笑わない王女様が笑った時には外堀全埋めされてた件   作:恋狸

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4日目①

 翌日、ルミナスの部屋の扉の前で俺は少し緊張していた。

 昨日の涙。俺が何かをやらかしたのかは、ついぞわからなかったが、ルミナスが怒っている可能性も少なからずある。

 その場合、俺は何に謝れば良いのか。……ぬぅ、悩んでも仕方ない。

 死ねば者共!!

 覚悟を決めて扉を開ける。

 

「や、やっほー……」

 

「はい。おはようございます」

 

 ケロッとしてた。

 変わらぬ表情のままルミナスは俺を見て不思議そうに首を傾げる。

 いや、俺の悩みは……

 

「あー、昨日は」

 

「授業を始めましょう」

 

「いや、でも」

 

「授業を始めましょう」

 

「…………」

 

「授業を始めましょう」

 

「何も言ってないわ!」

 

 有無を言わさぬ圧力があった。

 どうやら、昨日の件については触れないで欲しいらしい。

 ……まあ、引きずったりしてないならいいか。

 

「じゃあ……今日も修行をするが……」

 

「はい」

 

「さて。驚かないでね」

 

「はい?」

 

 ルミナスの疑問を無視して、俺は空中に青い文字……古代ルーン文字を高速で描いた。

 その数、46文字。俺が持ってる魔法の中で最も文字数が長い古代魔法。

 

「『転移(テレポート)』」

 

 唱えた瞬間、俺とルミナスは部屋からパッと掻き消えた。

 

 

「……ッッ!?」

 

 約一名の驚きを残して。

 

 

 

 

☆☆☆

 

「ここは……?」

 

 そこには何もなかった。

 空も海も山も風もない、あるのは空気と魔素だけ。

 ただ白い景色だけが広がっている場所だった。

 キョロキョロと辺りを見渡すルミナス。

 

「ここは魔王との戦いの余波で出来た無の世界と呼ばれる場所だ。なんか知らんけど俺か、俺の許可した人以外入れない空間なんだよ」

 

「そんな場所へどうして私を……まさか」

 

 ルミナスは自らの身を抱き抱えて、警戒心を瞳に滲ませながら後退りを始めた。

 

「いや、違うから! どうしてそういう被害妄想しかできないんだお前は!?」  

 

 ルミナスの中で俺が変態認定されてる件について。

 そんな怪しまれることしたつもりないんだが??

 待て、落ち着け。客観的分析だ。

 

 この無の世界。まあ、人気(ひとけ)がなくて誰にも手出しできなくて、おまけにその出入りの許可は他人が握っていて、そんな場所に男女のペアが一つ。

 

 うん、俺が悪いわ。

 どこからどう見ても誘拐の場所にうってつけの場所だわ。そんな考え持ったことないからわからんけど!!

 俺の名誉のために言っておく。

 

 そんな意図はありませんッッ!!!!

 

 ススッ……。はっ! 心の中で言い訳してる間に、ルミナスとの物理的距離と心の距離が遠ざかっている……っ!?

 

「落ち着けぃぃ! あのな、言ってなかった、ていうか言う暇がなかったんだけど、昨日、お前が魔法使った時暴走しかけてたの! だから、また暴走しても良いように誰もいない場所を選んだってわけ! 理解!?」

 

 昨日の暴走で収まってれば良いのだけど、最悪また暴走する可能性がある。そうなれば、止める自信がないしルミナスが俺に隠れて魔法を使った時は対処できない。

 

「だから、まずは魔力のコントロールを教えなければいけないの。その過程で王城木っ端微塵になったら嫌だろ? 俺と二人きりは嫌だろうけど我慢してくれ」

 

 また嫌われっかなー、とか思いながらルミナスの反応を見ると、顔を伏せっていた。

 

「す、すみませんでした。冗談のつもりだったんですけど、まさかそこまで考えていらしたなんて思わなくて……」

 

 バツの悪そうな顔をしていた。

 それにいつも落ち着き払った彼女にしては、あたふた慌てているのは珍しい。

 昨日と今日で全然反応が違う……。

 

 何かあったのか? でも、冗談ってことは歩み寄ろうとしてくれた、ってことだよな?

 それなら……嬉しいな。

 

「いや、最初に説明なしに連れてきたのは確かに悪かった。それに気にしなくて良いぞ。わかりづらい冗談だったけどそういうのもどんと来いだ。魔剣士だからな!」

 

 HAHAHAと笑ってルミナスを許す。

 本当は魔剣士としてじゃなくて、年上としてと言いたかったが、俺なりの『冗談』というやつだ。

 そして、案の定ルミナスは期待通りに応えてくれた。

 

「それ、魔剣士関係ありますか?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

「まず、問題を洗いだそう」

 

 一悶着を終えて、俺たちは魔法の修行……と行く前に問題点を理解しようとした。

 

「暴走の原因だが……九分九厘、魔法を使っていなかったことが原因だと思う」

 

「それでは……どんどん魔法を使うと?」

 

「いや、それは意味ない。本来、人は幼少期から魔法を使うことによって、無意識にコントロールを覚えるんだ。だけど、ルミナスはその期間を逃した。

 でも……小さい頃に魔法は使わなかったのか?」

 

 自我が確立し始め、物心ついたときには魔法を習う。便利だし、生活の一部分を魔法が担っていると言っても過言ではない。

 ルミナスが呪いにかかったのは、十年前の八歳だと言う。ならば、その頃に魔法を使ったことがないというのは些か疑問が残る。

 

 その問いに、少しばかり影を落としたルミナスが言った。

 

「王女としての教養を習ったり、各行事での立ち居振舞いを習うことが最優先だったのです。特に私は第一王女ですから魔法など二の次。ようやく、適性が判明し魔法を習うタイミングで、呪いにかけられたのです」

 

「は~。そりゃまた運がないというか、タイミングが悪いというか」

 

「……」

 

 やべ、デリカシー無かったか。

 睨むルミナスに冷や汗を垂らしながら話題を変える。

 

「まあ、理由はわかった。じゃあ他の問題点を出すぞ……。

 そうだな。魔法のコントロールは完全に感覚だから、こればかりは練習あるのみとしか言えないが、感覚の掴み方を教えることはできる」

 

「では、それで……」

 

「いや、ちょっと問題があるんだ」

 

 苦々しげに顔を歪めた俺をパチクリとまばたきし、少し驚くルミナス。

 

「その問題とは……?」

 

 い、言いたくねぇ……。

 ただ、ルミナスに関してはその方法は取らないと、一気にコントロール訓練の成功が遠のく。

 だけど……言いたくねぇ……っ!

 

 だが、必死に魔法を習おうとするルミナスに報わねばならない。先生として教えられることは教えねばならない。

 ……よし、言おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、そのその方法はだな。

 

 ────裸で瞑想するんだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 「ひぇっ」

 

 底冷えする声が白い空間内に響いた。

 心なしか寒く……いや、待て本当に寒い。

 ルミナスのやつ、無意識に魔法発動してる!? 口語詠唱じゃなくて無詠唱……いや、どうでも良いけど寒いです!

 

「あれですか。また、説明が足りずに私が勘違いしてるんですね、きっとそうです」

 

 自分に言い聞かせるように呟き、絶対零度の視線が少し緩和する。

 だが、

 

「あー、うん。理由はあるけど、方法は変わらない」

 

「理由を聞きましょう」

 

 一応理由を聞いてくれるらしい。

 

「えーと。魔法の理論は、体内の魔力と空気中の魔素を合成して超常現象を引き起こすのは知ってる?」

 

 ルミナスはコクりと頷いた。

 ……ここら辺の理論って、クソムズイ論文でしか発表されてなかった気がするけど、読んだのか……。

 

「それで、その割合が空気1、体内2の1:2なんだけど、ルミナスの場合は、1:4になっちゃってるわけ。だから、空気中の魔素を取り込んで2:4にするのが一番良い。

 時間が経てば、その2:4の割合に慣れてきたら、徐々に魔力を落としていって、1:2にコントロールすれば完成する」

 

「……理論はわかりましたが、そこで裸とは一体何が関係しているのですか?」

 

 こればかりは、俺の先生に教えてもらった方法だからなぁ……。胡散臭いけど効果はあったんだよ。

 でも、うら若き乙女の肌を晒してまでやるべきかどうか。

 もっと、他に方法はないのか、と考えるもそこまで魔法理論に詳しいわけではない俺。

 ルミナスの知らない知識は持っていても、知識と知識を組み合わせて新たに理論を立てられるほど頭の出来が良いわけではない。

 

 人々は俺を天才だと化物だの囃し立てるが、そんな大した人間ではない。俺という存在を一言で言い表すならば……『脳筋』。うん、これだな。

 自虐じゃないぜ! 事実だから! 受け入れてるから!! ちっとも落ち込んでなんかいないんだからねっ!

 

 

「理由なんだけど。曰く、空気中の魔素を取り込むには、全身……つまり裸が摂取効率が良いらしい」

 

「曰く……? らしい……?」

 

 曖昧な物言いに、ピクッとルミナスの片眉が訝しげに上がる。

 

「いや、俺も先生に教えてもらった話だから自分で編み出したわけじゃないんだよ! でも、効果は『俺自身』で折り紙付き!」

 

「……先生もコントロールできなかったのですか?」

 

 裸を棚上げして、とりあえず俺のことが気になったのか、ルミナスが興味を示した。

 ……むむっ、若かれし(現在二十歳)俺はちょっとだけ黒歴史というか何というか。いや、ただでさえ疑われてるんだ。嘘は言うまい。

 

 

 

「あー、うん。実はだな……」

 

 

 

 俺はコントロールすることができたきっかけとなる出来事を思い出すことにした。あの地獄の修行を……

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

「さあ、早く工夫しないと死にますよ?」

 

「嫌ァァァァァ!!!! 死ぬ死ぬ、まじで、死ぬ。工夫しても死ぬってぇぇ!」

 

 人差し指をピンと上げて、俺を見下ろすクソババァこと先生。

 現在俺は煮えたぎるマグマの中へと全力落下中であった。

 

 この女、完全に俺を殺す気である。

 見た目は愛くるしい十歳程度の幼女。さらりと伸びる緑色の髪に、赤い目。整った見た目はロリコンホイホイであるが、実年齢は俺より遥かに年上である。

 正確な年齢は教えてくれないから、俺は心の中でババァと呼んでいる。時に鬼ババァ。

 赤い目は情熱の……とかロリコンに口説かれてたことがあったが、俺は血の色だと思う。

 

 そんなことより、何とか『死』ないと……死ぬぅぅぅぅぅ!!!

 

「熱ぅぅ!!」

 

 かなりの高所からの落下。

 赤い赤いマグマが迫り、ジリジリと肌が熱せられていく。熱い、ただひたすら熱い。

 

「このままじゃ本当に死ぬ……死……」

 

 死が迫る感覚で、俺は頭の中が一瞬真っ白になる……しかし、すぐさま沸騰したようにマグマにも負けない熱く燃えたぎる想いが無意識に体を動かす。

 

「死に、たくねぇぇ!!!!!!!!!」

 

 カチリとピースがはまったような感覚。俺は取るべき行動を理解していた。

 

「『範囲(レンジ)……拒絶(リジェクション)』んんんん!!!!!!」

 

 全身が不可視な物体で覆われたのを感じた。瞬間、熱さを感じなくなる。

 そのままマグマにドボンと着水(水?)した。焼かれるような熱さを幻視したが、土壇場で発揮した『異能』は期待通りに働いてくれたらしい。お陰で熱さもマグマの感触も感じない。

 

「ぷはっ。あのババァ……」

 

 興味深い目付きで高みの見物を決めているババァに怨嗟を込めて睨み付けるが、飄々とどこ吹く風である。腹立つ。

 

「つか、どうやってここから抜け出すんだよ……」

 

 火口などに出口があるわけない。出られる場所は上空のみ。

 だが、空を飛ぶ魔法なんて高度すぎて俺には使えないし、『異能』の移動技は広範囲には及ばない。

 

「おーい、ババ……先生、窮地は脱したんだから助けてくれよ!」

 

 年増……じゃねぇや、耳年増なババァは今の声が聞こえているはずだ。返答や行動がないということは、

 

「これも『工夫』の一つってことかよ……」

 

 鬼だ。鬼ババァだ。

 普通は持っているものを組み合わせて新たな技を作るのが『工夫』だ。

 だが、俺が今までやってきたババァの言う工夫とは、真っ白な状態から新たな色を見つけ出すようなものだ。根本的な意味を間違っている気がする。

 

「『異能』は使えない。すると、魔法というわけだが……。コントロールがなぁ……」

 

 俺の出生が少々特殊であるせいか、生まれ持った魔力が死ぬほど多い。

 もし、先生

に会わなければ、自分の持つ魔力で暴走して爆発四散するくらいには魔力が多かった。迷惑すぎる。

 そのせいで、俺の技量が卓越していないのもあり、コントロールが全くといっていいほどできなかった。

 常に俺の魔法は0か100だ。そして、100で使うと、大概半径1キロは吹っ飛ぶ。つまり、近くに街があるためこの手は使えない。

 

「となると、魔法で切り抜けるのは不可能か……? いや、でも……」

 

 先生は解決困難な条件は付けるが、解決不可能な条件は与えない。

 となると、俺が見逃している道筋が存在しているはず。

 

 目下、手持ちの『異能』は、自身の魔力範囲内に瞬間移動(10mが限界)する『範囲把握』。自身の間合い内に不可視の壁を発生させる『範囲超過』。そして、さっき新たに獲得した、恐らく人が持っているパーソナルスペース……対人距離を限界まで縮めることで身を守る『範囲拒絶』。

 この3つだ。なんで対人距離なのかは全くの不明だが。まあ、拒絶言ってるし。

 

「この3つか……。『把握』は連続使用できないから不可……ん? 待てよ? 別に視覚内に瞬間移動するわけじゃねぇじゃん。高速移動ってわけでもないし……。これ使えば脱出できるんじゃ……」

 

 自分の能力を見誤っていた。

 勝手に不可能と思い込んでいた。やはり、これが『工夫』か。

 

 俺は火口の壁際に移動し、手を当てる。予測通り壁は薄そうで、これなら外に通じている!

 

「『範囲(レンジ)把握(グラスプ)』!」

 

 シュンッと視界が切り替わり、眼下に広がった緑色の景色。

 森が見える! 出られたんだ!!

 

 ん? あれ?

 喜んだのも束の間。下を見ると、地面が存在していなかった。

 

「そりゃそうだよね。山だもの。……うぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 考えなしとは俺のことか。

 山の峰から横方向に移動したら落下するわな。

 

 高所からの落下で助かったのはマグマがあったからだ。一応、一応液体だからな。衝撃は緩和できたし、それくらいは『異能』でカバーできた。

 でも、さすがにもう無理。普通の落下はどうにもならん。

 

「あぁ、川向こうで親父が手を振っている……まだ生きてるけどっ!」

 

 もうダメかと目を閉じる。

 ……しかし、いつまでたっても衝撃は訪れなかった。

 

 

「ふぅ、まったく。君は馬鹿という言葉を体現したような人ですね。脳無しくん?」

 

「先生……」

 

 俺は地面すれすれでプカプカと浮いていた。十中八九、先生の魔法によるものだ。その先生は俺の近くでその身一つで浮いている。ニヤニヤと嗜虐的な笑みを浮かべながら。

 言葉は苛ついたが、助けられたのは事実。窮地に陥れた張本人であることを一瞬忘れて、お礼を言おうとした。

 

「先生、ありが……」

 

「まったく。君が猿並みの知能であるせいで、私が価千金にあたる魔力を消費することになったんですよ? そもそも、移動術は控えなさいと言ったばかりでしょう? 馬鹿の一つ覚えみたいに同じ『異能』ばかり使って……あ、すみません。あなた、馬鹿でしたね。馬鹿に馬鹿と言っても効果はありませんか。ぷーくすくす」

 

「クソババァ! 殺す!」

 

 この……この、このババァァァァァァ!!!!

 感謝の気持ちなど一瞬で吹き飛んだ。代わりに満たした感情は『怒り』。強烈な怒りに支配され、俺はババァに掴みかかろうとしたが、魔法で浮いてる状況なのでジタバタ体を動かすだけの滑稽な姿を見せることしかできない。

 

 その人を煽って楽しむ姿を見て、俺は巷に流れるババァの評判を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 曰く、『メスガキ』

 

 

 

 

 

 

 




 ちょこっと宣伝失礼しますっ!

 私のメインサイトはカクヨムなんですけど、ハーメルンは主に二次創作とか息抜きで投稿してるんです。
 従って書籍化狙ってる身としては、もしも、もしも良ければカクヨムでもブクマ等々をしてくだされば恐悦至極でございます…っっ!
 カクヨムとの違いですが、1話ごとの文字数です。ハーメルンは長いです。文字の大きさとかも違うので、無理は言いませんが、本当に『もしも』程度で宣伝させていただきました!

 カクヨム版では主にラブコメ書いてますっ!
 作者名は同じく『恋狸』ですので、よろしくお願いします!
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