笑わない王女様が笑った時には外堀全埋めされてた件   作:恋狸

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12日目

「料理?」

 

 修行中、料理がしたいとぼやくと、何時も無視するルミナスが珍しく反応した。無視というか集中しすぎて聞こえてないだけと信じたい。そうだよね?

 

「あぁ、ヤマトにいた頃は一人暮らしだったし、自炊してたというか……やらされてたからなぁ……」

 

 先生は私生活が壊滅的だった。

 たまたま料理を少し齧っていた俺が、先生に振る舞った時、毎日作れと言われ……否。脅されていたのだ。お陰で料理の腕前は王宮の料理長レベルにまでなった。

 才能があったらしい。曰く魔法より才能あるってよ。悲し。

 まあ、良い趣味になったし、今日は何故だか久しぶりに作りたい気分だった。どうもヤマトの味が恋しくてなぁ……。

 

 そんな何処か遠い目をした俺にふむ、と頷くとルミナスはある提案をしてくれた。

 

 

「多分、私かセリアが口を利けば厨房を貸してくれると思いますよ?」

 

「え、まじ? ……お願いしても?」

 

 いくらルミナスが良いと言っても、コックたちの邪魔をしてしまうのは確実。少し迷った俺だったが、趣味への誘惑は避けられず遠慮がちにルミナスにお願いをすると、うーん、と腕を組んだルミナスがポンと手を打った。

 

「そうですね。条件があります」

 

「お、なんだ?」

 

「私に食べさせてください」

 

 少しだけ照れたように言ったルミナスに、俺は満面の笑みで頷いた。

 

「勿論だ。料理は誰かに食べさせた方が嬉しいからな!!」

 

 人のために料理をするなんて、先生以来か。先生ともしばらく会ってないし、ルミナスの味に合うかは分からないが……やるだけやるか!

 気合いを入れて立ち上がる。

 

「さ、じゃあ修行を中断して早速──」

 

 

「はい? そんなわけないでしょう。勿論、修行終わってからに決まってるじゃないですか、ばかですか?」

 

「……はい」

 

 君、遠慮って概念どこかに置いてきた?

 

 相変わらず魔法狂いであることを再確認した俺はすごすごと座った。悲しみ。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 修行が終わり、空も暗くなった頃。ご飯時にはまだ早く、がしかしお腹が空いていないかと聞かれたら首をかしげる微妙な時間帯。

 そんな時、俺たちは厨房に立っていた。

 

 すでに使用許可はルミナスが取ってきてくれた。とは言っても鶴の一声のようで、ルミナスが一言声をかけるとすぐに許可された。

 ま、普段部屋の外に出ないルミナスがこんな場所まで!? とギョッとしてる人もいたけど。

 

「んで、お前はなんでいるんだ? セリアとイリア」

 

 名前が似ているお二人がいつの間にか集結していた。いや、セリアはまだわかるけどイリアはなんで?

 

「何よ、いたらダメってわけ?」

 

「いや、別に人数が増えた方が賑やかになるし、良いんだけど……イリアはどうした」

 

 孤高(笑)の女騎士団長様だ。まだ休暇中なのか? いや、多分残業禁止になっただけか。と何となく予想を立てるが、この場にいる理由は至って謎だった。

 すると、ルミナスが手を上げた。

 

「私が誘ったんです」

 

「ルミナスが?」

 

 意外だった。

 ルミナスが人を誘うのが。

 交遊関係は把握しているわけでも、したいわけでもないが、少なくともルミナスとイリアは直接的な関わりはないはずだ。王女直属の騎士団は、噂によると第一騎士団だと聞くし。

 かと言って二人の様子を見て親しげかと問われると、それもノーなのである。

 

 しかし、これまた意外な。が、筋の通った理由があった。

 

「実は、あの襲撃の時に少しお世話になったので、そのお礼を、と」

 

「いえ、私なんか……」

 

 いやいや、とイリアが謙遜する。

 そこで俺は得心がいった。確かに、一番早く駆け付けたのは、イリア率いる第二騎士団だった。

 その後のことは状況説明を軽くした上で騎士団に後処理を任せた。

 となると、二人に繋がりがあっても不思議ではない。

 

 たださ。

 

「なんでお礼が俺の料理なの? 謎じゃね?」

 

 普通お礼って言ったら、言い方悪いけど……金とか高価な装飾品とか、王族なら特にそうだろう。でも、俺の料理だぞ?

 

「いや、私がお願いしたんだ。ルミナス様によっちゃんが料理をすると聞いてな。ちょっと気になったんだ」

 

「「よっちゃん?」」

 

 姉妹二人が疑問符を上げるが、俺は特に気にせずになるほど、と頷いた。

 

「でも、期待しない方がいいぞ? 所詮しがない一般人だし」

 

 王宮レベル相当だとは自負しているが、その王宮レベルを食べ慣れてる三人に振る舞ってもな。期待値が高いのも困りものだな。

 

「「「一般人?」」」

 

 今度は三人揃って不思議がられた。や、あくまで料理のレベルがね? ……それも王宮レベルって自分で言ってるけど! 口に出してないからセーフ!

 

「気を取り直して、早速作っていくけどこの中で料理できる人ー?」

 

 三人は口々に自信げに言う。

 

 

「自分の手を千切りするレベルです」

 

「勿論、指を短冊切りするわ!」

 

「輪切り……だな」

 

 

「とりあえずお前らの腕が壊滅的なことはわかった。あと、物騒」

 

 少しだけ頭を抱える。

 参加型にしようかと思ったけど、明らかに血を見そうだ。物理的に。

 イリア、お前は論外だ。

 

「……別に料理の作業見ても暇だろうし、好き勝手してて良いぞ」

 

 遠回しに嫌な予感するからどっか行ってろ、と言ったのだが、残念なことの誰も通じなかったようで、全員が見る気満々であった。ちくしょう。

 密かに毒を吐く。しかし、遠回しに言った俺が悪い。

 

 諦めて俺は準備を始めた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「作るのは、そうだな……オーソドックスに、白飯、味噌汁、しょうが焼き……あと刺身くらいで良いか」

 

「ものの見事に知らないものばっかだな」

 

 イリアがそんなことを言う。

 確かにヤマトの食文化は伝達されていない。こちらに稲は栽培されていないし、大豆も栽培されていない。魚を生食で食う文化もないのだ。悲しい。

 しかし、材料はどうするか。

 

「はい、というわけで完成です!」

 

「なんか時空間移動があったような速さね」

 

 どこからか電波を受信したセリアが宣うが、俺には全然わからないな。

 

 俺たちは厨房から移動し、四人掛けテーブルの上に各料理を並べる。

 見知らぬ料理に、不安と期待の入り交じった顔が並んでいるのを見て俺はニヤリと笑った。

 

「さ、食べるか」

 

「得たいの知れぬ料理だが……では、私から頂こう。……はむ、はぐっ、こ、これは!!!!」

 

 いの一番にイリアが慣れない手つきで箸を動かし刺身をつまむ。さすが全員物覚えが早く、箸もぎこちないが使えるようになっていた。

 そんなイリアが、醤油に刺身……マグロの切り身を浸し恐る恐るといった様子で口に運ぶ。

 新鮮で、かなり値が張った高級マグロだ。元は魔物だから、魔物肉と言っても大差無いか。

 

 そして、もぐもぐと口を動かすイリアは、突如その動きを止めうごごご、と苦しんでいるようにも見える姿勢をする。

 

 

「な!? あんた、まさか毒を盛ったとかじゃないでしょうね!!」

 

「んなことするわけないだろ。よく見てみろよ」

 

 セリアが見当違いな文句を言うので、イリアを指差す。

 訝しげにイリアを観察したセリアは、突如イリアの発した奇声にビクッと驚いた。

 

 

「美味しいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!! な、なんだ、これは食べたことない美味しさだ!! 酒飲みたい!」

 

「さすがに王城で酒飲み騒ぎはダメだろ。また今度な」

 

 王女二人と一緒に酒パーティーとか全方向から文句を食らうのは目に見えている。それに、セリアはまだ15歳で成人したばかりだそう。自分でペースの効かない年だろうから、控えておくのが当然だ。

 しかし、酒飲みたいとはいい線いってるな。

 

 イリアの叫びに拍子抜けしたセリアは、警戒心を残しながらマグロを食べる。加えてルミナスも恐る恐る口に運ぶ。

 

「え、美味しいわ!」

 

「これは……」

 

 顔に喜色が浮かぶのを見て、俺はしめしめと計画通りにいったことを喜んだ。

 刺身は、食べ慣れてない人が食べると好みが二分化するが、三人とも気に入ってくれて良かった。

 

「まあ、刺身だけじゃなくて色々あるからぜひ食べてくれや」

 

 そう言ってこの場を締めると、女子三人は和気藹々と感想を言い合いながら、別の料理に舌鼓を打つ。

 その顔には笑顔一色……ではないが、ルミナスも満足してくれているようで、俺としては大成功だ。

 

 うむ、料理で人を楽しませるのは作り手が何よりも望むことだ。

 

 本当に気に入ってくれて良かった……と、密かに安堵して、俺も自分の分の料理を食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆……

 

 

「僕にも食べさせてくれないかい?」

 

「私もお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「……はい」

 

↑王と王妃に、圧の篭る視線を向けられ呆気なく従う世界最強(笑)の魔剣士(笑)

 

 

 

 

 

 

 

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