式典会場に到着し、会場の端で不測の事態に備えるため待機していたマリアは視界にアンジェ達を捉えた。
「(来たわね……)」
するとアンジェ、ベアトリス、ドロシーの三人は移動し、姫様とちせだけが残った。
姫様はそのまま謁見をするとマリアは読唇術で話の内容を聞いていた。
「(ノルマンディー公はシャーロット殿下をロシアに差し出すと来たか……)」
おそらく国民の人気の高い姫様を遠ざける為だろう。前々から姫様の慈善活動はよく知られている。国民を弾圧してきた保守派にとってシャーロット殿下は目の上のたんこぶといったところだろうか。
貴族階級の搾取は革命前よりも酷いものとなり、もはや自壊するのは時間の問題。今はノルマンディー公のお陰でなんとか持ち堪えているが、実際は『根元の腐った納屋』と言うべきだろう。ロンドンの壁は維持費だけでも予算の数パーセントが飛んでいる。それで無くとも財政はギリギリ、赤字寸前だ。空中艦隊こそ王国の威厳でもあるが、同時に金食い虫でもある。ヨーロッパ大陸の方でも徐々にではあるが戦争の機運が高まりつつある。
いずれは大きな戦争が起こる。
本来であればそれの備えをしたいものだが、栄光ある孤立をとっていたアルビオン王国はただでさえ遅れていた。その点共和国の動きは早かった。ヨーロッパ各国と協定を結び、確固たる地位を手にし、極東の日本とも友好関係を取ろうとしていた。ただでさえあの国は不平等条約の改正のためにこの国に来ていた。共和国と王国、どちらと同盟を組むのかで命運が決まるといっても過言ではない。
そんなことを思っていると女王陛下が私に短く視線を合わせる。それに気づき小さく礼をすると私は式典会場を少し歩き、シャーロット殿下と合流する。
「姫様」
「マリア、やっと合流できたわね」
「お待たせして申し訳ありません」
「いいわよ。お婆様の健康が第一ですし……」
そう言うとマリアは少し不満げのちせを見た。
「では,私はこれにて。陛下がお呼びですので……」
「ええ、また」
そう言うとマリアは式典会場を後にし、停めてあった車に乗って式典が終わるのを待っていた。
数時間後、採掘場の駐車場でウトウトし始めていたマリアは勢いよく出ていく車を見ていた。
「アンジェ達か……」
赤十字の救護車の中でマリアはそう呟くとそんな彼女らを見送り、車の中にある黒鉄のツマミのついた機械を触った。
「……」
ツマミを回すと次第に雑音の中から声が聞こえて来た。
『ーーー次。階段を、降る!』
『階段!?これ車ですよ?!』
『舌を噛むわよ』
『みんな、落ちるなよ!!』
『わぁぁぁぁぁぁあああ!!』
それを聞き私は思わずフフッと笑ってしまうと扉を従者が叩き、女王陛下が帰宅する旨が伝えられ、自分も車を出す事になった。
数時間後、宮殿から学園に戻ったマリアは学園の車庫にで救護車を止める。冠を被った獅子のマークのあしらわれたこの救護車はアルビオンに三台しかない非常に高貴で格式ある車両だ。なので女王陛下や王室関係者のいる場所でしか使用は許されていない。
なので宮殿や女王陛下が行く先々でこの車両はよく見られ、宮廷医師であるマリアでさえも使用には許可が必要となる。なので私用の時などは別の車を使う必要があった。
「ふぃぃ……今日の仕事終わり〜」
そう言うとマリアはそのまま学校の先生寮に向かい、割り振られた一室のベットで横になる。明日は女王陛下肝入りの無償医療福祉の仕事があるので早めに寝ないと死んでしまう。そう思い、私は今回ばかりは早めにベットに滑り込んでいた。
「全く……上も面倒なマトを押し付ける……」
深夜、一仕事終えてクタクタのドロシーとアンジェは文句を言いながら保健室に入る。目的はマリアの情報収集だった。
『マリア・シルバーの周辺の情報収集』
それが追加で出された命令だった。マリア・シルバーは宮廷医務局の副局長であり女王陛下の主治医。これだけで重要人物だと言うのに、革命前のアルビオンでは医療改革の現場責任者だった人。まさに王国医療の第一責任者。最前線を歩く彼女は当然共和国からもマークされており、日々情報が集められていた。しかし、プリンセスの執事ではあるが地位が地位な為、重要度的には少し下の方になっていた。研究者としての一面もあり、新薬の研究なども行っているが、そういった物は微々たる物なので諜報の意味もなかった。
しかし、その傍ら。よくない噂がある人物としてある界隈では有名だった。今回、二人はコントロールからその辺の調査を命じられていた。
「プリンセスの執事、世話係を行ってきた王国の医神マリア・シルバー……」
「失った数よりも救った数が多い王国きっての名医……」
「今更こんなことするなんてね」
マリアの普段の仕事場である学校の保健室に何かあると思って調査している二人だが、これといった目ぼしい物は見つかなさそうだ。
「やっぱ部屋か……?」
ドロシーは仮病を装ってマリアの私室を調べるか?と目配せをするとアンジェは答えた。
「それはまた今度にしましょう」
「……いいのか?」
「時間はまだあるわ」
「そうか……」
アンジェの反応に少し疑問に思うもドロシーはとりあえずこの日の調査を終えるのだった。