笑わない王女様が笑った時には外堀全埋めされてた件   作:恋狸

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14日目&幕間

 今日でもう二週間だ。

 時が経つのは早いなぁ、とお爺さんみたいなことを考えながらベッドから起き上がる。

 ふかふかのベッドからさよならするまであと二週間ちょっとか……。名残惜しいぜ。

 

 

「うぅんー! ハァ……」

 

 寝起きは何と言うか……気分が悪い。機嫌は悪くないが、気分が悪い。これも、自堕落な生活を送っていた代償かな。

 

 さ、ルミナスの熱は下がったと昨日聞いたし、今日はきっと修行が再開できるだろう。

 

 教える楽しみを知った俺は、日々を楽しく過ごせている。これも全てルミナスたちのおかげだ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

「おはよー」

 

「お、おはようございます」

 

 ルミナスと顔を合わせると、少しだけ赤い顔とともにふいっと逸らされた。

 ん? まだ熱あるのか?

 

「どれ」

 

「ひゃっ」

 

 額に手を当てると、可愛らしい声があたりに響く。一瞬、俺はルミナスの声だとはわからなくて辺りを見渡すと、最初の頃を思い出す凍えるような冷たい目で睨まれた。

 ちなみに触ったおでこはちょっと熱かった。

 

「やっぱ熱あるんじゃないか? 休んだ方が」

 

「これは……先生のせいですよ」

 

「俺!? なんかした!?」

 

 その疑問には答えずに、代わりに再び冷たい視線が返ってきた。覚えはないが俺が何かしたらしい。

 む、無実! といっても今まで色んなことしてるから何も言えないですね、はい。

 

「まあ、見てる限り体調は問題なさそうだから良いけど、具合悪くなったらすぐ言えよ?」

 

「多分言います」

 

「絶対」

 

「……はい」

 

 修行中は言わないつもりだろう。もう、そんなことは理解している。だが、体調悪い時に魔法使っても大した威力は出ない。それはつまり、修行にもならないということだ。

 

 ま、見てれば体調の良し悪しは分かるし、万が一があったら止めるから大丈夫だろう。……多分。

 

 

 拗ねているルミナスに準備の確認を取りテレポートで例の場所に向かった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 ちゃんと毎日行っている座禅を終えると、生き生きとした顔で魔法をぶっぱなそうとしているルミナスを呼び寄せる。

 本当に魔法撃つときだけはキラキラした瞳で楽しそうにしやがって……。これで限度さえ覚えてくれれば苦労はないけど、今のところは覚える気がないようで……俺が苦労する毎日が続いている。これが先生でいるということか。普通の学校だったら、ルミナスは間違いなく問題児だよな。絶対。

 

 

「どうしました?」

 

「今日はちょこっと趣向を変える。実戦だ」

 

「実戦?」

 

 そう、今日俺がやろうとしていることは、実戦である。実際に戦うと書いて実戦。

 

「理由としては、自衛のためにはいざ事が起こった時に俊敏に対応しなくてはいけないが、ルミナスには実戦経験がない。だから、せっかく習った魔法が無意味になる可能性がある。あとは……人に撃つときに躊躇う可能性もある」

 

 ふむふむ、と頷いていたルミナスは、躊躇う、という単語にキョトンとした。

 

「でも、私容赦しませんよ」

 

「知ってる」

 

 知ってる。おっと、思わず心の声と対応してしまった。

 そんなことは知ってる。知ってるからこそ危険性もある。

 

「お前の場合は逆だな。躊躇うことも覚えろ」

 

 そう言うとルミナスは、少々不満げに、

 

「向かってくる敵に対して躊躇う要素があるんですか?」

 

 と、実に戦闘狂発言をしたのだった。

 またこいつは……。頭を抱えたくなるが、ぐっと我慢して言う。

 

「あのな、魔法は人を殺す手段じゃねぇんだよ。言った通り自衛だ。もし、お前が撃った魔法で人が死んだらどうする? そして、その流れ弾が民間人に当たったら、建造物に当たったら、とか想像したことあるか?」

 

「……ないです。すみませんでした」

 

「うん。わかったならよし」

 

 納得と自罰的な表情を浮かべて謝罪したルミナスを笑って許す。

 こういう素直なところは美点だ。自分の否を素直に認められるのは育つと相場が決まっている。……くだらないところは意地張るのに……とは口に出さないけど。

 

「で、話を戻すが、その『いざ』に備えて使う魔法の種類や威力を適宜調節しないといけない。それも、その場での一瞬の判断だ。そのための実戦訓練だ。わかるか?」

 

「はい。ですが、私と先生でしたら訓練にすらならないと思いますが……」

 

「そこは手加減……と言いたいが、俺からは一切攻撃しない。お前を傷つけるわけにはいかないし、傷つけたくないからな」

 

 綺麗な肌に傷残ったら嫌だろ? と茶目っ気に笑うと、またふいっと顔を逸らされた。さっきから一体なんなんだよ……。どこか耳が赤い気がするが、また熱が上がってしまったのだろうか。でも体調的には問題なさそうなんだよなぁ……。

 つかそもそもな。傷つけでもしたらカマエル王が黙ってないだろ。あの人怒らせるとか怖すぎる。

 

「とりあえず、俺はひたすら逃げ回って色んなシチュエーションで襲うフリをするから、俺に魔法を当てろ」

 

「でも、当たったら痛いんじゃ……」

 

「大丈夫だ。当たらん」

 

「……ッッ! 当てます!」

 

 上手く負けず嫌いのルミナスを煽れたようで、瞳にはすでに闘志が宿っていた。

 

 

 そこから10分ほどルミナスには考える時間を与えた。前提として想像することが重要なのだ。もし、こう襲われたらこう対処する、とか。

 

 

 

 そして、10分後。

 互いに離れた位置に着いた俺たちは向かい合う。

 

 

「それじゃ始めるぞ! 開始!!」

「『アイシクル・ランス』」

 

 合図をした途端に氷でできた槍が飛んできた。

 開幕ぶっぱとはやるな。

 

「はい、ルミナス減点。まだ俺襲ってねーし」

 

「あっ……」

 

 槍全てを叩き壊して言うと、ルミナスはしまった……と焦る。どうやら初手からルールを忘れていたらしい。しっかりしてくれよ。

 

 

「んじゃ、改めて開始────『周りには民間人が少数。襲ってきた人数は一人で異能は使えないが魔法を使える、街の通りと想定する。道は直線』」

 

 はっ、とルミナスが理解の色を見せる。そうだ、そういうことだよ。これが危険予測と状況判断の試練だ。

 よく、俺もやらされたもんだ、と過去を思い出しながら、直線的な動きを意識して攻撃のフリをする。

 

 試練、という状況に意味を持たせるために、軽く殺気を飛ばすと真剣な目付きになる。

 さて、もう2歩で攻撃が完了する。ルミナスはどうする……?

 

 

「『アイス・ウォール』」

 

 瞬間、俺の目の前と()()()()()ように氷の壁が出現した。

 

 

「正解だ。周りに人がいる場合は、動きやすいようにバトルフィールドを作れ」

 

「『アイス・ピロー』!」

 

 間髪入れずに次点が来た。

 地面から突き抜けるように生えてきた鋭い氷を見て、俺は再び笑みを深めた。

 それも正解だ。

 

「『ウィンド・ステップ』」

 

 足元から風が吹き抜け、俺の体を上空へと運び、ステップを踏んで安全圏へと移動する。

 難なく氷の壁から抜け出した俺を睨むルミナスに向かって不敵に笑う。

 ま、あんな啖呵切った手前負けるのは嫌だよな。生憎と負けず嫌いなんでね。

 

 

「はい、ストップ。うむ、上出来だけど、相手が魔法を使う想定をもっとしないとな。本気で戦いに行かずに、最初は様子を見てどういう魔法を使うのか観察しないと」

 

「そう、ですね。状況に流されて少し混乱気味でした」

 

 初めてだし仕方ない、というか普通の奴は何もできずにダメ出し食らうんだけどな。俺も含めて最初はそうだった。

 やはり圧倒的な才能。魔法だけではなく、戦術にも適性があるのかもしれない。

 

「混乱に関しては経験を積むしかない。誰彼もが最初からできたわけじゃねぇし」

 

 自虐を込めて言うと、ルミナスはふいにパンっと自分の頬を張った。

 

「──もう一度お願いします」

 

「ふふっ、了解。じゃ、続きね」

 

 熱血なのは嫌いじゃない。

 俺は立ち向かうルミナスの瞳にメラメラ燃えたぎる炎を見た。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 頃合いかな。

 肩で息をするルミナスに、今日の最終試練だ。

 俺は全て『異能』を封じて試練に臨んだ。それは、『異能』の能力が被ることがないからだ。俺の『異能』を想定して訓練なんて必要ない……が、どういう対応をするのかも少し気になる。

 

 

「ルミナス、ラストだ! 相手は俺!」

 

「くっ、『氷爆』!!」

 

 目をハッと見開いたルミナスは、俺が教えた上級魔法の中で最も威力が高く射程の長い魔法を使用してきた。

 それは氷の絨毯爆撃。無差別に広範囲に氷の弾丸を放つ技だ。一つ一つが鉄以上の硬度があり当たればひとたまりもない。

 

 

「当たれ!」

 

 ルミナスが叫ぶ……が、そんなに甘くないのだよ!

 

「『範囲《レンジ》超過《オーバー》』……あれ? 発動しなっ……んぎゃ!」

 

 何故か『異能』が発動しなかった。

 それを考える間も無く襲い掛かってきた氷の弾丸が顔面に直撃し、俺は敢えなく地面に倒れ伏すことになるのだった。

 痛い……傷はないけどさ。痛いのは痛い。

 

 

「え、先生?」

 

 当たった俺に不思議そうな顔をする。

 いや、そんな顔するなよ!! 当たらんとか言ったくせに当たったことがそんなに不思議かよちくしょう!!!

 

 ……まあ、『異能』の発動には精神状態が安定していないと失敗することもあると言われてるし……

 

 

 とどのつまり、調子乗りすぎたってことすか……?

 

 

 ぐはっ。

 あまりの衝撃に俺は物言わぬ骸と化したのだ……心の痛みは時には肉体も痛めるのだよ……by俺。

 

 

「せ、先生ー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

Side ルミナス

 

 

 

 

 

 どうして、先生を見ると顔が赤くなるのでしょうか。

 どうして、先生のことを想うと胸の鼓動が治まらないのでしょうか。

 どうして、セリアは私のことを信じてくれるのでしょうか。

 

 どうして────笑いたいと。そう願ってしまうのでしょうか。

 

 頭の奥に存在する『なぜ』の数々が私の思考を蝕みます。

 自問自答しても答えはいっこうに得られません。

 

 

「はぁ……。先生は本当にずるいです」

 

 先生との実戦訓練を終えて、夕焼けに染まる部屋で私はため息をこぼしました。

 そうでもしないと、分からない感情が飛び出してしまうようで。

 

 ……本当にずるいんです。

 私のしたいことを誰よりも早く理解してくれて。私の感情を汲んで話しますし。

 そして、自分の気持ちに無頓着。感謝をしても謙遜をするばかりです。

 

 肝心なところは疎いんです、先生は。

 

 だからこそ……もどかしい。そう思ってしまうのです。

 理解できない感情を知られたくなくて。でも、知ってほしいような……そんな思考が頭をぐるぐる駆け巡ってしまって、最近私は先生と目が合うと顔を逸らしてしまいます。

 失礼だとわかっていてと、逸らさざるをえないのです。

 

 それが『なぜ』かはやっぱりわかりません。

 わからない時は人に聞け。

 先生はある時そんなことを言いましたが、この感情だけは自分で何とかしたいと思ってしまうのです。

 

 それも、『なぜ』かはわかりません。

 

 わからないことだらけです。  

 何時も悩んでばかりです。

 それでも、私は

 

「幸せ、なんです」

 

 暖かい気持ち。

 私は久しぶりに、幸せという感情を感じました。その時に私は笑いたいと思うのだと思います。

 それは、自分の気持ちに報いたいと思っているのか、はたまた幸せをもっと享受したいがゆえの感情なのか。

 

「悩んでる私を見たら、先生はなんと言うのでしょうか」

 

 何時もの優しげな笑みで、大丈夫か? と心配してくれるのでしょう。そうです。予測できます。予測できるのに……

 

 

「……熱い」

 

 顔に熱が集まっていくのを感じました。

 

「『クール』」

 

 なぜでしょう。先生から教わった魔法を試したのに、冷やした側から熱くなっていきます。

 すわ、病かと少し焦りますが、しばらくすると熱は引いていきました。

 

「もっと頑張りたい。けれど、やりすぎると先生に怒られてしまいますね……」

 

 魔法は、私の唯一の趣味であり、先生との繋がりでもあります。

 知らない世界。使えば使うほど強く、美しくなる魔法に私は魅せられています。

 

「もっと修行したいです」

 

 呟いても先生はやってこない。というか、聞かれたら怒られることは間違いなしなのでしょうけど。

 先生はたまに『狂ってる……』と微妙な表情で呟きますが、非常に心外です。私だって怒りますからね。

 

「ただ楽しいだけなのに」

 

 魔法を知った私は、水を得た魚のようで、凝り固まったストレスがどんどん消えていきます。

『ストレス発散かよ』。と言いそうですね。でも、実際その通りなのかもしれません。

 勿論、自衛の手段のためでもあり、私が変わるためでもあります。むしろこの間までは変わらなければ、という思いが占めて頭の中がぐちゃぐちゃになった過去もあります。

 

 でも、先生が焦らなくて良いんだと教えてくれました。

 その意味が分かるのは少し後でしたが……理解した時、まるで霧が晴れたようで。

 だから私はあの時『氷獄』が使えたのだと思います。

 

 楽しい。そう思えば思うほど、魔法は応えてくれます。

 

 すみません、先生。焦りはしませんが、狂うことは止められないみたいです。

 

 

「これも全て先生のせいですよ。知らない世界を教えてくれたのが悪いんです。だから、責任取って最後まで見捨てないでくださいね」

 

 残り二週間と少し。

 あまりにも少ないです。先生がいなくなる生活を想像しただけで悲しくなります。

 ……だから私は止まりません。どんな出来事があろうと、猪突猛進で進み抜けます。

 

 その先に、先生の笑顔と──私の笑顔があるのだと願って。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

Side ヨウメイ

 

 

 

 

「やりすぎた気がする」

 

 ルミナスとの実戦訓練を終えた俺は、ベッドの上でぐでー、と寝転びながらそんなことを考えた。

 

 いや、ね? 途中から俺も楽しくなってきてさ。……何時間もぶっ続けで訓練したんだよ。俺はアホか!

 

「やりすぎるな、とか、無理するな、焦るなとかどの口が言ってるんだよ……。この口だよな、くそぉ!」

 

 自分の唇をむにむに引っ張って、自らを罵倒するが気持ちは晴れない。

 

 仮にルミナスが、自分の限界と耐えられる限度を知っていたのならば、多少の無茶は許したかもしれない。

 しかしながら、ルミナスは限界が来ようと関係なし。その限界すら突破して無茶を重ねるから心配事が止まないのだ。

 

 『狂戦士』だなおい……。

 『狂化』という『異能』を持つ男に付いたあだ名だが、ルミナスの方がよっぽど似合ってると思う。頼むから限度を知ってくれ。胃が死ぬから。

 

「うん、今日に関しては俺が悪いとしか言いようがない。弁明反論主義主張はしません!」

 

 一体誰に言ってるかは俺自身も謎だけど、今後の抱負として何となく口に出して言った方が良い気がするのだ。うん、気分気分。

 

「とりあえずこれからのことだが。やっぱり天才すぎだよな?」

 

 まさか訓練の意図を秒で掴まれた上に、一瞬で実践されるとは思わなかった。

 ルミナスにも言ったが、あれを初見でやれる奴はマジでいない。俺もそのせいで先生にボコボコにされたし。

 

「戦略……か」  

 

 戦いに頭を使う者は存外少ない。  

 逆に言えば、使えるか使えないかの違いが『一流』と『二流』を分けると言っても過言ではない。

 しかし、実際に実践するのは難しい。どうしても、中途半端に力があって才能がある奴は、戦略なんか必要ないとゴリ押しする傾向がある。

 ……ん? なんか心が痛いな。それ、昔の俺じゃね? とか言えねぇ……。

 

 ごほん! そんなわけで、大多数の人間がゴリ押しする中、力、才能、を持ち、かつそれを戦略によって多様できるルミナスは、やはり天才なのだ。  

 天才という言葉で語れないかもしれないが。

 

「うかうかしてると、本当に追い抜かれるな」

 

 想像したら冷や汗が垂れてきた。

 教えた相手の成長を願うのは当然として、いざ追い抜かれそうになった時、冷静でいられる人間は果たしているのだろうか。

 少なくとも、上昇思考の俺は無理だな。だから、ルミナスが修行をしている時も、実はこっそり俺も修行をしているが……芳しくない。    

 すでに実力がある程度あると、そこから成長するには新しい発想が必要だ。ま、コツコツやるしかねぇと。俺には『異能』と剣があるし!!

 とは言っても今日、精神状態によって『異能』が発動しなかったという悲しい出来事があったんだけどね!!! あれはダサすぎた。軽く死にたい。

 

 いや、俺のことはどうでも良いけど。

 

「とりあえず、修行しすぎのルミナスを止めなくては」

 

 最初の考えに戻るけど、やっぱり頑張りすぎだ。多分、今日の実戦訓練も、俺が止めなかったら何時までもやってたに違いない。

 努力も才能の一つだけど、何度も言う通り限度がある。

 だからこそ、先生である俺が止めなくてはならない。

 

 ルミナスに不幸が襲い掛かる前に。

 

「降り懸かる火の粉を払うのは、先生としての務めだろ」

 

 

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