色々あって、チームスピカの沖野トレーナーの下につくことになりました。
こんな厄介者を受け入れてくれて、本当にありがとう。
けど、(色々おかしいと噂の)ゴールドシップのトレーナーやるだけあって、
このひとも中々愉快な考え方をするみたいです。
なんというか、今チームに所属してるウマ娘はゴールドシップしかいません。
それで最低5人揃えないと、チーム解散の危機にあるそうで。
だからスカウトしやすくする為に、私を走らせようと考えたんでしょう。
今から行われる模擬レースでですが。
ウマ娘として走った経験は無いんですが、ぶっつけ本番でどうにかなるものか?
「私、いちおートレーナー見習いってことなんですが。走って大丈夫なの?
そこんとこどーなんでしょう。チームスピカの沖野Tさん?」
『大丈夫。触ってみたところいい脚してるし、最低限はどうにかなる。
何かあったら全部俺の責任にしていい』
沖野Tですが、指導者の人格としては、まじの善人。
主体性重視なんで誤解されやすいけど。時々かなりの無茶言い出すし。
とはいえ、無遠慮にウマ娘の脚とか触りまくるのはどーかと思うんですが。
『それで、ウマ娘の身体には慣れた?』
変身して3日で慣れる訳無いでしょうが!!
けどそのへんは問題にしないでおこう。
「元々のシステムが人間だったお陰で、ぶっつけからの調整ですね。
フツーの人間は時速60キロオーバーで走ったりはしませんし」
いやはや。人間とウマ娘の体っていうのはだいぶ違うらしい。
当たり前っちゃ当たり前なんだけど。
ママから受けたもろで虐待の特訓の下地もありまして。
パワーとか耐久力は慣れたんだけど、
聴覚とか嗅覚とかそのへんは人間基準らしい。
筐体が高性能でも、ソフトが対応してない場合、
十分な性能を出せないってやつか。
動体視力と空間認識能力は元から優れてたんで、何とかなるでしょう。
まー、言っちゃうとだね。
岸波立香っていう名のPCから、システムの入ったハードディスクを引っこ抜いて、
ボトムブラックに移植して、そのまま動かしてる感じかなあ。
今回の件を実家に報告したら、ママったらマッハで勝負服仕立てて来やがった。
普段着としても使える特殊仕様を、予備も合わせて3着。気合入りすぎでしょう。
とゆー訳で、今の私はBB2世という出で立ちをしております。
それで、今回のレースまで見届けて帰るそうです。
”T”がかなり厳しい顔で睨んでるし、ママには早々にご退場頂きたいんですが。
で、話を戻しますね?
他のPCから引っこ抜いてきたハードディスクを入れても、
デバイスドライバのマッチングとかがウマくいかんと、ブルーバックエラー吐いて動かない訳。
仮に動いたとしても、新しくそれを入れなおさないと使い物になりません。
その摺合せを今やってる所で。
もしPCの例えで分からんのなら、車で例えようか。
今まで普通乗用車しか運転したこと無いのに、いきなり大型特殊自動車に乗せられるようなもの。
「まーいいでしょう。メガトンコインしても怨まないで下さいね?
トレーナー志望のウマ娘が飛び入りで走るって言えば、大義名分も立つでしょうし」
そして、虎視眈々とこっちを見ているゴールドシップさん?
何か千切った消しゴムをデコピンで飛ばす練習してるみたいだけど、こっち狙うのやめよーね?
『狙い撃つ!!』
「その手は食わん!!」
自慢じゃないけど、動体視力と空間認識能力は、元からウマ娘以上じゃい!!
で、まとを外した消しゴムは・・・沖野Tの眉間に命中。
いくら消しゴムでも、ウマ娘の馬力で発射されたら、そりゃあ凶器になりますさ。
そういえば、ゴールドシップ(以降ゴルシ)のママは、キンイロリョテイ。
彼女はうちのカーチャンや、あの世紀末覇王”T”と覇を競った剛の者。
あーなるほど。血の宿命は避けられない訳ね。競走バの遺伝子と言いますか。
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場所は変わってターフなぅ。距離は2000メートル、中距離か。
芝よりダートのほうが楽しくて好きなんですが、がんばります。
「さてさて、ゲートインじゃい」
圧迫感というか閉塞感MAXで、全力で蹴り入れたくなるけど我慢。
場所は変わってターフなぅ。距離は2000メートル、中距離か。
新入生の皆さんに混じってトレーナー走るってんのも前代未聞だと思うけど。
まー言っちゃえば私もウマ娘1年生だしイーブンか。
力加減とかはまだ練習中なので、ぶっつけ本番。
私のことをガン見してくるのは、グラスワンダーとかいう娘。
怪物マルゼンスキーの後継ポジらしい。怪物Ⅱ世ってところですか。
そうそう、マルゼンスキーもうちのカーチャンと戦った剛の者の一人です。
血の宿命、恐るべし。直接の親子ではなく師弟関係っぽいけど。
『グラスワンダーだけには絶対負けないように。
もし負けたらおしおき!!』
カーチャン、これ酷くないですか?
私はウマ娘になってから、三日目の新兵ですよ!!
そしてゲートオープン。駆け引き?そんなの知らん。
作戦は、逃げ。とりあえず全力で飛ばせば何とかなるでしょう。
俗に大逃げって呼ばれるんだけど。
負けたら全部全部沖野Tの責任な?
ガン逃げ提案したのは、沖野Tですから。
『スタート。各ウマ娘キレイなスタートを切りました。
誰が先頭に抜け出すか注目しましょう』
模擬レースだっていうのに、丁寧にアナウンサーさん実況つけていらっしゃる。
『さぁ、ハナに立ったのは・・・コスプレでしょうか?
飛び入りのBBです。BBが快調に飛ばしてます!!
先頭から大きく離されて、2番手はグラスワンダー!!』
グラスワンダー、作戦は・・・差しか。
差しはまじで怖い。セーフティーリードはしっかり確保しないと。
『先頭はBB、単身で飛ばしていきます。
・・・BB、まだリードをキープしています。
続きました。グラスワンダー!!』
差が広がらん、グラスワンダーまじで怖い!!
カーブは落ち着いて、息を整えつつ処理。ラインが膨れたらそれだけリードを失う!!
『残り1000メートルを通過・・・
BB、先頭を進む。これは正解でしょうか?
ちょっと掛かり気味かもしれませんね。息を入れるタイミングがあればいいですが』
グラスワンダーこっち来るな。怖いんですけど!!
実際走ってみて初めて分かりました。
相手に迫られると、焦って正しい判断ができなくなるわこれ。
これが掛かりっていうやつね。
ここで呼吸やペースを乱してしまうと、スタミナを大きく削られる。
『互いに足を溜めている展開・・・このまま直線での争いになるのか?』
これ、相手の方が強いわ。普通のやり方じゃあ勝てない。
しかもグラスワンダー、差す為にだいぶ余力を残している。
こんな状況で、ラストスパートでBダッシュされると負けてしまう訳。
「こうなったら・・・リミッターを解除するしかない!!」
ウマ娘の身体に人間の精神。あり得ない状況のバグった個体。それが私です。
リミッター解除は、バグ個体ゆえの裏技と考えていいでしょう。
普通、生き物っていうのは100%のパワーを出せないようになってます。
それをやったら筐体がパワーに負けて壊れるからです。
普通の状態で全力を出した場合、うまい人で良くて30%くらいでしょうか。
私の場合、リミッター解除すれば60~70%までは出せます。
自分の性能を把握できておらず、
どこまで攻めていいか分からん状況でやるべきじゃないんですが。
こうなったら意地って奴だ。根性見せてやる!!
リミッター解除。きついというか、これはまじで氏ぬ!!
けどここで息を乱したらすぐに潰れるし、頑張るしかない。
このスピードで姿勢を崩したりしたら、アウトだし。
こういうときに限って意識はっきりしてるから、ホンットたちが悪い。
だから、グラスワンダー怖いって!!
捕まったらリアルで刺されそう。死ねるかヴォケ!!
『飛び入りBB、ラストスパートで大逃げ全開、逃げ切ったぁ!!』
勝利・・・とはいえこりゃあ、
熟練度の差と奇策で逃げ切ったってところが大きいなあ。
しっかしウマ娘っていうのは、ナチュラルボーン・フィジカルモンスターだよ。
で、こんな事すると寄ってくるのはスカウトの皆さんだよね。
頼むから勘弁して下さい。私の方がスカウトする側だから。
「沖野トレーナー、もしスカウトうまくいったとして、
5人も面倒見きれますかね?ゴルシ先輩は別格だとして」
『期待してるぞ、BB2世君?』
おいこらちょっと待て。私も戦力として計上してんのかよ!!
そりゃあトレーナー志望だけどさ、いきなりハードすぎやしませんか?