願いの女神   作:Aa_おにぎり

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第二八話

アルビオン王国日本大使館

 

まるで日本をくり抜いた様なその場所に建築された日本大使館の一角、ちせと彼女の上司である堀川公が面会をしていた。

 

「内偵ご苦労であった。……実はある筋からキナ臭い話を聞いてな。故あってお前を呼び戻したのだ」

「と、申しますと?」

 

ちせは共和国の部下ではなく、堀川公の部下だ。そのため、堀川公の意見がちせにとっては優先される。そして自分がメイフェア校から転校という形で距離を離されたのも……。

 

「王国軍の兵士はその大半が海外の植民地出身である事は知っているな」

「はい、先の共和国との戦いでも、その植民地兵が投入されたとか」

 

ちせはこの国に来てから政治を学ぶ様になった。本人から言われているのでクラウスが日本員である事は黙ったままだが、一定以上の知識は必要と言うことで英語に加えてこの国の情勢も学んでいた。

 

「その植民地兵の一部……王国に不満を持つ一部の者達に、不穏な動きがあるらしい」

「……」

 

それはつまり革命……と言う事になる。かく言う日本も少し前に戊辰戦争という旧幕府軍との内戦があったが故にちせの脳裏には嫌な妄想が過ぎる。かくいう自分の父ですら、幕府側について長年新政府軍に抵抗して来ていた。

ちせは父と意見が合わず、新政府側に付きその縁で堀川公と知り合っていた。

 

「情報が確かなら。その中心に、お前の友人がいる」

「……っ!!」

 

ちせはそこでヒヤリとなる。この国で革命の中心となれる権力を持ち、ちせの友人と言えば当てはまるのは……

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

飛行客船『グッド・ホープ号』

 

カサブランカ行きの飛行客船の貨物室。そこでアンジェは蹲り、絶望に沈んでいた。

マーケットからゼルダ達を出し抜いて飛行客船に飛び乗り、そこでプリンセスに正直に事を話したのだが……

 

 

 

帰って来たのは拒絶の言葉だった。

 

 

 

『そうやって逃げ出すくらいなら最初から私を巻き込まないで!!私の人生はあなたの玩具じゃない!!

チェンジリング作戦でどちらかが消えなきゃいけないのならあなたが一人で消えて頂戴!!

怖がりで。泣き虫で。トラブルを起こすのはいつもあなただった。後始末をするのはいつも私……あなたのそういう所、初めて会った時から大嫌いだった』

 

彼女は貨物室から立ち去りながら言う。

 

 

 

『さよならアンジェ。二度と姿を見せないで』

 

 

 

そう言い残すと彼女は貨物室から去って行った。シャーロットも扉のしまった貨物室からドアを叩いて名前を叫んだが、返事はなかった。

その時アンジェは心の中にあったナニカが崩れていた。今までの関係、あるいは友情、あるいは生き抜く心。

 

 

 

思い返すは崩落した城の城壁からの日々。スパイ育成所でのあの日からどれだけ苦しくても、彼女に会いに行くためという強い目的があったからだ。それなのに……

 

世界とは残酷だ。今まで思っていたこともほんの些細なことで一気に崩れてしまう。今の私の様に……

 

最初から、再開したあの時に無理にでも彼女をカサブランカに連れて行くべきだった。あそこはパリの植民地だからアルビオンも追いかける事は難しい。プリンセスがなぜスパイを見抜いたのか、あの混乱の中で連れ出しておけばよかったのでは無いか。

 

 

 

私は、どうすれば良かったのだろう。

 

 

 

脳裏でそんな思考が巡り、心ここに在らずと言った様子で蹲っていると。

 

……カチャッ

 

貨物室の扉の鍵の開く音がした。何事かと反射的に警戒すると、ゆっくりと扉が開き。現れたのは……

 

「やはり此処にいましたか……シャーロット殿下」

 

マリアだった。彼女はいつもの見慣れた格好だったが、右手には見慣れぬ杖のような物を持ち、その先には真鍮で装飾された硝子の球体の中心にCボールの物と同等の高濃度だと一目で分かるケイバーライトを搭載した杖を持っていた。

 

「お待たせして申し訳ありません」

 

未だに彼女は私を女王にしようとする。曰く、私には魔女の因子なる物があるそうで詳しくは聞くことがあの時はできなかった。そして彼女は私を今でも殿下と呼ぶ。いつも通りの優しい声色、慣れ親しんだあの声と差し伸べる手。乳母だったことや親の記憶が殆ど無い私にとっては()()()と言える関係の人。私はもう、女王になるつもりは無いと言うのに……。

 

てっきり御伽話の中だけだと思っていた魔法、その未知の技術を使う彼女。不老不死と言う今までの多くの偉人が望んだ、完全無欠の身体。神とも違う彼女は遥か昔……いや、もしかすると人の始まりから人と言うものを見てきたのかも知れない彼女はまさに生きる歴史書。今まで生きて来た長さが違う、つまりは経験も豊富。意外にも実力を知らないのが欠点だ。共和国の調査でもマリアの素性は分からなかった。そてはつまり、マリアに関することは何もわからないと言うことだ。

 

 

 

何をやっても勝てない。

 

 

 

それが現状の答えだった。目の前にいる宮廷医師の自分の知る情報はほんの一部でしかないと感じている。そこに悪意はないが善意もない。ただ、虚無な何かが彼女の顔から窺える。

すると彼女は足がすくんでいる私を見て薄く微笑んでいた。

 

 

 

言葉や術で人を惑わす、本物の魔女の様に……。

 

 

 

そして彼女の手を取るアンジェは少しの畏怖よりも、約束をした友人の為に動く。

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