人間がウマ娘に負けるわけないだろ!いい加減にしろ!! 作:なちょす
ロリコンとヨシエさん、アグネスデジタルとミホノブルボン、後輩ちゃんと理子ちゃん、マックちゃんとホヤ⋯⋯トレセン学園の一大イベント『聖蹄祭』で起きる様々な確執と過去を舞台に、勇者御一行がウマ娘達と巻き起こす感動と涙の青春群像劇です。(建前)
ラップ刻むぜブルボンちぇけぽん!芦毛のあの子はキュートな彼女!野菜食わんならねじ込めビタミン!厨パVSベジタリアン!!(本音)
大丈夫です。ここまで読んで下さってる独身兄貴たちなら展開が読めますから。
ね?読めるよね?♡読め。(豹変)
プロローグ : *ぼうけんのしょを よみこみますか?
『ごめんね。君のトレーナーには⋯⋯なってあげられない。』
頭を殴りつけられたようだった。
自惚れていたわけじゃない。それでもあの人の次は俺の番だと思っていた。サブトレーナーとして経験を積んで、荒削りでも力になれると思ってたんだ。
あの走りを近くで見れるなら。
誰よりも楽しそうに走る彼女のそばに居られるなら。
そうしたら⋯⋯親父にだって⋯⋯。
───マルゼンスキーが先頭!2着に7バ身、8バ身と差をつけていく!もはや彼女の一人旅です!!
あぁ、そうだ⋯⋯楽しそうに走る君が、あまりにも綺麗だった。
綺麗だった、のに。
『ねぇ⋯⋯今、楽しい?』
『⋯⋯分からない。けど俺は───!』
『じゃあやっぱりダメ。楽しさを知らないなら、君までこっち側に来る必要ないわ。』
『なら⋯⋯なら、君はどうなんだ。』
『⋯⋯どうかしらね?ふふっ、自分でも分からなくなっちゃった⋯⋯もし私のトレーナーになりたいのなら⋯⋯教えてくれるかしら。』
耳元まで顔を近づかせた彼女は、諦めたように言葉を絞り出した。
『
意志を持った言葉は⋯⋯その時確かに、俺の喉元に喰らいついていたんだ
◇◆◇◆◇
「───。──。」
「─────!」
薄ぼんやりした意識の中で声がする。俺は確か⋯⋯新人ちゃん達のレースについて情報を集めていたはずだ。
ボーノの手厚いサポートや、カレンとマヤの2人の指導にデジタルの並走と至れり尽くせりな事もあってOP戦は順調に勝てている。そろそろ初の重賞を視野に入れてもいいかと作業していたが⋯⋯成程。さては寝落ちしたな?
どれだけ寝てしまったかは分からないが、ちょっとスッキリした気がする。懐かしい夢を見た気もするが⋯⋯まぁ良いだろう。さっ、仕事仕事───。
「はーいデジタルちゃん、笑ってくださーい♪」
「きゃっ、きゃっ♡」
「託児所かな?」
目の前で絶賛赤ちゃんプレイが繰り広げられていた。地獄再びである。
前々から思ってたけどな、クリークママン。お前さんウチのトレーナー室に育児セット丸ごと置いてるだろ?おしゃぶりと哺乳瓶は許すけど離乳食は許さんぞ。ウチの変態が口にしたらどうする。喜んでやるぞ、ソイツは。
デジタルもデジタルだ。ガラガラで喜ぶんじゃない。
「なぁ、お2人さん。」
うぉっ!?何で揃って真顔でこっち向くんだ!怖いからやめろ!特にそのおしゃぶり咥えたヤツ!めっちゃじゃれ合ってた犬が急に"すんっ⋯⋯"ってなった時のリアクションだぞそれ!
「デジタルちゃんのトレーナーさんもどうですか?」
「
「ばぶ。」
「お前は何だ。」
ばぶ、じゃねぇよ。
ソファーから起き上がったデジタルは、スーパークリークが俺に用意したおしゃぶりを手に取るや無言で隣にやってきた。
おい。何差し出してる。
やらねぇって。誰が三十路にもなって
しかしこの愛バ、今日に限ってはNoと言ってもYesを強要してくる。中々手を引かない。普段なら放っておけば勝手に子守唄コースで寝落ちするのだが、やはり首を突っ込んだのが不味かったか⋯⋯このまま無言の圧でおしゃぶりを差し出され続けるのも非常に仕事がやりにくい。
ならば───。
「デジタル。俺は今、可愛い成分が不足している。だからそろそろぬいぐるみで癒されようと思ってたんだが⋯⋯お前が俺の可愛い成分を満たせたら、それを貰っても良いぞ。」
トレーナーの立場を利用して教え子に接近させるという大人としてもわりかし下の下に入るであろう選択。うむ、実に最低である。まぁこっちもおしゃぶり咥えて尊厳がおぎゃるかどうかなので目を瞑ってもらいたいが⋯⋯。
俺は知っているぞデジタル。お前が可愛いだの推しだの言われるのに猛烈に弱い事を。出来るわけないよなぁ⋯⋯?頬チューはカレンがいたから出来ただろうが、自分からそんな事した事ないもんなぁ⋯⋯?これぞ対愛バ戦略、『押してくるなら押し返せ』だ!ふはははっ!完璧な戦略───えっ、膝の上座るの?
『⋯⋯⋯⋯。』
沈黙。
膝の上でこちらに背を向けるデジタルは何も言わない。真の勇者は多くを語らない。ただ後ろを向いたまま、肩越しにおしゃぶりを差し出してきた。口にはしないが背中が言っている。確かに強い意志で、己の想いを込めている。
───
お前こういう時だけ行動力半端じゃないよな。もう良いよ⋯⋯俺の負けだよ。お前はいつだって可愛いよこんちくしょうが。
おいクリーク。何花丸ジェスチャー出してんだ。見世物じゃないぞ。おしゃぶり咥えて花丸出された三十路の気持ちを考えてみろ。いたたまれないんだ⋯⋯。同じ母親属性を持つと噂のフラワーちゃんだってこんな事はやらないからな。
いや、フラワーちゃん影響受けやすいかもしれない⋯⋯ふむ⋯⋯⋯はっ!何甘やかされてる場面を想像してるんだ俺は!ロリにバブみを感じる程疲れちゃいないぞ!それもこれも全部このおしゃぶりのせいだ。えぇい、魔道具め。
膝の上で相変わらずデジタルは黙っている。耳だけぴょこぴょこさせおってからにこやつは⋯⋯お前⋯⋯。
「デジタル。少しだけ声を上げたい。」
「?」
「耳がガラ空きじゃオラァッ!!!!」
「おぎゃぁああぁあぁ!!」
「あっ、産声上がった。」
「何してんすかオッサン。」
あまりにも冷たい声。うむ、最早聞き馴染んだ歳下のヒト娘である。呆れてる顔してらぁ。
「相も変わらず仲良しですよねぇ。あっふふはっはぁっふー!!」
クソうるせぇなモルモッT君。音量下げろって⋯⋯えっ、何で居んの?後輩ちゃんならクリークママン絡みだろうけど、お前さんとカフェが来る理由は本当に分からんぞ?
あっ、あれ⋯⋯?何か忘れてる?今日会議かなんかあったっけ?いや、でもあったらメールぐらい───あっ、新着来てる。聖蹄祭に関する催し物、及び特別レースについて⋯⋯from⋯ヨシ、エ⋯⋯?
「皆さんお揃いですか。」
「ぷぉっ!?」
「いだっ!!」
吹き出したおしゃぶりがデジタルの後頭部に直撃した。
おぉ、勇者よ。現実に帰ってきたか。なら今すぐ膝から降りて何事も無かった様に振る舞うのじゃ。トレセン学園の女王の御前であるぞ。
ほ、ほら見ろ!ヨシエさんスゲェこっち見てんじゃねぇか!早く降りろって!いや俺も降ろすには惜しい所はあるが、なんて言っても皇帝のトレーナー。ウマ娘と適正な距離感を保てないトレーナーはロリコン認定されて悪即斬だろう。
「そんなに慌てなくても結構ですよ。ウマ娘達と親密なのは、こちらがとやかく言うことではありませんから。」
「そっ、そうですか?すみません⋯⋯。」
の割には顔が笑ってない。
「赤ちゃんプレイって親密に入るんですかね。」
「おい、そこのヒト娘。余計な事を言うな。」
「先輩の評価がアタシの中でダンゴムシになりました。今後は頑張って下さい。」
「ダンゴムシってなによ!?」
「評価が蜘蛛になった瞬間シバキに行くんで。よろしく。」
「聞けって!せめて基準を説明しろッ!」
「んっ、んんッ!⋯⋯よろしいでしょうか?」
『あっ、すみません⋯⋯。』
ほれ見ろお前。ヨシエさんちょっと怒ったじゃないか。眼で俺のせいみたいな事言ってるけど2割ぐらいお前さんも原因だからな。
「取り敢えず始めましょうか。」
「あの⋯会議があるって今知ってしまって⋯⋯すぐに準備します。」
「いえ。今日はここでやらせて頂きたいのですが。」
「えっ?あっ、いや⋯ウチは構いませんけど⋯⋯。」
「ハーバーのトレーナーさんから、近々勇者御一行のルーキー達が重賞を控えていると伺っています。ここで済ませてしまえば、すぐにでもそちらの作業に没頭出来るんじゃないかと。」
こっ⋯⋯後輩ちゃん!!ダンゴムシだなんだと言っておきながらこのファインプレー!
「⋯⋯あー⋯まぁ、そういう事なんで。」
「ありがとな⋯⋯後で
「あれ。アタシ恩を仇で返されようとしてます?」
しょうがないだろ。デジタルが某国の殿下から貰ったんだから。流石のボーノもどう料理するか悩んでるんだよ。
それはさておき、ここで何やら会議をして貰えるなら好都合である。ぱかぷちぬいぐるみのあるソファーに腰掛け、隣には後輩ちゃん。正面にはモルモット君とカフェ。偉いぞモルモット君。正面ヨシエさんは俺に厳しすぎる。今だって何か凄い見られているんだ。
「トレーナーさん、何したんですか?」
「身に覚えは無い⋯⋯多分。」
「今回皆さんに集まって貰ったのは他でもありません。来月開催予定の聖蹄祭⋯⋯その最終日に行われるエキシビジョンレースについてです。」
「エキシビジョン⋯⋯そんなのありましたっけ?」
「まだ公にはしていない情報なので⋯⋯個人的にはお話した方もいると思いますが、今この場に居る3チームは世間からも大きな期待を寄せられているチームです。」
ヨシエさんは手にした書類に顔を向けた。
「芝・ダート問わず、今なおマイルで負け無し。距離適性すら覆したオールラウンダー、アグネスデジタルさん。無尽蔵のスタミナと止まる事の無いスピードを持ち、ただ1人
その時、後輩ちゃんの携帯が着信を示すバイブ音を響かせた。
「⋯⋯すみません。」
「いえ。彼女でしょう?」
「はい。⋯⋯もしもし。アンタ今どこ居んの?」
『──。────。』
「いや部屋の前なら入ってこいし。別に誰も怒らんて。ん⋯⋯まぁ、勇者御一行のトレーナー室なんだからそりゃ居るでしょ。」
『───!─────!!』
携帯の向こうから悲鳴の様な訴えの声がする。後輩ちゃんは深いため息をついてソファーから立ち上がると、勢いよく部屋の扉を開けた。
「往生際が悪い。さっさと入れって。」
「ぎゃああああ!!トレーナーの意地悪っ!バカっ!まだ心の準備が出来てない!無理無理無理無理無理無理ッ!!」
「うるさ⋯⋯すみません。遅れましたけど、ウチの担当です。」
「あっ⋯⋯。」
デジタルの小さな声。かくいう俺も部屋に入ってきたウマ娘から眼が離せなかった。
涙を浮かべた、ぱっちりと開いた眼。芝とダートを走れる力強いトモ。後輩ちゃんに首根っこを掴まれたその芦毛のウマ娘を⋯⋯俺達は良く知っている。
あぁ、そうだ。忘れもしないマイルカップ。
忘れもしない───天皇賞・秋。
『もしアタシが出る事で⋯⋯あの子の夢を摘んでしまっているのなら⋯⋯出ない方が⋯⋯ッ!』
『悔しい想いをした娘たち!その想いを無かったことにしたくない!だから───アタシは持っていきます。この先のレースに全部、自分自身の力に変えて。それが⋯⋯"ウマ娘"アグネスデジタルです。』
デジタルが勇者として覚悟を決める事になった、1人のウマ娘。トゥインクル・シリーズに残してきた唯一の未練⋯⋯その子が目の前に居る。
僅かに微笑んだヨシエさんは、再び書類に目を通した。
「それから、アオハル杯決勝で大差勝ち。ダート界においては
名前を呼ばれた彼女がこちらを向く。
1度は栞を挟んだ冒険の書が、再び開かれた音がした。
人生初のウイニングポスト始めました。
馬主はセクシーダイナマイトファームのヨシエさんです。
勝負服のデザインはモロちんTENGAです。(大事)
2章は1話辺り短めで投稿頻度上げるように努力します(短めとは言ってない)。
後輩ちゃんの担当が出ちゃったけど、紹介文はまた後で♡
次回、『第1R : *むてき の チームアップ』