笑わない王女様が笑った時には外堀全埋めされてた件   作:恋狸

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7日目

 昨日は再び例の場所に行って修行をしたのだけれど……やっぱりルミナス、天才だわ。『古代ルーン文字』は扱う文字数が多いほど強力になり、複雑化する。つまり、簡潔に言って難易度が増すのだが、ルミナスは教えたことに躓くことはあるものの、気が付いたら克服していることが多い。

 

 なんか先生としてちゃんと出来てるのかなぁ、と不安になる一方である。

 まあ、俺もある程度すぐに物事を解決できるから、人のことを言えるわけではないけど。自慢じゃないよ! ルミナスの方が才能上だし!

 

 多分、あと十年もすれば魔法面では抜かされるだろう。それくらい、ルミナスの才は凄まじい。

 剣も含めた戦闘だったら絶対勝てるが、魔法のみのバトルなら多分負けるんじゃないかなぁ……。あぁ、先生として立つ瀬がなくなる。

 

 とは言ってもそれもまだ先。

 とりあえずは先生として頑張ろうと、気合いを入れて扉を開ける。

 

「おっはよー」

 

「おはようございます。早く行きましょう」

 

 気が早い!!

 とててと駆け寄って転移をねだるルミナス。止めなかったらこいつぶっ続けで修行し続けるからな。まじで頭おかしい。

 だがしかし、残念ながら……

 

「今日は行きません!!」

 

「えぇ!? 何故ですか!?」

 

 相変わらず大げさにヘナヘナ崩れ落ちるルミナスに、少し罪悪感があるが、許可するわけにはいかない。

 理由を説明すると、カマエル王に諸々問い詰められた時に、

 

『魔法ばかり教えてるけど、呪いはちゃんと解いてるのかい?』

 

 と言われたのだ。

 そして、俺は悟った。この王、ある程度呪いに詳しいと。

 元は呪いを解くためのカモフラージュにするために、魔法を教えていたのだが、恐らく王は魔法と呪いが全くと言っていい程別物であることを知っている。

 となればいつもの言い訳を効かなくなるようで。

 

「今日は呪いを解く……ふりをします」

 

「ふり?」

 

 こてんと首をかしげた。

 

「だって、お前解かれたくないだろ?」

 

「はい」

 

 即答だった。

 やはりか、と俺はルミナスの抱える問題が根深いと再確認した。

 

「王から呪いを解くように釘が刺されてな。話してる内容は聞かれないだろうから、とりあえずふりだけしようかなと」

 

「なるほど。では、お父様に魔法の練習をさせてくれるように言っておくので、行きましょう」

 

「待て待て待て」

 

 さあ、早く、と急かすルミナスを宥めて座らせると、唇を尖らせて不満げな表情をした。隠す気はないらしい。

 

「一応、呪いを解く体裁で来てるわけだし、それを破ったら契約の不履行。最悪クビになる。そうなれば、お前はもう強くなれないんだぞ? ……本当にお前は焦りすぎだ……。今日は座学してやるから落ち着け」

 

「……はい。でも、焦ってるわけではなく、ただ魔法が好きなのです」

 

「知ってる。だが、限度ってものがある。好きなことを我慢するのも大人への一歩だぞ」

 

「私、もう成人してますが」

 

「そういうとこだ!」

 

わしゃわしゃとルミナスの頭を撫でると、若干顔を赤らめながら、プクーと頬を膨らませた。

 

「セットするの、結構大変なのですが」

 

「お前がやってるわけじゃないだろ」

 

「……」

 

 侍女にやってもらってるのは純然たる事実なので何も言えないだろう。

 だがまあ、髪を乱したのも事実。

 俺は空中に青い軌跡を描くと、ルミナスの髪が元に戻った。

 

「ふふん、生活魔法、ルーン強化版の『クリーン』だ!」

 

 どや顔で説明すると、何故かルミナスは、はぁ……と呆れた様子でため息を吐いて、

 

「……そういうところ。先生も子供っぽいと思いますよ」

 

 と、毒を吐いてきたのだった。

 

 俺は大人です!!

 これは所謂大人の余裕というやつなのです!

 

 

 

☆☆☆

 

 

 チクタクチクタク、時計の針の音が鳴り響く。

 静寂が満ちるこの空間内。だが、俺はこの落ち着いた過ごし方が存外好きである。

 ある日の騎士たちの様子から察することができる人は多いと思うが、実のところ『俺』という存在が『魔剣士』であることを知ってる人間は少ないのである。

 まず、一つとして目立つことが好きではない俺は、派手な凱旋パレードなど行うことなかったお陰で顔が割れていない。なんなら名前も公表していない。

 二つ目の理由として、仲間を伴わずに魔王に挑んだことがこれに値する。

 仲間さえいれば、誰かは有名な何らかの組織に所属し、それに伴って俺のことも明らかになっていくだろうが、俺はある理由から仲間と魔王に挑むことはなかった。

 

 ……うん、実は仲間が二人いたんだけど、途中ではぐれたんだわ。そして、迷った俺がたどり着いた……いや、たどり着いちゃったのが魔王城。……魔物が絶えず襲いかかってくるし、倒すしかないじゃん……。

 そんな出来事が三年前に起こった。

 というわけで、ネームバリューだけ大きくなっちゃって、俺自身はそうでもない。

 見た目から舐めてかかってくれるし、ありがたいけど。

 

 だからこそ、安寧が好きな俺は静かに過ごすことも好きであり、老後の夢は田舎で悠々自適と過ごすことだ。

 

 だがどんな時も、その安寧を壊す奴というのはいて。

 

 

「……ッッ!? 危ない!!!」

 

 咄嗟にルーンを介さない魔法で、ルミナスを守る。風魔法の防護壁だ。

 上手く作用してくれたようで、小さな針のようなものが風に逸らされ落ちていった。

 

「い、いったい何が……」

 

 瞳に若干の恐怖を映したルミナスに、短く状況を説明する。

 

「恐らく、お前を狙った敵だ。すでに護衛は……死んではいないが気絶している。……敵は二人。危ないから自分の周りを魔法で覆え」

 

「で、でも、それでは先生が……」

 

 へっ、と鼻で笑う。安心させるように。

 

「俺を誰だと思ってる。

 世界最強の────『魔剣士』だぞ」

 

 それでもルミナスから不安は消えない。

 これ以上ルミナスと問答を繰り広げる時間もない!

 

「やれ! ルミナス!」

 

「……ッッ。はい!」

 

 氷の壁を展開させるルミナスにとりあえずは安心しながら、近づいてくる殺気に警戒心を高め、集中する。

 

 ……さっきの針は麻痺針ではなく完全な毒針。誘拐が目的ではない。

 ──暗殺だ。

 大方、王の親バカを聞き付けての、動揺を狙った他国の刺客だろう。

 

「おや、まさかまだ生きてるとは。……ッッ」

 

 躱されたッ! 窓を蹴破り入ってきた刺客に防いだ毒針で投擲したが、すんでの所で躱される。

 

「いきなり危ないではありませんか。少しお話しましょうよ」

 

「生憎だが敵と悠長に話すほどおろかじゃないんでね」

 

 挑発をするが、反応はなし。

 黒い装束に身を包み、ヘラヘラした笑みを浮かべる金髪の男。

 こいつ……、暗殺者ではない。完璧な『刺客』だ。強さもそこそこといった所。

 問題はもう一人がどこにいるかだが。

 

「……敵とベラベラ喋るな」

 

 窓から()()()()()()に入ってきた男に、俺は警戒心を更に高く上げる。

 黒い装束に黒い仮面。全身が黒ずくめの男。

 ……こいつが元締めだな。身に付けてる武器や服から判断しても、地位はかなり高い。パツキンの野郎は、その部下か。反射神経はかなりのものだったが、それまで。

 黒男、経験積ませるために連れてきやがったな……っ!? ここは学校じゃねぇんだよ!

 

「おいおい、お前ら二人だけか? ……まあ、いいぜ、一辺にかかってこいよ」

 

 わざとらしい俺の挑発に、金髪の男のみ引っ掛かる。

 ピキッと青筋を浮かべ今にも襲いかかる……

 

「ちっ」

 

 黒仮面の男が、それをすんでで止めた。冷静だな。挑発にかかるくらい愚かではないか。

 そのまま金髪に何かを耳打ちした、仮面の男はルミナスの元へと行く。

 それを止めようとした俺に、金髪が立ち塞がる。

 

 

「あぁ、なるほど。そういうことね。

 

 ────甘いわ」

 

 

範囲(レンジ)────解放(リリース)

 

 0.1秒だけ、その部屋の内部全てが、俺の範囲になった。

 そして、

 

「除外指定完了。範囲(レンジ)────圧縮(コンプレション)

 

 瞬間、金髪が、もんどりを打ってひっくり返った。すでに意識はないだろう。

 

「これを避けるか」

 

「はぁ、はぁ……貴様、何者だ」

 

「何者か分からないあんたに教える義理はないな」

 

 息を荒げる男に俺は静かに驚嘆していた。あれは、俺の範囲を瞬間的に増加し、さらに範囲内にいる指定した人か物の()()()をゼロにする技だ。

 つまり、あの瞬間俺は二人に大して攻撃を()()()当てたのだ。俺の範囲内で間合いを失くした者は必ず攻撃が当たる。そういう技なのだから。

 だが現にこの男のみは躱した。

 

 『異能』に対抗できるのは『異能』のみ。そんな言葉がある。

 

 つまり、この男も『異能』を持っていることになるのだ。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 対峙する俺と黒仮面の男。

 飄々とした態度を心掛けている俺とは対称に、男は焦っているようだ。

 ま、だろうな。こんな所に強い護衛がいるとは思わないだろ。ましてや、『魔剣士』がいるとはな。

 勿論、俺は自分の実力に一定の自信があるが、決して油断しているわけではない。

 男の『異能』も謎だし、他にも技の引き出しがあるかもしれない。最大限警戒すべきだ。

 

「何者だと言っている……ッッ」

 

「言うわけない、だろッッ!!」

 

 ナイフが一直線に二本、上半身と下半身に飛んできたのを横に避ける。全て毒が塗ってあるようで、解毒するにも時間が掛かりそうだ。

 剣を持ってきていないことに後悔しつつ、無い物ねだりは良くないと、高速で男との距離を詰める────が、ボソッと男が何かを呟くと一瞬で気配が消え、数メートル先の壁際に男が移動していた。

 間違いなく異能。移動系の異能であることは察知できるが、その内容まではわからない。

 

「にしても、俺の異能の発動条件がバレてるな……」

 

 小声でぼやく。何回かのやり取りで、すでに俺の異能の発動には一定の距離の制限があることを感じ取ったのだろう。

 

 男の異能だが……異能の発動には、必ず口頭詠唱が必要だ。故に、それが聞き取れば少なからず正体はわかるだろう。

 

(『五感強化』)

 

 ルーン文字を介さない無詠唱魔法。自分の五感を強化する魔法を発動させ、再び男との距離を詰める。

 

 

「……『加速(タサーリア)』」

 

 なるほど。俺はニヤッと笑う。

 これが聞き取れたお陰で全ての謎が解けた。

 

「……何が可笑しい」

 

 不機嫌げに呟く男に俺は笑みを深くし答える。

 

「その言語。南東に伝わる古代民族の言葉だろ。ってことは、お前は南東最大の国『ヘレネーシュトーゲン』の裏貴族『エレス家』の長男坊といったところか」

 

「……ッッ!?」

 

 一貫して隙を見せなかった男が初めて動揺した。まるで点と点が繋がったようだ。思えば、あの金髪とは兄弟だったのだろう。

 実力身分主義。つまり、実力>身分>それ以外という皇国『ヘレネーシュトーゲン』で、上司に対する態度だとすればおかしかった。恐らく家族であるからあの口の聞き方ができたのだ。

 

 

 そして、その隙を見逃す俺ではない。

 加速と言っていたのならば、空間移動……俺の『範囲把握』のような移動法ではないのだろう。

 だとすれば……

 

「『氷獄』」

 

 古代ルーン文字を高速で描き、超常現象を顕現させる。

 

「しまっ……!」

 

 遅い。

 男の周りを氷の牢獄で覆い尽くす。逃げ出せぬように空気穴以外を全て覆う。

 そう。空間移動でなければ周りを覆ってしまえば良いのだ。簡単だよな。

 

 

 俺は氷に覆われ、身動きが取れないであろう男に近づく。

 

「……表情筋の鍛え方が甘いな。あんなの隙以外の何者でもないだろ」

 

 中から悔しげに歯ぎしりする音が聞こえた。存外負けず嫌いの性格なのか。とことん刺客に向いてねぇな。普通は勝てないと思ったら逃げるか、お土産(爆発物)を残して情報を持ち帰るのがセオリーだ。

 訓練はしているようだが、如何せん実戦が足りん。

 

「どうして、全てわかった……ッッ」

 

「教えねぇ……と言いたい所だが、そこまで難しい推理でもないから教えてやろう」

 

 せめてもの煽りに、ピんっと人刺し指の代わりに中指を立てて説明した。あ、青筋立った。空気穴から俺の様子見えるんかい。あ、この氷は外からは丸見えだけど、中からは見えないという、完全捕縛用の氷です。

 

「『異能』はな。住んでる地域によって発動条件となる言語が違うんだよ。お前の言語はかなり珍しい部類だから国まで絞れたし、その中で王女に襲撃すんのは、情勢的に『エレス家』一択だろう」

 

 軍部を強化し、戦争の準備中である『ヘレネーシュトーゲン』。比較的近いこの国を狙っているのではと噂が飛び交っている。

 この襲撃の目的は、娘を溺愛する王の動揺を狙い、その隙に国へ攻め混む手立てにすることであろう。

 皇族と癒着している汚れ仕事を請け負う貴族……所謂裏貴族で一番有名な『エレス家』。王女の暗殺ならば『エレス家』に白羽の矢が立つだろうと予測したのだ。

 

 『エレス家』であるというのは若干の勘も含んでいたが、的中し隙を晒させることができた。

 ま、作戦勝ちというやつだな。さすが俺!

 

 ……と喜ぶことはできない。今回はルミナスを守ることに集中の大半を奪われた。基本ソロデストロイ大好きマンだからな。守るのは慣れてない。次はもう少し戦術を練らないとな。

 

 と、思索に耽っていると、どこか自嘲気に男は言った。

 

「……つまり、俺は最初から負けていたというわけか」

 

「普通なら撤退一択だぜ? せめて、『俺』の情報を集めておけばその選択ができただろうが」

 

「自信家だな」

 

「『魔剣士』であろう者が自信無さげでどうすんだよ」

 

「『魔剣士』……。……そう、だな。やはり、最初から負けていたようだ」

 

 『魔剣士』という言葉を聞いた瞬間、今度こそ男はガクリと項垂れた。仮面の奥に隠れて表情は窺えない。一体、その顔にはどんな表情が浮かんでいるのだろうか。

 諦めか。はたまた憎しみか。

 

 せめて仮面は外さないでいてやろう。負けた男の顔を見るのは、俺の趣味に合わない。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 決着が付いたことを察し、心配げに駆け寄ってきたルミナスを手で制す。

 

「『氷獄』」

 

 念のためだ。

 俺は倒れている金髪も捕縛することにした。

 

「先生……」

 

「な? 余裕だったろ?」

 

 笑いかけると、ルミナスは不安げな表情のまま涙を溢し始めた。

 え!? 俺、なんかした!?

 

「る、ルミナス?」

 

 ルミナスは、ポツリと自分の気持ちを確かめるように言った。

 

「どうして私は泣いてるのでしょうか。……もし、先生が死んでしまったらと考えたら涙が止まらないんです……!」

 

 年相応に泣きじゃくるルミナスの涙は止まらない。

 

「大丈夫だって」

 

 俺はポンッとルミナスの頭に手を置く。安心させるように。

 

「俺は……『魔剣士』だから」

 

 顔を上げたルミナスが、上目遣いに俺を見た。

 

「本当に、死にませんか?」

 

「あぁ」

 

「私を最後まで強くさせてくれますか?」

 

「勿論だ。俺とお前の約束だろ?」

 

「……はい!」

 

 

 その瞬間、俺はルミナスが笑っている姿を幻視した。

 綺麗な銀髪が夕陽に照らされキラキラと輝き。涙を浮かべ、笑みを携えてるルミナスの姿が。

 その笑顔はあまりにも魅力的で。

 実際に笑っていないことを知っていてもなお、頭に鮮明なイメージが焼き付いた。

 

 ……これは、毒だ。どうしても笑顔を見たいなんて思ってしまう毒なのだ。そして、王は今も、身を貫かれるほどに激しい痛みをもたらす毒に侵されているのだろう。ずっと。ずっと昔から。

 

 浮かんだ思考を荒唐無稽だと笑い飛ばすには毒が強すぎた。

 

「先生……?」

 

「ッッ! 何でもない」

 

「そ、それなら手をどけてください」

 

「あぁ、悪い」

 

 赤くなったルミナスの言葉は半分も聞こえていなかった。ただなすがままに手をどかす。

 

(『リラックス』)

 

 心を落ち着かせる魔法を使うと、ようやく平常通りの思考へと落ち着いた。

 ……危なかった。今やルミナスのたった一人の『理解者』がそんな思考をしてしまうのは、ルミナスに対しての裏切り行為だ。

 

 だけども、

 

 笑った姿が美しかった。

 

 そんな事を考えてしまったのは罪なのか。

 夕闇が迫る中、俺は駆け寄る騎士たちの気配を感じ、ブンブン頭を振ることでその考えを吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女の想いが、

 

 

「どうして私は今」

 

 呼応する。

 

「笑いたいと思っているのでしょうか」

 

 

 

 

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