人間がウマ娘に負けるわけないだろ!いい加減にしろ!!   作:なちょす

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連休中に地元の一級河川が一部氾濫したそうです。実家の地域はまだ大丈夫と連絡貰ってますが、盆地なのでこれ以上の雨は割と本気で勘弁して頂きたい。
聞いてんのか雨雲!お前だお前!さっさと散れオラァッ!!
独身兄貴たちも、暑さと雨とその他諸々の抗えない何かデカいものにはお気を付けて♡

Q.今回地味に長いですけど、ほんへに変化は有りますか?
A.ないです。でも聖蹄祭編スタート!!


第5R : *むかしむかし の ことじゃった

『そこを頼む!君をスカウトさせて欲しいんだ!この通り!』

『えっ⋯⋯その⋯ご、ごめんなさい!』

 

 

 スカウト失敗、通算5人目のウマ娘が走り去っていく。俺はその背中をただ見送る事しか出来ない。あの人が居なくなってから早いもので1週間⋯⋯サブトレーナー上がりの実質新人トレーナーの現実など、こんなものだ。

 

 "お前はもう一端のトレーナーだ"、と言っていたあのハゲ⋯⋯いや仮にも先輩なのだが。やはりハゲのお墨付きを貰った所でこのザマである。

 必死こいて中央トレセン学園のトレーナーになったは良いものの何も始まらない。そりゃそうだ。担当が居なければ、暇人のトレーナーに出来る事などボケっとしてるか模擬レースを見て数打ちするしか無いのだから。

 

 ウマ娘を選ばなければ契約の話はきっとすぐにでも結べるのだろう。しかし同じ目標を見据える事が出来なければきっと上手くやっていけないのだから、"妥協する"という形は絶対に取りたくない。

 

 しかし⋯⋯。

 

 

『こうも上手くいかないもんかね⋯⋯あー、キレそう。』

 

 

 人柄だろうか。それとも俺が自己中野郎だと言う空気が滲み出ているのだろうか。何にせよ⋯⋯この子だと思った子は大体他のトレーナーに先を越されるか、断られる始末。結局今日もボケっと練習風景を眺めている事ぐらいしかやる事は無い。

 親父の前で啖呵切っておきながら、なんとも惨めでダッサイ奴だ。

 

 マルゼンスキーに振られたところからズルズルと始まり、先の見えない契約というスタート地点。サブトレ時代に声を掛けたミホノブルボンと言うウマ娘はしっかりデビューしていた。俺とは違い、彼女は彼女に合ったトレーナーを見つける事が出来たのだろう。つまりこの段階で俺に打つ手は無い。また次の模擬レースが始まりでもしない限り目星も付けられない。

 "迷ったら面白い奴を見つけてやれ"と言っていたハゲの言葉が脳裏をよぎる。何だ面白い奴って。アドバイスも薄毛と同じでふわっふわじゃねぇか。都合よくそんなウマ娘がいるわけねぇだろうがハゲ。

 最早ため息しか出ん。ため息で呼吸してると言っても過言では無いほどに。

 

 そんな項垂れた俺の視界に、1人のウマ娘が映った。

 

 ジャージを着ているクセに、何故か練習に混ざらずこちら側で深呼吸をしている背丈の小さなツーサイドアップ。そうして徐にポケットへ手を突っ込んだかと思えば、取り出したのは2本のサイリウムだった。なに?

 

 

『さぁ、本日も始まりました夢見るウマ娘ちゃん達のキラキラ練習風景。汗と涙を流しながらひたむきに夢を追いかけるあの子達にアタシが出来る事⋯⋯それは精一杯の応援!練習のお邪魔にならないよう最小限の声と最大級のすこすこクソデカ感情を念として送り届ける事で───えっ!?もうライバル関係を築いてらっしゃる!?昨日までそんな空気が無かったのに!?あぁっ、なんて残酷な青春⋯⋯っ!昨日の他人は今日の友!明日のライバル!しかしそのライバルが貴女を強くする!勝ったり負けたり色々なことを乗り越えて、流した涙の数だけ前へと進み、貴女だけの夢を掴み取る道へと踏み出したその勇気を一生掛けて推します推せます推してみせますともッ!!はぁ〜好きッ!!♡♡♡』

 

 

 変なのが居た。

 

 えっ⋯⋯⋯⋯変なのが居た。何だあれ。何でライト振ってんだ。イベント会場じゃないんだぞここは。最大級のクソデカボイスに最小限の配慮みたいになってんじゃねぇか。ツッコミどころが多過ぎて最早どこからツッコんでいいのか分からん。

 

 いや、出来る事ならそっとしておきたい。俺が関わられたくないとかそういう話では無いのだが、本人が楽しんでいるのなら別に首を突っ込むことも無いだろうと言うわけだ。そう、寧ろ善意の距離感。気になるなら場所を変えれば良いとも思うが、別にそういう訳では無いうえに負けた気がするので俺もここで陣取らせて頂こう。

 

 結局その謎のウマ娘は、練習が終わるまでずっと1人で喋り続けていたし、なんなら20回は『しんどい』だの『ひょあっ!?』だの『ミ°ッ』と叫びながらその場で倒れていた。何なんだアレは。奇声を上げる度にビクッとするこちらの身にもなってくれと言いたい。全く練習風景が頭に入ってこなかったわ⋯⋯あっ、やべ、眼が合った。

 

 

『あっ、どうもすみません1人で盛り上がっちゃって⋯⋯へへへ⋯⋯。』

『いや⋯⋯良いぞ、別に。』

 

 

 その日はそれで終わった。強烈なインパクトではあったが、まぁこの先会う事は無いだろうと思いつつ帰った⋯⋯が。何の因果か、行く先々にあのちびっ子ウマ娘───アグネスデジタルは現れた。

 と言うより、行く先々の物陰でウマ娘達の青春を覗き見てはぶっ倒れているので、最早不審人物そのものである。

 

 俺の前で倒れる事通算44回目。

 流石に放置し続けるのも心苦しく、かつその情熱(と言うより限界オタクじみた愛)に僅かばかり興味が湧いたので保健室に運ぶ事にした。

 

 目を覚ましてすぐ、デジタルは余程テンパったのかマスオさんの様な悲鳴をあげ、何故か俺の前で涙ながらに罪を認めた。

 重いよ。そのレベルのもん誰も求めてねぇから手を差し出すなお前⋯⋯別に逮捕もお縄もしないよ⋯⋯。

 

 何とか落ち着かせて話を聞けばやはり濃いめのウマ娘オタクであったが、しっかりとした動機があったわけだ。

 昔から背丈が小さくパッとしない見た目も相まって、周りからは走る事をあまり期待されていなかった(心配とも言うのだろうが)らしく、そんな時見たウマ娘のレースに強く惹かれ、愛とオタク心に目覚めた末にトレセンの門をくぐったとか。自分が勇気を与えられたから、恩返しの意志もあると。

 

 

『トレーナーさんはどうしてトレーナー業に?あっ、やはりウマ娘ちゃん達が好きで支えたいからとかですかね!?いや〜先日あんなに熱心に練習も見られてましたし、そのお気持ちはよぉ〜っく分かりますとも⋯って、どうしました?』

『いや⋯⋯俺は⋯その⋯⋯。』

 

 

 脂汗が滲む。デジタルの眼を見れずに、俺は目を逸らしてしまった。

 オタクモードの時は分からなかったが⋯⋯デジタルにはデジタルの想いがあって、真っ直ぐな眼をしていて。

 

 見られたくなかった。

 

 俺は何か、そういう真っ直ぐな気持ちなどあっただろうか。少しでも早く親父に良い所を見せようとして、ロクにウマ娘達の事を考えて行動してきたわけでも無い。そのクセ"俺が妥協したくない"だなんて自分優位の考えを持ち続けて⋯⋯。

 だからマルゼンスキーの問いにも答えられない。

 だから先輩の期待にもきっと⋯⋯応えられない。そう気付いてしまった。

 

 言葉に詰まる俺を他所に、デジタルは耳をぴんと立たせながら言った。

 

 

『⋯⋯あっ!!何処からかエモの鼓動がする!こうしちゃいられねぇッ!愛故に、愛のままに───デジたん、参ります。じゅるっ。』

『ん⋯⋯行ってらっしゃい。今度は変な場所で倒れるんじゃないぞ。後ヨダレは拭きな?』

 

 

 布団から降りたデジタルはパタパタと扉の前へと行き───こちらを向いた。

 

 

『トレーナーさんもどうです?』

『えっ?俺は⋯⋯すまん。俺は、お前さんと違って全然⋯⋯ウマ娘達に向き合う気持ちというか、覚悟が無いらしいから。ははっ、トレーナーとして恥ずかしいよな。どうなんだって話だ⋯⋯だから───。』

『はい。だから、行ってみるんです。』

 

 

 小さな手が俺の手を包んだ。相変わらずどこまでも真っ直ぐな眼なのに、さっきと違って逸らせない⋯⋯と言うより、逸らしてはいけない気がする。

 

 

『古代の哲学者は言いました。"我々の性格は、我々の行動の結果なり"、と。つまりは逆のパターンも考えられるわけですよ。"行動すれば性格が生まれる"。アタシがウマ娘ちゃん達に勇気を貰えたように、トレーナーさんもきっと変われます。』

『⋯⋯俺はそんなに出来た人間じゃないさ。変わるのだって簡単な事じゃ無いだろう?』

『根っこから変えようとすれば確かに大変かもしれないですけど⋯⋯トレーナーさんの根っこって、もう出来てるじゃないですか。アタシみたいなのを保健室に連れてきてくれたり、何も知らなかった自分が恥ずかしくてウマ娘ちゃん達に申し訳ないって思えちゃうぐらいには優しい人だと思いますよ?』

 

 

 何も言えなかった。ただ目の前のウマ娘が───アグネスデジタルの話す言葉の1つ1つが、不思議と心の中にストンと落ちた。

 繋がれた手の温かさが、とても久しく忘れていたものにも思える。そんな俺を見て、デジタルは笑いながらこう続けた。

 

 

『トレーナーさん。知らないって言うのは、知る楽しさがまだまだ沢山あるって事です。さぁ⋯⋯沼へようこそ。』

『沼って⋯⋯俺も、そんなドツボにハマれるかな。』

『ハマれますとも。アタシ基本的には人見知りですけど、トレーナーさんには同じものを感じるんです。こっち側の素質、有りますよ旦那さん。』

『引きずりこもうとするんじゃない⋯⋯ははっ、分かったよ。じゃあ未熟なトレーナーにご教授して頂けますか?先生。』

『モチのロンです!そうと決まれば急ぎますよ!エモはいつでも一瞬、あっという間に流れて別の場所へ向かってしまうんですから!!』

 

 

 それからはトレーナー勉強の合間を縫ってはデジタルと共にウマ娘達の練習風景や模擬レースを見る機会が増えていった。

 

 

『あぁぁぁぁあああッ!!オペラオー様素敵ィ!!♡あっ、あっ、ドトウさんが足を滑らせてオペラオーさんの左頬にビビビビンタをっ!?それすら笑って許すどころか右頬を差し出すと!?!?!?ぐう聖人。』

『その情緒の振り幅は真似出来んな⋯⋯。』

 

 

 ある時はアイツの熱量に圧倒されたり。

 

 

『本当に模擬レース後のウマ娘に"好き"って叫ばなきゃダメか⋯⋯?』

『1回声にしたら慣れますよ。アタシも言うのでファイトです!』

『そ、そう⋯⋯?じゃあ⋯⋯せーの。』

 

『好きーーー!!』

『がんばえ〜!!』

 

『お前話が違うじゃねぇかよッ!!番組の趣旨間違えて叫んじゃった未成年の主張みたいになっただろうが!耳出せオラァッ!』

『あーーーッ!!いや、直前になってアタシのパトスがこうしろと囁いて、耳は、耳はぁーーーッ!!』

 

 

 またある時はデジタルのペースに振り回されて。

 

 何故か2時間ぐらいの講義やアイツのウマ娘愛を聞く時間もあったが、何となく分かりみが深かった。あっ、言語が移り始めてる。しんどみ。あっ、言語が(ry

 

 そうして過ごしている内に、デジタルに関しては新しく分かったこともあった。適性距離が恐らくマイルか中距離だというのもそうなのだが、まさかの芝とダート、両方出来る勢だったという事。模擬レースやウマ娘達の練習が終わった後、デジタルは単純に2倍の練習量をこなしていたわけだ。全ては推し達の尊みを全身で感じる為に──とか言いながら残り香を嗅いだり甲子園ばりに砂をかき集めていたわけだが──まぁ、ポテンシャルが凄まじい事だけは良く分かった。

 

 "面白い奴を見つけてやれ"。

 

 あの人はそう言っていた。何て大雑把でふわふわしたアドバイスだと、少し前は悪態をついていた訳だが⋯⋯。

 

 

『⋯⋯面白い奴、ね。うん⋯⋯最高に面白い相手、見つけたよ。』

 

 

 

 それから───それから?

 

 一緒に過ごす内に、自分の中で確かな変化を感じていた。心に余裕が出来たのかもしれない。それを自覚し始めて、ようやく俺はアグネスデジタルをスカウトしたのだ。自己肯定感の低いウマ娘ではあるが、走ってウマ娘達を近くで見たいという意志はあったらしいから。

 だから⋯⋯。

 

 

 "ウマ娘が俺を変えてくれたと言うのなら、それは間違いなく1人のウマ娘のおかげだ。俺は、俺を変えてくれたウマ娘と一緒に居たい。これから先の夢や未来を、好きになったウマ娘の隣でずっと過ごしていたい。2人でやりたい事やって、練習して、エモを感じてバカもやって⋯⋯だからアグネスデジタル。どうか、俺と一緒に歩んでくれないだろうか"。

 

 

 そう言って何とかOKを貰えて、2人でデビューして。チャレンジしてみようと臨んだジュニア級のG1レースの1つでもある阪神JF。

 

 

 

 その前日に───親父は逝ってしまった。

 山場を越えられなかったのだと、母親から連絡を貰った。

 

 俺達の晴れ舞台を見る事無く。俺に最後の見送りも言葉も掛けさせず。最後の最後まで、頑固な親父のまま安らかに眠った。

 

 

 

 流石に動揺どころの話じゃない。だって俺がトレーナーになったのは、あの人に一言言いたかったからだ。"凄ぇだろ"、と。

 一言言って貰いたかったんだ。"やったな"、と。

 

 

『トレーナーさん⋯⋯アタシ、走ります。約束します。トレーナーさんのやりたい事、夢が見つかるように一緒に居るって。トレーナーさんのお父さんに、アタシ達のやった事が届くように勝ち続けるって。だから───ゴメンなさい。

 

 

 レースはデジタルが勝った。あの時───デジタルはどんな顔をしていただろうか。目標を見失った俺に。やりたかった事が2度と叶わなくなってしまった俺に。

 

 覚えているのは、名前の付けられない感情からくる涙を流した俺の手を包んでくれた温かさだけだった。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 鼻の辺りにほんの僅かな息苦しさを感じて眼を開く。まず視界に入ってきたのは⋯⋯ヨシエさんのクッソ整った顔だった。近い近い近い。何で人の鼻つまんでんだこの人。

 

 

「⋯⋯おはよう⋯ございます⋯。」

「グッモ。遊びに来ましたよ。良い夢見れました?夢の中で誰とオフパカしたんです?怒らないから私にだけこっそり⋯⋯。」

「何の話──オフパカってなんですか!?」

「思ってる通りの事ですが?あんまり動揺すると童貞丸出しで滑稽ですよ。」

「ヌッ⋯⋯!!うっ、ぐぅ⋯⋯!」

「ところで今何時かご存じですかね。」

 

 

 そう言われて部屋の時計を見る。現在午前10時。今日はいよいよ始まった聖蹄祭の初日であり、9時半にはルドルフの開会宣言があったはずだ。そして俺を含めた、特別スタッフの腕章を付けたトレーナーとウマ娘のペアは1度ミーティングを挟む為9時にはヨシエさんの所へ集合、開会宣言終了後に持ち場で巡視と助っ人を⋯⋯30歳独身、まさかの寝坊。

 

 それどころか昨日マヤちゃんと夜更かしした奇跡の天才ウマ娘──トウカイテイオーも一緒に寝坊。なんなら俺が寝落ちするまでトレーナー室のソファーで寝ていたはずの彼女は、隣にあるデジタル用の椅子の上で丸まりながら人の脚に頭を乗せて爆睡中である。起きなさいホラ!女王の御前だぞ!それにそんな寝方したら身体痛くしちゃうでしょ!

 

 い、いかん⋯今はとにかく謝罪を⋯⋯。

 

 

「⋯⋯あの⋯すみませんでした⋯⋯。」

「あの時計、私が1時間半勝手に早めたのでまだ8時半です。ビックリしました?」

「なんて事を。」

「私の許可無くテイオーに膝枕した仕返しです。くたばれ。」

「ひんっ⋯⋯。」

 

 

 30年生きてきて笑いながらくたばれって言われたの初めてかもしれない。凹む。そもそも俺の意思じゃないのに⋯⋯。

 

 あっ、携帯に通知が。このタイミングで一体誰が───ヌッ。女神ボーノ様じゃないか。昼の弁当に使うおかずが厨房の冷蔵庫にあるらしいが、他に何か必要かという連絡だった。こんな連絡が飛び交うのもウチのチームならではだろう。

 良いんだボーノ。その気持ちだけでトレーナーさん嬉しいよ。通販で送られてきた地鶏だけでも豪勢なのにこれ以上何を要求する事があろうか。コッペパンぐらいだぞ。ふふっ、可愛いヤツめ。

 

 

「誰からですか?」

「ボーノです。おかずが足りるかって言われちゃって⋯⋯地鶏があるから別に良いんですけど。」

「へぇ⋯⋯自撮りがおかず。トレーナーさん割とド変態だったりします?」

「何でそうなったんですか。」

「送って貰った自撮りがおかずなんですよね?しかも足りるか心配までされちゃって。」

「確かに送って貰ったと言えばそうなんですけど⋯⋯あれ?今共通の話題ですよね?」

「ですね。」

 

 

 じゃあ何でド変態呼ばわりされてんだ俺は。わ、ワケが分からんぞ⋯⋯?こういう時はスパッと話題を変えよう!そうしよう!!

 

 

「そっ、そう言えばデジタルに聞いたんですけどね?最近ヨシエさんのとこのキタちゃんが熱いらしいですよ。何でもキタ×スイの時代が来てると。」

「キタ、吸い⋯⋯?私そのブーム知らない⋯⋯テイオーしかやってない⋯⋯。」

「やる⋯⋯?いえ、むしろやって貰ってると言いますか⋯⋯。」

「はっ?クンカしてると?」

「クンカ!?しっ、してないです!」

「何でしないんですか?したくないんですか?キタちゃんに不満があると?」

「あっ、いや、ほ、本人の意思があるなら寧ろ好きにやってくれた方が⋯⋯。」

「やらせるわけないでしょ童貞が。殴るぞ。」

「あれ?今共通の話題ですよね?」

「ですね。」

 

 

 じゃあ何で胸ぐら掴まれてんだ俺は⋯⋯ッ!ま、まるで分からんぞ!?何の話題提供しても正答出せる気がしねぇッ!

 

 そんなやり取りの中、俺の脚で寝ていたテイオーがゆっくりと起き上がった。

 

 

「何一つ共通の話題じゃないよ。思わず起きちゃったよ。さっきから何話してるのさ。」

「グッモ。良い夢見れた?」

「ヨシエに半年間嗅がれる夢。」

「わぁ、吉夢。」

「悪夢だよ。」

「え〜?もぅ、テイオーがどうしてもって言うから、勇者御一行とペアにしてあげたのにそんな事言うんだー。」

「⋯⋯それは、そう⋯だけど⋯⋯。」

 

 

 相手がヨシエさんだからか⋯⋯テイオーは珍しく僅かに眼を泳がせた。

 

 

「まぁでも、取り敢えず起きたなら良いや。私先に行くから、トレーナーさんも遅刻しないで下さいね。」

「はい⋯⋯。」

「あぁ、そうだテイオー。」

 

 

 ヨシエさんはこちらに背を向けたまま、どこか楽しげな声で言った。

 

 

「何言うのも自由だけど、大きなネタばらしはNGだよ?興が削がれるからね。」

 

 

 そうして彼女は部屋を後にした。時間のズレた時計の秒針の音だけが静かにリズムを刻む。テイオーは緊張が解けたように、深くため息をついた。

 

 

「どうしたんだよ急に。ヨシエさんと何かあったのか?反抗期?」

「違うよ。あのさ⋯⋯ヨシエのチームとレースするんだよね。」

「あぁ、無敵のチームだぞ。」

「メンバーがメンバーだから凄く強いんだけどさ───気を付けてって言いたかったんだ。」

 

 

 いつもは明るく元気なテイオーなのだが、今の顔は真剣そのものである。どことなくデジタルがたまに見せる"別人の様な眼"にも見えるが、気の所為なのかもしれない。

 それ以上にこのチーム、我ながら完璧な布陣だと思うのだが何をそんなに心配する事があるだろうか⋯⋯いや、統括が俺なら心配しかないな。凹む。

 

 

「このエキシビジョンレース、集客目的って言う話だけど⋯⋯多分違うんだよね。ヨシエ、この間『神様に電話してた』とか言ってたし。」

「神様?いや、あの人してそうだな⋯。」

「エキシビジョン⋯⋯ううん、聖蹄祭そのものが(・・・・・・・・)きっと、ヨシエにとっての"手段"なんだと思う。何か⋯⋯誰かの為の。だから気を付けてね。ヨシエだけじゃなくて、ボク達チーム『ポラリス』全面協力で鍛えてきた『ベジタリアン』は強いんだから。」

「そうか⋯⋯『ベジタリアン』?」

「そっちが『T☆K☆G』なんてチーム名付けるからヨシエも変な方向に走っちゃったんだよ。言っておくけど、ボクは止めたんだからね。」

 

 

 テイオーがじとっと見てくる。じっとりテイオーめ⋯⋯あれは酒に飲まれた良い大人3人がうっかり決めてしまったものなのだから許して欲しい。バクシンオーからは好評だったんだ。『(T)く、(K)ッコよく、(G)ンガンバクシンとは素晴らしいですね!』と。

 

 テイオーはふぅっと息を吐いた後、いつも通りのやんちゃなお転婆娘のごとき笑顔に戻った。

 

 

「まぁ、それだけ!後は今日がはちみーの移動販売が学園に来る日だからなんだよねー♪明日はマヤノと仕事を変わるからさ。」

「いや、そこは別にお前さんでも良いんだが⋯⋯待て。さてはハナから奢らせる気満々だったなお前。仕方ないから2000円迄なら奢ってやらんことも無い。」

「ボクが言うのも変だけど財布の紐緩すぎない?」

「俺はウマ娘にベタ甘だぞ。いつも通り硬め濃いめ多め野菜マシカラメアブラチョモランマ蜂蜜少なめで良いよな。」

「何その胸焼けしそうなギットギトのドリンク⋯⋯。」

「ギットリテイオー。」

「ボクが脂ぎってるみたいな言い方やめて。取り敢えずボク達も行こうよ。ホントに遅刻しちゃうよ?」

「おぅ。」

 

 

 テイオーはそのままこちらへ背を向け、"ねぇ"と声を掛けてきた。その声にさっきまでの元気さも勢いもない。

 

 ただ独り言の様に、静かに呟くのだった。

 

 

 

「───"ウマ娘皆が幸せな世界"って⋯⋯何だろうね。」

 

 




チーム『ポラリス』: 訳すれば現在の北極星。ヨシエさんをトレーナーとして、ルドルフ、テイオー、ツヨシ(風邪気味)、キタちゃん(体験入部)の4人からなるチーム。常に上へ在り続け、夢を追いかけるウマ娘達を旅人と見立てた際、彼女達の道標になれるようにと意が込められた。なお、『クラブ♡シンボリ』とどっちにするかクソ女は三日三晩悩んだもよう。こう見るとメインの3チーム名が異色だってはっきり分かんだね。


↓今後の予定としまして↓
・ロリコンがガチロリの男性観をまた壊す話
・エキシビジョン1~5戦、間にトレーナー達の閑話(6話も使うガバ)
・決戦スーパーカー
・デジタル前編最終話

となります。2章クライマックスまで、ふざけたり本気やったり笑ったり怒ったり泣いたりの面々をお楽しみ下さい。ところで勘違い要素どこ?
『他の聖蹄祭内容は!?』『ブルボンラップどこ行ったんや!』『嘘つき!ガバ!つうずるっこんでやるっ!』など思われるかもしれませんが、これらは特別Rという形で2章完結後に書かせて頂きます。本編がズルズルしてもアレですし⋯⋯その代わり全部コメディーです。程々に脳死で楽しんで♡
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