願いの女神   作:Aa_おにぎり

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第二六話

この時代の人間はまだ知らないだろうが、ケイバーライトは人工的に生成することが出来る。まぁ、作り方なんかは失われているものの、材料は揃えられるはずだし、列強各国が人造ケイバーライトの実験に巨額の資金を投じている。

 

そしてケイバーライトは蒸気を使って無重力にすることが出来ると言われているが、本当はもっと効率的な使い方がある。それは……

 

「電磁波を使えば、蒸気なんか使わずとも何十倍も効率がいいのよね……」

 

そう言い、胸に超小型Cボールを持って街を飛行する。普段はペンダントとして胸に付けているこのケイバーライトは、超高圧下で圧縮した人造ケイバーライトを搭載しており、この時代の人間ではまず真似する事は難しいと断言できる。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

私は魔女だ。

 

元々は魔女の家系で育って来た。

 

それはとても昔の話だ。

 

 

 

嘗て、とある高地に私の生まれた街はあった。その街には多くの魔女が集まり、独自の優れた科学力を駆使して他と一線を画す一大文明を築いていた。

私、アリス・キテラはその中でもキテラ家と呼ばれる魔女の一家に生まれた。幼い頃から魔法に対する能力は高く、その才能を見た両親に多くの魔法を教え込まれた。今となっては良い思い出だが、もともと良家の出でなかったことが幸いし、各家々の慣習に縛られることなく実に多くの魔法を教わっていた。

私は街の医者夫婦の娘として魔法を学ぶ傍ら、医者の娘として医学の勉強もして、その中で薬学についても齧っていた。

 

 

 

 

 

しかし、そんな生活は唐突に終わった。

その科学力に恐れた周辺の国々がまとめて私達の住む魔女の国に侵攻を始め、魔女狩りと称した殺戮を開始した。街は焼かれ、逃げ遅れた魔女の称号を持つ者達は次々と首を刎ねられていた。その頃の私は街に残されていた魔法の資料を全て覚えていた、ある意味で究極の魔女として突撃してくる無数の軍隊を迎え撃っていた。

 

無様にも焼かれて死んでいく敵の兵士。

泣き叫びながら逃げ出す街の人々。

 

しかし、数の暴力によってだんだんと押されつつあった。

 

『アリス、聞いてほしい』

 

燃え盛る炎の中、私は魔法の師に両肩を掴まれながら言われた。

師匠の顔には血が流れ、既に息も絶え絶えで死にかけだと言うのがよく見えた。周りには善戦をしたが、敵の物量に押されて斃れた仲間の魔女の死体が溢れていた。

 

『アリス、君は良い子だ。優しい子だ、だから此処から逃げるんだ』

 

何故と問うと、その師は言った。

 

『君の優しさは街の誰もが知っている。だから、君だけでも生き延びてくれ。そして、私たちという存在を忘れないで欲しい』

 

そう言うと、その師は私を崖から突き落とした。

 

 

 

そしてその願いは私に不老不死の力を与える事となった。

 

 

 

それからの歴史は嫌でもよく覚えている。我々の住んでいた街は自爆用に置かれていた爆弾による爆発で跡形もなく吹き飛び、侵攻して来た連合軍や無数の戦車に装甲車、戦闘機などを道連れにした。

魔女の文明が無くなり、残された国家は各地に残った魔女の遺産を巡って無数の戦争を引き起こし、その後大半の人が死んだ事で文明は滅亡した。一部は月に逃げたと言う話もあるが、真相は分からない。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

この世界に生まれて数千年、私は多くの出会いと別れを繰り返して来た。その中で魔女の遺産は前文明の滅亡と共に失われ、新たに誕生した人類の文明にその技術は受け継がれなかった。たった一つを残して……

 

 

 

ケイバーライト

 

 

 

私たちの間では専ら『魔石』と呼称していたその物質は辰砂やその他無数の金属を融合した物を高圧下のヘリウムの中に放り込み、一定の温度で数日間放置すると出来上がる代物だ。この時代での再現はなかなか大変ではあったが、機材さえ作れば簡単であった。そしてケイバーライトは魔女の魔法発動の媒介となり、消耗品でもあった。

 

そんな前文明時代の遺産は今のアルビオン島のロンドンから発掘され、今の覇権国家を形成していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「まぁ、まだこの時代の人間は電磁波の存在すら知らないから仕方ないけれどね」

 

そう呟きながらマリアは煤煙吹き出る街の上を飛んで行く。私が生まれた時代は既に蒸気の時代なんかとうの昔に終わっており、街には核融合機関を搭載した自動車が走り回っていた。今の不満と言えば空気が圧倒的に悪すぎて息苦しいのが困りものだ。おまけに医療技術も進まないから満足な治療ができない。昔はどんな難病でも治療ができたと言うのに……。それこそケイバーライト障害すら……。

 

「まぁ、二十世紀になればそれも変わるでしょう」

 

事実、内燃機関の開発は終わっているし。

超小型Cボールを使って自宅に到着した私はそこで常に持っているケイバーライトを使うと、地面に掘られた魔法陣が発動して地面に穴が開く。

 

 

 

 

 

前文明でも、この時代でも、死者蘇生の儀式は成功した事がない。

では、私が願いの女神として蘇生しているのは何か?答えは簡単。

 

 

 

中身()を回収し、新たな(身体)を作って仕舞えばいい。

 

 

 

我々魔女の間ではよく行われて来ていたホムンクルスの精製……正確には回収した遺伝子を培養、新たな身体を造り、そこに回収した魂を固定させる。我々の間では『擬似転生』と称した代物を行っていた。

 

擬似転生の対象は私の目につき、尚且つ情報を多く持っている者に限られる。既に街には私の協力者となるホムンクルスは多く存在し、ロンドン市内でも千は下らないだろう。生殖能力を持たない以外は至って普通の人である彼らを見破る術は彼らは持っていなかった。

 

 

 

 

 

この時代には似合わぬ程未来的な通路を抜け、マリアは持っている小型Cボールを壁に当てると、壁の中から形状記憶合金で作られた重厚な扉が音もなく現れる。そしてその中には液体の詰まったポットの中に入った無数の人の姿があった。この時代、自分があの頃を再現できたのはこれが限界だった。

 

「さて、共和国の動きもきな臭くなって来たわね……」

 

不老不死になり、一時期は死にたいがために至る方法で自殺をした事があった。しかし、脳を撃ち抜いても死ななかった為に私は死ぬことを諦め、この呪いを解く方法を探していた。

二十歳の頃から姿形も変わらぬ本当の意味での生きた歴史書である私はどんな存在なのだろうと考えた事がある。

 

自分は神ではないと思っている。もし自分が神であるのならばこのような実体を持たないからだ。

そして、この不老不死の原理を調べた時ある弱点があることを発見した。それは、斬られた部分は再び繋ぎ合うことなく、体内に蓄積された栄養と魔力を糧に新たに生成されるという事。そして、その栄養が足りなければ肉体の再生は不十分で終わるという事。それを使ってわざと栄養不足の状態で身体を切り刻んだが、首だけの状態で生きるという無様な状態になってしまった上に、切り落とされた部分から溢れた魔力が栄養を何処からか回収して勝手に身体を生成していたのだ。

 

細胞は劣化こそするものの、鮫の歯のように次から次へと新たな細胞が準備され、随時更新されていた。

 

「まぁ、今はどうでもいい事だけど……」

 

思わずそう口にし、彼女は家の地下に作らせた実験室を進み、中に入る。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

この世界のイギリス……アルビオンも、最終的には同じ結末を迎えることになるだろう。

支配して来た植民地を失い、経済は低迷。かつての権威も失う事になるだろう。そして拗らせて折角加入した欧州連合から脱退してさらに広がる混乱。

 

「あー、ヤダヤダ。革命なんて起こしたくないわね」

 

マリアはそう溢しながら部屋に入ると、そこには幾何学的な模様が至る所に張り巡らされた実験室が現れた。そこには結晶化した大きなケイバーライトや、無数の配管などが敷き詰められ、ある意味幻想的な空間であった。

しかし、彼女はそんな空間に目もくれず部屋にしまっていたいくつかの道具を手に取る。

 

「さて、下手な革命騒ぎを起こす馬鹿は何処の何奴かな?」

 

そう呟きながら、彼女は時代に似合わない立体映像もどきを眺めた。

 

「ふーん、チェンジリング作戦が軍主導にね……」

 

これは厄介だ。頭でっかちな軍部が諜報を握ったと言う事は、作戦を無理に強行する可能性がある。とすると、シャーロット殿下を殺す命令でも出しているかもしれない。そらかもう既に指令は出しているか……

 

「どちらにしろ、今度の革命騒ぎを裏で手引きしているのは共和国軍部で間違いなさそうね……」

 

時代を変えるのに革命は必要なことではあるが、まだ時期早々と言える。

 

「いくら軍人が革命を起こしたとしても、この国に待っているのは貧困と格差だけよ」

 

下手をすれば軍人がトップになり、絶えぬ戦乱の世が待ち受ける可能性がある。

 

 

 

 

 

かつて、戦争の世紀と呼ばれた二〇世紀のように……

 

 

 

 

 

「さて、行きますか……」

 

彼女はそう呟くと実験室を後にし、車庫から一台の車に乗って走り出して行った。

 

 

 

 

 

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