とある昔の話、今は共和国領となってしまったお城で起こった小さな少女が起こした細やかな出来事であった。
「シャーロット様!!」
「何処ですか?」
中庭で従者や衛兵が声をかけて探す。
「……」
その様子を遠目から見る青い帽子を被った一人の少女。そのまま中庭の奥の使われていない様子の石積みの井戸を見ていた。
「っ!!」
中を見て、その深さに思わず身震いしてしまったが。少女が意を決して中に入ろうとした時。
「?」
ふと、壁に空いた穴に何かしらの影が映った。見つかったのかと思い、恐る恐る壁の穴を覗くとその先から一人の小さな影が顔を出した。
「「うわぁっ!?」」
壁越しに鉢合わせをしてしまった。そしてその少女は驚いて後に飛び退いてしまった。
「「……」」
鉢合わせた事に困惑していると……。
「君は……?」
「えっと……」
しばらく困惑した後、外にいた一人の少女が壁の穴を伝ってやって来る。
「わわっ!?」
すると近づいてきた少女を見て思わず声を上げてしまう。何故なら、目の前にいる少女は自分とそっくりな見た目で、瓜二つだったから。
その事にお互い呆然となってしまうと、その時声をかけられてしまった。
「シャーロット様?」
「「っ!?」」
そこには王宮のメイド服に身を包んだ黒髪の女性が立っていた。その事に、壁から入ってきた少女は一瞬唖然となった後に逃げようとしたが、そこで女性が声をかける。
「お待ち下さいな」
そう言うと、その声にぴたりと止まってしまった。恐る恐る振り返ると、その女性は少し微笑んだ後に手招きしていた。
「大丈夫ですよ」
そう言い、微笑むとその少女は不思議と足を止めてしまった。何故だろうか、この人の声は信用できると囁かれている様だった。不思議と振り返るとそのまま駆け寄っていた。
「貴方、お名前は?」
ふと、少女に名前を聞かれ。ボロ布にゴーグル付きの帽子を身に纏った少女は答える
「ア、アンジェ…」
「アンジェって言うのね?初めまして、私はシャーロットっていうの!」
互いに自己紹介を終えると、シャーロットはアンジェに駆け寄る。
「私たち友達になろうよ!」
「でも私はつまらない子よ、お友達になっても面白くないと思うわ」
アンジェはそう答えると、シャーロットは否定する。
「ううん、絶対楽しいよ!だって私たち正反対だから」
と言って似た顔を持つシャーロットにそう言われていた。
「そうでしょ、マリア?」
「ええ、そうですね」
その光景をシャーロットの専属メイド長兼執事、マリアは頷いた。
「友人を持つのは良い事です。良い経験にもなりましょう」
そう言うと、マリアはアンジェに顔を近づけて言う。
「申し遅れました。私、シャーロット様の執事をしております。マリア・シルバーと申します。アンジェ様、どうぞご贔屓に」
そうして、彼女達の秘密の関係は此処から始まっていた。
それからの日々は、とても楽しいものだった。マリアの計らいであの井戸の通路は秘密にしてあり、アンジェはシャーロット殿下のご友人として密かに迎えられた。
「今日はこちらのお勉強をいたしましょう」
「「はいっ!!」」
服の取り替えっこや軽食、マリアへの悪戯。どれもが楽しく、マリアはアンジェやシャーロットに勉強を教えていた。二人は双子そっくりで、仲も良く。見ていてとても微笑ましかった。アンジェも勉強には熱心に取り組んでいるようで、シャーロットも負けじと勉強への意識が今まで以上に高かった。
今は二人とも同じ衣装を身に纏っており、マリアはアンジェにもシャーロットと同じ教育を施していた。慣れた手つきでマリアは二人の間に本を置いて内容を聞かせていた。
「こちらは芍薬、曼荼羅花、生姜、葛根と言います」
「……ねえ、マリア。これって学ぶべきなの?」
「ええ、必要な事だと私は思っています。特に生姜は風邪を引いた時などに有用ですので……」
そう言い、マリアは二人に教えて込んでいた。
「コラー!シャーロット様!アンジェ様!!」
その日、離宮にマリアの怒号が響く。一瞬その声に従者達が驚くも、その声の主と走ってくる小さな二人の影を見て納得して微笑ましく道を開けていた。
「わーっ!マリアにバレたー!」
「逃げろ逃げろーっ!」
そう言って廊下を走るのはシャーロットとアンジェだ。アンジェの手には鍵の束が握られ、二人は自分の部屋に駆け込んでいた。そしてその後ろをメイド服を着たまま追いかけるマリア。そして、他の従者達の前で足を止めると肩で息をついた様子だった。
「ぜぇ…ぜぇ…全く、良い友人かと思えば…」
こんな悪戯をしやがって。と顔に浮かび上がってしまっているマリアに完全に弄ばれていると思いながら衛兵がそっとマリアに水を渡した。
此処最近のシャーロット殿下とアンジェ様の流行りの悪戯である、鍵の束を気付かれずに持っていく事。他の従者では気付かれずに持っていくのだが、シルバーメイド長の時のみバレてしまい。二人はどうやらシルバーメイド長にバレないまでこれは続きそうだと内心微笑ましく思う。
アンジェ様との関わりがあってから、シャーロット殿下の顔色はいつもより良いものとなっていた。これも単にアンジェ様との関わりがあったからの事だろうと思いながら自分の仕事を続けていた。両親に変わり、シャーロット殿下を育ててたシルバーメイド長にとっても嬉しい事だろう。
「全く、子供をメイド長に預けて。あの両親は何をしているのやら……」
思わずそう呟き、とあるメイドはシャーロット殿下の親に軽く愚痴を呟いてしまった。
〜〜♪〜♪♪〜〜♪〜〜
今日は離宮にあるグランドピアノで、習ったばかりのアンジェとシャーロットは連番で音楽を奏でる。その後ろでマリアは二人の席と紅茶を用意し、そこにはエクレアも用意されていた。
「シャーロット様、アンジェ様。紅茶のご用意ができました」
そう言い、振り向いた矢先。置かれていたエクレアを見てシャーロットは興奮気味にアンジェに言う。
「わぁっ!マリアのエクレアがあるわ!アンジェも早く!!」
「エクレア?何それ?」
「マリアの作ってくれるお菓子!パリにある有名なものなんだって!すっごく美味しいの!」
「そうなんだ!」
シャーロットがあれだけ推していると言うならば。と言う事でシャーロット達は紅茶を飲み始めた。
シャーロット殿下の世話を殆ど任されているマリアはそこで夕食の余りをアンジェにも分けていたりしていた。部下にもその事は知らせてあり、他の従者や衛兵達も納得した上でアンジェに接触していた。この時、他の使用人達もシャーロット殿下が女王になる可能性も圧倒的に低かった事から目を瞑っていたのだろう。
いずれは何処かの国に嫁入の為に国を一生離れる事になるだろうからと……。だからせめて子供のうちはと……情けに近いものだったのだろう。それはシャーロット殿下のご両親もご理解されていた。……と言うか、あの両親は自分の生んだ子供だと言うのに興味がなさすぎるのだ。腹を痛めて産んだ子供では無いのかとマリアは怒鳴り込んでやりたい気分だった。
シャーロットとアンジェが紅茶を飲んで休憩している中。マリアは城を管理する衛兵からの報告を受けていた。マリアはこの離宮の長も務め、シャーロット殿下の警護責任者でもあった。これも帝位継承権が低い者の宿命かと納得しながらもやや呆れもしていた。
シャーロット殿下の乳母として幼児の頃からマリアはシャーロットを育ててきた。だから、シャーロットもまるで自分の事を親のように接してくれた。そして、そんなマリアの最近の悩み事は……
「マリア様、
「…はぁ、
離宮に対する攻撃。
目下、マリア達が頭を抱える問題だ。此処最近は特に酷いもので、今日なんか手製の槍を投げつけたと言う。
「何としても殿下の安全を最優先にしなさい。……それから上に掛け合って。シャーロット殿下をロンドンに連れ戻すように嘆願して」
「はっ!」
そう言い、部屋の端で衛兵と話したマリアはそう指示をして衛兵を下がらせる。
「(厄介な事にならなければ良いが……)」
内心そう呟きながらマリアはシャーロット達を見る。こう言う、暴力的な行動はいずれ暴徒と化すのは歴史が証明している。生卵にお手製の槍が投げ入れられた事から、次は大砲でも持ち出すかも知れないと感じ。危機感を募らせていた。
アフターヌーンティーも終え、午後の勉強に入ろうとしてシャーロット殿下達を呼びに行った際。部屋の中で待っていた二人の子供はそれぞれのトレードマークにも近い服を着ており、マリアに問いかける。
「「どーっちだ?」」
これもまた、マリアに良くやる悪戯だ。それぞれ来ていた服を交換したり、して居なかったりしてどちらがシャーロット殿下なのかを当てるゲームをしていた。
二人をよく観察し、少し間を置いたマリアはボロ着を着ている方の少女の手を取って答える。
「こちらが、シャーロット様でしょうか?」
そう答えると、二人は顔を見合ってニヤッと笑った後に答えた。
「「違いまーす!」」
「あら…申し訳ありません」
本来であれば重罪ものであるが、いつもの事なのでシャーロット達も満足げにハイタッチしていた。
「「大成功〜!」」
そう言い、ハイタッチした彼女達は嬉しそうに言葉を噤む。
「やっと、マリアを騙せた!!」
「満足満足!!」
そう言って二人はベットに飛び込むと、嬉しそうに笑う。その様子を見ながらマリアはアンジェに提案する。
「アンジェ様、この後ご予定などはございますか?」
「え?特に無いけど……」
そう言うと、アンジェの顔を見ながら真剣な眼差しでマリアは聞いた。
「少し、お話ししたいことがございますので……宜しいでしょうか?」
「う、うん……」
その顔を見て、ただ事では無いと直感で感じたアンジェは頷くとマリアは彼女の手を軽く引いて部屋を後にする。
「シャーロット様はこちらへ」
そう言い、アンジェと別れる事にシャーロットは名残惜しそうにしつつも。そのまま別れて行った。