人間がウマ娘に負けるわけないだろ!いい加減にしろ!!   作:なちょす

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カレンチャンを単発1回目で引いた嬉しさから『オ"ォ"ン"ッ!♡カレンチャンと結婚だにゃあん♡♡♡』と紳士的かつ正常な反応をしていた所、数少ない友人が殿下を単発1回目で引いてました。多分来月あたり、アイルランドの王族にラーメン作ってると思います。
ヒュー!流石2人しかいないサークルのリーダーだぜ!運命感じちゃう♡一生ズッ友だよ♡♡友情トレーニングしよ♡♡♡

⋯⋯は?何でシービー完凸してんの?(200連1凸の敗北者)
私達⋯⋯もう終わりね。(後ろで流れるレベッカ)


▷勇者御一行は ミホノブルボンの願いを 守ろうとしている。
▷作者は 過去一長文になった事を 気にしている。


決戦 : 坂路の申し子

『⋯⋯これでもまだ三冠を目指すのか?勝てるレースをわざわざ捨てて。』

 

 

 最初のマスターはそう言いました。

 2000mの模擬レース⋯⋯それをまともに走り切れなかった私を見る彼の眼は、最初こそ心配はあったものの、いつからか呆れの眼に変わっていて。

 

 どういうウマ娘になりたいか。

 どういう存在で在りたいか。

 何を夢に見るのか。

 何を証明するのか。

 

 誰もが自分自身の特別な想いを持っている様に⋯⋯私にとっては、それが『三冠ウマ娘』。

 

 誰よりも速く、誰よりも運が良く、誰よりも強い。

 

 レースに出る者にとって。

 或いはレースを見ている者にとっての、特別な存在。

 

 そんな特別になる事が、私の夢。そして私と父の───大切な約束。

 

 

『もう良いだろう、ブルボン。君のスタミナでは2000mも走り切れない⋯⋯三冠を取るには、菊花賞だって挑まなくちゃならないんだ。私には、到底君のスタミナが持つとは思えない。』

『それは⋯⋯次は必ず───。』

『聞き飽きたんだ。』

『っ⋯⋯。』

『分かったはずだ。今の自分がそこを目指すのは、どれだけ厳しいのか。クラシック路線はただでさえ中・長距離を得意とするウマ娘達が鎬を削る。そこに適正の合わない君が出てどうなる?ただ悔しい想いだけして、何も残せず終わりたくないだろう。』

 

 

 自分に合った走りを。

 自分の走れる道を。

 叶わぬ夢より、叶う夢を。

 

 あの人の言う事は正しかった。いつでも正しかった。だからこれは、私の我儘なのだと理解している。何も出来ずに終わるくらいならと、何度も思考を繰り返し、分析し、判断してきた。今の自分に足りないものを埋める為、自主練習も欠かす事はありませんでした。

 

 

『ブルボン。君が三冠ウマ娘になると本気で信じているのは───もう、君だけなんだ。』

 

 

 その言葉に、周りのトレーナー達は何も言わなかった。ただ目を逸らし、より確実性のある方へと歩き出していく。

 目の前のトレーナーは諦めなさいと言っている。私の眼を見て、より確実な方へと歩ませようとしている。私の為に⋯⋯それは、間違いない彼の本心。

 

 それでも……それでも譲れないから、私は走り続けているのに。

 

 

 

『いつから言ってるんです?それ。』

『⋯⋯何だね、君は?』

『あっ、すみません。通りすがりのサブトレーナーです⋯⋯へへっ⋯。』

 

 

 

 言葉に詰まる私の前に、その人は現れた。

 

 

『ところでさっきの話ですけど、いつから言ってるんですか?』

『⋯⋯契約してからだ。この子にはスプリンターとしての才能がある。だが中々に頑固でな⋯⋯三冠ウマ娘になると、ずっと聞かないんだ。』

『スプリンターが三冠ウマ娘⋯⋯へぇ⋯⋯。』

 

 

 サブトレーナーを名乗るその人は、私の顔を見て少し考える素振りをしていた。

 

 また、無理だと言われるかもしれない。

 或いは他のトレーナーのように、当たり障りなく諦めを諭されるかもしれない。

 私の走れる距離は決まっていて、無理をするなと⋯⋯普通のトレーナーなら、そう言いたい筈です。

 

 けれど私のそんな気持ちとは裏腹に、目の前の人は笑っていた。

 

 

『イイじゃんか。俺は最高に良い夢だと思うよ。』

『なに?』

『適正距離なんか気合と根性と努力で跳ね飛ばすって事ですよね。並大抵の事じゃないですよ。正直⋯⋯超カッコイイって思いますけど。』

 

 

 掛けられたのは、私の知らない言葉。

 

 

『契約してからずっと⋯⋯余程大事な夢なんでしょう。むしろ、それを叶えたいが為にトレセンにやって来たんじゃないですか?』

『無茶なものに挑戦しても、傷付くのは彼女だ。それは挑戦じゃなくて無謀だろう。』

『だから諦めろと?契約してからずっと言い続けてきたんですか?じゃあ何でこの子と契約結んだりなんかしたんすか。無茶な事だって、他でも無いこの子が1番理解している筈です。それでも契約してくれたアンタが一緒に叶えてくれるかもしれないって思ってるからこうして頑張ってんでしょうが。なら自分の目の届く範囲で一緒に無茶やって、叶えさせる為に最善の道歩かせるのがトレーナー(俺達)の仕事じゃないんですか?』

『君はサブトレーナーなのだろう。まだ1人も担当したことがないから簡単に言えるんだ。』

『そっすね。でも凝り固まった考えよかマシだと思ってます。』

 

 

 肯定の言葉が続く。そう⋯⋯肯定。

 この人は、私が正しいと言っている。胸の内が熱くなる。

 これは⋯⋯理解不能の、温かさ。

 

 

『君の物言いは⋯⋯皇帝のトレーナーに似ているな。いや、他人の胸ぐらを掴まないだけマシか⋯⋯なら本人に聞けばいい。君はどうしたいんだ。まだ三冠ウマ娘を目指すのか?』

 

 

 私は───。

 

 

『⋯⋯私の夢は、父との約束を果たす事。即ち"三冠ウマ娘"の称号です。そこは⋯⋯諦めたく、ありません⋯⋯。』

『⋯⋯なら、お終いだな。好きにしなさい……もう少し聞き分けの良い子だと思っていたんだが。』

 

 

 最初のマスターとの別れは、そうして訪れた。

 

 

『へーんだ、だったら最初っから手出すなっつーの。バーカバーカ。さて⋯⋯頑固なおっちゃんも行ったことだし⋯⋯君はどうする?』

『私のやる事は変わりません。目標は三冠ウマ娘の達成です。』

『まっ⋯⋯だよな。誰が何と言おうと、君なら出来る。だから自分を曲げるんじゃないぞ。俺はサブトレーナーの身だからあれこれしてやれないが、応援してるよ。頑張れ───ブルゾン。』

『ブルボンです。』

『ヌッ。』

 

 

 笑ったその人は、背を向けて歩き出しました。サブトレーナー⋯⋯もしもその縛りさえなければ⋯⋯貴方は、共に歩んでくれたのでしょうか。

 

 

 

 2人目のマスターは、それから直ぐに見つかった。私の夢を理解し、共に歩むと誓ってくれた新人トレーナーの彼女は、根気強く練習に付き添い、思考し、最善の案を出し続けてくれた人でした。

 

 だからこそ、ただの1度も負けることは無く、ダービーまで勝ち進み───世間の眼は大きく変わっていったのです。

 

 無敗の二冠ウマ娘。皇帝シンボリルドルフ以来の偉業。世間がそんな風に話題を立てた頃⋯⋯変わっていたのは、世間の眼だけではありませんでした。トレーナーは⋯⋯。

 

 見ていて分かるほど、疲れた顔をするように。

 気を使って笑うように。

 大丈夫だと、何度も自分に言い聞かせるように。

 

 そう⋯⋯なってしまった。

 

 クラシック路線最後のレース。

 三冠ウマ娘を目前にした私は、菊花賞でライスに敗れた。父との約束を叶えられなかった。

 悪役(ヒール)───ライスがそう呼ばれている中で、私達に⋯⋯いえ。トレーナーに待っていたのは、世間からの手のひら返し。

 

 

 "ミホノブルボンのスプリントが見たかった"

 "適正を無視するから"

 "あぁ、やっぱり"

 "あの子が可哀想"

 

 

 マスターは優しい人。

 優しすぎる人⋯⋯でした。

 

 だから⋯⋯その声を全て自分が背負い、自分が悪かったのだと言い聞かせ、非は自分にあると言い続けていたのです。走って、負けて、夢を叶えられなかったのは私だと言うのに。

 

 私は⋯⋯1度も彼女を恨んだことはありません。彼女と組んで後悔した事など、1度だってありません。無謀だと言われた道を走り抜けれた事を誇りにすら思っている⋯⋯なのに…何故、貴女はそんなに自分を責めるんですか。

 

 何故今まで一緒にいた私ではなく、向けられた世間の声に耳を傾けるのですか。

 貴女を知っているのは私で、私を知っているのは貴女じゃないですか。

 

 

『ごめんね、ブルボン。今日も取材で⋯⋯練習、見れない、かな⋯⋯。』

 

 

 いつからか、彼女はそう言うようになっていました。

 それが嘘か本当かはどうだって良い⋯⋯ただ、私は貴女と新しい目標に望めれば⋯⋯そう思って⋯⋯⋯思って、いたんです。

 ある日ヨシエさんと一緒に現れたマスターは、私に言った。

 

 

『あのね、ブルボン⋯⋯今日から、別のチームに移籍になったの。』

『えっ⋯⋯?』

『ご、ごめんね、相談も無しに⋯⋯でも、新しいところはきっと良いところだよ!知ってる?ハーバーっていうチームなんだけど、もうかなり成績を残してるんだって!あっ、ライスちゃんも一緒だからね!だから⋯⋯だからね⋯⋯。』

 

 

 隣に居たヨシエさんは、僅かに唇を噛んでいた。

 あぁ、そうなのかと。自分でも驚く程すんなりと理解してしまった。私は⋯⋯この優しいトレーナーを───。

 

 プレッシャーで潰してしまったのだ。

 

 

『理解、しました。マスターも⋯⋯トレーナーの道を───。』

『⋯⋯私、トレーナーは今日で最後なの。』

『ッ⋯⋯そう⋯ですか⋯⋯。』

 

 

 2人目のマスターは、そうして自ら別れを告げました。もう2度と会うことは無い⋯⋯別の道へと。

 

 そこでようやく気づいたのです。私の夢は、単なる我儘だったのだと。望まれるものでは無く、叶えることも出来なかった⋯⋯そんな、身勝手なもの。

 

 もし勝てていれば。

 もし最初から夢など見なければ。

 もし。もし。もし。

 

 

『⋯⋯マスターの情報を、変更。目標未設定⋯⋯ごめん、なさい⋯⋯。』

 

 

 遠くなる彼女の背中を見つめながら、私は下を向く事しか出来なかった。

 

 

 

 新しいマスター。3人目。

 ヨシエさんが見繕ってくれたその人の元へ、ライスと2人で訪れた日の事をよく覚えている。

 

 

『ようこそ、ハーバーへ。ブルボンさんにライスさん、話はヨシエさんから色々聞いてますけど⋯⋯取り敢えず、お2人って前のトレーナーの事好きですかね。』

『えっ⋯⋯?』

『⋯⋯質問の意図が不明です。』

『まぁ⋯⋯言っちゃえばウチに預けてどっか行っちゃった感じですし。実際どうなのかなって。』

『マスターはっ!⋯⋯彼女は、私の我儘に付き合ってくれた人です。共に歩んだ道に後悔など有りえません。』

『⋯⋯ライスも、同じ、です。ちょっと⋯⋯まだ、走るのは怖いけど⋯でも⋯⋯。』

『そうですか⋯⋯トレーナーさん達、幸せ者ですね。こりゃ責任重大だわ⋯⋯。』

『ねぇ⋯⋯大根役者のトレーナー。茶番続けてないで全員見返そうって、さっさと言えば───いったぁッ!!痛い痛い、もうツネんないでよぉッ!!』

 

 

 芦毛のウマ娘⋯⋯クロフネさんの頬をつねりながら、彼女は笑っていた。

 

 

『了解です。ならそのまま優しい2人で居て下さい。吹っ切れるまで、無理についてこいなんて言いません。アタシは出来る範囲で最大限、勝手に手伝いさせて貰いますから。取り敢えず───クソムカつくんで、好き放題言ってくれてる世間様でも黙らせますか。』

 

 

 イタズラ好きな子供のような笑みを浮かべ、しかしその眼は燃えたぎる炎が渦巻いていた。

 ライスと私の前で膝を付き、手を取ってくれた彼女には絶対の自信が満ちていて⋯⋯それから───それから?

 

 レースで走り、勝利し、幾度となく賞賛の声を掛けてもらった。2人目のマスターと歩んだ道は正しかったと証明し続けてきた。

 なのに⋯⋯何故。

 

 何故、私は満たされないのだろう。

 何故この期に及んでも、彼だったならと淡い期待を抱いてしまうのだろう。

 

 もう我儘は言わないと決めたはず。

 もう望むものは無いと言い聞かせたはず。

 破れた夢の事など、考えないと誓ったはず。

 それなのに⋯⋯。

 

 

『ブルボンさん!これからも一緒に頑張ろうね!』

 

 

 アオハル杯が終わり、私にそう言ってくれたライスの笑顔。

 これからも一緒に───本当に?

 

 ウマ娘には全盛期があると、以前のマスターは言っていました。それは⋯⋯夢が叶わなかった時、怪我によって追い込まれた時⋯⋯『悪いユメ』に抗えなかった時。

 

 ライス⋯⋯貴女は、もう充分1人でも強い人になりました。私は⋯⋯貴女と同じ距離を走っても、もうG3クラスの重賞でしか勝てません。恐らくは、ここが私の終着点(ピーク)

 

 だから終わりにしようと思うんです。

 

 最後にマイルの王者───距離適性すら覆し、オールラウンダーと呼ばれたウマ娘へ挑む事で。或いは、彼女を選んだ運命()に抗う事で。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ⋯⋯!」

 

 

 アグネスデジタルさん。

 貴方が中距離⋯⋯それも逃げウマ娘の相手を不得手としている事は承知しています。

 

 本気で勝つ───その為には、大逃げに近い手を打ってでも貴女を引き離さなくてはならない。だからそうしたのに、貴女は私に付いてきた。ここに来て距離を詰めたのではなく、最初からピッタリと。普段の貴女では絶対にやらないような、ハイスピードの消耗戦。苦しげな表情には、いつもの明るく元気な笑顔は無い。

 

 何故、ですか?貴女は何の為に⋯⋯そんなになってまで走るのでしょう。

 

 有利なのは私の筈。スタミナの残りとスパートを計算しても、ペースが乱れたデジタルさんにとって厳しいものであるのは明白です。それなのに───勝てない。

 

 走れば走るほどに。

 ゴールが近づくほどに。

 そんな気持ちだけが強さを増していく。

 

 ダートも芝も、国内も国外も問わず走り続けた、ただ1人のウマ娘。

 

 いえ⋯⋯それも、もう良いのです。勝敗に拘りはありません。これは1つの区切り⋯⋯"ウマ娘"ミホノブルボンを終わらせる為のレース。

 

 夢を持たない私は、走る事が出来ない。

 私の夢は、他人を巻き込む我儘でしかない。

 だから───。

 

 

「ブルボンさぁん!」

「っ。」

「あのですね!こんな時に言うのもおかしいんですけど⋯⋯っ、昨日はすみませんでしたぁっ!!」

 

 

 思わず後ろを向いてしまった。彼女は必死に走りながら、尚も叫び続ける。

 

 

「アタシ如きが余計な事を!でもっ⋯⋯でもっ!やっぱり言わなくちゃって思ったんですっ!ハッキリさせたいなって思ったんです!」

「何を⋯⋯。」

 

 

 そうして彼女は、一際大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

「どーーーうせトレーナーさんが何かやったんですよね!?」

「⋯⋯はい?」

 

 

 

 ⋯⋯理解、不能。

 

 

「あの人大体そうなんです!真面目な顔して全ッ然違うこと考えてたり!でも言ってる事は間違ってないからウマ娘ちゃん達が勘違いしちゃったり!なんで上手く回ってるのかさっぱり分からない位には話が噛み合ってなくて!アタシが契約する前も後もその辺なんにも変わってないんですよ!カーッ!!何なんですかね!?」

「いえ⋯あの⋯⋯分かりません。」

 

 

 それは⋯⋯なんでしょう。愚痴?文句?怒り?

 ⋯⋯ステータス、『困惑』。

 

 

「だからブルボンさんも困ってるんですよね!本当はもっと走れるのに!本当は、諦めたくない事があるのに!無理して諦めようとしてるんですよね!!勘違いさせるような事言われたばっかりに、自分の願いも分からなくなってるんですよね!!」

「私は⋯⋯私には、そんなものはありません。」

「嘘ですッ!!」

「っ⋯⋯!」

「ずっと見てきたから⋯⋯ウマ娘ちゃんが好きなアタシだから分かります!分かっちゃうんです!!苦しんでる事、悩んでる事、精一杯もがいてる事⋯⋯。その全てを知りたいんです!アタシに何もかも我武者羅にぶつけて下さい!本気のブルボンさんを見せて下さい!アタシにも、あの人にも!!その為なら"勇者御一行のアグネスデジタル"として、鬼にも悪魔にも変態にも───勇者にもなりますからぁッ!!!!」

 

 

 彼女は速度を上げた。1バ身後方へと迫ったその顔に、いつぞやのライスと重なる鬼気迫るものが宿っている。

 いつだったか、彼女のトレーナーに聞いたことがある。どうしてアグネスデジタルさんはあんなにも走れるのかと。

 

 

『デジタル?あー⋯⋯すまん。正直分からん。でもアイツは、あのちっこい身体に色んなもん背負ってるんだ。自分が競ったウマ娘に恥じないように、想いを全部全部持っていくってな。世代のキングにそう教えられたからって言うのもあるが、元の性分だろうなぁ。だからアイツと競うんだったら相応の覚悟がいるぞ。』

『それは⋯⋯誰かの為に、というものですか?』

『いいや。"自分を貫き通す"覚悟だ。』

 

 

 ───覚悟。

 今の私に無くて、彼女にあるもの。

 私には⋯⋯もうそれを持つだけの理由もありません。なのに何故貴女は私に期待しているのですか。

 全部終わりにしようと決めた私に、これ以上何を求めているというのですか。

 

 私は⋯⋯私は、どうすれば良いんですか。

 

 

 

「走れッ!ミホノブルボンッ!!」

 

 

 

 その声は、私の名を呼んだ。

 

 

「後ちょっとだ!諦めるんじゃないっ!」

 

 

 フェンスから身を乗り出して、声を荒らげて、必死になって。

 理解不能。

 貴方が応援すべきは⋯⋯アグネスデジタルさんの筈です。貴方の担当は……貴方が選んだのは、彼女の筈です。

 

 

「相手が誰だろうと関係あるか!!お前は前を向けたんだろう!ならこんなとこで負けたりすんな!デジタルにも!自分にも!」

 

 

 後ろでデジタルさんが笑った。

 それはあの人と同じ強い眼差し。

 

 ふと⋯⋯お父さんの言葉が頭をよぎる。

 

 もし三冠ウマ娘の夢が叶って、目指すものが無くなったらどうすればいいか。私のそんな問いにお父さんは───。

 

 

『そうだね……簡単な事だ、ブルボン。お前は───。』

 

 

 

 

「お前はお前自身の願いの為に走れば良い!だからっ、だから頑張れッ!!」

 

 

 

 

 ⋯⋯自分でも、呆気ないものです。

 僅かに頬が緩む。ステータス、『高揚』を感知。

 全ては、最初からこの2人の筋書きでしか無かったのだと、ようやく理解しました。

 

 それはあの日と同じ、胸の内に熱を滾らせるたった一言の指令(オーダー)

 

 あぁ⋯⋯成程。私は───ただ、言って貰いたかったのかもしれません。

 

 

「⋯⋯状況の把握。後方1バ身にアグネスデジタルさんを確認。過去のデータより、スパートまで残り40mと推測。自身の体力、足の状態、概ね良好。自身の願い⋯⋯認証。」

 

 

 あの人に。

 誰よりも最初に私の夢を認めてくれた彼に。

 

 "頑張れ"と。

 "強くなった"と。

 

 それが───私の願い。

 

 ここに来て、まだ諦めるなと言うのなら。

 足掻けと。走れと。負けるなと言うのなら。

 願っても良いと、言うのなら。

 

 ───存分に後悔して下さい(・・・・・・・・・・)

 

 

「っ!ブルボン、さん……!」

 

 

 私は確かに、負けるつもりは無いと言ったのですから。

 

 

 

 

「目標 : 『勇者御一行への完全勝利』に設定。これより全身全霊を以て───指令(オーダー)、『頑張れ』を遂行しますッ!!」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

『アタシがスパートをかける前に、ブルボンさんを応援してあげて下さい。』

 

 

 そんな事をこっそり耳打ちしてきた相棒だが⋯⋯あの野郎、何レース中に俺への不満ぶちまけてんだァ⋯⋯?聞こえないとでも思ってるのかアイツは。いつ俺が勘違いさせるような事をウマ娘達に言ったんだ全く。しかもそれをブルボンに言うんじゃないよ。俺に言え。いや、やっぱり待って⋯⋯多分凹む。

 

 しかし思わず声援のフルコースを送ってしまったが……ブルボン、加速してね?お、おい、相棒!?大丈夫だよな!?お前負けたらぶっこ抜かれるんだぞ分かってるよな!?そっから間に合うんだよな!?

 

 あわわわっ⋯⋯あ、明日からトレーナー室にお前が居ないとかゴメンだぞ俺は!脱皮直後のザリガニ並にふにゃふにゃした三十路とか見たくないだろうが!!むしろ俺が後輩ちゃんのチームに行くからそれで良いだろう!

 

 ヌッ?これでは本末転倒。後輩ちゃん曰くウチは着火しやすいらしいから何が起因で発火するのか分からん。そもそも俺が行ったところでマイナスである。良いとこ蹄鉄磨きだな。ハッハッハッ!!凹む。

 

 

「なんの吹き回しです?先輩があの子の応援なんて。」

「いやデジタルがそうしろって。あぁでも……多分そうじゃなくても応援はしてたな。どうも俺はあぁいう真っ直ぐなタイプに弱いらしい。可愛い担当達然り、ブルボン然り、お前さん然り。」

「そっすか……ん?」

「何よ?」

「いや…………別に。」

 

 

 何だし。おい、露骨に眼を逸らすんじゃないよ。そういう時って大概何か思う所があるリアクションだぞ。そして1番傷つく動作でもある。凹む。

 

 

「でも良いもん見れました。ブルボンさん、なんか吹っ切れたみたいですし。デジタルさんの末脚が半端ないのは知ってましたけど、領域入ったあの子に勝てんなら───。」

「入ってないぞ。」

「……は?」

「後輩ちゃん、まだ見た事ないもんな。入ってたらとっくの昔にブルボン追い抜いてるさ。多分今回は……絶対持たねぇ。」

 

 

 大逃げなんて柄にも無いブルボンの策にピッタリくっついて、今もその加速に何処までも食い下がっているアイツにそんな余裕は無い。そうじゃなくても俺への不満ぶちまけるのに体力使ってるし。何をやってるんだあのクソカワロリオタクは。

 

 だがそれで負ける程ヤワな走りしてない事も確かだ。

 アグネスデジタルより速いウマ娘は多く居るだろう。現に中距離ならマヤノの方が勝率は高いし、マイルに関してもタイムや着差だけ見ればチラホラと強い子はいる。

 

 だが、ここぞという勝負所は絶対に外さない。勝つと言ったら勝つ。

 

 ほら見ろ、行くぞ?ウチの半身が行く……抜けっ…ちょ、おま、やめっ⋯⋯あ、あっ、あっぶねぇなぁッ!!アタマ差じゃねぇかよ!どんだけ博打かましてんだ相棒!ギリギリ楽しむスタイルはやめろ!!

 

 

「⋯⋯はぁ。願い叶って夢届かず、か。」

「危ねぇ……絶対間に合わないと思った……引き抜かれるかと思った……。」

「領域なんてデタラメなもんに踏み込んで、そうじゃなくてもあんな走りして、適正距離も覆す……あの子、いよいよ天才っすね。」

「変態だが?」

 

 

 いって、お前ケツを蹴るな。ゴメンって……。

 

 

「取り敢えず、アタシはデジタルさんのとこ行ってきます。お礼も兼ねて、ちょっと今後の話もしたいですし。」

「おぅ。まぁ何だ……今日は走れてよかったよ。サンキュー。」

「こちらこそ。ブルボンさんのとこ行ったげて下さい。あの子に今必要なのは……多分先輩の言葉なんで。ちゃんと良い言葉掛けて下さいよ。」

「任せとけって。」

 

 

 とは言ったものの……先程相棒に『アイツ勘違い野郎だから!』と大声で叫ばれたばかり故、少々怖気付いているのも事実。なぁに、普通にすればいいのだ。いつも通りクールに、スマートに。だから落ち着け、止まれ、俺の心臓。違う、止まるな。

 

 

「あっ、そだ。ウチらが勝ったらデジタルさん借りるって話……あれ全部嘘っす。」

「⋯⋯なに?この。」

「"焚き付けたのはアタシ"って言ったじゃないすか。どっかで言おっかなーぐらいには思ってましたけどね。あんまりにも先輩がガチで狼狽えるもんですから……。」

「…………言うタイミングが無かったって?」

「いや?普通に見てて面白かったんで。めっちゃ信頼されててウケる的な?本気出してくれんならいっか、つって。」

「表出ろ小娘。」

「もう表っす。」

 

 

 コイツ……ッ!人が担当を持っていかれそうになってる現状を、心の中でずっとニヤニヤしてやがった!ホントに5歳下の娘か!?大人をからかいやがってこの、うぅっ……!!

 

 

「て事なんで。ご馳走様でした。じゃ。」

「お前……!あ、後で覚えてろよ!絶対泣かせてやるからなッ!!」

「うっす。」

 

 

 片手でヒラヒラとあしらわれてしまった。ヤロウ……しょうがねぇ、まずはブルボンである。

 膝に手をついたブルボンはかなり疲労していて⋯⋯というより、目元を手で拭っていた。

 

 あれ?俺この状態のブルボンに無策で挑むとか無茶じゃない?何言っても逆効果じゃない?バカ言ってんじゃあないよ。

 いや、待て待て、まだ分からん。なんてったってブルボン。強い子ブルボン。

 

 

「ブルボン。お疲れ様。」

「はい。今日は付き合って頂きありがとうございました。」

 

 

 ほら見ろ、思ったよりも普通である。こちらを向いてはくれないが⋯⋯怒っている感じでは無い。さっきのも目元の汗を拭ったとかそういうやつだと思うんだ。うむ。

 

 

「⋯⋯トレーナーさん。何故貴方は私を応援したのでしょうか。私には、何度考えても分かりませんでした。」

「そりゃあ簡単だよ。ブルボン⋯⋯お前さんがそれを願ったからだ。」

「っ⋯⋯。」

 

 

 デジタルに言われたから⋯⋯事実ではあるが、それはきっと彼女の求める答えでは無いのだろう。ここで間違えれば後戻り出来ないレベルでボコボコにされかねん。ブルボンに右頬、後輩ちゃんに左頬⋯⋯そして愛バにはメンタル。ひぇっ⋯⋯。

 

 だが俺だってトレーナーの端くれ。後輩ちゃんにはクソボケ読解力と言われてしまったが、ちゃんと理解はしているんだぞ。

 

 ブルボンはやたらとウチに勝つ事へ執着していた節がある。つまりはそれが彼女の願いなのだろう。ジリジリと追い詰められた中で対戦相手のトレーナーから飛んできた声援というのは、挑発(野次)以外のなんでもない。デジタルは優しいとこあるから口にはしなかったんだろうけど、要はウマ娘が本来持つという"闘争心"に火をつけて能力を爆発させようと言う話だよな。分かってるぞ、相棒。

 ん?これだとレース終わってから俺ボコボコにされんじゃねぇの?

 そもそもさっき後輩ちゃん、『願い叶って夢叶わず』とか言ってたな。デジタルに勝つ事が願いなら叶ってなくない?

 

 あ、ダメだやっぱり分かんね。いかんいかん、今は会話を続ける事に専念しないと。

 

 

「デジタルもそうだが、お前さんだってずっと夢の為に努力していたんだろう。それこそ適正距離なんか覆しちまう程にさ。さっきの走りに俺は⋯⋯お世辞とか、冗談抜きで夢を見た。ミホノブルボンっていうウマ娘の、強い意志を感じたんだ。」

「それは⋯⋯私の我儘です。」

「何言ってんだ。少なくとも、お前の我儘なんて1度も聞いた事無いし感じた事も無いよ。だから応援したくなった。お前さんの願いも⋯⋯夢も。それはきっと特別な事じゃない。必然だよ。」

 

 

 ヌッ?ブルボンの手がブルブルしてるボン。何ならグー⋯⋯グーッ!?おま、お前グーはアカンって!!なに振り向きざまに良いもん1発かまそうとしてんのッ!?怒られてもビンタぐらいなら5発までは許そうと思ってたけどウマ娘のパワーでグーはヤベぇだろッ!!顔面ボンするわッ!ま、待て、落ち着け!俺もお前も一旦落ち着けっ!えっと、あれだ、ブルボンの健闘も讃えつつやんわりと良い感じに⋯⋯!

 

 

「あぁ、でもちょっとだけ⋯⋯いや、かなりお前さんに対しての後悔がある。」

「後悔⋯⋯?」

「今までお前の走りや夢をちゃんと見れなかった事だ。勿体ないことしたよ。ブルボン───お前、本当に強くなったな!!」

 

 

 はいここですかさず頭を撫でる!この完璧なムーブ、これで全ては丸く収まった。あとは皆でお疲れ様を兼ねて、ボーノのご飯で祝杯といこうじゃないか。ハッハッハ!だからその力一杯握られたグーを納めておくれ。

 

 振り返ったミホノブルボン───その顔は、大粒の涙がとめどなく流れていた。

 

 

「ふぁっ?」

「っ⋯私、は……。」

「ま、待て!どうしたブルボン!?あぁいや、どうしたって俺のせいなんだろうけど⋯⋯!す、すまん!いや本当にスマンッ!あの、あれは本気の声援であって決して煽ったわけじゃ⋯⋯!まさかそんなに泣くとは⋯なっ、ちょ、あのッ⋯⋯。」

 

 

 いつものポーカーフェイスっぷりはどこにも無く、くしゃりと顔を歪めたウマ娘が年相応の少女の姿で泣いている。

 思ックソ答え間違えたヤツじゃんコレ。クソボケ読解力め。ヒヒン⋯⋯俺も泣きそーなの⋯⋯。

 

 デ、デジタル⋯後輩ちゃん⋯⋯助けて⋯⋯お前ら何遠目に笑ってんだコラッ!!その『泣ーかせたー』とか、『ちょっとチェリー、ブルボンちゃん泣いちゃったじゃんー』みたいな空気止めろよ!生あったけぇ目線を送るな!童貞だって必死に頑張ってんだろうが!トレーナーになるまで女の子と接した経験皆無に近いのにパーフェクトな対応出来るわけねぇでしょ助けて下さいッ!!お願いしますッ!!

 

 何⋯⋯?何だデジタル、そのジェスチャー⋯⋯おまっ、抱けって言ってんのか!?出来るかお前ッ!!あぁっ?許可出したから良いって?そういう問題じゃ⋯⋯この、やってやろうじゃねぇか!後で耳差し出せよなッ!!

 

 

「ブルボン⋯⋯あー、えっと⋯⋯何だ⋯今まで頑張ったんだよな。色々な事を乗り越えてきたんだよな。やっぱり超カッコイイよ、お前さんは。今日⋯⋯夢を見せてくれてありがとな。」

「トレ、ナ⋯さん⋯⋯。」

 

 

 おっふ、この罪悪感。しかも結局ミスって泣かせるやつ。やはり無垢ノブルボン。

 

 結局ブルボンが泣き止むまで、そっと抱きしめることになった。

 

 

 ⋯⋯⋯⋯ぶるんぼるん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで、短い間ですがお世話になります。ミホノブルボンです。」

「何ですって?」

 

 

 翌日。何故かミホノブルボンはウチのトレーナー室で自己紹介をしていた。

 

 

「何でしょうか。」

「何でしょうかっていうか⋯⋯状況理解出来てないのに自己紹介始められてもな?」

「今日からお世話になります。マスターからは話がついてると聞いていますが。」

「何それ怖い。」

「あれ?アタシ言ってませんでしたっけ?言ってませんでしたね。」

「耳出せオラァッ!!」

「アーーーーーーッ!!」

 

 

 勝手に話進めてやがったこの半身!そういうのはちゃんと言えっていつだか言ったのにも関わらずこのっ、ロリオタ美少女ウマ娘がよォッ!!

 

 

「後輩ちゃんは了承してんだな?」

「はい。」

「お前も納得してるんだよな?」

「はい。」

「⋯⋯やりたい事、見つかったか?」

「⋯⋯はい。」

「なら良し!はい、皆で歓迎会の準備ー!」

『おー!』

 

 

 そうだよね⋯⋯俺以外皆知ってるなら⋯歓迎会の準備、してないわけないよね⋯⋯オラッ、暴れんなこのオタクッ!今日という今日はマジで許さんからなッ!1人だけ空気読めないおじさんみたいになっただろうが!!レースの時も好き勝手言いやがってこのっ!

 

 

「トレーナートレーナートレーナー!!」

「おぅ、どうした可愛い新人ちゃん達。」

「フジツボ⋯⋯食え⋯⋯。」

「食えー!食えー!」

「こらこら、頬に海産物押し付けるんじゃあないよロリ共。せめて調理してから持ってきなさいって。」

「はーい!ボーノ先輩のとこ行こ!」

「行く⋯⋯。」

 

 

 どっから持ってきたんだか⋯⋯好きな物共有したい気持ちは良く分かるが、生の甲殻類を押し付ける距離感は分から⋯⋯磯臭ッ!!

 

 

「好かれていますね。チームの皆さんから。」

「まぁ⋯⋯有難いことにな。そのチームに今日からお前も入るんだ。やっていけないとは言わないよな?」

「はい。」

 

 

 ブルボンはフッ、と頬を緩めた。やはりウマ娘は顔が良い。そして服の上からでも分かるブルンボルン具合。本格化ってこわ⋯⋯。

 

 

「私は⋯⋯多分、認められたかったのだと思います。」

「ん?誰に?」

「貴方に。頑張った⋯⋯強くなったと、ただそれだけを。」

「⋯⋯そうかい。俺はそんなに出来た人間でもトレーナーでもない。買いすぎだな。嬉しいけど何もしてやれんぞ。いくら欲しいか言ってみなさい。」

「5000マニー程で。」

「どこの通貨?」

 

 

 ボケなのか素なのか分からんが⋯⋯ブルボンが満足気なら別に構わんか。ふふっ、賑やかになるなぁ⋯⋯。

 

 

 

「改めて───よろしくお願いします、仮性のマスター。」

「その呼び方絶対外でするなよ。」




▷ミホノブルボンが なかまになった!
▷ミホノブルボンが バレンタインブルボンになった!
▷ミホノブルボンの賢さが下がった!

マヤちゃん編終了までの加入になります。


次回、『大人のぷりてぃジャーキー(1/3) : ─師弟─』

珍しく書き溜めたのでパンパンいきます。(ネタが)いっぱい出たね♡
大体ロリコンとクソ女です。出会ってはいけなかった運命の2人。あららセンシティブな大人の恋の駆け引き───になるわけがねぇ。叫ぶわキレるわ泣くわ騙すわの酒飲み回です。最後だけスーパーカーとのちょっぴりビターな大人のジャーキー。
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