人間がウマ娘に負けるわけないだろ!いい加減にしろ!!   作:なちょす

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世間ではポケモンが流行り散らかしていますね。独身兄貴たちも遊んでるのかな?カイちゃんが股間に悪いと聞いております。作者も遊びたかったから、ちゃんと買ってきました。

初代プレステ(¥4650)。ポケモンねぇな?(困惑)

失意の童貞と愉快なトレーナー達。真面目とコメディー半々⋯⋯?勘違いフルMAXのコメディーオンリーまでは、も少し待って♡
あ、新しいヒト男も出ます。(ネタバレ)



第6R : メン・オブ・デステニー

 スプリンターズSが終わってから、カレンは目に見えて元気が無くなっていた。『兄さん』と呼ぶ事が無くなったものの、練習中どこかボンヤリとしていたり、かと思えばオーバーワークにすらなりかねない練習をやっていたり⋯⋯気持ちがここに在らずという状態である。

 メンタルケアと呼べるほどの事が出来ているか分からない。今日も練習はオフ。

 更には、自分に任せて欲しいと言ったきりデジタルはカレンとどこかへ出掛けたようだ。

 

 そんな中、哀れなお兄ちゃんはと言えば⋯⋯。

 

 

「ぴえん。」

「アタシの部屋で落ち込む必要あります?」

「だってさぁ⋯⋯。」

 

 

 後輩ちゃんのトレーナー室で啜り泣いていた。

 初めは自分の所で横たわっていたのだが、カレンのぱかプチぬいぐるみを見る度にしんどい状態になっていたたまれなくなってしまったのだ。

 

 カレンは1度も涙を見せてはいない。だからこちらとしても、そのメンタルの強さは知っているつもりだった。短距離G1で結果を残した後は、勝ったり負けたりはあっても安定した成績続き。実際『カワイイダービー♪』の時でも、多少の無茶は自分の意志だけでやり遂げてみせたんだ。

 

 こんな状態になるまで、カレンの心境に気づけなかった。あの強さに甘えていたのだろう。今の今だってデジタル頼み⋯⋯トレーナーとしてあまりに惨めな自分に情けない気持ちが湧き上がってくる。

 

 

「⋯⋯トレーナーだって完璧じゃないっす。皆が皆ウマ娘達の気持ちに100%の理解を示せるわけじゃないんで。」

「そうだけどさ⋯⋯いざこういう風になると、今までちゃんと見てやれなかったんだなって⋯凹む⋯⋯。」

「今のままで良いと思いますけどね。先輩が先輩だから、デジタルさん含めて皆先輩と一緒に進もうと思ったんじゃないですか。少なくともアタシが知ってる中だと先輩はちゃんとウマ娘の子達を見てますよ。どんな内容であれ、あの子らの力になっていたのは見てれば分かりますし。」

「⋯⋯慰めてくれんの?」

「いや三十路手前の魔法使い見習いにいつまでも泣かれてんのキツいんで。ワンチャン煽てたらさっさと帰らねーかなって。」

「鬼かな?」

 

 

 後輩ちゃんの方を見ると一瞬目が合った後逸らされてしまった。おい、何だその手の動き。何片手間にお兄ちゃんを追っ払おうとしてんだ。

 

 

「て事なんで、子どもの為にもさっさと家庭を円満にしてから戻ってきてくれます?」

「離婚話じゃねぇよ。」

「先輩位の歳で童貞なら1回の浮気も許されますって。知らんけど。」

「離婚話じゃねぇって。しれっと暴言吐きながら浮気野郎認定すんな。」

「必要なら弁護士付けますけど、どうします?」

「違うって言ってんだろうが!話聞けよッ!別に慰謝料とか請求されてねぇわ!誰が請求すんだッ!」

「ん。」

「鬼かな?」

 

 

 何だその手⋯⋯やらねーよ。何マジな顔してこっち見てんだ小娘。やってもお駄賃だ。駄菓子でも買え。名前がパッと出てこないけど、あのやたらとうまい棒でも食ってろ。うまい棒だわ。

 

 畜生!やってやろうじゃねぇか!!今に見てろよッ!俺にかかったらアレだかんなお前!もう秒で⋯⋯何だ⋯アレだ!カレンチャンを速攻で元気にしてやるってんだよ!そしてポニーちゃんも速攻で元気にさせられる。なんなら秒でヒヒンと言わされる。は?負けんが?

 

 

「元気出たならそれで良いんすよ。じゃなきゃ周りだって心配するんですから。はい、帰った帰った。」

 

 

 クソっ、なんて雑に扱いやがる。だが後輩ちゃんの言う事は最もだ。ただでさえボーノやデジタルに色々任せてしまっているんだから、俺もトレーナーとして⋯⋯いや、お兄ちゃんとして出来る事は全てやりきらなければならない。待っていろカレン。

 

 

「あっ、先輩。」

「何よ。」

「出掛けるならお金出すんで珈琲買ってきて下さい。」

「おまっ⋯⋯!き、今日だけだからなッ!」

 

 

 追い討ち掛けやがってこの野郎ッ!

 ちょっとヘラッとしてよぉ⋯⋯満足そうな顔しやがって⋯⋯⋯⋯しょうがないから行ってきてやるよ!可愛い顔してないで、がま口寄越せオラッ!

 

 

「良いか今日だけだぞ!?次は無いからな!?覚えてろよッ!!」

「小物のテンプレじゃないすか。」

「誰が小ぶりな天ぷらだッ!」

「言ってねぇわ。」

 

 

 結局、半ば追い出される形で部屋を後にしてしまった。本人(カレン)居ないのにどうしよ⋯⋯珈琲買いに行くの?まじ?ただのパシリじゃねぇか。

 

 固めのがま口を開けば、僅かばかりの小銭が入っている。

 220円て。何で2人分入ってんの?紙も入ってるし⋯⋯レシートか?後輩ちゃんが何買ったか見て、後でクソ程弄り倒してやる。どれどれ───。

 

 

 

『今は休んでください。したら、話ぐらいは。』

 

 

 

 ⋯⋯⋯⋯あー、駄目だ。ぴえんぱおん啜り泣いてたから鼻のあたりがまだツンとする。全く⋯⋯何柄にもなくイケメンかましてんだ良い子ちゃんめ。

 

 両頬を叩いて気合いを入れ直す。

 今1番自分と戦っているのはカレンチャンだ。俺がきちんと面倒を見て分からせ⋯⋯もとい正しい道に連れ戻さなければならないのは、甘々脳トロボイス持ちふんわり彩フレグランスのカワイイカレンチャンであって、自暴自棄になって道を見失った今のカレン・サンでもダレン・シャンでも無い。初めにケツイを漲らせた筈じゃないか。

 

 そう思ったら泣いてなどいられぬ。いい歳だろう、俺。どれだけ情けなくとも、こっちには29年培ってきた人生経験がある。童貞は女の子にクソほど弱いが女の子を蔑ろにする存在では無いんだ。やるぞ!えいっ、えいっ、ヌッ!

 

 だから本人(カレン)居ねぇって。

 

 

「どうすんのよ⋯⋯痛っでぇッ!?」

 

 

 不意に、頭頂部へ激しい痛みが走った。昔親父に食らったゲンコツに匹敵する良いパンチ。どのくらいかと言われればあまりの痛さに言葉を失うレベルのあれだ。

 ふと視界に、トレセン学園の制服が見えた。腰まである黒くて長い髪。少しだけ可笑しそうに笑った後、そのウマ娘はしゃがみ込んだ俺から逃げるように後ろへ回った。

 

 

「⋯⋯どうしたんですか?」

 

 

 後ろを振り向けば、そこに居たのは扉の影から顔を出したウマ娘。

 相も変わらず綺麗な髪である。ミステリアスな雰囲気の中、目元を隠すように伸びた前髪からは金色の両眼がこちらを見下ろしている。

 

 

「⋯⋯君か?マンハッタンカフェ。」

「何の話か分かりませんけど⋯⋯多分違います。」

「カフェ?どしたの?あっ、勇者さんのトレーナーさん。」

 

 

 僅かに開いた扉からこちらを覗くマンハッタンカフェ。そしてその後ろに立っている若い男が、俺の数少ない同期であり年下のトレーナー⋯⋯通称"モルモッT君"。マンハッタンカフェの他にアグネスタキオンの担当もしており、3人体制を徹底したチームを率いている実力派だ。ただし変人。

 

 どちらも中・長距離で実績を残しているウマ娘で、対称的な性格や走りが人気を博している。学園内でもワケあり物件と噂されているそんな2人を纏めあげてG1を幾度となく勝利している彼に対する世間の評価も高い。ウチのマヤちゃんも何度か苦渋を舐めさせられた。ただし変人。

 

 一時期は"GT"の称号を欲しいがままにしていた事もある。あっ、決して『グレートトレーナー』の略では無い。『ゲーミング乳首』だ。タキオン製薬の副作用で、かつて彼の乳輪が16万色に光り輝いていた事からつけられた称号である。その節は大変笑わせて頂きました。

 

 いや乳輪なんかクッソどうでも良いんだよ。何故俺は頭にゲンコツを落とされたのか、これが分からない。大人しい顔して先に手が出るあたり後輩ちゃんと同じものを感じる。

 

 

「さっき頭どついた?」

「いえ⋯声がしたので出てきただけですけど⋯⋯。」

「だって目の前に君が居たし⋯⋯。」

「っ!見えて⋯⋯いえ、それは多分"お友だち"かと。今日はちょっと機嫌がいいようなので⋯⋯。」

「えっ?」

「いやぁ良かったですね。"お友だち"に気に入られたみたいですよ。」

「えっ?」

「アッハッハッフッハハハハハッフーッ!!!」

「うるっせぇ⋯⋯。」

 

 

 何わろてんねん。どつかれたっちゅーねん。お前カフェの耳元でその笑い方止めてやれよ。すこぶる機嫌悪そうな顔してんじゃん。

 まぁ"お友だち"が何かは分からんが、どう見たってさっきのはカフェだろう。痛みが凄すぎて顔が見れなかったが彼女の独特な雰囲気は見間違えるようなものでは無い。いつまでその癖の強い笑い方で爆笑してんだGTがよぉ⋯⋯。

 

 と、ツッコんでやろうとした瞬間であった。

 

 

 モルモッT君の両頬が何かに鷲掴みにされたかと思いきや、そのまま部屋の中へと投げ飛ばされた。カフェは背中を押されたようによろけながら廊下へと出され、扉は内側から乱暴に閉められるのだった。

 

 

 ヌッ、流石に今のは俺にも分かるぞ。怖いやつだ。はっきりと理解した。"お友だち"とはお化け的なやつである。あー⋯⋯チビりそう。目の前で起きた余りにも早い1連の出来事は、カレンに勧められたホラー映画の冒頭で見たから間違いない。俺はそのシーンだけで4度気絶したし、その辺に居たデジタルに本気でしがみついたら4度落ちた。フィクションがノンフィクションになった瞬間である。

 ホラーダメな男の前で霊障とか本気で止めてくれ。今すぐ全裸になって絶叫して転げ回らなければ気が狂いそう。

 

 

「⋯⋯。」

「⋯⋯"お友だち"がご迷惑をお掛けしました。」

「気にしてないから命だけは助けて下さい。」

「いえ、取りませんけど⋯⋯。」

「中でガッタンガッタン音がしてるよ?命のやり取りしてるんじゃないの?」

「もう4日目です。遊んでるだけですから。なんて言うか⋯⋯『祓って叩いてじゃいけんしょい』⋯⋯?」

「へぇ。」

 

 

 ツッコまんぞ。あっ、モルモッT君出てきた。頬に立派な手の跡が付いている。

 

 

「やー、負けました!今日は勝てそうだったのになぁ。まぁ向こうが何出したか見えないんですけどね!」

「じゃんけん破綻してんぞ。」

「ままっ、いつか勝ちますから。カフェ。少しだけ部屋で待っていてくれるかな?ちょっとこの人とお話したい事があるから。」

「⋯⋯?分かりました。」

 

 

 マンハッタンカフェを部屋に戻らせた後、彼は締りの悪い顔のまま俺の横に並んで外を見始めた。

 

 

「元気無いですね。」

「⋯⋯さっきまではな。今はそうでも無いよ。前向けって、若いのに背中押されちゃったし。」

「そうですね。トレーナーさん真面目ですから、ちゃんと謝れば相手さんにも浮気を許して貰えますよ。」

「何でどいつもこいつも人が離婚話で悩んでると思ってんだクソが。」

「冗談ですって。この間のレースの事ですよね。サクラバクシンオーさんのトレーナーさんに伺いました。」

 

 

 ⋯⋯サクラバクシンオー。レース前に見た時の彼女は明らかに別人だった。それはレースにも顕著に現れていたようで、普段なら圧倒的スピードで驀進するだけだった彼女がカレンチャンのみに標的を絞って駆け引きを持ち込んだのだ。『カワイイダービー♪』で見た時の2割⋯⋯いや、3割増しの速度も武器にして。

 

 カレンも恐らくは自分の中でレースを組み立てていた筈だ。今回に限って言えば、『サクラバクシンオーの舞台の上で』、が頭に付くが。

 

 

「バクシンオーが戻ってこないかもしれない───彼女のトレーナーさんは、そう言ってましたよ。短距離の『王』に対する異常なまでの執着心はバクシンオーには芽生えてなかった。自分が『王』なのは当然だと常日頃言ってたみたいですしね。」

「あぁ。だけどあの子はそれをひけらかしたり、他人を下に見るような子じゃなかった。上に立つものだと自負してるから頼ってもらいたがるし、遠慮されると本気で凹むような名前通りの委員長だったからな。」

「えぇ⋯⋯けれど、何かが起因した。僕の好きなウマ娘もそうでした。」

 

 

 彼は窓に背を向け、扉の向こうにいるのだろう好きなウマ娘の事を話し始めた。

 

 

「彼女の見ている"ユメ"を共に抜き去る。そう約束して契約したのに、途中で何かが狂ってしまった。"ユメ"が、彼女そのものすら喰い潰そうとしていたんです。当時はアドバイザーだったタキオンが、それでも良いのか⋯⋯と。遠回しでも、僕に教えてくれたんです。」

「⋯⋯"ユメ"はどうしたんだ?」

「止めました。あの子には物凄くショックだったでしょうね。約束したはずの僕が一方的に裏切ったようなものですから。でも⋯⋯だからこそ、今もこうして居られるんです。"夢"を追うのも、"ユメ"に殉じるのも、そのトレーナーとウマ娘それぞれの意思。けれど、もし道が1つだけじゃないのなら⋯⋯少しだけ欲張ってみても良いんじゃないですかね。怒られるかもしれないけれど、それでも僕は君が大事なんだよって。」

 

 

 彼は、彼なりに色々と考えていたようだ。俺は彼とマンハッタンカフェの身に起きた事を詳しくは知らない。だが今の言葉を聞いた限り、彼らは乗り越えたのだろう。いや───覆した、か。

 

 バクシンオーはカレンを高松宮記念の舞台に上げようとしている。カレンチャンでなければならない"何か"があるから、あそこまで執着しているのだろう。

 

 カレンは走る事を望んでいるのだろうか。

 俺の言葉が重荷になったりしないだろうか。

 まだ一緒に、『宇宙一カワイイ私』という夢を見させてくれるだろうか。

 

 助けになるか分からないが、カレンと話をしたい。

 俺は絶対に見捨てないという事は必ず伝えたい。

 いつだってカレンを支える覚悟だと言ってやりたい。

 

 

 かつて⋯⋯アグネスデジタルにそうして貰ったように。

 

 

「何かスッキリしたよ。あんがとな。」

「いえ、僕は好きに話しただけですから。ではそろそろ失礼しますね。これから購買にプリンを買いに行かないといけないので!」

「おつかい?パシり?」

「違いますよ?カフェのプリンが無くなったんです。あの子は"お友だち"かタキオンが食べたと思ってて⋯⋯まぁ食べたの僕なんですけどね!アッハッフッフフッハッハー!!

 

 

 瞬間───部屋から出てきたマンハッタンカフェがモルモッT君の胸ぐらを掴んだかと思えば、部屋の中へと投げ飛ばした。片手で成人男性が飛んだのである。

 

 えっ?

 

 

「⋯⋯お借りしても?」

「差し上げるので命だけは助けて下さい。」

「いえ、取りませんけど⋯⋯。」

 

 

 僅かに一礼したカフェは、部屋の中へと戻って行った。

 

 こ、これがウマ娘⋯⋯俺は確かに戦慄した。

 もし俺が判断の遅いお兄ちゃんムーヴをかましてカレンが機嫌を損ねたなら⋯⋯片手でオフトゥンに投げ飛ばされる?『#カワイイポニーちゃん』とタグ付けされて全世界配信されるのか?どんなプレイだよ。流石のポニーちゃんも配信はちょっと⋯⋯いや何で負けること前提だし。

 ヌッ?携帯がバイブした。メッセージを送ってきたのはアグネスデジタルだ。

 

 

「⋯⋯本当に俺をよく分かってるよ、戦友(相棒)。」

 

 

 届いた1文で改めてケツイを固めた俺は、2人が待つ場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 ───三女神像で待っています。

 




モルモッT君 : チーム『お友だち』のトレーナー。元々はマンハッタンカフェの担当だったが、ひょんな事からアグネスタキオンのモルモット兼お世話係兼担当にもなった男。カフェにゾッコン中。カフェも割とお気に入り。"お友だち"の方はもっとお気に入り。2人の感情が反映されるのが"お友だち"なら両想いだとクソデレるのでは?(厄介CPオタク脳)。現実は複合的だからね⋯⋯。笑いの癖が強い、霊障担当の爽やかにうぜー奴。


カレンチャンよりバクシンオー救済チャートになってませんかねぇ⋯⋯?まま、結果的には誤差だよ誤差。お兄ちゃんが頑張るゾ〜これ。
次回はデジたんがデジタルします。

追記.すみません、ロリコン編がもう1発いきます。作者は迷走してました。勘違いコメディが近々投下されます。
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