ちせが転校してきて数日後。学校内の保健室のベットで横になっているベアトリスがいた。
チチチッ…カチッ……チッチッチッ……
ベアトリスはこの前の戦闘時に十兵衛に刀で叩きつけられた影響で機械に異常が出ていた。元々機械狂いの父親によって実験台にされ、喉を機械に変えられてしまった彼女はこの学校ではいじめの対象になっていた。貴族という事もあり先生も手出しが出来なかった所をプリンセス……シャーロット殿下によって救われた。その為彼女はプリンセスに一種の依存体質を起こしていた。
そんな殿下を幼い頃から世話をしてきた私をベアトリスは尊敬しているようで、時々オーバーホールを依頼して来る事があった。
私も姫様にご友人ができた事で此処の先生としても余裕が出来た。一応、宮廷医師長の座も受け持っている私は多忙でクイーンズ・メイフェア校と宮殿を行ったり来たりする生活を続けていた。しかし、ベアトリスが来てからは身の回りの世話を彼女に依頼するようになり、私が女王陛下の容体を診る為に一日空けても良くなったのは有り難かった。
そんな私だが、機械には一定以上の教養はあったのでベアトリスの喉のオーバーホールも出来る腕はあった。
そして最後に喉の蓋を閉じるとベアトリスに向かって言った。
「はい、終わったわよ」
「ありがとうございます。マリアさ……先生」
「ふふっ、先生呼びじゃなくて良いわよ」
マリアはここの保健室医も勤めている。なので、ここでは先生呼びをするのが普通だった。
革命前に行われた医療改革によって医師の資格は国家資格となり、教養と知識がない者は医者と認めてもらうことができなくなった。それまでは偽医者が平気で街を歩く無法地帯だった。
しかし、この改革によって町に病院が完成し、多くの患者が病院を利用するようになった。最も、このような大規模な医療改革を行ったのにはケイバーライト障害が原因だった。
現在、ケイバーライト障害は有効な治療法がなく、ベットで横になるしか出来ることはなかった。
アルビオン王国がロンドンの地下から採掘したケイバーライトを使った空中艦隊。しかしその裏ではこう言ったケイバーライト障害で苦しむ民衆がいた。
ケイバーライト障害は軽微なものでは視野の歪みだが、重篤なものは失明に至る。原因は不明だが、ケイバーライトの粉末やガスなどが視神経に付着したためではないかと言われている。
王国の貴族はケイバーライト鉱山を多数所有する事で財を成したものが多いが、一部ではこのケイバーライト障害で失明をした貴族もいた。中でも侯爵家の当主がケイバーライト障害になった時は大騒ぎになった。
今更ケイバーライトを手放すなんて考えられない。
後に引けない王国はケイバーライトを独占し続ける事にしたのだ。そして十年前、革命が起こったアルビオン王国は分断。以来睨み合いの冷戦を繰り広げていた。
「ーーーさて、私はこれから行かないといけないから。姫様の事を頼むわね」
「はい。お任せください」
そう言うとマリアはカバンを持つとそのまま保健室を後にする。そして外に停めてあった赤十字の入った車に乗り込むとそのまま学校を後にした。今日はこの後から女王陛下の容態を診る必要があるからだ。
ここ最近、女王陛下の体調は優れない。なので学校に戻らない日も徐々に増えていた。
そんなマリアの車を建物から見送るアンジェ達。ドロシーの手には何枚もの紙があった。
「本当に金を出したら貰えるとはな……」
「あの宮廷医師は、そう言う人だから」
「飛んだ銭ゲバだな」
「確か、『絞れるところから絞っておく』じゃったか?」
アンジェ、ドロシー、ちせの三人がそう呟くとドロシーは紙を再び見ていた。
「女王陛下、その他王国の主要人物の健康状態……ある意味で有益な情報だな」
「そのカルテが嘘でなければね」
「何、コントロールが確認するだろうよ。それで分かるさ」
ドロシーはそう言い、その場を後にする。コントロールにこのカルテを渡しに行く為だ。ドロシーが去るとちせが言う。
「では、私も堀川公に呼ばれておる。なのでここで失礼する」
そう言い残し、ちせは去って行った。部屋に残ったのはアンジェだけだった。
アンジェはマリアの車を見届けるとそのままマリアが普段いる保健室に入った。鍵は掛けられておらず、部屋にも特にこれと言った違和感はなかった。
しかし、アンジェはそんな保健室の机の中。何も入っていない引き出しを目一杯引っ張る。そしてその奥を覗き込み、中から一枚の便箋を取り出した。そしてそれを開くアンジェ。
「……」
すぐに手紙を読み終えたアンジェは手紙を服の中にしまうと引き出しの奥に同じように手紙を入れて引き出しを元に戻す。そして何事も無かったかのように保健室を後にしていた。