テイルズオブアライズ トロフィー「絶望の荊」獲得RTA レナ人チャート   作:完走したい天邪鬼

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この閑話は先に読んでいただきたかったので初投稿です。
RTAパートを投稿していた時の感想を読んでニマニマしているときに思いついた話でもあります。

ちなみに、曇らせパートの雰囲気はこんな感じです。お気に召すといいな。


第22話 執政官の独白

剣を交えながら、きっと私は彼らには敵わないのだと悟った。

渾身の斬撃も、研鑽を積んだ星霊術も、有効打にはなり得ない。

英傑と呼ばれるであろう存在に、凡夫はどうあがいても勝ることはないのだと。

覆しきれない事実を、譲れない戦いの中でまざまざと突きつけられ、噛み締める。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「貴様は強い。女だからと侮る程儂は驕っていない。だが、だからこそ貴様は儂に勝てん」

 

その言葉とともに私は領将(スルド)選抜で敗北した。

その後、私は水の領将(スルド)の従属としてダナに降りた。

元より領将(スルド)の座への執着はなかった。成りたい者がなれば良い、そう思った。

 

従属に選ばれるのは初めてだが、護衛として領将(スルド)とともに行動することが多かった。

ダナが虐げられるのも、領将(スルド)が横柄に接するのも、どうでもよかった。

私はレネギスにはないダナの自然を肌で感じることができればそれで良かったのだ。

私を下して領将(スルド)になった男が度々(ねや)に誘ってくるのは、まあ、うんざりするほど面倒だったが。

ヒルドリス卿も娘がいるのだから全く靡かない私を誘うのを辞めてくれ。趣味じゃないんだ。察して欲しい。

 

そんな生活が変わったのはレネギスから星舟が下りてきてから。

土が存在しないレネギスでは貴重であるはずの大量の生の果実と、たった一人の男が乗った舟だった。

装甲服も着用せず、ただ一振りの刀を持ったその男は。

()〉と、名乗った。

 

その日、ガナスハロスに君臨する水の領将(スルド)は挿げ変わった。

驕りが過ぎる、不敬であると激昂した領将(スルド)は一太刀で斬り伏せられた。

護衛たる私達には目もくれず、私達では目で追うことすらできなかった一撃で以てガナスハロスの最強を下したその姿に、私たちはただ粛々と主の変更を受け入れるしかなかった。

 

それからは地獄のような支配が敷かれた。

ダナは当然として我々レナも漏れはなかった。

まず言論の自由を奪われた。

定められた事以外を口にすると容赦なく罰せられた。

次に言動の自由を奪われた。

定められた場所以外に訪れると容赦なく処分された。

最後に情動の自由を奪われた。

自己矛盾と自己嫌悪によって心を壊された。

反発は圧倒的な暴力によって黙殺された。

前任があえて泳がせていたダナの抵抗組織は所在を暴かれ囚われた。

死を望んだ者には惨憺たる強制労働が施された。

生を望んだ者には尊厳のない死が齎された。

漏れがないように相互監視を義務付けられた。名実ともにガナスハロスから自由は亡くなった。

今にして思えば、相互監視はただの体裁だったのだろう。水に塗れたこの領で、領将(スルド)の目が届かない場所はないのだから。実際、リィヤー様も風からすべてを識ることができていた。領将(スルド)とはそういうものなのだろう。

拷問のような日々が続けば人は容易く壊れていく。

一人、また一人と壊れていった。私も例外ではなく、記憶も意思も殺された。

壊れたレナ人には青の装甲服を着せられた。見せしめだろうか。この鎧は支配の象徴となっていった。

そして、絶対的な恐怖だけが残った。

 

 

幾年月か経った頃、私はミハグサールにいた。

ミハグサールに果実を運ぶという命令を受けたのだ。

曖昧な記憶と意志のまま大量の果実を運ぶ。見上げるほどに積み上げた台車を引く。

装甲服があるとはいえ、一人で運ぶには重すぎた。

首府ニズへ向かう途中で力つき、倒れ込む。

壊れた心のどこかで『ここで死ぬのだ』と、漠然と思っていた。

立ち上がろうにも指先一つ動かせない。

ただ静かに死への恐怖(解放される安堵)に震えながら意識を手放した。

 

 

 

気がついた時、私は診療台に乗っていた。

野戦病院の体を成していたガナスハロスのそれとはまるで違う。

清潔で清廉で洗練された病室だった。

仰向けで横になる私を覗き込む人は、おそらく医者だろうか。

 

「脈に異常なし、瞳孔も正常。星霊力にも異常はなし。ふむ。空腹かな」

 

何事かを呟くと医者は私と目を合わせて微笑んだ。

その微笑みが美しかったのは覚えている。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

痛烈に叩きつけられた剣を盾で受けて距離を取る。

何度目かの小休止。

流石は英雄。私では刺し違えるのも無理そうだ。

炎の剣と領将(スルド)だけでも厄介なのにさらに手練れが3人。そのうち1人は魔法使いで、残り2人は噂に名高いメナンシアの親衛隊だろうか。そんな5人に合わせてアイメリスも加わっている。

全く忌々しい。護られるだけのお姫様が一丁前に治癒師の真似事をしちゃってさ。

お陰でこっちは満身創痍だって言うのに彼らの消耗は無いに等しい。戦闘中に菓子(グミ)を食べる余裕がある始末だ。

 

「これ以上戦っても無意味だ!ニズの復興にはあんたの力が必要だし、俺たちはリィヤーを殺すつもりはない!信じてくれ!」

「それはできないと言ったはずです」

 

少しは整った呼吸に合わせて剣を振り術を練る。

私が勝てないのは分かっていた。

分かっていたが、私にも譲れないものがあるのだ。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「リィヤー様。こちらがレネギスより送られた、リィヤー様宛の物資になります」

「また抜け出したね?まだ快復しきっていないだろうに」

治療期間が延びて困るのは君だ。と苦笑混じりに呟く姿を覚えている。

 

 

「ヘルガイの果実......ね。......ふむ。治療用の劇薬か」

未知の果実を躊躇せず摂取して効能を確かめる姿を覚えている。

 

 

「そろそろ治療が終わるわけだけど、ガナスハロスに戻れる?」

ガナスハロスに戻ると聞いて動けなくなった私を静かに見つめていた姿を覚えている。

 

 

「ヴォルラーン。彼女は今治療中だ。治療が終わっていない患者を帰すわけにはいかない」

あの恐ろしい男を術式一つで追い返した姿を覚えている。

 

 

「さて、君は暫く私の配下として働いてもらう。そうだな......私の研究補佐。いや、執政の補佐か」

研究していたら執政の時間がなくてね。とバツが悪そうに笑う姿を覚えている。

なんと呼ばれたい?という問いに名前を思い出せないと答えると、執政官という呼び名をくれた。

名前じゃないのはいつか思い出せた時のためだそうだ。

 

執政の補佐という話だったはずがいつの間にか執政が私の仕事になった。

リィヤー様の肝入りだからか周りの人間は協力的だった。まさかダナ人まで協力的だとは思わなかったが。

自意識が希薄で己の名前すらわからない私はさぞ不気味だったろうに。

これもリィヤー様の統治の成果なのであれば、それを崩すわけにもいかない。全霊を以て仕事をこなした。

 

リィヤー様が首府の様子を知らないのは拙いと、定期的に謁見し報告を挙げていた。

皆はリィヤー様の所在がわからないと言うが、私はなんとなくわかるのだ。どうしてわかるのかと聞かれたが、勘としか答えようがない。

最初から君がミハグサールに居てくれればあんなデカい船を作る必要がなかったのに。と嘆かれたが、私に風の適性は皆無だ。諦めて欲しい。

 

幾度目かの報告の際、聞いたことがある。

リィヤー様はなぜ研究しているのかと。

レポートを読む限りでは莫大な星霊力を誰でも扱えるようにする研究だ。全領将(スルド)を一度に相手にしても有り余る、容易く世界を滅ぼす程の力の研究。

それを求めている理由を知りたかった。

まさか、たった1人を救うための研究だとは思いもしなかったけれど。

理由を知ってからは報告の度にネウィリ・アイメリスという女性の話を聞かされた。

惚気のような話もあったが、リィヤー様は結婚はされていないのだという。ということはリィヤー様の片恋慕になるのだろうか。

それは、少し、面白くない。

 

リィヤー様が女性好きだと言うのなら。

私が狙っても良いはずだ

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「万物粉砕く!」

 

ダナの少年の一撃を受けた剣が半ばから叩き折られる。

 

「灼熱の」「バーンストライク!」

 

数瞬の隙をつくように、アイメリスの放った弾丸を叩き込まれる。

盾はかろうじて間に合ったものの、受けた盾は砕け、鎧は半壊。

ならばと術を練ろうにも魔法使いに詠唱を妨害され完成しない。

つまり、詰み。私の負け......か。

ついぞ傷の一つもつけられなかったな。

リィヤー様に相応しくあるよう磨いた全て。その全てを以て抗って、結果がこれか。

 

結局のところこの戦いは私情だ。炎の剣が善性の人間なのはニズで話した時に分かっていた。

おそらく彼が訴えているニズの事件も本当のことなのだろう。

執政官であるならば、今はニズに戻り復興を進めるべきだった。

リィヤー様は最強だ。あの恐ろしい水の領将(スルド)すら術式一つで追い返したのだ。私ごときに護られるような存在じゃない。

現に炎の剣がこの船に乗り込んだ時、リィヤー様が出した最初の指示は逃走だった。

リィヤー様は死を避けている。だからこそ炎の剣達に敵わない私達が殺されないよう逃げろと指示したのだ。

それを拒否したのが私を含むこの船に乗るレナ兵で、だからこの結末は自業自得。死んでいないだけマシなのだ。

おそらく私の前に戦った同胞はリィヤー様に治療された後、メズメルドに乗せられニズに戻されている。

私達が近くにいるとリィヤー様は全力で戦えない。私達を巻き込めないからだ。

つまり、私達がやったのは護衛とは名ばかりの自己満足。むしろ護りたい相手を消耗させ、採れる選択肢を狭める悪手も悪手だったのだ。

 

なんという愚かな女。リィヤー様のためを思って行動した結果、リィヤー様が殺される。全ては私が合理ではなく私情を優先したせいだ。

 

炎の剣と共謀し、同胞(レナ)に弓引き領将(スルド)を殺して回る裏切り者の名こそがアイメリス。裏切り者の名は家名しか覚えていないけれど、きっと彼女がリィヤー様の心を独り占めしている女。

リィヤー様の心だけでなく命まで奪おうとしている忌々しい女。

リィヤー様を慕う者として、せめて一太刀、せめて一撃、取り戻した心のままにぶつけたい。

その願いは、どうやら間違っていたらしい。

 

それならば、せめてメズメルドが戻るまでの時間をほんの僅かでも稼ぐために死力を尽くす。

動かない身体に鞭打って、アイメリスに触れた途端。

身体が内から弾けるような激痛に襲われ、愚かな私は悲鳴を上げる間もなく気絶した。




閑話とは :
無駄話のこと。
転じて、創作における本筋に直接関係しない話を指すこともある。

閑話はいつ欲しい?*読みたくないという意見は無へ還りました

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