願いの女神   作:Aa_おにぎり

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第二三話

とある日、ちせはとある人物と面会をしていた。

 

「お初にお目にかかります。ちせ様」

「初めましてじゃな。話は伺っておる、クラウス殿」

 

相手はクラウスだった。マリアから聞き、クラウスとの面会を申し出ていた。そして、彼の前にちせは部屋で漬けていたが同室のベアトリスに文句を言われて、仕方なく別室に置いていた糠漬けの壺を渡していた。

 

「これが糠漬けと言うものだ。お主、そう言った日本に興味があると聞いておるからな」

「おお、糠漬け……」

 

そう言い、クラウスは何処か嬉しそうにしながらちせからぬか漬けされた胡瓜と茄子を受け取ると、その横で白米を渡した。すると、クラウスは明らかに目の色を変えて白米の入った袋を手に持つと呟く。

 

「おー、これこれ。これを待っていたんだ……」

 

その目は嬉しそうであった。ちせはマリアの助手の面会希望や、この日本の料理を出した時の顔。そして、クラウスの傍に置いてある細長い物を見て彼に聞いた。

 

「お主…何が目的なのじゃ?」

「おや、それはどういう事で?」

 

クラウスの聞き返しに、ちせは単純に答える。

 

「そのままの意味じゃ。お主、()()()()の面会を強く希望したそうじゃな。その理由を聞く為じゃ」

「……答えないと言えば?」

「このまま斬る」

 

そう言い、日本刀を片手に持つ。

 

「おぉ、怖……でも宜しいんで?外国人を斬り捨てるのは?また生麦事件の様な出来事でも起こすつもりで?」

「……」

 

生麦事件、かつて日本で起こった日本人がアルビオン人を切り捨てた江戸末期に起こった事件だ。薩摩藩の大名行列の規則を知らなかったが故に起こった斬り捨て事件で、当時の尊皇攘夷運動も相まって後の薩英戦争に発展した事件であった。

 

「むっ……」

 

クラウスにそう言われ、ちせは普段の感覚を持ち出してしまっていたが、よくよく考えればまずい事なのだと認識すると握った刀を一旦置いた。

そしてクラウスは一旦息を整えると、サングラスの向こう。光の加減で見えた狐色の瞳は真っ直ぐちせを捉えると口を開いた。

 

『まぁ、貴方が日本人だから興味があってお話ししたかっただけですが……』

「っ!?」

 

今こいつは何語を喋った?いや、何語と言うか目の前のアルビオン人は今……日本語を喋った?いや、特段おかしい事ではない。だってアルビオン人にも日本語を学んでいるものもいる。特に最近のアルビオンでは日本文化が流行っているとも聞く。だから日本語を覚えていてもおかしな話ではないのだが……

 

『それとも、久しぶりに日本食が食べたくなった。と言えば宜しいですか?』

『…お主、もしや……』

 

ちせの問いに、クラウスは間を開けて頷いた。

 

『……ええ、私は日本人ですよ』

『っ!!やはりか……』

 

出なければこんな流暢な日本語を喋れる筈が無い。すると、クラウスは常につけているサングラスを取りながら言う。

 

『少し昔に西洋の医療を学ぶためにアルビオン人に此処に連れてきてもらい、今では宮廷医務局に勤める医師ですよ』

『……そうか…お主、生まれは?』

 

ちせが聞くと、クラウスは答えた。相手が日本人な為に、日本語での会話だ。

 

『伊勢の方、前までは刀工の下で働いておりました』

『刀工……』

 

ちせは思わぬ発見に驚いていた。刀工と言うことは腕前は相当なものだろう。すると、クラウスは今の仕事をちせに話す。

 

『今はマリア女医の助手として、メスの製作や注射針を作っていますよ』

『ある意味では天職だな。やっていることはほぼ変わらんのでは無いか』

『ええ、実質やっていることは同じです』

 

そう話していると、不意にちせは疑問に思う。

 

『お主、西洋の医療を学ぶ為に来たのであれば政府の援助も出ように。それをしなかったのか?そもそも此処まで来る費用はどうしたのじゃ?』

 

ちせの場合は逆賊となった父を討つために堀川公の乗って行った船に無断で乗り込んでいたが、目の前のクラウスと名乗る青年はどうしたのかと問いかける。西洋の医療技術を手に入れるためとあれば、明治政府からの助成金が出ていくと言うのに……。

 

『ええ、費用などは私を連れ出したアルビオン人が全て払ってくれました。それに、政府に駆け寄ってもそこまでの才能も有りませんでしたし、何より私は武士で無い上に伊勢の出身ですので』

『……』

 

ちせはそこで妙に納得できてしまった。今の日本政府は殆どが薩摩藩や長州藩の出が多く、それ以外はまともに政治すらやらせてもらえない現状だ。伊勢出身でもそれな地の地位があれば外国に行かせてもらえるだろうが、武士でないのなら一気にハードルは上がる。ちせは武士の家の出身だから堀川公に目を瞑ってもらえるのだろう。

だが、英語を話せる時点で日本としては重宝される様な気もするが……。

 

『まぁ、こんな生まれですので私のことはどうかご内密に』

 

そう言い、再びサングラスを掛けるとちせは聞いた。

 

『しかし、なぜその事を私に?』

 

その問いにクラウスは間をおかずに答える。

 

『理由は簡単ですよ。ただ日本の白米が恋しくなっただけですので。……アルビオンの飯は不味くて敵いませんから』

『あぁ……』

 

ちせは大いに納得できた。

確かにアルビオンの飯はまずい。本当に不味い。少なくとも食の冒涜とも取れる味にクラウスも内心涙目だったのだろう。

 

『苦労したのじゃな』

『全くです……どうです?この白米のお礼にちせ様のその日本刀を磨がせていただくと言うのは』

『……どうしたものかの』

 

そう呟きちせは思わず懐にある日本刀を見てしまう。これは自分にとってのトレードマーク。仕事道具にも近い。そんな命以上に大切な物を他人に預けるのもどうかと思ってしまうが、此処最近の戦闘でそろそろ研がなければと思っているのも事実。おまけに相手は刀工、研ぎはピカイチだろう。この男の心情を考えた先、ちせが出した答えは……

 

『この学校で研ぐのであれば頼もう』

『……お任せ下さい。この国で白米が食べれるお礼です。切れ味は抜群にさせて頂きましょう』

『砥石はあるのか?』

『ええ、日本から離れる際に持ち込んだ刀と共に』

『刀……?』

『こちらですよ』

 

そう言い、白米を鞄にしまった後。クラウスは卓上に今まで布に包んであった一本の刀を取り出した。ちせの使う小太刀ではなくクラウスが持っていたのは太刀の方だった。

 

『太刀…どうやって……』

『他の仲間がくれた物をそのまま持ってきました。この国で私のお守りの様な物ですよ』

 

そう言い、クラウスは取り出した刀の刀身をちせに見せた。太刀は今の自分では満足に振り回せない事を知っている為に、使ってみたいとは思いたく無いがその刀身や反り、刃文なとから発せられる妖しい魅力にちせはよくよく考えるとヒヤリとなった。伊勢で刀工と言えば……。

 

『お主、まさか村正の……?』

 

その問いに、クラウスは正解なのか分からない答えかたをした。

 

『さぁ?そこまでは流石に……』

『……』

 

するとクラウスはその太刀を構えると一振りした。

 

ビュンッ!!

 

その一振りは見事な物で、音も鋭くまるで空気を斬っている様にも聞こえた。

 

『……鍛冶場の皆は風斬と呼んでいました』

『っ!』

 

伊勢の鍛冶場。それはつまり、クラウスと名乗るこの日本人は元は村正の鍛冶場で働いていたと言う事はほぼ間違いないだろう。それはつまり……

 

『その刀は村正の作品なのか……』

 

そう聞いてしまい、ちせは思わずクラウスの持つ太刀を思わず眺めてしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「それで、あの日本人の子にはその刀を見せたわけね……」

「まぁ、そんな所です」

 

移動途中、声だけ変装を解いているクラウスは車のハンドルを握る。その横でマリアは呟く。

 

「でも良かったじゃ無いの。念願の白米よ?」

「代わりにこちらはあの少女の持つ刀を研ぐわけですが……」

「あら良いじゃない。そう言うの得意でしょ?」

「まぁ、最近は特に風斬の出番も有りませんでしたが……」

 

そう呟くと、マリアはクラウスに言う。

 

「意外と風斬を使う日は近いかもよ?」

「それは……」

 

クラウスはその意味を理解すると、マリアは呟く。

 

「まっ、まだ確証は持てないがね……」

 

しかし、頭に片隅には置く様にと言う忠告を受け。クラウスはほんの少しだけ警戒をしていた。

 

「革命騒ぎですか……」

「まだ起こってはいないけど、警戒するに越した事はないわ」

 

そう言うと、二人は仕事場である街の診療所に向かって行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

数時間後、日も暮れて辺りは夜になり。空には煙に包まれた月が浮かび上がっていた。そんな中、自宅に帰ったマリア達はそこでクラウスに車を任せるとそのまま家に入っていく。

 

此処は革命前、女王陛下を治療したお礼に貰った家だ。実験室や畑、簡易的な治療室も兼ね備えていた。そんな家の中、マリアは自宅に入りそのまま荷物を片付けていると、後ろから拳銃を構える音が聞こえた。

 

「……穏やかじゃないわね」

 

銃口を突きつけられているにも関わらずマリアは非常に落ち着いた様子で聞く。

 

「ねぇ、アンジェ様」

「……どうして分かったの?」

 

マリアに銃口を突きつけるアンジェはそう聞くと、彼女は落ち着いた様子で答える。

 

「何となくよ。家の中に誰か入ったのだろうと思っていたけど……」

 

そう言うと、今度はマリアが聞く。

 

「クラウスは?」

「彼なら寝ている筈よ」

「そう……」

 

すると、アンジェは銃口を突きつけたまま彼女に聞く。

 

「貴方に聞いたいことがあるの」

「答えられる範囲であれば……」

 

そう言うとマリアは振り向き、アンジェと対面で向き合う。すると彼女は懐から小さな金属の欠片の様な物を取り出して見せた。

 

「それは?」

「ベアトリスがくしゃみした時に彼女の声帯から出て来た物」

 

そう言い、アンジェはその欠片の様な物を見せながら拳銃の照準を外さぬまま眉一つ動かさないマリアに追求する様に聞く。

 

「人工声帯の部品では無いと聞いたから詳しく調べたけど、此れが何なのかは分からなかった。だけど、貴方の車を調べた時に盗聴器の受信機があったから、これが盗聴器だと分かった」

「……」

「そして、彼女の声帯を触れるのは本人以外には貴方しかいない」

「……なるほど、それで?何が望み」

 

そこでアンジェはやや驚く。てっきり誤魔かすかと思っていたが。

 

「貴方が動くときは確信をついたからでしょう?言い訳しても、どうせ結果は同じだもの」

「そう……」

 

残念だと、アンジェは思いながら引き金にかける力を強めた時……

 

「っ!?」

 

突如アンジェの後ろから現れた影に彼女は反応が遅れ、マリアと同じ構図を作られてしまった。後ろには同じく拳銃を構えるクラウスの姿があった。やられたとアンジェは咄嗟に死を覚悟すると、マリアは軽く怒鳴った。

 

「いい、どうせいつか話そうと思っていた事だ」

「……はっ」

 

するとクラウスは向けていた銃を仕舞う。その事にアンジェは混乱していると、突如マリアが話す。

 

「貴方が困惑するのも理解できるわ。まぁ、仕方がないけれど……」

 

そう言うと、マリアは徐にアンジェの持っていた拳銃の手を引き寄せる。

 

「っ!?(体がっ…!?)」

 

その時、アンジェは体が全く動かない事に驚愕する。いや、動こうと考えてはいるが体が石になったように固まったまま言うことを聞いていなかったのだ。

 

「本当は貴方が王位に即位したら話すつもりだったけれど……」

 

そう言うと、マリアはアンジェの拳銃を胸の前に押し当て、そのままアンジェの持つ拳銃の指の上に力を掛けながら言う。

 

「今や貴方じゃあ、これくらいのことでも驚かないでしょう?」

 

そう言うとそのままマリアは引き金を自分の手で引いた。

 

ダァァァンッ!!

 

部屋に一発の銃声が響いた。

 

 

 

 

 

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