そんなこんなで、昨日は王女様に目が眩む閃光をぶちまけて終わった。
毎回思うけど、俺が『魔剣士』じゃなかったら不敬罪やら云々で牢屋にぶちこまれてると思う。
これが名誉の使い道だとするなら何て悲しいことか。
今までの人たちは一体何をしてきたのだろう。少なくともルミナスが魔法の修行を禁止されてることから見て、そのレベルの低さは想像に難くない。
呪いと魔法の見分けもつかんとは。……思ったより技術が伝来してないのかもしれないな。や、あんなもん伝来しなくて良いけど。
確実に害意を持って掛ける呪いなんてないほうが良い。戦闘にも使えんしな。
呪いってのはただただ掛けるのに時間がかかる。その分、効果は絶大だが術者にもデメリットがある。
呪い失敗したら術者死ぬし。当然の報いだけど!
例外は魔女。
あいつはノーリスクで誰であろうと呪いを掛けることができる。……まあ、あいつの話は置いといて。
今日も今日とて王女様と会わねば。
「やっほー」
「おはようございます」
相も変わらず無表……いや、何故か仏頂面での挨拶だった。あれ、俺なんかしたっけ。
「……えーと、とりあえず勉強、だな」
「…………………………はい」
間をたっぷり空けて不満をアピールするルミナス。遠慮無くなってきたな。さて、何が不満なんだろーなー(棒)
いや、とぼけても仕方ない。理由は勿論理解している。
それは、魔法を使うことを楽しみにしていたのに、しなければならないことが勉強なのである。
実は当初は、大多数の魔法使いが行っている魔法行使を教えようと思ったのだ。『古代ルーン文字』はよくも悪くも物騒すぎる。
だが、目が。ルミナスの強い決意の目を見て俺はルーン文字を教えることにしたんだけど。
問題は、そのルーン文字を覚えないと話にならないってことなんだよね。だって、しゃーないじゃん。
使うのが文字である以上学ぶことは必須なんだから。
気持ちは理解している。だから、今日は少しサプライズ的なことをしようと思っている。
だから、頑張れ!
と、密かに心の中でエールを送り、不満面なルミナスをスルーして授業をし始めた。
「ルーン文字はな。暗記。暗記しなきゃ意味がない。幸い、そんなに数は多くないし気合い入れていこう」
「…………はい」
こいつっ! あんなに素直で良い子だったのに、おじさん泣いちゃう。
あの場合は完全にルミナス側に否があったから謝ったのだろうが。
今回の場合は、年相応の我が儘といったところか。やはりフラストレーションが相当に溜まっているに違いない。それと、何度も魔法が使える間際で遠のいてることとか……あ、すみません、それ俺のせいです。『魔剣士』の称号返上するので許してくだちゃい。
ルミナスのエターナルブリザードな視線に心が耐えきれない俺は一人問答を繰り広げて自制を保つ。な、なんて強敵なんだ。
と言いつつしっかりと授業はしている。
ルミナスは噂に違わぬ非常に優秀な才女だった。
覚えたことは次々と吸収していくし、間違えた時は数瞬、後にすぐさま修正する。
これが天才という奴か。
しかし、若干見てる俺がハラハラしそうなくらいに、物事に全力で取り組みすぎている。
肩肘張って鬼気迫る様子で勉強されたら、俺が落ち着かないんだが。
俺はカリカリと羽ペンで一心に文字を書き、メモを取るルミナスにはぁ……とため息を吐き、パンパンと手を打って注目を集める。
「ほい。ちょっと休憩な」
「……いえ、私はまだやれます」
「
「ですが……」
俺は強情なルミナスに肩を竦めて少し厳しい語気で言う。
「そんな常に緊張感マックスでやってたら持たんよ。こういうのは適度に緩くやるのが良いの。生き急ぐなよ。焦ってたって何も良いことがないんだから」
「…………」
不満ではあるようだが、ルミナスはスッと無表情に切り替えで無言のまま首肯した。
……この様子じゃ、俺が帰ってもやり続けてそうだ。
ちょっと予定を早めるか。と、残り時間から目算し、スケジュールを組みながらチラッとルミナスの様子を見る。
紅茶を飲んで落ち着いてる……ように見えるが、目線がメモ用紙に集中していることを俺は見逃さない。
……休憩の意味わかってる?
絶対わかってねーわ。
真面目……度が過ぎてる気がしてならないが。
「あ……」
さらっとメモ用紙を奪うと、ルミナスは小さく声を上げた。
しかし、俺の言った言葉が堪えているのか、何も言わず恨めしい視線で睨んでくるのみだ。やだ、早めの反抗期かしら。
思えばずっと反抗されてね?
十五分程の休憩を終えると、俺はメモ用紙を戻し羽ペンを見せて許可を与えると、まるで水を得た魚のように食い付いて、またひたすら書き始めた。悟りを得ようとしてひたすら写経する坊さんかな?
そんなこんなで、残り時間が二時間となって、空が暗くなってきた頃、しっかりとルーン文字の役割を覚え、書けるようになっていることを確認した俺はルミナスに声をかける。
「魔法使ってみるか?」
「……ッッ! はい」
反応は劇的だった。無表情で机に向かい続けていた顔をパッと上げて食い気味に頷く。
その顔に笑ってしまいそうなのを堪える。どんだけ魔法使いたいんだよ。
「室内で使える魔法は……生活魔法だな。やっぱり」
生活魔法とは、適性が無くとも使うことができる魔法だ。
一つとして、実演で見せた『ライト』がそれにあたる。
さすがに見せたことのある魔法を使わせるのも楽しみがない。となると、使えるのは指先に小さな
「二番と四番と十番のルーン文字を魔力を込めて空中に描け。指先に小さな灯を灯す『トーチ』という魔法が使える。念のため魔力は最小限に抑えとけよ」
さて、どうなるかな。
おや? ルミナスが固まったまま動かない。
「あの……。魔力の込めかたを教えてくれませんか?」
「あちゃー……」
そっか。呪いのせいで生活魔法も使ったことないから魔力の込めかたがわからんのか。
盲点だった、とおでこをパチンと叩く。
うーむ。
「時間がかかる教え方と、人によってはすぐにできる方法。どっちがいい?」
「すぐにできる方で」
一瞬も迷わない即答だった。あんたね……。
方法くらい訊きなさいよ、と呆れる。
「まあ良いか……。はい」
「はい?」
俺が両手を差し出すとルミナスは小首を傾げた。
「両手、握って?」
「はい?」
何故か極寒の寒空にいるかのような視線が突き抜けた。一気に氷点下ゼロ度まで下がったようだ。
「なんで教えるのに両手を握る必要があるのですか? 触りたいだけなのでは」
急に厳しい言葉が飛び出してきた。
あぁ、説明不十分だったかと睨み付けるルミナスに言う。
「魔力を込めるには、魔力が流れている感覚を掴まないといけないんだよ。だから、俺がルミナスに魔力を流す必要がある。つまり、接触が必要というわけだ」
「本当ですか?」
尚も疑わしげなルミナス。
「なんで嘘つく必要あるんだよ……」
「今までの殿方が呪いを解くことにかこつけて触れようとしてきたので」
「あー、なるほど……いや、違うからな!?」
お前のこと言ってんだよ的な視線を感じた俺は即座に否定する。
「ちなみに私に触れようとした方はあえなく御用となりました」
「いや、変態の末路を教えなくて良いから。……だから俺じゃねぇよ!!」
はぁはぁ、肩を上下し息を荒げる。ツッコミは……体力を……非常に使う……。
必死の否定もあってか、ルミナスは渋々俺の両手を握った。
俺と比べてかなり冷たい手を感じながら、さっさと完了しないと何か言われそうだ、と早速魔力を流していく。
「ん……、あっ、んん……」
そんなエロい声出さないでくれます!? 気が散るんすよ!
頬を染めてグレーゾーンな声を出し続けるルミナスを、鋼の心でスルーする。
確かに魔力が注入される感覚は変な感じだけどさ……。感度高いのか? いや、決して変な意味じゃなくて、この場合は魔力感度の話ね。
そこの説明は面倒なので下記に記じゅt……うっ、変な電波が!
たっぷり5分ほど魔力を流すと、俺は手を離す。
ルミナスは生きも絶え絶えで息が荒い。なんかごめんなさい。
「はぁ……これで……本当に魔力が流せるんですか? はぁはぁ……」
「やってみればわかる。さっきの感覚思い出してやってみろ。さ、実践だ」
「すみ、ません。少し休憩を……」
「あ、すまん」
あれだけ休憩を渋っていたルミナスが休憩だと……!! ……身体的な疲れは別か。
さらに5分ほど経ち、息を整えたルミナスはあからさまな緊張を浮かべて、きごちない手つきで空中をなぞった。
すると、現れる青い軌跡。まぎれもなくルーン文字だった。
そして、そのままルミナスは三文字のルーン文字を描き、魔法名を言った。
「と、『トーチ』」
瞬間、吹き荒れた魔力の塊。
魔法が発動する前、俺はポツリと呟いた。
「あ、これヤバい」
魔力が暴走を始めた。
☆☆☆
「あっぶねぇ…………」
俺の内心は冷や汗ものであった。
何故なら一足遅ければ、俺とルミナス以外木っ端微塵に砕け散っていた可能性があるからだ。そうはさせない自信はあるけど物事に絶対はない。
とどのつまり、俺は今危ない橋を半壊させてから渡ったのだ。めっちゃ焦った。
「こ、これが魔法……」
俺の苦労も知らず、当本人は魔法を発動させてご満悦な様子。
うん、まあ、何があったかというとだな。ルミナスの溜まり溜まった魔力と才能を舐めてた。伊達に18年も魔法使ってないだけあるわ。
その魔力が爆発しかけた。
言葉で言い表せば何と簡単なことであるか。しかし、実際起こりそうになった出来事は笑い事にも洒落にもならない。
俺が咄嗟にルミナスの魔力を抑えていなければ、第二のプランを実行せざるをえなかった……。それをすると、もれなく俺が全治3ヶ月の怪我を負う。
ま、過ぎたことは後の祭り。何とかなっならそれはそれで良いだろうと気持ちを切り替える。
そして、再び問題が起こったのだ。
「……私の夢」
指先に灯を灯していたルミナスの目からツゥーと一雫の涙がこぼれ落ちたのだ。
なんで!?
「お、おい。大丈夫か?」
原因が分からずにオロオロしながら声をかけると、ハッ! と辺りを見渡して俺を視界に入れるやいなや、怜悧な声で部屋の外を指差した。
「今日はもういいです。帰ってください」
「え、でも、なんで」
「良いから帰ってくださいっ!」
懇願だった。
初めて声を張り上げたのを聞いた。原因は予想もつかないが、一先ずは退散するしかなかろうと、手をヒラヒラ振って部屋を出る……間際、涙に濡れたルミナスが何かを呟くのを見た。
その言葉がわからぬまま、扉はただ役割に従い閉じた。
☆☆☆
「王女として……こんな泣き顔、見られるわけにはいきませんから」
☆☆☆
飯の時間といっても、まだ二時間ほど余裕がある。
しかし、することがなく暇である。基本、早寝遅起きがモットーの俺は、ご飯食べて風呂入ったらすぐに寝るのだ。そして時間ギリギリの起床。
なんて素晴らしい時間配分であるか。俺って天才?
「なんで追い出されたんだろうなぁ……」
やらかした可能性が非常に高い。
もしや、やっと発動できた魔法がショボすぎてショックを受けたとか!?
や、それはさすがに無いとは思うよ。ルミナスだって、魔法の危険性くらい理解してるし。
こればっかりは個人の感情に起因する可能性が高い故に考えても埒が明かないだろう。
もう、開き直って王城の探検をするしかない!!!
案内役も見張りもいないし、城の中は自由に立ち入って良いと許可を受けている。このチャンスをみすみす逃すわけにはいかん!
「さあ、いざ行かん!!!」
……………………………………………………………………………………………………………………………迷った。
「城、広。無駄に広い」
あっちふらふら、こっちふらふらと歩き回っていると、最早見覚えのない道しかない状態になっていた。俗に言う詰みの状況である。
や、別に人に聞けばいいんだけどね?
だだっ広い廊下を歩く。そこまで使用人が多くないのか、今のところは近くに見あたらない。
うーむ、と腕を組みつつ思案に耽っていると、キンッ、キンッと剣のかち合う音が耳朶を打った。
ふと、興味が湧いて音の鳴る方向に吸い寄せられるように向かうと、広い空間に出た。
装飾も何もない土でできた床に死屍累々と積み重なる鎧姿の騎士たち。
そこでは、女性の騎士と思われる、金髪赤目の美人が屈強な男たちを一太刀に切り伏せ檄を打っていた。
「貴様ら! 情けないぞ! 『魔剣士』殿が来たからといって、少々気が緩みすぎた!」
「た、団長ぉ。でも、あの方がいるんだから俺たち必要なくないですか……?」
床に突っ伏す部下の一人が情けない声で苦言を呈した。
つぶさに女性は怒鳴る。
「莫迦者ッッ! 例え強かろうと客人に戦わせようなど、恥を知れッッ! 貴様には王国騎士団としての誇りがないのか!」
おー、怖い怖い。
けど、言ってることは至極当然だし、立派なことだ。
それにその強さ……よく鍛えられている。
正直、量産型だった騎士には興味がなかったが……少しだけ気になる。
もう少し観察してよう。
恥を知れ! と怒鳴った後、貴様らは気が緩んでいると、木刀を取り出し全員の頭に面打ちをし始めた女性。うっへぇ、スパルタぁ。
「「あ、ありがとうございます!」」
ドMだった。
全員笑顔でお礼を言っている。
うん、これって反乱とか起きないのかなぁ、って思ったけどあり得なかったわ。団結(意味深)良いね!
すると、部下の一人がニヤケ面のままあることを言い出した。
「この国で一番強い団長なら、例え『魔剣士』と謂えども勝てるんじゃないですか?」
その言葉に他の騎士たちもそうだ、そうだと囃し立て始めた。
あー、こりゃまた怒られるんじゃないか? と思ったが、結果は違った。
「そ、そうか? 私なら『魔剣士』殿に勝てるか……?」
頬を染めて照れていた。
こいつチョロいな。さっきの勢いドブに捨ててんな。
さて、この発言は俺のプライドにちょこっとだけ傷がついた。
うんうん、ちょっとだけちょっかい出そ。
「ほうほう。団長ならやっぱり『魔剣士』にも勝てると」
「そりゃ、そうだぜ! うちの団長だぜ? 強い、強い、美しいの三拍子揃ってる最強のお方なんだからな! そうですよね、団長!」
二拍子でよくね? それに最後のいる?
「ま、まあ。私も団長の自負があるし?
『魔剣士』殿に勝てる可能性もあるか……も……」
「どうしたんですか?」
後ろから声をかけると、誰一人として振り返らずに話し、盛り上がる。
部下の言葉に気をよくしたチョロ騎士。調子に乗り始めた途中で、俺を発見し徐々に顔が青ざめていく。
面白いな。
「さーて。暇だしちょっとやってみる?」
「おいおい、そういえばお前誰だよ。ここは騎士団以外立入禁止だぜ?」
騎士の一人が訝しげな目とともに責める。
すると、顔色が青を超えて白くなった女性騎士が小さな声で言う。
「や、やめろ。その方が『魔剣士』様だ」
「「えぇ!?」」
瞬間、騎士たちは、パッと俺から距離を取る。酷いな。えんがちょされてるみたい。
「なんかー。俺を倒せるとか聞こえたからさぁー」
「そ、それは言葉の綾というかなんというか……」
しどろもどろに言い訳するがそれは部下の言葉に憚られた。
「そ、そうだ! 団長ならあんたくらい倒せるに決まってる!」
「「そうだそうだ!」」
「貴様ら……」
ちなみに女性騎士は、感動してるわけではなくて、怒髪天貫く勢いで激怒してる。せっかく何とかできそうだったのに、と心の声が聞こえてくるまである。
そんなことも通じない莫迦騎士たちは、ひたすら煽る。
「「団長! 団長! 団長!」」
プルプルと震える団長(笑)は、一度息を整えると静かに木刀を構えた。
「い、いざ参る!」
剣を持ってない俺に斬りかかるのはどうなんだ、と言いたいが多分怒りと混乱と恐怖で正常な判断できてねぇな、これ。
しかし、さすが団長と言うべきか剣速は凄まじい。狙いもバッチリ。速度、攻撃力も申し分ない。
だけど……ちょっぴり
「『
刹那、団長は俺の間合いに入った瞬間、見えない壁にぶつかったように、空中でビターン! と張り付けになる。
「な、なんだ! これは!」
「うーむ。あんたの力で破れないってことは……それまでってことだな」
お互いに真剣は持っていない。相手は正常な判断を失っている。
だが、隔絶とした実力差があった。越えられないほどの大きな壁が。
俺は『異能』を解除し、茫然自失で蹲ってる彼女と、騎士たちに厳しい視線を飛ばす。
「実力差も分からない相手に。いや、例え勝てる相手であろうが。
────あまり相手を軽んずるな。足元掬われるぞ」
シンッ……と静まり返る空間。
言いたいことは言った。最早ここに用はない。
踵を返し歩き始めると、あの……! と声が響く。
「『魔剣士』様! あなたの名前を教えてください!」
「カタギリ・ヨウメイだ」
「わ、私は第二騎士団団長の、イリア・ハインルージュです! あ、ありがとうございました!」
腰を折り曲げて礼を口にするのは団長……イリア・ハインルージュ。
俺の意図を即座に理解したのか。
ふっと口元が思わず緩む。
その顔が見られないように後ろ手にヒラヒラ手を振って、
「俺のことは──よっちゃんと呼んでくれ」
と、
どの作品でも、毎回最初につけられる評価が1という……。苛められてる?
魔力感度……本当に変な意味ではなく、魔力を鋭敏に感じる力が高いという意味である。主に察知系の能力に有利である。本当に変な意味なんかじゃないからねっ!!
じゃあ、というわけで、面白いと思ってくれた心優しき王女親衛隊の方は、良ければお気に入りと高評価をお願いいたしますっ!