笑わない王女様が笑った時には外堀全埋めされてた件   作:恋狸

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短め
②と統合すれば良かった……


4日目③

 シュルシュル。

 衣擦れの音がする。

 

 誤算だった。

 俺は見誤ったのだ。

 音を……! 音の強さを……ッッ……!

 

 うん、まあ、簡潔に言うと、視覚封じて聴覚だけの場合、却って聴覚が鋭敏になってヤバいよねって話。

 昔友達が『視覚より音の方が妄想捗るよね、何がとは言わないけど』って言ってたことを思い出した。そいつは土に還した。

 

 くっ……わかっている!! 耳を塞げば良いのはわかっているんだ!!

 

 だが……思春期は過ぎたとはいえ、その思春期を修行に費やしていた俺は鋼の精神で耐えてるだけで、女性の免疫などゼロに等しい。特効薬くれ。

 そんな免疫ない俺が誘惑に抗えるかと……無理だよなぁ。しかも、直接的に何かしているわけじゃない。仕方ない、そう! 仕方ないのだ!

 仕方ないの免罪符が俺を許す。

 俺が俺を許します!

 

「んっ、引っ掛かります……」

 

 何がぁぁぁぁ!!??

 何が引っ掛かるんすか!? 勘弁してくれ!!!

 艶かしい声は非常に現実的で、鋭敏になった聴覚がつぶさに拾う。

 

 よし、俺は『魔剣士』だから……煩悩捨てるか。

 

 

 耳 を 塞 い だ 。

 すまんな、俺の思春期。取り戻すことはできなさそうだ。

 

 だが、耳を塞いでも発達した聴覚は留まることを知らない。

 

「ふぅ……すぅー」

 

 呼吸の音がする。今、後ろに全&裸なルミナスがいると想像するとちょっといけない気持ちになってしまう。

 くそ、信用されてるからこんなことしても許されてるんだ。俺は信頼に報わねばならないっっ!!!

 

「『サイレント』」

 

 消音魔法だ。

 普通は自分から発する音を消す魔法だが、その指向性を逆にすることで周りの音が一切聞こえなくなるのだ。

 最初からこれ使っとけよと思うかもしれないけど……許して。

 

 さて……瞑想でもするか。

 

 視界はすでに暗闇だが、俺はその中で目を瞑った。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 夢だ。

 その光景が視界に入った時、すぐさま夢であることが判断できた。

 

 燃え盛る街。踏みつけられる人々。必死に叫ぶ俺。

 代わる代わるに残酷な景色が再生される。

 

 あの時、俺は誓ったのだ。

 

『無力な自分()を許さない』と。

 

 

 

 

「この夢を見るってことは、まだ自分を許せてないのかね……。あるいは……」

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

「はっ!」

 

 トントントンと三回肩を叩かれた感触で目が覚める。

 ……胸糞悪い夢でも見てたような気分だ。ま、変な格好で寝てたらそうなるか。

 

 俺はサイレントのままだったことに気付き、解除する。

 

「どした?」

 

「一応、魔力のコントロールができた……と思います」

 

「おぉ! 成功したか! あ、ちゃんと服着た?」

 

「は、はい」

 

 急いで目隠しを取ろうとして、まだ全裸だったらヤバいなと、確認を取るとどこか恥ずかしげな声が返ってきた。

 

「眩し」

 

 白だけの空間のせいか非常に目が痛い。

 チカチカする視界に目を細めながら、しっかり着込んだルミナスを見て……ちょっと残念に思ったのは内緒だ。やばいな、ロリコンさんと同じ思考してるかもしれん。

 

 少しばかりの危機感。変態予備軍としての。

 

「どうですか?」

 

 ルミナスが全身を見せつけてくる。いや、言い方が悪いな。恐らく魔力の流れを見てほしいのだろう。

 

 隅々まで注視すると、俺の頃のように荒れ狂っていたいた魔力の流れは、嘘のように鎮まっていた。……本当に効果あったんだな。

 俺自身が実験台とはいえ、ちょっと疑ってたけどこれで二人目の成功ケース。学会で公表してもありかもしれんな。信じてくれるかどうかは別として。

 

「あぁ。魔力の流れが整っている。少しずつ魔力を解放していけば、いずれ普通に魔法が使えるようになるだろう」

 

「そうですか……」

 

 ホッと嘆息していた。本当に魔法が好きらしい。

 王女故に、か。貴族としての責務が重視されている現実がルミナスの心に陰りを残していた。

 かたや、娘が困らぬよう英才教育を施していた父である王。

 

 すれ違いか。はたまたルミナスが我慢強かったのか。

 どちらにせよ破綻しかけていた状態が何とかなりそうで、俺は同じく安心していた。

 やっぱり貴族のしがらみは根深い問題だな。

 

「さて、帰るか」

 

「え、少し魔法の練習をしては……」

 

 あまりの魔法の執着具合に苦笑しながら、俺は腕時計を指差す。

 

「実はもう時間過ぎてんだよ。このままじゃ俺が怒られる」

 

「わかりました」

 

「あ、勝手に魔法使うの禁止だからな」

 

 やけにあっさり頷いたルミナスに嫌な予感を覚えた俺は、釘を刺す。

 ピシリと固まったルミナス。表情を見るとバツの悪そうな顔をしている。

 使う気満々だったらしい。

 

「……まだコントロールも完璧じゃないんだから……。暴走したら冗談抜きで城吹っ飛ぶからな? 自重しろよ?」

 

「………………わかりました」

 

 長かった。

 この我が儘王女め。魔法以外は常識的な性格してんのに。

 

「じゃあ、帰るぞ」

 

 立ち上がると、ルミナスも立つ……が、長時間の瞑想による疲れが出たのかバランスを崩す。

 

「おっと」

 

 背中から落ちかけたルミナスをお姫様抱っこする。

 なんか既視感あるなぁ……と最近の出来事に想いを馳せていると、すっぽりすでに収まったルミナスが身動ぎする。

 

「す、すみません。下ろしてください」

 

「あぁ、ごめん」

 

 暑さからか顔を赤らめたルミナスに頷き、慎重に下ろす。

 どうしたんだろ。前の時は全く反応しなかったのに。

 まー、良いか。

 

 気を取り直して俺は、座ったままで良いとルミナスを諭し、再び転移(テレポート)を使った。

 

 座標先は例の部屋。

 しっかり機能してくれたテレポートで部屋に着いたことを確認すると、挨拶も少しにして立ち去る。

 

 

「はぁ~。嫌なこと思い出すし色々あったし疲れたなぁ……」

 

 間違いなく濃い1日だった。

 そして、俺は男としてレベルダウンした代わりにルミナスの信頼レベルが上がったと感じた。

 くそ、対価が辛い。

 

 自室に戻りながらため息を吐いていると、ふいにぐいっと肩が掴まれた。

 

 敵か!? と距離を取る……がそこにはカマエル……ルミナスの父親である王がいた。

 

 

「明日、執務室、6時、来い」

 

「ひぇっ」

 

 目が笑っていなかった。

 有無を言わさぬ圧力。それと、圧倒的カリスマを誇る王からの圧力は『魔剣士』だろうと誰であろうと恐怖を覚える。

 い、行かなきゃダメ……?

 

「返事は」

 

「はいっ! 行きます!」

 

 立場が逆転していた。元から逆転してるようなもんだけど。

 どうしてそんなに怒ってるのだろうなんて、とぼけることはできない。

 

 心当たりがある。いや、心当たりしかない。そして、俺が悪い。うん、ちょっとヤバいかも。

 

 王はそれを言い終えると、途轍もないプレッシャーを放ちながら去っていった。

 非常に怖い。

 冷や汗がたらりと零れる。

 間違いなく、魔王と戦った時よりも恐怖を感じていた。

 

 

 

 こ、これが親バカというやつか!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 その日の食事は味がしなかった。

 

 

 

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