程がある。
「じゃ、気を取り直して────」
続けよう。と言おうとした瞬間、ガチャと無造作に扉が開け放たれた。
敵意がなかったから気が付けなかった。
現れたのは──
「ふんっ、まだこんな部屋にいるの? あんたの居場所はないんだから出ていきなさいよ!」
ぷりぷり怒る、小さな少女。
腕を組んでルミナスを睨むセリアだった。
「……」
ほら、と何処か諦めた様子のルミナスが悲哀の目で俺を見た。
「?????」
そんなルミナスを尻目に俺の頭ははてなマークで一杯だ。
今のセリアの言葉。紛れもなく悪意がある……ように聞こえるが、その言葉に悪意や敵意などの害意は存在していない。どちらかというと、逆で、親愛を向けているような気がした。
ふむ、わからん!!
「へい、セリア。ちょっと来い」
セリアの首根っこを掴んで、部屋の外に引きずる。
「ちょ、ちょっと何するのよ!! 離しなさいって……この変態ッッ!!」
「うるせぇ」
じたばた暴れるが、力の差は歴然。俺は難なくセリアを部屋の外に出すことに成功する。
キッ! と睨み付けてくるセリアにハァ、とため息を吐きながら言う。
「さっきの言葉、どういう意味で言ったのか
「なんであんたにそんなこと言わなきゃいけないのよ!」
「良いから」
「ッッ!」
少しの怒気を込めると、瞳に反抗心を残しながら渋々言った。
「だって、あんな殺風景な部屋で可哀想じゃない。私がお父様に言えばすぐにもっと良い部屋を用意できるのに、って……」
唇を尖らせ拗ねたように言うセリアは、年相応の子供のようだった。
俺は頭をボリボリ掻きながら、面倒なことになったな、と悩む。
介入しない……つもりだった。でも、こればかりは、お節介になっても良いからしなくてはいけない。じゃなきゃ、もっと関係が悪くなる。
一先ず俺はセリアに現実を突きつける。
「言葉足りない。そのせいか知らんけど、ルミナスがお前に嫌われてるって言ってたぞ?」
「そ、そんなはずないじゃない!」
「実際問題、言葉足りてないの自覚してる?」
「言葉足りない。ってそのままの言葉を言ってるだけよ!!」
全然そのままじゃねぇよ!! と喉元まで言葉が出たが押し込める。自覚無しかよ……。
少なくとも俺とのやり取りの時は、そこまで誤解される言葉もないはずだが……?
「よし、お前、お姉ちゃん大好き、って言ってこい」
「なんでそうなるのよ!?」
「誤解を解きたかったら、自分の言葉を素直に伝えるのが一番だ」
「……ッッ」
怒りはあるが、俺の言葉に納得している……がしかし、それも認めたくないといった、実に愉快な表情で百面相をしている。
プライドが高いのか、はたまた子供の癇癪なのか。子供って言っても十四歳くらいな気がする。勘だけど。
「うぅ……」
「お姉ちゃん、好きか?」
「当たり前よ!」
くわっ、と目を見開いて肯定するセリアに苦笑し、なら言ってこいと急かす。
「わかったわよ……。言えば良いんでしょ。言えば」
さすがに好きと伝えるのは照れるのか、顔を赤くしてソワソワするセリアは少し可愛い。
なんか、猫みたいだな。
俺はセリアがガチャと扉を開けたのを見て、聞き耳を立てる。
「お姉ちゃんッッ!! 特別に私が家族として愛してあげても良いのよ!!!」
「……別に無理しなくても良いよ」
俺は神速の踏み込みで部屋に入り、セリアを抱えて脱出する。その間3秒。
「お前は馬鹿か!!!」
「な、なによ。ちゃんと言ったでしょ!?」
「どこがだ!!! 上から目線すぎだし、お情け的な感じで言ったと思われてるだろ!」
部屋の外で叱りつけると、懲りずに言い訳するセリア。
どうしてこうなるんだ……。言ってることが思ってることと真逆、もしくは悪意ある言葉に聞こえる病気にも罹ってんのかこいつ。
ん、待てよ?
俺はそのワードにあることを思い出す。
☆☆☆
『ヨウメイ。最近、巷ではツンデレ、というものが流行ってるようですね』
『ツンデレ? なんだそれ』
『曰く、特定の相手に対して言ってることと思ってることを真逆に言う行為らしいです』
『それの何が良いんだ?』
『さあ? ……ごほん。べ、別にあんたのことなんか好きじゃないんだからねっ!』
『は?』
『これがツンデレらしいですよ』
『いや、どう考えても非効率だろ』
『ですよね。まあ、君は君に好意を抱いてくれる特定の人がいないから無駄ですけどね! プークスクス』
『うるせぇ!』
☆☆☆
やべ、余計なことまで思い出した。
俺は、ごほんと咳払いをして気持ちを入れ替える。
「セリア、お前はツンデレなんだ」
「はぁ?」
「恐らく、特定の相手に対して言ってることと思ってることが真逆になっちゃうんだよ。お前は言ってるつもりだろうが、微塵も通じてない」
「な、なんですって……」
ガビーンと床に四つん這いになって落ち込むセリア。うむ、これで問題点がハッキリしたな!
だが、一つ。特定の相手に対して、という条件はちょっと曖昧な気がする。
俺に向かって、姉が好きなことを語ることに『ツンデレ』を発動させることはない。
よって、俺の見解だと、『面と向かって話すことが』という前提条件があるに違いない。
「お前はルミナスと仲良くしたいのか?」
「あ、当たり前よ!! ……私はお姉ちゃんが大変な時に何もしてあげられなかったし、やっと、最近になって公務が少なくなったから会いに行けるのよ!」
だから、俺が最初にいた頃は姿が見えなかったのか。
セリアの表情には、ただひたすら姉への愛があった。
……うん、ならお節介させてもらおうかな。
俺はルーン文字を描き
☆☆☆
とある魔法が発動したことを確認した俺は、セリアに問い掛ける。
「なあ、もう一度聞くが姉のこと好きなんだよな?」
「当たり前よ! 私の誇りだもの」
ふむふむ、と頷き、俺はニヤリと笑う。
「じゃあ、姉の好きなポイントを俺に教えてくれないか? 俺の知らない魅力、一杯あるんだろ?」
すると、セリアは鼻高々にルミナスの魅力を語り始めた。
「せっかくだからあんたに教えてあげるわ! まずはね、格好良いところでしょ、そして何より美しい! でも、魅力は外面じゃなくて内面の方があるのよ! 例えば、とても優しいの! いつも私が顔を出したら心配してくれるし! それに、昔にあったことなんだけど、家族でご飯食べてた時に、こっそりデザートを部屋に持ち帰ろうとしたのがバレて赤くなっちゃった時なんて、もうめちゃくちゃ可愛いでしょ────」
「お、おぉ」
予想以上の姉好きっぷりに少しだけ引く俺。
すると、ふいにバンッ! と蹴破るような勢いでルミナスが部屋の外に出た。
「~~~っっ!!」
顔は真っ赤で、何を言えば良いのかわからない、といった風に口をパクパクしている。
「聞こえてたか? ルミナス」
「な、なんで。それに、セリアも」
「え、ちょっとどういうことよ!?」
一人だけ事情を理解していないセリアが叫ぶ。
俺は誤魔化すように頬をポリポリと掻いて言う。
「えーとだな。俺が使える魔法に『伝達』って魔法があってだな……」
「伝達……まさか」
「うん、筒抜け」
「嫌ァァァァァァァァァァ!!!!!!」
瞬間、顔を真っ赤にしたセリアが叫んだ。奇しくも顔真っ赤姉妹が揃った! なんちって。
まあ、うん、どんまい。
「なんでそんなことしたのよ!!」
「いや、そこまでしないとまた誤解されるだろ」
「うぐっ」
度重なる俺の説得のかいあってか、誤解される性格(個人限定)だと気が付いたのか、反論できないセリアは、図星を突かれ黙る。
「ま、強引だったのは謝るよ、ごめん。でも、俺的には姉妹仲良い方がスッキリするんだわ。というわけであとは、お二人でごゆっくり~」
シュパッと身体能力をフルに使いその場から俺は立ち去る。絶対に二人の会話が聞こえないように。
お膳立てはした。あとはセリアが素直になれるかが問題だけど……あそこまでしたからには大丈夫だろ。
それにしても、ルミナスの真っ赤な顔、セリアの言う通り可愛かったな。
☆☆☆
ヨウメイのいなくなった後、ルミナスは無言のセリアを部屋に引き入れた。
しかし、そこで沈黙が広がる。
お互いに聞きたいこと、伝えたいことは沢山ある。しかし、それには姉妹の仲に溝が広がった期間が長すぎた。
セリアは、溝が広がったなどとは考えていなかったが、ヨウメイに真実を突きつけられ、自己嫌悪にも似た感情が今襲いかかっているのだ。
その中で、ルミナスは静かに深呼吸をし、息を整える。
目を閉じ──次に開けた時、その目には覚悟が灯っていた。
「セリア、本当に私のことが嫌いじゃないの?」
意を決し、ルミナスは長年ずっと抱えてきた想いの一端を問う。
ルミナスは自分でも気が付いていないが、セリアにだけは一貫して守ってきた敬語を崩す。自分を守るための防波堤として活用してきた武器である敬語を捨てるのだ。
それは心の奥底でセリアを信用している他ならない。
姉が問いた言葉を頭の中で反芻したセリアは、その目にじわっと涙が浮かぶ。放たれた言葉は弱々しげだった。
「嫌いになんか……なれるわけないじゃない……っ。好きよ。大好きよ……っっ!」
涙を溢して言うセリア。
それは紛れもなく本音であり、姉妹の溝が広がってから出した初めての本音だ。
「そう……でも、私はセリアに酷いことを……」
大好き、待ち望んでいた言葉に喜色が浮かぶも、ルミナスの心は晴れない。
それは自罰的な感情であり、ルミナスの過去の感情から繋がる罪悪感である。
「酷いこと……? そんなことされた覚えないわ」
「いいえ、私のせいでセリアの公務が多くなっちゃったでしょ? 本来、それは私がやるべきこと。それを全部押し付けて……セリアの自由を私が奪っちゃったのよ……。私の、私のせいで……っ」
流れる涙はルミナスの心を荒い流してくれない。
セリアはそんな姉を見て驚きと、悲しみに包まれる。
それでも、少しだけ泣く姉を見て瞳に強さが戻った。それは何としてでも反論しようという気概。
実際セリアは、公務などどうでも良いのだ。
「お姉ちゃん、そんなこと思ってたんだ。でも、私は全然気にしてなんか……いいや、お姉ちゃんのためなら何でもできるし、そこまで公務も嫌いじゃないのよ? それに、そうなったのは、お姉ちゃんが悪いんじゃなくて、呪いをかけた────」
「違うっっ! 違うの!!! 私はずっと自分の意思で
それは、ヨウメイにすら
ルミナスは自身を肯定してくれるセリアに喜びを覚えたが、しかし、根底に眠る本性が肯定を是としない。
ずっと囁くのだ。『お前は幸せになってはいけない』と。
だからルミナスはその本性を隠す自分が許せなくて、遂に妹に本音を吐露した。
(きっと、セリアは私を見限るでしょう。そう、それが妹のための幸せ。私は共に過ごす価値などないのです)
自分を知覚したくなくて、心の声すら敬語のルミナスは、手で顔を覆い、セリアはきっと失望しているだろう、怒っているだろうと思っていた。
でも、違った。
「何よ、何よそれ」
確かに怒りが篭っていた。しかし、それはセリア自身への怒りである。
セリアはセリアを許せなくなっていた。
「何よそれ、全部周りが、
「え……」
セリアから放たれた予想外の言葉に、ルミナスは顔を上げ妹の顔を見る。
怒っていた、悲しんでいた。涙が、浮かんでいた。
「お姉ちゃんに無理させる周りの人たちも、それに気づけない私たちも。笑いたくない、なんて……そんな悲しいことを言わせた私たちが全部悪い!!」
涙を流しながらも、意思はハッキリと言い切るセリアにルミナスは違うと言った。
「違う。全部私が悪いの。笑えない私が全部悪いの!」
「違うっっ!!!!!! お姉ちゃんはぜっっっったいに悪くない!!!!!」
「……ッッ」
セリアのあまりの勢いに気圧されるルミナス。
証拠も何もないセリアの言葉。しかし、そこには思わず納得してしまうほどの、圧倒的な意思が込められていた。
何度反論しても、違う、と肯定してくれるセリアに、ルミナスは何時しかすがっていた。
「本当に、私は悪くないの……? 幸せになっていいの?」
「もちろん。お姉ちゃんは絶対に幸せになるべきなの。私が保証するわ」
「誰かに、頼って良いの?」
「むしろ、誰かに頼ってほしいわ! それは私であって欲しいけど……まあ、あのエセ魔剣士でも良いわ。」
「私は笑わなくて良いの?」
「私は、お姉ちゃんが笑いたくなるまで待つわ!! 何年でも、何十年でも!」
ボロボロと留まることを知らない涙は、遂にルミナスの心の霧を洗い流していく。
堂々と胸を張って自信満々に言い切るセリアに、ルミナスは無意識に言っていた。
「笑いたい」
「え?」
それからルミナスは自分の言った言葉に驚いていた。笑わなくても良いと肯定されたのに。しかし、セリアの姿を見たら何時しかそう思っていた。
それは、二度目。ヨウメイの時以来だが、ルミナス自身、口に出して言うのは初めてだった。
そんなルミナスを見たセリアは、ふっと優しげに微笑んだ。
「──私は待つわ。何時までも。だから、お姉ちゃんを笑わせるのは、英雄に任せる。たった一人の英雄に」
「えいゆう?」
疑問を覚えるルミナスが、首をかしげるとセリアは大きく頷いた。その『英雄』を信じるように。
「ま、私はそいつのことが嫌いだから、不本意だけどね! 本当に!」
ぷりぷりと怒るように、だけども何処か楽しそうに言い張るセリア。
ルミナスは自分を励ましてくれた妹に、耐えきれなくなった感情が行動に出る。
「お姉ちゃん?」
ルミナスはセリアを抱き締めていた。ギュうっと。二度と離さない。そう言っているように。
「ありがとう。セリア」
姉の行動に驚いていたセリアだったが、感謝の言葉を聞くと満面の笑みを浮かべる。
「どういたしましてっ!」
何時しか空はオレンジ色の光に溢れていて、カーテンから射し込む陽が少女二人を優しく照らしていた。
「だいすき。セリア」
長め