願いの女神   作:Aa_おにぎり

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第三四話

アンジェを抱えたシャーロットは、そこで思いきり部屋の戸を叩いた。

 

「マリア!マリア!!」

 

何度も強く拳で戸を叩くと、その後にドアが開かれた。

 

「誰だ…っ!?」

 

そこでマリアは疲れた様子で出てくると、そこでアンジェを抱えて立っていたシャーロットに目を見開いていた。

するとシャーロットは縋るように叫んだ。

 

「お願い!アンジェを助けて!!」

「…」

 

その嘆きにも聞こえた彼女の悲鳴は、腕の中で彼女に抱きついたままのアンジェを見ていた。すでに服は血だらけで、シャーロットも血塗れであった。

 

「もう貴女しかいない…。アンジェを、アンジェを助けられるのは…!!」

「…殿下」

 

そこでマリアは強くシャーロットの方を掴んで言った。

 

「診せて頂戴」

「先生、お願い…アンジェが撃たれたの…」

 

彼女は今でもジンジンと痛む頭を抑え込んで言うと、その後に倒れかけてしまう。

 

「これはまずい…」

 

その瞬間、マリアは顔を深刻にさせてシャーロットを見て叫んだ。

 

「クラウス!」

「はっ」

 

すると音もなくクラウスが現れると、先ほどの着物姿とは違い白衣を纏った医師の格好をしていた。

 

「治療だ。殿下を」

「かしこまりました」

「待って!私より先にアンジェを…」

 

そこでシャーロットはマリアに抱き抱えられたアンジェを見て叫んだ。しかし抱える前からマリアは分かっていた。銃弾が脾臓を貫通した事で大量の出血が起こっていたのだ。

 

「…クラウス」

「分かりました」

「待って!」

 

そこでシャーロットはマリアが抱えたアンジェの体を見て叫ぶ。

 

「まだ死んでいない!アンジェは…アンジェはっ!!」

「落ち着け!」

 

マリアはシャーロットに叱責をすると、彼女は腕の中で抱えられたアンジェの、脈を感じ取れない体を見て告げる。

 

「残念だけど…こればかりは…」

「っ、そんな…」

 

シャーロットは取り乱しており、マリアの腕の中で抱えられたアンジェに目を見開いていた。

 

「マリアは、世界一の名医なんじゃないの…?」

「そうだ。だが、死んだ人間は蘇らせられない」

 

淡々とマリアはいっそ美しいほど惨たらしい現実を突きつけてくる。

 

「魔女は…死んだ人間を蘇らせられるんじゃないの…?」

「私の知っていた魔女も多くが死者を蘇らせたいと願った。…だがいずれも失敗した。それが世の理なのだよ」

「…貴女は、不老不死の体を持っているのに…?」

「…」

 

シャーロットに言われ、マリアも黙る。するとそんな対応をされ、アンジェは呟く。

 

「嘘つき…」

 

それは嘆きだった。

 

「…アンタは不老不死なんでしょう…?世界一の名医なんでしょう…!?」

 

それは文句だった。

 

「だったらどうして…なんでアンジェを助けられないのよ…!!」

 

それは悲鳴だった。

 

「私の人生をここまで弄んでおいて…今更逃げる気!?」

 

それは叫びだった。

 

「…違うぞ、殿下」

 

そこで漸くマリアはシャーロットを諌めた。そしてアンジェを部屋のベッドの上で寝かせてからシャーロットに振り向いて言った。

 

「医者の仕事は治すことじゃない。可能な限り、患者が元の生活に戻れるようにサポートをすることが仕事だ」

「っ…!だったらなんで…!」

 

シャーロットが言おうとした時、その両肩をマリアが掴んだ。

 

「殿下もアンジェ様も、私はお救いする最善の道を模索する」

 

その目は疑いようのない本心だった。

 

「でも()()()()()覚醒したばかりの貴女には荷が重すぎる…」

 

その顔は苦悶に満ちていた。どうしてもその道だけは避けなければならないという、彼女の紛れもない本心だ。

医者として到底勧められる方法ではないと、彼女はそう言う目をしていた。

 

 

だったら、私から踏み出すまで。

 

 

「…それで、アンジェは助かるの?」

「っ!?」

 

その言葉にマリアは目を見開いた。そして次にシャーロットの瞳で煌めいている紋様を見つめて驚愕した。

 

「まさか殿下…」

「アンジェの記憶は、全部私の頭の中に入ってる」

「…なんて事…」

 

マリアはそこで大きくため息をついてから頭を抱えそうになった。

 

「他人の記憶が入った…?活性化をしたとはいえ、いきなりそんなことが…?」

「マリア」

 

困惑していた彼女にシャーロットは聞いた。

 

「アンジェは助かるの?」

「…」

 

その問いに彼女は『貴女の命に関わる』と前提を置いた上で首肯した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その後、女王暗殺事件は終息を迎える事となる。

銃声を聞き、現場に突入を行った内務省管轄の警察組織がその惨状を前に思わず絶句をしてしまっていた。

 

「酷い…」

「皆殺しだ。これでは…」

 

あらゆる場所が小豆色に酸化した血赤色に塗りつぶされ、血だらけの惨状は一瞬ガゼルですら息を呑むほどだったと言う。

 

「…」

 

その報告を聞いてノルマンディー公は軽くため息をついた。

 

「あの黒い甲冑の部隊の姿はどこにもない…か」

「申し訳ございません。目撃証言も少なく、追跡は…」

「…」

 

ガゼルの報告を聞き、彼はあの式典会場で煙幕の中を一瞬で女王陛下を連れ去った集団を思い出す。少なくとも自分が知らない…全くもって把握していなかった兵力で、その事を女王陛下に問いただしても答えられる事はないだろう。革命軍を機関銃で惨殺をしたのはこの者達に違いない。

 

「(陛下の私兵…か)」

 

そこで彼は新たな伏兵に警戒を露わにした。

 

 

 

 

 

モロッコ・スルターン国 カサブランカ

燦々と照りつける太陽光線を感じさせる南の大地にて、同国最大の都市の郊外にその場所は用意されていた。

常に煤煙の霧がかかっていたロンドンとは打って変わり、この場所は実に晴れやかな海と空が広がっていた。

 

「…」

 

その墓標を前にシャーロットは花を捧げる。その墓標には名前は彫られていなかった。

 

 

ーー親愛なる我が友へ。

 

 

それだけが記された墓標を前にシャーロットは立ち上がる。その金髪の長髪を下ろして。

 

「マリア」

「はい」

 

次に彼女は花を捧げると、立ち上がって一歩後ろで諸々の準備をしてくれた侍従に話しかけた。

 

「全てを無かった事にして」

「畏まりました。()()()()()()殿()()

 

彼女は頷くと、そこでシャーロットに話しかける影があった。

 

『もう、あんまり緊張しすぎては駄目よ?シャーロット』

 

その声は幻覚のようにも聞こえ、しかししっかりと彼女に届いていた。視線の先では墓標の隣に立ってこちらを見つめている自分と同じ似姿をした少女が立っていた。しかし彼女はこの強烈な太陽光があるにも関わらず影が一切無かった。

 

「分かってる」

 

その少女を前にシャーロットは頷くと、アンジェは微笑んだ。

 

『でも凄いわね、あなたにこんな事ができちゃう力があるなんて…』

「マリアの所為よ」

「ふふふっ、お二人の事は幼い頃からよくご存知ですので」

 

そこでマリアは微笑んできたので、シャーロットは振り返って少し睨んだ。それはこの十年間、彼女の掌の上で転がされ続けてきたのだろうと言う目の前の『歴史』に対する怨嗟であった。

 

「…行くわよ」

「畏まりました」

 

シャーロットが言うと、マリアは微笑んで頷く。

その時の表情というのは、相変わらず何を考えているのか分からない慈愛に満ちた笑顔をしていた。しかし彼女の手解きが無ければ、アンジェは死んでしまっていただろう。

 

『…でもやっぱり、申し訳なくなっちゃうわね』

「…」

 

そこで彼女を追いかけるアンジェは言うと、シャーロットは沈黙する。

 

「これが…私の決めた道だから」

『違うわ』

 

そこでアンジェは首を横に振る。

 

()()()()()()()()…そうでしょう?』

「…ありがとう」

『ふふっ、大丈夫』

 

アンジェはそう言うと私の後ろから抱きついて来る。彼女の視界に映る彼女の手は温もりがないと言うのに、それすら感じさせていた。

 

「これからは、二人で一人…だね」

『そう、二人で一人』

 

シャーロットは言うと、彼女達は王国に向かう飛行客船に乗り込んだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

私はあなた(アンジェ)から(シャーロット)の頃の記憶と知識を奪ってしまった。

 

『そんな気負うこともないのに…』

 

いいえ、これは私が背負ってあげないといけない。

 

『どうして?』

 

この世界に、私とあなたが生きてきた事を忘れさせたくなんてないから。

 

『…そっか』

 

そう。私はたとえ世界の全てを惑わしてでも、あなたの為した事を忘れさせない。

 

『…ありがとう』

 

傍で話しかけてくれる家族(アンジェ)は笑うと、シャーロットはそこで紅茶を注いだカップを傾ける。

 

「え!!?ドロシーさん、帰っちゃうんですか?」

「ああ…上層部からの命令でな」

「悲しくなるな…」

 

目の前ではベアトリス、ドロシー、ちせの三人が話していた。

 

「アンジェも居なくなってしまったし、悲しいわね…」

「全くだよ。アイツ、別れの挨拶もせずに共和国に蜻蛉返りしやがった」

 

ドロシーはそう言い、シャーロットに答えて半眼で一つの空席を見る。

 

「まあ、黒蜥蜴星人はそんなものなのかね…」

 

ため息混じりに彼女は溢す。その様子を見ながら私も悲しげに元々座っていた空席を見つめた。

 

 

 

私は、この三人を一生騙し続ける事となるのだろう。

 

 

 

しかし私は後悔はしない。

これは、彼女から未来を奪ってしまった者の贖罪だから。

 

 

ーーシャーロットが生きていたと言う証を、忘れさせない為に。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「『A』に関しての情報です」

 

その日、コントロールに一つの報告が上がった。

 

「プレトリアに向かう最中でマラリアに感染し、船内で死亡したそうです」

「マラリア?そりゃあ大変だね」

 

7からの報告にドリーショップは驚いていた。すると報告を聞いたLは葉巻を灰皿に押し当てながら聞いた。

 

「死体は?」

「現地にいた別の諜報員が確認し、遺体からCボールを回収したと報告が上がりました」

 

7の報告を聞き、そこで大佐が言った。

 

「優秀な諜報員でも、最後は呆気ないものだな」

 

マラリアに罹患して亡くなった事で、彼女の遺体は本国に送還されることも無く焼却処分される事となる。その事に大佐は少し宗教的な思想から哀れにも感じてしまった。

 

「チェンジリング作戦も今回の暗殺計画で危険視されて中止だ。我々は大きく情報源を失った事になる」

 

少し忌々しげに大佐はこの決定を下した共和国の諜報部に恨み節を向ける。何せ今まで綱渡りであったが、上手くいって成果を上げていた為にその苛立ちは大きいものだった。

 

「しかしプリンセスとの接触は続いたままです。彼女を情報提供者として、王国の情勢を探らせます」

 

大佐を宥めるようにLは言うと、次に彼は別の班の報告に目を通していた。




完結です。

ここまでの愛読、ありがとうございました。
一時は未完になったりしましたが何とか完走できて良かったです。
では、またいつかの機会にお会いしましょう。
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