同じ頃、プリンセスは機関室に乗り込んだ。目の前の血塗れのレバーに思わずギョッとなるも、横から呻き声と共に一人の侍が投げ出され、その奥からアンジェが出て来る。
「プリンセス!加減弁を閉じて!」
するとアンジェはプリンセスに指示を出す。
「赤いレバーを押すの!」
指示通りに赤いレバーを押し込む。
「逆転機を右に!」
今度はバルブを時計回りに回す。
「次!バイパス弁、開ける!」
そしてポイントの分岐が見えた頃、
「ブレーキ!!」
アンジェの指示と共に二人は同時にブレーキレバーを引く。
ジジジ…ゴォォォォォ……!!
火花を散らしながら列車は勢いよく速度を落とし始めた。
「ウォッ!!」
その衝撃は車内にも伝わり、マリアは思わず壁に手を当てて踏ん張る。幸いここに居る全員の治療は終わったので後はベアトリスの介護をするだけだった。正直あの十兵衛とは戦っても勝てる気がしない。最悪退けれればそれで良いと考えていた。
「ヌォォォォォ!!」
そして列車が停車するとマリアは戻ってちせの様子を見た。するとそこにはちせと十兵衛が互いに至近距離で止まっていた。そして、十兵衛の背中には銀色に光る刀が背中から突き出ていた。
「っ!」
咄嗟にマリアはカバンを持って十兵衛に近づく。ちせが刀を抜くと十兵衛はちせの頭に手を乗せて撫でながら言った。
「強く、なったな……ちせ……」
そしてそのまま倒れてしまった。
「っ!すぐに治療を……」
すぐさまマリアが駆け寄り、状態を見た。
「(胸から気管を貫いて……致命傷……)」
助からない。それが現実だった。
「くっ……」
思わず拳を握った。医者として助けられない命はいくつもあった。王宮の医師として働いて来たから、本来襲って来た日本人を助ける義理はない。だが、それは医師としてのプライドが許さなかった。だから、命を失うのは心苦しい。そのことに思わず歯噛みをしているとちせは堀川公を振り向いた。
「ちせ、貴公は……」
振り返ると、壁際には堀川公がへたり込むように座っていた。刀を納めたちせは堀川公のすぐ前まで移動し、跪きながら言った。
「ご安心を、堀川公。逆賊、藤堂十兵衛は討ち果たしました」
その目にはどこか哀しさが浮かんでいた。
数時間後、陽も落ちてくる頃。兵士がやって来た。小銃を持った兵士が辺りを警護し、その中でマリアは指示を飛ばしていた。
「堀川公の護衛を優先的に治療しろ。残った者で兵士の治療を」
「「「はっ!」」」
王宮の医療班数名はマリアの指示の元、行動を起こしていた。既に急襲してきた日本人の治療はマリアが済ませ、プリンセス達も怪我は無いと報告していた。指示を飛ばした後、マリアは一息吐いていた。
「ふぅ…(今頃、アンジェ達は……)」
マリアは遠くの一本木の生えた丘の上でちせと話しているアンジェ達を観た。
数日後、クイーンズ・メイフェア校のとある部屋でドロシーが赤ワインを飲みながら晩酌をしていた。
「大丈夫なんですか?お酒なんか飲んで……」
半ば呆れたようにベアトリスが言うとドロシーは余裕そうな表情で言う。
「大丈夫だって。傷口はマリアのお陰で綺麗に塞がってる。見るか?」
「結構です」
ベアトリスがそう言うと扉の奥から声がした。
『御免!』
そう言うと扉が開き、部屋に二人が入ってきた。一人はマリア。そしてもう一人は……
「あぁ!あなたは……!!」
すると入ってきた少女は名前を名乗った。
「転校生の藤堂ちせだ」
「転校生!?」
ベアトリスが驚く中、涼しい顔でドロシーが言う。
「よく来たな。ちせ、この部屋が私達の拠点だ」
「良いところでしょ?」
「え?え?」
プリンセスの反応にベアトリスは困惑した。するとちせがこうなった経緯を話した。
「チェンジリング作戦に協力するよう上同士で取引が成立した」
「堀川公をコントロールに引き合わせた。王国から共和国に乗り換えてもらおうと思ってな」
ドロシーがそう言うとベアトリスはツギハギになりながら話す。
「いぃ、いつの間に堀川公を。た、たらしこんだんですか!?」
「貴族様が下品な言葉を使うなぁ」
「だって…他に言葉が……」
ベアトリスが困惑しているとちせは正座をしてアンジェと話をしていた。
「アンジェ、お前のおかげで十兵衛と戦うことができた。改めて礼を言わせてくれ」
そう言い頭を下げようとした時、アンジェが言った。
「待って。貴方がこの国で暮らすなら。西洋式を教えてあげる」
「?」
「握手よ」
そう言い、ちせはアンジェと同じように手を出し、握手をした。それをしたちせは少し笑みを浮かべると。
「悪く無いな。西洋式も……」
そう言い、アンジェを見ていた。