願いの女神   作:Aa_おにぎり

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第二五話

「そんな……」

 

アンジェは驚きと混乱で頭がごちゃ混ぜになる。まるでマリアの手の上で転がっていたような気分だ。まるで私はマリアの手で王国に本物のアンジェに会いに行った様ではないか。その事に、内心アンジェは無性に燃え盛る感情が昂った気がした。

 

「でも、私達ができたのは此処まで。貴方が王国に来たのは紛れもなく貴方の意思があったから……。私は貴方の魔女の因子が覚醒しないかどうかを見ることしか出来なかったから……」

 

そう言うと、マリアは握っていた拳に力が入っていた。それを見てアンジェはマリアの心情を理解できた。恐らくマリアは私を保護できたから、本当はシャーロットの元に連れて来させたかった。だけどあの時期、王国と共和国の間に壁が建設された。その中を進む事は極めて危険な事だったのだろう。後一歩といったところで何もしてやれなかった不甲斐なさにマリアは苛まれていたのだろうとアンジェは察した。

 

「あの時ほど悔しい思いをした事はなかった……。自分の目の届く範囲に貴方がいたと言うのに、貴方の望みを叶えてあげる事ができなかった……」

「でも、どうやってその情報を共和国からマリアに届けていたの?」

「それは簡単よ。私達には協力者がいたもの」

「協力者?」

「簡単に言えば、私達が今まで救ってきた患者……と言えば良いわね」

 

そう言われ、アンジェは納得する。マリアは医者だ、そんな中で協力者を作る事も造作もないのかもしれない。しかし、そこまで言ってしまって良いのかと疑問に思ってしまうがマリアはマリアでアンジェの弱点も多く握っている、それも特大の爆弾を。だから言っても問題ないのだということなのだろう。

 

「ある程度成長して、順調の魔女の因子が貴方の体に馴染んだのを確認してからクラウスを帰国させ。後は貴方の思っている通りよ」

「……」

 

アンジェはマリアからの告白を聞き、半ば呆然となりかけていた。一連の話にアンジェは冷静に纏めようにも動揺の方が激しく、まともに纏め上げられなかった。

 

「そして貴方は来た、この王国に……そして、貴方はこの国の壁を取り払うために、此処に来た」

「……えぇ」

 

それは約束をしたから。今のシャーロットと、必ず壁を取り除くと誓って……。するとマリアは最後に私に向かってこう話した。

 

「ただ忘れないで欲しい。私は、()()()女王にしたいと言う事を……」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーー結局聞いては来なかったか……」

「それはそうでしょう。シャーロット殿下も大分混乱されておりました様子でしたし……」

「まぁ、またいつか聞いてくるでしょう」

 

屋敷から出ていくアンジェを見ながらマリアは呟く。

 

「しかし、彼女の発芽した特技は秘匿しておいた方が良さそうだものね……」

 

そう話すと、マリアは家の中に戻って行きながら言う。

 

「いずれは魔法も使える様になるかも知れないわね……」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

アンジェに自分の正体を明かしてから数日後、マリアは宮廷医務局に訪れていた。今日は一年に一回行われる宮廷従事者の定期検診が行われる日であった。

間も無く新王立寺院での来賓を迎えた式典が予定されている、そこで出席する従者を中心に検診を行っていると宮廷の医務室で多くのメイド長の体調を確認していた。

 

「問題ありませんね。はい、次の方」

 

宮廷には多くのメイドも勤務している。その為、余計な粗相を起こさない為にも宮廷の医務室にはマリアの様な女医も勤務していた。女王陛下救った為に今まで極めて少なかった女性の活躍の場は増えてきていた。そして、此処にはマリア以外にも女医が勤めていた。

 

「先生、そろそろ交代の時間です」

「あら、もうそんな時間だったか……じゃあ、あとを頼むわ」

 

そう言い残すと、マリアは時間を見て交代に来た別の女医に仕事を任せると宮廷医務室を出て行く。

 

 

 

マリアは女王陛下の主治医として此処数日は王宮に縛り付けられていた。女王陛下が新王立寺院で万全の状態で出席できる様にする為にマリアも王宮に泊まり込みで過ごしていた。お陰でシャーロット殿下の元に行っての世話ができない始末だったが……。

 

「後を頼むわね」

「はっ」

 

マリアに割り当てられた部屋に入ると。そこではマリアと同じ格好に変装し、いつも履いているシークレットブーツを脱いでマリアと同じ身長となっていたクラウスが待っていた。

 

マリアは来ていた白衣を脱いでそのままクラウスに渡すとそのまま窓の外からダイナミックに飛び出した。そして胸元にあるCボールに似た物に手を当てて、ボタンを押し込むとマリアは青白い光に包まれてそのまま街の中に消えていった。

 

「全く、うちのご主人もシャーロット殿下とそれほど変わらんではないか……」

 

クラウスはそう呟くとマリアの出て行った窓を閉めると代わりの医者として休憩をしていた。

 

 

 

 

 

長年彼女に仕えてきた彼女の目からしても、マリアのケイバーライト障害の治療法は狂気的と表現したくなって来てしまう。

 

この前、エリック・アンダーソンとの取引で彼女の妹であるエイミー・アンダーソンへ眼球の治療を施した際。マリアは自分の眼球を摘出し、直ぐに復活した眼を使い、新鮮なままの元々マリアの眼球だった物を患者の眼球に移植していた。

彼女が不老不死で、尚且つ目ですら直ぐに復活したからできた所業だ。少なくとも常人では思いつかないし、出来ない物だ。移植した目は幸い拒絶反応もなく、結果は良好で。今は記憶を消された……と言うのは語弊があるが、思い出せないように記憶を加工した状態でバレエ団に入団していた。エリックは顔をマリアの手で変えられていたので直接会うことを許されず、今は別の名前をもらって彼女の所有する研究所の一員に紛れていた。

 

「はぁ、今更ながら。我が主人は恐ろしいな」

 

何せ自分のような妖とは違い、元が人間だからこそ……いや、人間であってもあのような暴挙に出るとは思っていなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

自分は妖怪と呼ばれる存在だ。

 

名前は特に無かったが、自分を見た物は皆口を揃えて『気狐』と呼んでいた。そして、人を襲いながら生活していた所を修行僧として旅をしていたアリス……当時は香道と名乗っていたその女に退治された。

 

『私を殺すのか?』

 

退治され、能力を全て奪われた私は死を覚悟していたが、彼女は被っていた網傘を傾けて顔を見せながら逆に聞いて来た。

 

『私に付いてくるか?』

 

その問いに初めは疑問に思ったが、生き延びると言うことならばと言うことで本能が働いて私はその女と共に私は天子という名を与えられて旅をすることとなった。その過程で私は彼女の秘密を知った。

 

『そんなに私の腕が美味そうに見えるか?』

 

とある晩、旅を続けていた彼女から聞いた言葉だ。修行僧として旅を続けていた彼女はそう言うと、私の前に左腕を差し出すとそのまま自分の腕を切り落として差し出して来たのだ。驚かないはずが無く、私は眼を見開いたが、その瞬間切れた腕から新たな腕が生えて来たのだ。骨から肉、最後に皮膚が出来上がり、斬った右腕は元通りになっていた。すると彼女は笑いながら私に言った。

 

『私の能力さ。いくら斬っても必要な栄養分さえあれば、私の体は復活する。……半分貴方と同じような生き物ね』

 

聞くところによると彼女は不老不死と言う能力を持った元人間だと話した。私と会うまでも長い時を過ごして来たと言う事だ。一体どれだけの時を過ごしたのだろうかと思っていた。

因みに斬り落とされた彼女の腕は、とてもじゃ無いがまともに食べられないくらい不味い物だった。その様子を見て、彼女はやや笑いながら呟いていた。

 

『ははっ、妖怪にも食えない味とはね……』

 

そう言うと、彼女は少し悲しげな表情も浮かべていたのをよく覚えていた。

 

 

 

 

 

彼女と旅をして来て実に多くの出来事を体験した。多くの人と関わり、別れた。道中、妖怪に襲われた旅人なども助けた事もあった。その際、アリスは私に妖怪退治を全てまかせていたのは癪だったが……。それでも、それが少し嬉しくもあった。

 

そして、アリス自身も実に多くの肩書きを持って生活していた。ある時は修行僧だったり、商人だったり……実に百の顔を持ち合わせていた。ただ、その中でも最も医師として働いていた事が多かったと内心思う。

 

彼女は基本的に優しい。人を救う事が好きなのかと思うほどお節介だった。だからある時聞いた事がある。

 

『そこまで人を救う事が好きになのか?わざわざ自分の正体がばれてしまうかもしれないと言うのに』

 

そう聞くと、彼女は私の頭を軽く叩いた後に答えた。

 

『何を言っているのよ。人との縁は大事にしない行けないのよ。そうでもしないと、生きている事に充実してこないから……』

 

それは、彼女なりの生き方なのだろう。だが、それには失ったときの悲しみを伴う事になる。そう言うと、彼女はやや驚きつつも嬉しそうにしながら軽く頭を叩いて言った。

 

『貴方も成長したのね。失う事に悲しみを覚えるなんて……』

 

そう言うと、アリスは空を見上げながら答える。

 

『確かに、失う事は悲しい……だけど誰かと接して、別れを感じる事で私もどこか救われているんだと思う。出なければ私はとっくの昔に廃人になっていたでしょうね……』

 

そう言い、アリスは自分にそう言っているように感じた。

 

『誰かのために働くと言うのも悪くはないわよ?』

 

 

 

 

 

それから、私は彼女を御主人と呼ぶようになり修行をするようになった。

妖怪の身ではあるが、手先は器用だったので辿り着いた伊勢のとある鍛冶場に辿り着き、そこで働く事にしていた。そこで修行の為に御主人とは一時的に別れ。昼は鍛冶場の人間として働き、夜は村に近づいて来た妖怪を退治していた。余所者を置いてくれたお礼に近い様な物ではあったが、誰かの為に働くのも良い物だとアリスの言っていた事も理解できた気がした。

 

しかし、そんな生活をしていたある日。村の者に変装を解いた状態で妖怪を殺していた所を見られてしまった。初めは追い出されるかと思ったが、彼らはその事を知っても温かく迎えてくれた。それが嬉しく思った。

それからの私は鍛冶場で刀工として働く狐の妖怪であり、いつしか小さな社まで作ってもらっていた。刀を受け取りに来ていた武士などから刀の扱い方も教わった事もあったりした。妖怪に士農工商は関係ないと言っても武士に教えを乞いた時は盛大に笑われた事もあった。

 

そんな生活を続けていたある日。私はいつの間にか黒狐となり、そして村を出る事となった。その際、肩身として私はその時村に残っていた風斬を受け取った。それは嘗て自分が作った日本刀だった。試しにとある武士が振った際に風を切り割いていた事からその切れ味に誰も手を付けなかった代物で、今までのお礼代わりに受け取っていた。そして、村を出て御主人と共に日本を飛び出て旅をし始めていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーーー思えばあれから数百年。随分と長い事帰っていなかったんだな……」

 

今頃あの村はどうなっているのだろうか。少なくともあの時代の人はもう居ないけど、今でもあそこは残っているのだろうか……。

そろそろ帰って見たいと、彼女は内心思っていた。

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