笑わない王女様が笑った時には外堀全埋めされてた件   作:恋狸

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15日目

「よっ」

 

「おはようございます」

 

 手を上げて挨拶をすると、ルミナスは優雅に一礼をして返した。部屋を見渡すと、心なしかルミナスとの物理的距離が遠い気がする。

 まあ、お年頃だし男に近づかれたくないのかなと思ったけど、今更じゃね? とも思ったり。

 最近はよく顔も逸らされるけど、全然悲しくなんかないんだからねっ。おっと、これはセリアだわ。

 

 

「さて、いつも通り修行といくわけだが、要望はあるか?」

 

 ルミナスは静かに目を閉じ少しばかり逡巡すると一つ、要望を口にした。

 

「先生の……剣を見てみたいです」

 

「剣? なんで?」

 

「『魔剣士』と呼ばれているのに、剣を使った姿を見たことがないので」

 

「あー、確かに」

 

 ルミナスに魔法を教える都合上、お手本になるようにと日常で魔法を使うように心がけていた。そのため、ルミナスに剣を見せたことがなかったかもしれない。

 ……襲撃の時は剣持ってくるの忘れてたし。別に魔法で呼び寄せることもできたけど、その瞬間を見逃してくれるほど甘い相手じゃなかった。

 正面戦闘ならまだしも、ルミナスを守りながら戦うには魔法と『異能』を使うほかなかったからな。

 

 そうだなぁ……剣かぁ……。

 魔法狂いのルミナスが興味を持ったのは少し驚いたが、隠してるわけでもないし見せるのもやぶさかではない。

 

 あ、そうだ。

 少し良いことを思い付いた。ニヤリと笑ってルミナスに言う。

 

「了解。じゃあ、今日は魔法の修行の後で剣を見せよう」

 

「ありがとうございます。……ですが、手の内を見せても良いのですか?」

 

 不安げに問うルミナスに、俺は思わず笑ってしまった。

 

「ははっ。そんなの今更だし、別に隠してるわけじゃねぇよ。ただ使う機会がなかっただけだし、例え隠してるとしてもルミナスになら見せても良いさ」

 

「……ッッ。なぜですか?」

 

 僅かに顔を赤らめて真剣な目でじっと俺を見るルミナス。

 え、そんなに見つめられるほど重いこと言ったか?

 疑問は残るが、理由は単純明快ゆえに即答する。

 

「それは、ルミナスが信頼できる生徒だからに決まってるだろ?」

 

「…………ハァ……」

 

 これは決まった! と鼻高々に言うと、ルミナスはなぜだか、拍子抜けした顔で嘆息した。えぇ……変なこと言いました?

 

 

 そんなやり取りの後、準備を終えた俺たちはテレポートで例の場所に向かった。……例の場所、例の場所って言いづらいなおい。……うん、いつか名前付けるか。魔王が三分で散った場所、とか。乙。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 今日は昨日に引き続き、実戦訓練を交えつつ魔法を応用、工夫する練習を行った。

 やはり頭の良さというものは飛び抜けていて、理解も早いし教えていなくても上手く工夫してくれるので、非常に修行のしがいがあるし、俺も学ばせてもらっている。

 

 そんなこんなで、休憩を取りながら五時間程度経つと、ルミナスが珍しく修行を止めた。

 

「先生」

 

「ん? どうした?」

 

「そろそろ剣が見たいです」

 

「お、おう」

 

 心なしか瞳が輝いている気がする。なかなか前のめりなルミナスに気圧されつつ、俺は魔法で剣を()()呼び出した。

 

 一つは、黒色の鞘に納められた長剣で、柄には龍の紋章が彫られており、美しい青色の刀身が淡く光っているのが印象的だ。  

 そして、もう一つは何があろうと絶対に物質を切れないという『剣』ってなんですか? と言いたくなるが分類上は剣である。なんの装飾も施されていなく、木の鞘で覆われている。

 

「二本?」

 

 疑問符をあげるルミナスに俺は、ニヤリと笑ってルミナスの心中を言い当てる。

 

「どうせならお前も剣を振れよ。この剣はどんなことがあっても絶対切れない……んー、魔法の剣みたいな感じだから安心だし。……ちょっと()()してたんだろ? 剣振るの」

 

「……本当に先生は……」

 

「え?」

 

 小さく呟かれた言葉が聞き取れなくて、問いかけるとルミナスは氷魔法のような冷たい瞳で、何でもないです! と叫ぶように言った。なんで怒ってんの。

 

 ま、まあ良い。

 心の平静を保ち、ルミナスに剣を手渡す。

 

「わぁ……」

 

 やはり俺の予想は合っていたのか、鞘から剣を引き抜いて感嘆の息をこぼす。

 その年相応の興奮具合に思わず微笑ましい気持ちになりながら、ルミナスに剣を教えるために近づいた。

 

 

「じゃあ、基本の型とか教えるからやってみるか」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

「お、おい。元気出せって」

 

 今現在、俺は白い床に座ってズーンと落ち込んでいるルミナスを慰めていた。

 

「……良いです。何となく予感してましたから」

 

 とは良いながらも、長い銀髪が床に触れるのも厭わずに下を向いている。

 

 

 端的に言おう。

 

 ルミナスに剣の才能はゼロだった。

 というか運動自体の才能がよろしくなかったのだ。

    

 

 剣を振れば筋力が足らずに転び、軽い木刀を渡してみれば、自分の足や手にぶつけ悶絶し、ならばと木で出来た短刀を振らせてみると、綺麗にすっぽぬけて虚空へサヨナラバイバイしていった。

 

 これはある意味才能だぞ。なんてことを言ったら皮肉ですか、とさらに落ち込まれそうなので黙る。まさかここまで運動ができないとは思わなかった……。吹っ飛んでった短刀なんて、芸術的な曲線を描いてどっか行っちゃったしな。

 

「ま、まあ、練習したら何とかなるかもしれないし? 努力あるのみだって!」

 

「下手な慰めは結構です」

 

 下手ですみませんねぇ!

 最早悲しみを通り越して拗ねていらっしゃる王女様をどうしようかと、思考を広げるが気の利いた慰め言葉など出てこない。

 くっ、もし俺が色男だったら、きっと簡単に立ち直らせれたのに……ッッ。……いや、ルミナスならそういう男の方が当たり強そう。

 

 なんてことを考えていると、さっと立ち上がったルミナスが、声を上げて宣言した。

 

「私。やっぱり魔法を極めることにします。ええそうです。剣まで習ったら下手の横好きになりかねませんし、魔法を。魔法をもう限界まで修練することにします。この身が朽ち果てるまで」

 

「朽ち果てないで!?」

 

 なんか悪い方向に立ち直った気がするんだが!?

 俺の苦労も知らずに、ルミナスは満足そうにうんうん頷いていた。頼む、待ってくれ。その考えは留まってくれ! これ以上頑張るとか、どうすんねん!!! 俺の胃に穴空いた上に病原菌入って重篤な病に懸かるからまじでやめてぇぇぇ!!!!

 

 

 この後、どんな説得をしても聞き入れてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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