願いの女神   作:Aa_おにぎり

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第十七話

アンジェ達が洗濯会社に勤め、マリアが呼び出された翌日。

 

「そこの有象無象、誰でも良いわ。社長を呼んで頂戴。フランキーが来たって言えば分かるわ」

 

そこに運良く借金取りがやって来た。

 

「分かってるでしょ社長、返済期限の事」

「え、えぇまぁ……」

「払えないって言うならこんな場末工場。ぶっ潰しちゃうから覚悟しなさい」

 

明らかに気の弱い工場長は押されまくっていた。まぁ、あんなヘッピリ腰じゃあ勝てるはずもないかと思いながらマリアは遠くから見る。

 

「この工場、なくなっちゃうの?」

「だからあの社長に経営は無理だって言ったのよ」

 

社長室の前に詰め掛けた従業員の少女達もそれぞれ不安を口にしていると、プリンセスが社長室に入室した。

 

「お取り込み中、失礼します」

「何よあんた」

「この工場、私が買い取ります」

 

いきなり出たその言葉に、社長もフランキーも一瞬目が点になった。しかし、すぐにフランキーが調子を取り戻して詰め寄ってくる。

 

「何よあんた、こっちは真面目な話をしているのよ。娘っ子は引っ込んで……」

 

その瞬間、鞄が置かれる。中にはドッシリと入った札束の山。中流層では中々お目にかかれない額だ。するとフランキーに声がかけられる。

 

「尻のいぼ痔は治ったかい?フランキーさん」

「ぬおっ?!あ、あんたは……!!」

 

フランキーはそう言うと、マリアを見て仰天する。見知った人物なのかと思うと、マリアはプリンセスに言う。

 

「彼はうちの病院の患者だっだ人です」

「あぁ、成程」

 

事情を知り、プリンセスが前を向くと工場長が震えた声で聞く。

 

「ほ、本当にこの工場を……?」

「はい、買い取ります。借金もこちら持ちで返済します」

「ちょっとあんた、でまかせ言うんじゃ無いわよ、女のくせに何様のつもり……痛ーい、痛いの!!」

 

苛立ち紛れに手を伸ばしたフランキーだったが、途中からは悲鳴が取って代わった。いつの間にかすぐ隣まで来ていたアンジェに、手首を掴まれて腕を捻り上げられたからだ。

 

「女に手ぇ上げてんじゃねぇぞクソが!!」

 

アンジェはそのまま投げでフランキーを背中から床に叩き落とした。見事な腕前だ。

 

「ケツの穴の小せぇ事言ってんじゃねぇよ!!この女が買うって言ってんだ!!黙って売りやがれ!!」

「やだもう……」

 

今度はフランキーがすっかり縮こまってしまい、こっそりマリアはアンジェに聞く。

 

「あの…アンジェ様?今のは……」

「母親が前に倒れた心を入れ替えているが、未だに抜けきれていない。と言うことの不良娘……と言うカバーよ」

「さ、作用ですか……」

 

マリアはそこで身を引くと、次にへたり込んでいる様子のフランキーを見て言う。

 

「さて、フランキーさん?勘定の程をしてもらいたいので……少々移動しましょうか?」

 

この一件は全てシャーロット殿下から任されている。念のため目線を向けると、プリンセスも頷いて返した。

 

「あぁ、因みに。金額を誤魔化して余計に金を取る場合は……

 

 

 

お分かりですね?」

 

 

 

「……」コクコクッ!!

 

フランキーは蛇に睨まれた蛙のように縮こまってしまっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

数時間後、借りた事務所から出て来たマリアとフランキーの顔は別々だった。嫌に溌剌とした表情のマリア、そして顔がげっそりと絞られた様子のフランキー。それだけで、彼女を知る者は中で何があったのか想像できてしまったのが何とも……。

 

「会計を終了させていただきました」

 

そう言い、領収書と札束の入った袋を片手にマリアは工場から去っていく中、ドロシーがマリアに問い掛ける。

 

「……んで、どんな技を使ったんだ?」

「ん?少々、彼の今までの違法行為を警察に連絡してあげると言っただけよ」

 

そう言うとドロシーは呆れたように言う。

 

「おいおい、医者の範疇を超えていないか?」

「医者たるもの、患者の病状を知る為に周囲の状況は把握しておくものよ?」

「そう言うものかね?」

「そう言うものよ」

 

そう言うと余った金を車の中に押し込む。

 

「こんな紙よりも私的には貴金属やら宝石の方が価値があって良いと、常々思うわ」

「ははっ、そう言うところがアンタらしいね。今度酒とか奢ってくれないか?」

「ふふっ、お断りよ」

 

そう言うといい笑みを浮かべながらマリアは車に乗るとそのまま市街に消えていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

結果として、犯人は捕まった。やはり王国軍部内での過激派の兵士が起こした暴走事故であり、化学兵器を使用できる権限を持った兵士であった。洗濯工場にわざわざ忍び込んだと言う事はやはり洗濯工場に軍服を持って行かれた事に焦って取りに来たようで、やや戦闘はあったものの無傷で確保したそうだ。

 

「ーー以上で、報告を終えます」

 

クラウスがそう言い、マリアは自宅の一室で椅子に寝そべる。するとマリアはクラウスを見ながら話しかける。

 

「貴方も此処に来て随分経つでしょう。そろそろ気を許してもいいんじゃない?」

「しかし……」

「大丈夫、外から()()()()()()から」

 

そう言うとクラウスは納得した上で来ていたタキシードを脱ぐと、下に来ていたシャツの下から薄らと胸の部分に巻いている様子のサラシが見えた。

すると、クラウスは今までの男らしい声が変わり、女性の声となった。

 

「はぁ、共和国から帰って来てこの有様ですか……」

「いいじゃない、人を騙すのは貴方の本望でしょう?」

「本望ではありませんよ…全く……」

 

そう言うとクラウスは結っていた髪をほどき、綺麗な長くて黒い髪が靡いていた。するとクラウスはマリアに聞く。

 

「サラシがきついので一旦取ってもよろしいですか?」

「いいよ」

 

マリアはそう言うと、クラウスはシャツを脱ぎ。付けていたサラシを取るとその奥から締め付けられていた胸が現れた。

 

そう、クラウスは女である。とある事情で仕事から戻ってきた彼女はクラウスという名を貰い、王国内でマリアの助手をしていた。サラシを取って少し楽になった彼女はそのままシャツを締めてタキシードを着直すと、眼下に広がるロンドンの街を見ながら呟く。

 

「ここにいると気分が悪くなってきます」

「でしょうね。街の煤煙が大気汚染を引き出し、スモッグとなっているのだもの……霧の街ロンドンとはよく言った物よね」

「今更ながら、ここに来た事を後悔していますよ」

「あら、それは悪かったわね」

 

そう言うと、クラウスは半ば諦めた様子で口にする。

 

「いえ、あなたに退治された時から分かりきっていた事ですので……」

 

そう言い、クラウスは胸が突き出た女性の体型でマリアに聞いていた。

 

「ですが、不思議な縁があったものです。まさかあんな田舎からこんな大都会に来ようとは……」

「ええ、それは私も同じよ。天子」

 

そう言うと、クラウスこと天子と呼ばれた女性はそのまま目を薄く閉じて答える。

 

「……」

「まぁ、取り敢えずしばらくはクラウスとして頼むよ。天子」

「はっ」

 

天子は了解すると次にマリアに髪を渡す。

 

「御主人様。こちらを……」

「ん?」

 

そこに記された内容に、一瞬だけ目元が細くなった。

 

「軍部内で極一部隊ではありますが不穏な動きがあるようです」

「ふーん、革命?」

「その可能性はあるかと……」

「部隊は?」

「植民地部隊であり、部隊長はイングウェイ少佐です」

「イングウェイ……」

 

紙を持ったままマリアは言う。

 

()()()()、このイングウェイを調べなさい」

「畏まりました」

 

そう言うと、クラウスはサラシを巻き直すとそのまま部屋を出ていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

数日後。

またも王宮に訪れたマリアはいつも通り女王陛下の診察を行う。

 

「……」

 

聴診器を使って心音を確認し、女王陛下の容態を確認する。暫くして聴診器を外した。

 

「問題は無いですわ。今日の調子は宜しいようで……」

「ええ、最近は気分がとても良いの。お陰で外にも出られる」

「今後はどうです?オズボーン・ハウスなどに出向かれるのは?」

「それができれば、何と嬉しいことか……」

 

あそこは今、共和国領である。革命によりロンドンから東に伸びる国土しか島に王国は持っていない。実を言うとアルビオン王国は戦略的に言えばアルビオン島における優位性を失い、ロンドンという巨大都市にしがみ付く……言ってしまえば害虫のような存在になってしまった。

 

「最期に一度くらいは、あそこに行ってみたいものね……」

「きっと行けますよ。女王陛下……」

 

そう言うと、女王は軽く微笑んでマリアに言う。

 

「貴方に言われると、何だか長生きできる気がするわ」

「そうでしょうか?」

「ええ、少なくとも私は。この国で生まれ、育ち、そして死んでいく。それだけで良かった……」

 

そう言うと、女王は街を囲うように建てられた高い壁を見る。ロンドンの壁はロンドン市内だけ建造されていた。それもこの筈で、この要塞はこの規模ですら国家予算の二%が毎年維持費だけで吹き飛んでいる。初めは共和国との国境線全てに建築する予定であったが、こんなのでは到底無理と判断され、ロンドンを囲うようにするだけで終わってしまった。

一応、毎年延伸工事は続けられているが微々たるものであり、高層建築物ということもあり建築中の事故も絶えない。その為、誰も仕事をやりたがらないと言うジレンマを抱えていた。

 

あの壁の建造が始まって十年。国防の要であるロンドンの壁は同時に王国や共和国おも滅ぼし始める要因となり始めていた。当然、この事を指を咥えて諸外国が見ているわけがなく、大陸領ノルマンディー地域圏でも不穏な動きがあると来た。

 

「あの忌々しい高い壁さえなくなれば。それだけで私は安心していく事ができる……」

 

この言葉から分かる通り、女王は共和国との和解を願っている。しかし、政治は全てノルマンディー公に掌握され。彼女が最後にできた政策と言えば、革命前に行った医療改革であった。

 

「あの忙しくも楽しかった日々は、今でも忘られない……」

「ええ、そうですね……」

 

女王は自分の命を救ってくれたマリアと共にこの国の国民を守る為にあの頃は働いていた。女王の強い熱意に、当時の議会ですら動かしてしまった。

 

「あの頃はとても良かった……。国民一人一人が政治を考え、貴族の者達と話し合いをして、国を納めていた……」

 

ベットに横になり、女王は窓の外に映るロンドンの壁を見ながら呟く。

 

「この部屋からまた北のロンドンの街並みをまた見て見たいわ……」

 

その声はまるで、夢見る幼い少女のような願いに似た言葉であった。

 

 

 

 

 

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