人間がウマ娘に負けるわけないだろ!いい加減にしろ!! 作:なちょす
違うよな⋯⋯チャンミは好きな子でどこまで戦えるか競うものなんだ⋯⋯なぁ⋯やろうぜカワカミ。俺とお前でテッペン取ろうぜ。人権キャラ達に、"ぶちかまして差し上げますわ!"してやろうぜ!
だから早くウチに来いッ!!カワカミプリンセスッ!!!!
聖蹄祭の本番が近付き、いよいよトレセン学園内は盛り上がりを見せてきた。
そんな中勇者御一行のトレーナー室には、後輩ちゃんとブルボン、向かい合うように俺とデジタルが座っていた。『頼みたい事があるんで、ちょっと時間下さい』と言われたのが今日の午前中である。
空気が若干ピリついているのは気の所為だろうか。
ブルボンはじっとこちらを向いているし、後輩ちゃんはソファーに腰掛けたかと思えば目を閉じて黙るし、デジタルはソワソワと落ち着かない様子。やっぱ気の所為じゃねぇわ。気まずいもの。
おい、止めろ相棒。人の顔見て"また何かやっちゃいました?"みたいな視線を向けるんじゃないよ。何でもかんでも俺が原因で事が進んでると思ったら大間違いだからな。そうだろブルボン。
あっ、目を逸らされた。
まぁ大方想像はつく。ここに来たと言う事は、以前本気の宣戦布告をぶつけてきた事に関係しているのだろう。何だと?やっぱり俺じゃないか、たまげたなぁ⋯⋯。
「⋯⋯ここに来たってことは、何かあるんだろう。この間の件か?」
「はい。簡潔に申し上げます。アグネスデジタルさん⋯⋯私と走っては貰えないでしょうか。」
「⋯⋯へっ?えぇッ!?ア、アタ、アタシですかぁッ!?」
「だと思ったよ。ただ何でこのタイミングなんだ?聖蹄祭が終わってからの方が時間に余裕があると思うんだが⋯⋯。」
「確かにそうかもしれません。ですが、デジタルさんが最終日のエキシビションに出る事を考えるなら、そちらにとっても都合が良いかと。」
あっ、ふーん⋯⋯
チラリと後輩ちゃんに目を向けるが、相変わらず目を閉じて
「だそうだぞ。どうする?」
「アタシとしては願ったりですけれど⋯⋯その⋯。」
「⋯⋯もし何か思う所があるのでしたら、こういうのはどうでしょうか。」
ブルボンは僅かに言葉を溜め、固く手を握りしめて言い放った。
「私が勝ったら、デジタルさんをハーバーにお借りすると言うのは。」
『えっ?』
何それ聞いてない。
えっ、ヤダ。普通に嫌ですよ。
お前ウチからデジタル引き抜いたらこのチーム大変な事になるんだぞ。憐れなお兄ちゃんはカレンに喰われて、ボーノとちゃんこを食べ過ぎて太り気味になり、管制塔としてマヤちゃんを大人の女にしなければならないことが始まってしまう。トレーナーちゃん
新人ちゃん達も、普段は大人しいが時たま距離感おかしい時あるし⋯⋯この間なんて無言でフジツボを頬に押し付けられた。テロか。今後3人娘が来た時の事も考えれば、俺だけじゃ対処しきれねぇ⋯⋯特にRobRoy. ───じゃなくてロブロイ。ヌッ、もしかして俺はトレーナーの中で最底辺なのでは?凹む。
「デジタルさんの持つ知識。ウマ娘としての在り方。レースで見せる末脚と勝負勘の良さ。そして距離適性すら覆したその力を借りれればと。」
「⋯⋯それは、何だ⋯合同練習で、とかじゃ⋯⋯ダメか?」
「はい。」
「そ、そうか⋯⋯ならウチが勝ったら?」
「考えていません。負けるつもりはありませんので。」
こっわ!!ちょっとブルっとしたボン!今日のサイボーグやりにくいボン!お前さんそんなキャラじゃなかったじゃん!もっとこう⋯⋯中身幼女みたいな無垢娘だったでしょうが!高等部だけど色々無知な
た、確かに元からデジタルの事考えてた節はあったし、この間の宣戦布告もあるから戦意マシマシな気分なのかなっては思ったよ!
何だよ⋯⋯そ、そこまで怒らなくても⋯いや、俺何も言えねぇわ⋯⋯。
「トレーナーさん。」
「⋯⋯何だ?」
「どうしたいですか?」
アグネスデジタルは笑っていた。
「どうって⋯⋯何が?」
「どう、したいですか?」
お前はお前でクソリプbotみたいになるんじゃないよ!こっちは質問の意図汲み取れてないんだって!あと聞くんだったら"どうしたいか"じゃなくて"どうしますか"でしょ!一緒に考えてくれよ半身!それだとお前が俺の意志絶対尊重するウーマンみたいになるだろ!ウマ娘だけに。ふふっ⋯⋯は?
えっ?本当にどうしたらいい?何が正解なのよ?こ、後輩ちゃん、何か言って───何驚いた顔してんのお前さん。驚きたいのはこっちだわ。こちとら訳分からん内に半身と離されそうになってんだぞ。2人揃って1.5人前位なのに1人前の部分を持っていくんじゃあないよ。
えぇい!負けたら引き離されるならとことんやってやろうじゃねぇかっ!!
「⋯⋯勝つ。以上。」
「はい。」
「では、レースの条件に関してはそちらにお任せします。マスターのおかげもあり、マイルでのレースも想定したトレーニング、及び実績は取得済みです。距離の面に関しては、適正の問題はありません。」
うむ。確かにここ最近のブルボンは、ステイヤーと言うよりマイラーばりのレースローテーションを組んでいた。成績も残せているし、仕上がりもほぼ完璧に近いまである。
あっ、全部後輩ちゃん情報です⋯⋯。
だが甘く見るなよブルブルボンボン。こちとらマイル負け無しの半身、強くて可愛いデジたんだぞ。香港で世界のウマ娘達を舐め回すように見た挙句全員抜き去って泣かした実力は伊達じゃあ無い。だよな、デジ⋯⋯なんかビックリするぐらい大人しいなお前。ずっと笑ってるし。お、おい⋯⋯変な事言わないよな?なっ?
「では芝2400mでどうでしょう?」
デ、デジタルッ!?
今話聞いてたッ!?それ中距離じゃねぇか!中距離ってお前⋯⋯勝ったり負けたりしてる距離だぞ!?よりによってブルボンが1番得意な距離で何ガチンコやろうとしてんのよ!折角条件決めさせて貰えるんだから1600mで良いだろう!!あっ、いや、勿論デジタルが負けるなど微塵も思ってない⋯⋯思ってないぞぉ⋯⋯。
「折角ブルボンさんと走れる機会ですし⋯⋯なら、アタシだけじゃなくてブルボンさんにとっても有意義なものしたいと思うんです。」
「⋯⋯それは⋯。」
「それにほら!アタシはどんな距離でもバ場でも走っちゃいますから!ウマ娘ちゃんがいるだけで適正距離は変わるってものですよ!これでも───オールラウンダーなので。」
「⋯⋯分かりました。では、明日の放課後に。よろしくお願いします。」
立ち上がったブルボンはそのまま部屋を後にした。
心做しか顔が怖かった気がする。お前もそう思うよな?ポニーちゃん。
「デジタルさん。この人ちょっと借りていっても良いですか?」
「はい。どうぞどうぞ。」
「えっ?何?何?」
「ちょっとこっちに。」
後輩ちゃんに手を掴まれて俺達も部屋を後にした。
やって来たのは、もう俺らしか使っていない学園の端も端。パイプ椅子が2つ並んだだけの簡素な喫煙所だ。いや、訂正。使ってるのは俺1人だったわ。このヒト娘は駄べりに来てるだけである。
彼女は俺の方を向いて、頭を下げた。
「すみません、先輩。」
「待て待て待て!何で頭下げてんだよ。説明してくれなきゃ俺はさっぱり分からないんだ。お前さんやヨシエさんみたいに、察しの良いタイプじゃないんだから。」
「ブルボンさんを焚き付けたのはアタシです。」
爆弾発言。
ヒュー!
「ブルボンさんは⋯⋯本気です。ウチのチームに来て、初めて言ってくれた頼み事でした。勇者御一行───アグネスデジタルさんと、先輩の2人と競いたいって。」
「あぁ⋯⋯まぁ、そこは何となく伝わったよ。ぶち抜くとか直接言われてたし。」
「あの子は本気のデジタルさんを望んでます。勿論、デジタルさんが優しさから手を抜くとかそんな事微塵も思ってないですけど。んで、分かりやすく本気を出させるなら条件でも出してみれば良いって言ったんです。その時はあの子も、"考えてみます"って話してたんですけどね⋯⋯。」
「⋯⋯さてはお前さんにも言ってなかったな。」
「はい。ただ間違っても、あの子は───。」
「分かってるよ。あんな風に煽るタイプじゃない。そしてお前さんが、それを知ってたら無視出来るような性分じゃないって事もな。」
どの道いつかはこうなると思っていた。向こうにその気があるのなら、遅かれ早かれ決着をつけなければならなかったのだ。
だがここで1つ気掛かりなのは、何故ブルボンがそうまでしてデジタルを
デジタルは確かにウマ娘相手には、やたらと自分を下に見る。それでもトゥインクル・シリーズの中で色々なウマ娘と競い、キングヘイローにその在り方を教わり、オールラウンダーとして戦ってきたんだ。アイツはいつだって本気だった。それでも足りないと言うのだろうか。本気ってなんだい?
「⋯⋯もっとも、1番予想外だったのはデジタルさんですけど。」
「えっ?何で?」
「何でって⋯⋯それマジで言ってます?」
後輩ちゃんは訝しげな表情でそう聞いてきた。
いやだって⋯⋯笑ってたし。ウマ娘達は耳やしっぽに、その感情が顕著に表れる。流石に俺もトレーナーの端くれ、耳を絞ったウマ娘は機嫌が悪いと言う事くらいは知っているぞ。だがデジタルにそんな様子は見られなかった。
まぁちょっと食い気味というか矢継ぎ早にブルボンへ言葉をかけていたものの、それ以外は至って正常である。
「あのデジタルだぞ?ちゃんとブルボンの為にもって言ってたろう。」
「それですよ。今まで勇者御一行とはそこそこ合同練習させて貰いました。ブルボンさんがマイルを問題無く走れるようになってる事も、デジタルさんが中距離で安定していない事も⋯⋯デジタルさん自身が良く知ってるはずなんです。その上で、
「うん⋯⋯つまり?」
「ブルボンさんは最初に、エキシビションの事もあるからって言ったはずです。あの子マイルですよね?距離が変われば走り方もレースの展開方法も変わります。こっちの為を思って中距離に⋯⋯逆を返せば、マイル走るのに付け焼き刃じゃ自分には"絶対"勝てないから、ブルボンさんの得意距離でやりましょうねって話をしてるのと同じです。」
「⋯⋯アイツがブルボンの煽りに乗っかったって事か?」
「個人的には煽り返したぐらいに思いますけどね。それか⋯⋯あえて怒らせた、か。だからおっかないんですよ。あの笑顔見せてた事が。」
いや⋯⋯いやいや、まさかぁ⋯⋯。アイツは単純に、相手を自分の得意分野に引きずり込んで走るって言うのが好きじゃないだけだ。現にオペラオーやドトウと競った時も、天皇賞を選んだんだし。
だが⋯⋯うーん⋯⋯。
「想像は出来ないなぁ⋯⋯。」
「まぁ⋯⋯でしょうね。ただ1つだけ言わせてもらうなら、勇者御一行は結束力がトレセンの中でもトップクラスに強いですけど、着火のしやすさもダントツって話らしいっすよ。」
「⋯⋯マジ?」
「さぁ⋯⋯?でもそれが本当なら、そういう心理状況だったって事ですね。そうなる理由なんて1つじゃないですか。そのクソボケ読解力で理解してあげて下さい。」
「今クソボケって言ったか?ファル子のトレーナー程じゃねぇだろう。」
「あの人引き合いに出てくる段階で大分ヤバいっすから。」
胸ポケットから煙草を取り出して火をつける。
静かに燻り続けるその熱は、デジタルの⋯⋯或いはブルボンの心情の様に思えた。
「なぁ、デジタル。」
「はい?」
夕焼けがターフを真っ赤に染める。
隣に立つのはジャージに着替えた我が半身。ミホノブルボンがやってくる前に、どうしても昨日の事を聞いておきたかった。
「昨日───。」
「アーッ!!あれはデジたん一生の不覚!大罪!煮ても焼いても食えない
「うるっさ。まだ何も⋯⋯お前今なんつった?」
可愛いオタクには毒がある。いや毒素しか無いが、まぁ目を瞑ろう。どうやら何かしらの自覚はあるらしい。反応からして⋯⋯やはり後輩ちゃんの言ってた事なんだろうか。
「うぅ⋯⋯ウマ娘ちゃん達を推して早10数年⋯アタシはなんて事をぉ⋯⋯。」
「ちょっと怒ったのか?」
「怒る⋯⋯?誰がです?」
「デジタル。」
「誰に?」
「ブルボン。」
「いーーーーーーーーーや無い無い無い無いありえませんって!ブルボンさんがアタシに怒るのは分かりますけどその逆ぅ!?かぁーッ!それでもアタシのトレーナーさんですか!?何年変態やってきてるんです!?」
「1年たりともやった覚えねぇよ。じゃあ昨日のは⋯⋯。」
「あれは⋯⋯怒ってなんかいないです、けど⋯おっ、怒らせようとは⋯⋯しちゃいました⋯⋯。」
ぶち上がったりフォールダウンしたり⋯⋯ベストアルバムのラインナップみたいなテンションだな。
慣れない事をしたせいか、或いはウマ娘に対してそういう事をした自分を許せないのか⋯⋯デジタルは珍しくしおらしかった。
「⋯⋯もし⋯あれが、ブルボンさんにとって必要な事だったって言ったら⋯⋯信じてくれますか?」
自信の無い声音。余程堪えているのか⋯⋯まぁ返答など1つしかないが。
「ふふっ⋯⋯俺が今までお前を信じなかった事があったか?」
「結構ありましたね。」
「そうかもしれないけど台無しだわ。」
「あはは⋯⋯なら信じるついでに、もう1つだけお願いします。」
そう言ってデジタルはこっそりと俺に耳打ちをしてきた。
「⋯⋯良いのか?」
「はい。」
デジタルはたまに分からない時がある。何を考えているのか⋯⋯と言うより、何を見ているのかが分からない。ただ間違いないのは、いつだってウマ娘の事を考えている事だ。
ウマ娘全てが推しなら、その推し達の手伝いをしたい───そうして2人で作ったのが勇者御一行なのだから。
もうじき日が沈む。遠くからブルボンと後輩ちゃんが歩いてくる。
何年一緒だろうと、きっと俺はデジタルの全てが分かっているわけじゃない。それでも───。
「"最推し"がそう言うんだ。やってやるさ。だから⋯⋯勝ってきな、
「"最推し"がそう言うんです。みっともない走りはしませんよ。だから⋯⋯見てて下さいね、
戦場を選ばない勇者と、坂路の申し子。
決着の時がやって来た。
次回、『決戦 : 坂路の申し子』
ブルンボルン視点の回想からロリコン編にギアチェンします。車で言ったら6速からバックに入れる感じですね。壊れるんだよなぁ⋯⋯。
当作品はヌトヌトの良バ場でお送りしております。