願いの女神   作:Aa_おにぎり

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第二七話

深夜、ロンドンのとある公園。人気のない場所でクラウスは公園のベンチに座っていた。周りには狐が多く集まり、クラウスを見上げていた。

 

「……そうか」

 

狐からの報告を聞き、クラウスはその狐の頭を撫でる。すると撫でられた狐は嬉しそうに声を漏らしていた。

 

「陸軍の一部部隊が集結ねぇ……」

 

部下でもあり、仲間でもある野狐からの報告を聞き、クラウスは少し目を細めてしまう。長年の経験もあるが、これはクロだろうと脳裏で警鐘が鳴り響く。そもそもそんな予定はないし、おまけに内務卿の指揮下の部隊まで動いていると来た。ノルマンディー公隷下の部隊が動いたと言う事は想定外の事態が起こったと言う事。

 

「……これを渡しに行ってくれ。至急、警備艇を借りてきてくれ」

 

そう言い、一匹の狐に手紙を渡すとクラウスはベンチから立つ。

 

「準備をしますかね……」

 

そう溢すとクラウスは公園を出て行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「うーん、これじゃあ接近は無理だな」

 

望遠鏡を覗きながら遠くでメイフェア校を眺めるマリアはそこでシャーロットを監視する……おそらくは増員されただろう共和国の諜報員を見る。その人数は大凡十名ほどと言ったところだろう。おまけにシャーロットの近くには見たことの無い執事が一人いた。

 

「全く、軍人がトップになると碌なことがない……」

 

ナポレオン然り東條英機然り、歴史上で軍人がトップになった時に起こる強硬手段には反吐が出る。序でにベアトリスやドロシーの部屋を確認するが真っ暗で中に居る様子は無し。ちせは堀川公の命令で転校し、アンジェの私室も灯りはあるものの外から見えなかった。

 

「仕込みか……」

 

おそらくアンジェは何かしら作戦を考えているはずだ。明日、シャーロット殿下はレドンホール・マーケットにお忍びで買い物に行くはずだ。

長生きして来たからか、そんな少ないパーツですらアンジェが何を企んでいるのか想像できる。

 

「殿下をマーケットで攫って飛行客船が鉄道に飛び乗るか……?」

 

どちらにしろ、高跳びをするのは間違いない。ただし、鉄道では先回りされるので飛行客船に乗る予定だろう。行き先は不明だが……

 

「まぁ、追跡すればわかるか……」

 

そう呟き、マリアは車のエンジンを掛けると走らせて行った。

聞いた事のない類の幽霊のような音を鳴らし。蒸気タービンではない、この時代では最新の技術である内燃機関を搭載した車で……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

上からプリンセスを殺すよう命令が降った。だが、そんな命令は承諾できない。初めはその危険をプリンセスに話そうとしたが、直前に配属されたゼルダという諜報員に邪魔をされ失敗。相手の腕は高く、様々な方法で情報共有を試すも失敗。

通常での方法がダメならば強硬手段で行くしかない。幸いにも元々逃亡用に準備したカサブランカの白い家はまだ残っている。事情はカサブランカ行きの飛行客船に乗った後に全ての事情を話せば、彼女も理解してくれるはずだ。

 

学校の自室でハンドメイドの煙幕弾を作りながらアンジェは自分の立てている作戦を脳裏で繰り返す。ベアトリスに説得して今度の買い物の付き添いを代わってもらい、あとはマーケットでゼルダ達共和国の護衛を振り切れば良い。

 

「(明日、マーケットの中で騒ぎを起こしてその間に仕掛ける……!!)」

 

言わばこれは試験に近い。共和国への忠誠を誓っているのであれば命令を必ず遂行しろという……このチェンジリング作戦の本来の目的に戻ったプリンセスの暗殺。そもそもアンジェはプリンセスを殺すつもりはなかったのだが、今回はそれが仇となってしまった。

 

プリンセス暗殺を確実なものにする為にゼルダ自身が殺すと言わなくてホッとしていた。少なくともそれだけでまだ一番上の方はプリンセス暗殺に本気では無いことが窺える。

 

アンジェは過去を思い返しながら煙幕弾を作る。

 

「(あの時、私は貴方と出会わなければ。あのまま井戸に落ちて居なくなろうと思っていた……)」

 

離宮で毎日の生活に飽き飽きし、勉強が嫌になったあの頃……

 

「(でも、あの時は貴方に助けられた。あの後も……)」

 

プリンセスという役目を十年も押し付けてしまった。だから、これは贖罪に近い。

マリアは私を女王にしたいそうだが……申し訳ないが、今のプリンセスは彼女だ。私はあの席に座るつもりは無い。

 

「(だから、今度は私が……)」

 

アンジェはある運行予定表を見る。そこにはカサブランカ行き飛行客船『グッド・ホープ号』の出航時間が記されていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

翌朝、シャーロットとアンジェはロンドン市内のレドンホール・マーケットに買い物に来ていた。巷では新王立寺院での戦勝祈願の式典が話題を呼んでいる中、二人は何気に初めて二人きりでの買い物を楽しんでいた。市井にも顔が割れているプリンセスは軽く変装をしていた。

 

しかし、アンジェは分かっていた。列車内にはプリンセスを囲う様に護衛という名の監視が付き纏い、今も時折自分()を見ていた。

 

これは自分への確認のつもりなのだろう。もし此処でアンジェがプリンセスを殺さなければ……分かっているな?と言う、自分に対する警告も混ざっているのだろう。

 

 

 

 

 

マーケットに到着した彼女達はそこで買い物を楽しんでいるとちょっとしたハプニングに見舞われた。

 

「待って!!」

 

遠くにいた少女の声が聞こえ、その方を誰もが反射的に見るとそこには人の合間を抜けて一匹の大きめの黒犬……と言うか狐に近い様な大きさの動物が合間をすり抜けてアンジェ達の方に走っていった。護衛もその動きに反応できず、黒犬は真っ直ぐアンジェ達の間をすり抜けようとして……。

 

グッ「キャウッ!?」

 

アンジェにリードを掴まれると、そのまま抱きかかえられ。黒犬はアンジェの手から逃げようとしたが、プリンセスが懐から一枚のクッキーを取り出すと黒犬は落ち着いた様で匂いを嗅ぐとジタバタした足を落ち着かせていた。するとはこの犬の飼い主と思われる少女が追いついてアンジェ達の元に駆け寄って言った。

 

「あ、有難うございます」

 

見た感じ中流層の一般的な少女の様だが、自分たちと同じくお忍びできた感が隠しきれていない少女がアンジェ達に頭を下げると、アンジェは引っ付いていたリードを手渡しながら言う。

 

「もう離さないでね」

「はっ、はい!!」

 

すると横からプリンセスが言う。

 

「気を付けてね。一人だと、少し危ないだろうし。すぐに帰った方が良いわ?」

 

これは自分が思っている様に、彼女もこの子がお忍びで此処に来たことを感じ取ったのだろう。

最近は少女が好みの男も聞くために、プリンセスなりの優しさというものなのだろう。すると少女はその声にばれているのかと少しギョッとなりながらもそのまま頭を下げて去って行った。その姿にアンジェ達は少しだけあの服を取り替えたあの日の事を思い出してしまった。

 

周囲にいた護衛もやや悪態を吐きながら去って行ったその少女を見る事なく自分たちの仕事に戻って行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

マーケットを出た少女と犬は一通りのない裏路地に入ると、蒸気管の下を潜り抜け、そこで被っていた帽子を取って軽く愚痴った。

 

「ひぃ〜、ありゃ厳戒態勢だな」

 

すると黒犬が見た目からは考えられないほど流暢な言葉で口を開いた。

 

「周囲に居た護衛はおよそ十名、おまけに厄介なのが一人いました」

「うん、取り敢えずそれは分かったからさ……取り敢えず誰が見ているか分からんぞ」

「おっと……」

 

すると、黒犬はたちまち姿が変わり動物の影から人型に変わるとクラウスに変わって行った。

 

「御主人様、如何いたします?」

 

クラウスが御主人と言った視線の先にいる少女……そう、魔法で少女に化けたマリアはそこで軽く腕を組みながら空を眺める。

 

「そうねぇ…あのゼルダって言う女が厄介よなぁ〜……」

 

軽く頭を掻きながらマリアは考える。

 

「取り敢えず二人が乗り込む飛行客船に先回りしていようかな」

「時刻表は此方に」

「あら、気が聞くわね」

 

そう言い、懐からパンフレットを取り出したクラウスにそう答えると、少女姿のマリアはパンフレットを眺めるとその顔にやや邪悪な笑みが浮かんだ。

 

「ふふーん、多分これだな」

 

そう言うと、マリアは一隻の飛行客船に指を差した。

 

「カサブランカ行き飛行客船『グッド・ホープ』この時間ならこれが一番早く離陸する」

「ではその客船に?」

 

マリアは少し考えるとクラウスに言う。

 

「そうね……天子。貴方は先に新王立寺院に行っておきなさい。革命軍の動きが分からない以上、狙いはおそらく女王陛下。先に守りを固めて置きなさい」

「畏まりました」

 

マリアの話にクラウスは納得すると、マリアを見て注意する様に言う。

 

「……念の為言って置きますが、その姿でアンジェ様方に会わないでくださいよ?」

「分かってるって」

 

そう言うとマリアは軽く手を振ると少女はむくむくと体が成長し、それの合わせて来ていた服も変化していた。

 

「さて、それじゃあ先に行きますかね」

 

そう呟くと、マリアはマーケット裏の道を進み。近くの発着場に移動した。

 

 

 

 

 

マーケットで騒ぎがあったのはこの十分後の事であった。

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