シャーロットの叫び虚しく、小銃を発砲した兵士達の放った小銃弾はカンカンと音を立てて甲冑を纏った兵士たちの体を掠めて銃弾があらぬ方向に弾かれて消えた。
それが合図だと言わんばかりに彼らは持っていた機関銃の引き金を引いた。
ッッッッッッッッッッッ!!!!
銃口から放たれる毎分四五〇〜六〇〇発の小銃弾は、容赦無く攻撃を行ってきた兵士たちを薙ぐ死の雨となって降り注ぐ。
「うおっ!?」
「があっ!!」
「っ!!!?!」
悲鳴一つすら上げずに薙ぎ倒されていく兵士達。その姿はまるで屠殺場を見ているような景色であった。
「ぐほっ…!!」
そしてイングウェイもその銃弾の雨霰に巻き込まれた一兵士になる。
あっという間に攻撃を行ってきた兵士達は挽肉にされてしまい、寺院の一室に鮮血が飛び散る。窓の外からも機関砲の攻撃が加えられ、その爆発が戦勝祈願式典の会場に響いた。
「始まったな」
窓ガラスが割れ、式典会場の上で隠れていたドロシーはアンジェ達が始めたと錯覚していた。
「どうするんです?」
そこでベアトリスが聞くと、彼女はニッと笑った。
「式典ぶち壊せば、暗殺計画もおじゃんだろう?」
彼女はそう言い、両手に大量の発煙弾を取り出す。
「えっ!?ちょっと…!!」
そこでベアトリスは驚き、静止を前にドロシーは起動済みの発煙弾を床に投げ込んだ。その直後、式典会場に大量の煙幕が射出された。
「きゃあ!」
「!?」
「何だ!!?」
突然現れた膨大な煙幕を前に招待客達は悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げ出し始めた。
「陛下」
その瞬間、煙幕の中から複数の機関銃を装備した黒い甲冑姿の歩兵が飛び出してくると、即座に黒い布を展開し、そこにケイバーライト特有の燐光を纏わせながら女王陛下を回収して彼らは式典会場をすぐに脱出する。
「ごめんなさいね。迷惑をかけるわ」
「脱出艇は横付けしております。ご心配なく」
黒くて古臭いような甲冑を纏った兵士達は女王陛下を囲んだまま、その見た目の重さからは考えられないほど俊敏に彼女をあらかじめ用意してあった脱出艇に彼女を乗せた。
「まあ、新しい彼女のおもちゃかしら?」
「配備されたばかりの新型機でございます。無論、装備品には一切載っておりません」
兵士は女王陛下の質問にかい摘んで答えると、彼女を乗せた小型艇は新王立寺院の上空で、漆黒に塗装された一切の塗装が施されていない空中哨戒艦に収容された。
「何だっ!?」
その連続した銃声を聞いていたアンジェ達は目を見開いて驚く。
「急げ!」
「分かってる!!」
連続した銃声、爆発音…いずれも尋常では無い何かが起こった合図であった。
『…撤収だ』
そして鮮血が飛び散り、地獄絵図ともいうべき惨状となった部屋を前に甲冑姿の兵士達は窓や通路から次々と飛び出してその姿を完璧に消していく。展開していた小型艇も何事もなかったかのように発進していく。
「?」
その時、アンジェは着陸する直前に新王立寺院の遥か上空に係留されていた黒い哨戒艦を見た。
「あれは…」
その哨戒艦は舫を外して発進していき、その途中でさらに小さな影を回収しながら去って行った。王国軍の哨戒艦だが、煤煙まみれの夜に紛れるように黒塗りでその姿は直後に視認できなくなってしまった。
「プリンセス!」
そこで着地した先でアンジェはドアを押し開けながら部屋に突入を敢行すると、
「「っ!!?」」
その中の惨劇に思わず息が止まりそうになった。
「これは…何という有様じゃ…」
「…」
そこはありとあらゆる場所に血という血が散らばる絵図が出来上がっていた。画材は人間の血肉、色は血赤色。
斃れているのは全員が王国軍の兵士で、おそらくはクーデターを目的とした兵士たちだろう。無数の骸には多数の銃弾の痕があり、機関銃で滅多撃ちにされたのだと分かる。
ッ!「っ!!」「っ!?」
その光景に唖然となった瞬間、奥の部屋から銃声が聞こえて二人はその音に呼応するように一度止めてしまった歩みを進めてドアを押し開ける。
「っ!」
奥の部屋ではゼルダが引き金を引いた後で、アンジェはCボールを起動しながら持っていた拳銃の引き金を引く。
ッ!ッ!
二発発射された弾丸を簡単にゼルダは回避すると、ゼルダとシャーロットの間に割って入るように滑り込んだ。そしてゼルダ目掛けて銃撃を行い、弾切れになったところを時間稼ぎ目的で発煙弾を投げた。
「チッ…」
その煙幕に飲まれるようにゼルダは顔を覆う。
「プリンセスは?!」
そこで銃のロックを外し、新しい銃弾を装填していくアンジェは縋るように聞いた。
「出血がひどい…腹を撃たれたようだ」
「…ゴホッ!」
ちせはすぐに容体を確認すると、その深刻さに顔を青くさせた。
「っ…!!」
その様子にアンジェも目を見開いた。すると、その瞬間をゼルダが狙ってきた。
「危ない!」
その瞬間、飛び出して撃ってきたゼルダにちせが飛び出そうとした。
しかしその前に拳銃が放たれると、その銃弾は真っ直ぐアンジェに向かった。
「…」
その瞬間、小部屋に一瞬の風が凪いだと思うと、目の前に影が現れた。
キンッ!
そしてその影は持っていた日本刀で銃弾を半分に切り落とした。
「っ…!?」
その姿を見てアンジェ達は驚いた。その人影が持っていた日本刀の柄を見て、その刀の持ち主が誰なのかすぐにちせは理解した。
「…行け。ここは某に任せよ」
そして次にアンジェを一瞥すると、その見覚えのある眼差しに傘を被るこの人物が誰なのかをアンジェは察した。
「行くよ…!!」
そこで肺を撃たれたシャーロットを抱えてアンジェは急いで外に出る道を走り出す。
「…お主」
「話は後だ。奴を仕留めるぞ」
その
「っ!」
そこで真っ先にクラウスは刀を握って降りかかると、ゼルダはその攻撃を呼んで回避をしてCボールを起動した。
「あれは…」
ちせはCボールを持っていたことに驚愕すると、上の配管に逃げた彼女は二対一の状況に敵わないと判断する。
そもそも自分は諜報員であり、これほど激しい戦闘は彼女とて鍛えられていなかった。
「ここが引き際か…」
その直後、彼女は配管を伝って窓の方に走って逃げ出した。
「待てっ!」
ちせは慌てて追いかけるとゼルダは窓の外から飛び出し、そのままロンドンの霧の中に消えてしまった。
Cボールを起動したまま、彼女が消えていくのをちせは見送ることしかできなかった。
「っ!クラウス、クラウス殿!」
その時、ちせは先ほどまで剣を合わせた人物を探したが、すでに彼は忽然と部屋から姿を消していた。
その時、先に部屋を出たアンジェは探していた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
息も彼女は焦りから段々強くなってくると、新王立寺院の中を走る。
「ゔっ…」
その時、腕の中で呻き声を漏らした『アンジェ』に『シャーロット』は言うと、アンジェはシャーロットを見上げた。
「喋らないで、アンジェ」
腹部を打たれた彼女は血が大量に流れ出ており、抱えていたアンジェの服も赤黒く染まっていく。
「シャーロット…やっぱり、来ちゃったのね…」
「プリンセス!…今、マリアに治療をしてもらうから…!!」
そう叫び、彼女は自分の中で感じ取ることができる彼女の気配を感じ取る。
今は、かつてないほどに自分の感覚が強くなっているのが伺えた。
心音がとてもゆっくりと感じられ、どこに何があるのか。静寂の中でどのように行けばマリアに会えるのかを直観的に分かる気がした。
「泣かないで…」
すると腕の中でアンジェが少し苦しげな顔をかき消すように微笑んで、その血だらけとなってしまった手で涙を流しかけているアンジェに触れた。
「私の方こそ…嘘吐いてごめん…」
そして彼女が涙を拭うと、その後に彼女の手に付いた血が彼女の頬を塗った。
「あなたに…嘘、吐いちゃった…」
彼女は余裕げにしていたので、アンジェもそんな彼女に自分の動揺を隠すように答える。
「…知ってた。…ドロシーにも言われたわ…『最初からもっとみんなを頼っていればよかった』って…」
「ふふふ…そうね…」
そこで彼女はしっかりとシャーロットの顔を見上げると、少し息を整えて彼女に言う。
「一人で無茶して、突っ張って…」
アンジェはそう言いながら顔を汚してしまったシャーロットを見つめる。
「あなたの心には…いつも見えないカベがあった…」
彼女はそう言うと、シャーロットに強く抱き付く。
「今度こそ誓って…」
そして次にシャーロットの耳元で囁くように言う。
「あなたの心のカベも壊して…みんなで笑い合って…その日が来るまで、絶対に…離れないって…」
「…うん」
シャーロットは今にも泣きそうな顔を堪えて頷くと、角を曲がる。
「約束だから…ね?」
アンジェは笑って言うと、その後にだらりと抱えていたシャーロットに倒れ込んだ。
「アン、ジェ…?」
その瞬間、シャーロットは目を見開いて倒れ込んだアンジェの呼びかけた。
「アンジェ!?」
シャーロットは懸命になって呼びかけた時、再びシャーロットの心音が大きく高まった。
「くっ…」
心臓が破裂しそうなほど強い鼓動。先ほど地下道を進んでいた時にも同じ現象を感じていた。
「くそっ…こんな時に…っ!!」
その瞬間、彼女は自分の頭の中に何かが流れ込んだ。
「うっ…ぐっ…!!」
途端、シャーロットは頭に今まででは考えられないほど激しい頭痛が遅いかかり、倒れ込んでしまいそうになる。
「まだ…」
そこで彼女はその激しい頭痛の中で、自分の記憶とでも言うべき場所の中に知らない景色が入ってくるようになる。
スリをして、失敗して蹴られた記憶が続く中、あの穴を通って井戸を覗き込んでいた
「これ…は…」
彼女はそこで自分の中で起こっている変化に体を震わせそうになる。寒気のような、悪寒のような…しかしそれでいて、アンジェの全てが流れ込んでくるような春の日差しのような暖かさがあった。
そして自分の知らない教育をマリアから受けているのを見て彼女は理解した。
「アンジェの…記憶…?」
その瞬間、彼女は次にマリアの言葉が思い浮かぶ。
『ヴィッキーは自分がそうである様に、乳母として私を貴方の元に送り込み、そして魔女の因子を貴方に注ぐことになった』
自分の乳母はマリアだ。自分の体の中には、
「…そんな」
アンジェは顔を青くさせ、そこで新王立寺院の中で確実にその気配を感じ取ってその戸を叩いた。