人間がウマ娘に負けるわけないだろ!いい加減にしろ!!   作:なちょす

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3つ話書いたら長くなるのは必然なのに気づきませんでした。夜勤明けです。(賢さG)
今回はアプリ版育成シナリオから幾つか要素を拾ってるので、下手したら置いてけぼり喰らう兄貴が居るかも⋯⋯シナリオ知らねぇッ!という兄貴たちゴメンね⋯⋯PU期間外で引けっ♡引けっ♡
因みに天井無しでデジたん3人来ました(隙自語)。代償として小バエが交尾しながら部屋を飛んでます。助けて下さい。

あっ、後書きでアンケ取ってるので股間に従って下さい。期間は作者が2話分書き上げるまでのガバ期間です。


閑話 : 真偽、決意、可能性

「なぁ若坊主⋯⋯それなんだ?」

 

 

 木で出来た喫煙所の小テーブル。その上に鎮座している物体を指差しながら、先輩はそう言った。

 

 

「⋯⋯コケシ。脱臭機能付きの。」

「へぇ⋯⋯鼻から煙吸ってんぞ。」

「後輩ちゃんの趣味だよ。煙を直接当てると目が光ってキレる。」

「あの姉ちゃんやっぱ面白ぇな。センスがぶっ飛んでらァ。どれ⋯⋯ふぅー。」

 

『煙てぇな。配慮しろ。ド屑が。』

 

「需要あんのかコレ。」

「俺にはある。」

 

 

 聖蹄祭の初日が終わった。

 デジタルは⋯⋯結果だけ見ればなんて事は無かった。あの後直ぐに俺に気付いたデジタルは、右手を真っ直ぐ上げて言ったんだ。

 

 

『タイキさんのご尊顔にゴールドラッシュの伊吹を感じてスパート忘れてましたぁッ!!』

 

 

 堂々たる宣言。もはや選手宣誓ばりの勢いと圧で、そのままどれだけ間近で見たタイキが凄かったのかを何故か正座させられて語られたのである。大きな声を出した事で、遅れてやってきたウチのチームの面々もデジタルを胴上げしたり身だしなみを整えたりお祭り騒ぎ。新人ちゃん達に男子禁制と言われ部屋からはじき出され、渋々ここで時間を潰していたところでこの人がやって来た。俺が何したって言うの。

 部屋を出る前、デジタルはこっちを見て笑っていた。明らかにいつもと違うのに、歯を見せて、心配要らないとでも言いたげにだ。カレンだけはそれに気付いていたが、あとは任せて欲しいの一言。悲しい。

 

 念の為検査とか色々様子も見たいから、終わったら連絡をくれとは伝えてあるが⋯⋯。

 

 

「相方が必死の時に何も出来ねぇもどかしさってのは良く分かる。ヨシエと口論になったってのも、どうせアイツがズバズバ言ってきたんだろ。ありゃあ加減を知らない女だからな。」

「まぁ⋯⋯でも、俺が担当の事分かってやれていないのは本当だから。」

 

 

 先輩は深く煙草を吸って、溜息のようにはいた。

 

 

「アイツは⋯⋯元々あんなんじゃねぇ。常識がぶっ飛んでて口が悪くて情緒不安定で顔の良い女好きなただのおもしれー奴だった。」

「今と違う特徴あった?」

「急くな急くな。よく笑うし、すぐ泣くし、自分の心に素直だったんだよ。悪態だって今ほどついちゃいない。最初に変わったのは⋯⋯お前が俺のとこに来てからだな。」

「⋯⋯俺が生意気だったから気に入らなかったとか?」

「あん?ありゃヤキモチだろ。俺がお前にばっかかまけてたからな。俺アイツに好かれてる自信だけはある。」

 

 

 何を根拠に言ってんだこの人。ケツは蹴られ悪態はつかれと散々されてきたのにメンタル強過ぎん?どこの世界にそんな猛烈な愛情表現があんだよ。

 

 

「お前信じてねぇな?」

「そりゃあ。信じろってのが無理だよ。」

「いやマジだって。」

「はいはい⋯⋯。」

「俺アイツとキスした事あるし。」

「ブェッホ、ゲッホッ!!はっ!?な、アンッ、ゲッホゴホッ!!!!」

 

『煙クセェんだよ口臭便所。死に晒せクソが。』

 

 

 コケシに滅茶苦茶罵倒された⋯⋯凹む。

 違うそうじゃねぇッ!!このハゲ今なんつった!?何しれっと爆弾発言かましてんの!?そんで何ふつ〜うの顔して煙草吸ってんの!?えっ、怖い怖い怖いッ!!

 

 

「冗談でも言っていい事と悪い事あるだろ!嫁持ちが女に節操無さすぎだッ!!」

「嫁持つ前に決まってんだろ。別にそういう仲でもねぇし。」

「尚更悪いわボケッ!!」

「大荒れだなぁ⋯⋯シンザンは爆笑してたぞ?"いつかやるって思ってた"って言われ───あっ、俺が話したってヨシエちゃんには内緒な。共犯と見なされて殺す気で殴り掛かられるぞ。」

「デッケェ爆弾だけ持たせて俺にどうしろってんの!?嘘は100%バレんだろ!?どんな顔して明日1日乗り切れば良いんだよチクショーッ!!後シンザンの言葉は罪犯した奴に言う台詞だからな!?」

「弟子が元気で師匠は嬉しいなぁ。」

(やかま)しいッ!!」

 

 

 終わった⋯⋯俺にこの事実を隠し通せるとは到底思えない。物理的にマウント取られてボコボコにされた挙句ダートに埋められる⋯⋯あれ、急に怖くなってきた。俺なんで今日あの人と口論してたんだろ。泣きそう。

 

 

「俺がシンザンと引退するってなった時、あのバカは本部に文句垂れに行ってな。問題起こされたらアイツとルドルフは目を付けられて自由が利かなくなる。だから説教付きでキツいの1発お見舞いしたら、お返しに顔面グーパンされてよ。"勝手に首突っ込んで勝手に居なくなるぐらいなら最初っから面倒なんか見るな"、"置いていかれる側の気持ちなんて考えた事もないんだろ"⋯⋯そんな風に大泣きされた。」

「⋯⋯あの人が全然分からねぇ。何考えてるかも、何がしたいのかも⋯⋯そんな風になれる人なのに、俺はデジタルとの事⋯⋯"いつ壊れるか"って言われたんだよ。楽しみだって。」

「あぁ?だっはっはっは!!そりゃあお前、アイツが120%悪いな!俺に言うならまだしも、バカ正直に他人の言葉信じる奴にそんな事言ったって伝わるわけねぇっての!」

「お?今バカにしてるか?」

「あぁ、してる。」

 

 

 うぐっ⋯こ、この親父、好き勝手言いよってからに⋯⋯っ!

 煙草の火を消した先輩は立ち上がって、満足そうに笑った。

 

 

「アイツがそう言うってことは、何も心配要らねぇ。"しがらみなんかさっさとぶっ壊してその先を見せろ"ってこった。───担当の心を過信しすぎて、もう走りたくないって言わせちまった、バカな師匠みたいになるなってよ。」

「何だよそれ。」

「⋯⋯いや。何でもねぇわ。まぁ、アイツの変化を見てきた男が居るように、お前の変化もちゃんと見てきた女が居るワケだ。お前はただ何にも考えず、トレーナーとしてやる事をやりな。」

 

 

 やる事───今はとにかくデジタルの話を聞きたい。俺は、俺に前を向かせてくれたパートナーの心ときちんと向き合わなくちゃならない。

 きっとデジタルは心配要らないと言うだろう。いつものように笑って、何でもないと。けれど⋯⋯。

 

 

 

 

 ───トレーナーさん⋯⋯アタシ、走ります。約束します。トレーナーさんのやりたい事、夢が見つかるように一緒に居るって。トレーナーさんのお父さんに、アタシ達のやった事が届くように勝ち続けるって。だから⋯⋯ゴメンなさい。

 

 

 

 

「あっ⋯⋯アイツ⋯まさか⋯⋯その為に走ってんのか?だから上なんか見て⋯⋯3年、だぞ⋯⋯3年も1人で⋯⋯何がゴメンだっ、あのバカッ!!」

「⋯⋯ウマ娘だって年頃の娘だ。やる事なす事完璧じゃねぇし、それは大事な誰かの為に、必死になってるだけかもしれねぇ。だからお前の言葉で、お前の気持ちを教えてやるんだ。そう言うのは何十回言ったって問題ねぇだろ?」

「先輩⋯⋯。」

「これは昔ヨシエちゃんが言ってたことなんだけどな。"ユメ"も、"運命"も、"限界"も超えた先⋯⋯トレーナーとウマ娘が同じ道を歩いたなら、辿り着くのは"可能性"らしい。」

「"可能性"──良く分からないっす。でも⋯⋯ありがとうございます。」

「何だ急に。ハハッ、じゃあな。キスの件は明日上手く隠し通せよー。」

「台無しだわッ!忘れてたのに思い出したじゃねぇかおい!ふざけんなッ!!」

 

 

 景気よく笑ったハゲはそのまま喫煙所を後にした。えっ、普通に酷くない?あの人弟子をなんだと思ってんの?あっ、ヨシエさんも弟子だったわ⋯嫌だ⋯まだ死にたくない⋯⋯ヒヒン⋯⋯。そもそも恋仲じゃないのにキ、キスするとかどんな状況?飲み?あっ、きっとそうだ。多分そう。明日マジでどうすんだよコレ⋯⋯。

 

 項垂れた俺の事など知らんとでも言うように、ジャケットの内ポケットで携帯が震えた。登録していない番号だが⋯⋯恐らくは彼女だろう。20分後にやってくれとあーちゃん伝手に回ってきた伝言には、ミュートでと書いてあった筈。要するにこっちの声は必要無い状況というワケだ。通話ボタンを押すと、向こうから聞こえてきたのは生徒会室に居るであろう3人の会話。

 

 

『あったあった!これ探すの苦労したんだよ?2~3ページだけコピーしてたんだ。』

『これがその昔話⋯⋯?』

『ほぅ、実に興味深い。少々拝見させて貰うよ。』

 

 

 う〜ん⋯⋯俺にまるで関係無い話題じゃない?昔話ならこっちも今しがた終わったとこよ?クソデケェ爆弾だったがなッ!!いや、落ち着け俺。早まるのはいつもの悪い癖。

 

 しかしふと思う。そもそも何でこの人は、先輩らが辞める時にわざわざお偉方の所へ乗り込んだのかが分からない。そりゃあシンザン達は期待されていたし、お偉方主導で色んなキャッチコピーとか特集組まれてた事はあったけども。

 

 

『ねぇモル君⋯⋯読んでるとこ悪いんだけど、1つだけ聞かせてよ。シンザンのトレーナーって───知ってる?』

『えぇ、勿論。有名な人ですから。確かその道のお家の跡取りでしたね。貴女と同じ位の歳の優秀な人だったはずです。理事会が直接見繕ったトレーナーだと。』

『あぁ、うん、そうだね⋯⋯君の、言う通りだよ。』

 

 

 それは⋯⋯俺の知らない歴史だった。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 ───舐め腐ってんすか?場所も弁えずにまた同じ様な事してみろ。纏めてシバき倒すぞバカ共が。2度とこんな事言わせんな?

 

 

 ⋯⋯言い過ぎでしょ。思い返す度に羞恥心でクッソシンドいんだけど。何であんな事言ったかなぁ。

 

 先輩があんな風に誰かを敵視するのは初めて見た。普段人の話聞かない勘違い野郎のクセに世話焼きな優男で、やたらとちびっ子達に好かれる謎の能力者ぐらいにしか思ってなかったし。

 ヨシエさんだって、普段は生徒達からも好かれてるっぽいからあんな態度取ってた理由が分からない。アタシが知ってるあの人は、ブルボンさんのトレーナーやウマ娘達が学園を辞める時に生徒会室で1人泣いてるような人だったから。

 

 2人の知り合いだって言ってたおハゲさんは、昔からあぁだから放っておいて構わない、とは言ってたけども。

 ⋯⋯昔から。アタシが来る前から、あの2人はあんな感じで互いを知ってたんだろうか。普段は人前だからどっちも外向き用の顔とか⋯⋯昔見た漫画だと、大概そういう喧嘩っぱやい2人がくっついてたっけ。

 

 はっ?つか、何マジに考えてんの?頭少女漫画かよ。

 

 んでもってメールで呼び出しあったから理事長室に来たのはいいんだけどさ⋯⋯よりによって樫本さんと2人。絶体絶命。

 やっ、嫌いじゃないけど。嫌なワケじゃ全然無いんだけど。

 

 アオハル杯───トレセン学園のチーム対抗戦。樫本さんが理事長代理として学園に戻ってきた時、徹底管理プログラムってのを出した事で存亡の架かったイベント。ウマ娘の自主性を主にしたトレセンの在り方を根本から変えようとする半ば無理矢理なやり方に反対して、アタシは自分のチームや何人かのウマ娘達と一緒に樫本さん率いるチーム『ファースト』と競った。

 結果は平均5バ身差でアタシらが勝ったけど⋯⋯蓋を開けてみれば、樫本さんのトラウマからくる策だったっぽくて。何にも知らずに、アタシはあの時も滅茶苦茶に反抗した覚えがある。

 

 レース後に和解⋯⋯はしたけれど。ワリと引き摺ってるお陰で今日までこの人とは何となく接し方が分からない。

 

 

姫野(ひめの)トレーナー。」

「⋯⋯あっ、はい。」

 

 

 いっけね、そういやアタシ姫野だったわ。何か久しぶりに名前呼ばれた気がする。誰かさんが"後輩ちゃん"ってばっか呼んでくるから。

 そもそもアタシもあの人の名前知らねーし、多分向こうも知らねーな⋯⋯えっ、そんな事ある?自己紹介したろ?あっ、してないわ。何?自己紹介しないまま1年ちょっとの付き合い維持出来てんの?揃いも揃ってコミュ障の未来形かよウケる。

 

 

「実は先日、勇者御一行のトレーナーさんとお話する機会が有ったんです。」

「あぁ、えっと⋯⋯そうなんですか。変わり者ですよね。」

「はい。ですが、独特な距離感と言いますか⋯⋯何となく、あのチームがまとまっているのも納得したんです。毎年商店街の福引で温泉旅行を当てているとも聞きました。」

 

 

 あの人ヤベーな。樫本さんに何の話してんの。あっ、信じて送り出したブルボンさんが急に心配になってきた。

 

 

「どことなく(まどか)トレーナーとも似た空気でウマ娘第一の思想。見習うべき部分は多く有ると感じます。」

 

 

 それ皇帝のトレーナーもヤベーって事になります。いやヤベー人ですけど。見習ったら樫本さんも同じ道辿りますよ間違い無く。ヤベー理子ちゃん爆誕です。

 

 

「学園内でも注目を浴びる『ポラリス』、『勇者御一行』、『お友だち』、それから『ハーバー』。きっと貴女も含めて同じ考えを持っているからこそ、生徒達からの信頼も厚いのでしょう。」

 

 

 アタシもヤベー奴の括りになってません?あと『お友だち』のとこは頭がヤベー人なんでベクトル違います。いやネタには困らんけども。人柄は良い人達だけれども。

 

 

「すみません!遅くなりましたっ!」

 

 

 謝罪と共に勢い良く理事長の扉を開けてやってきたのは葵さん。先輩の同期さんだけどあの人よりは全然若い、正しくその道のお家柄の人。ハッピーミークさんと2人でマンツー体制を取ってるフィジカルモンスターな先輩で、URAファイナルズの決勝ではデジタルさんと良い勝負をしてた。はず。

 

 

「私達も先程来たばかりなので。」

「っすね。理事長直々に呼び出しって何でしょう。」

「う〜ん⋯⋯心当たりは無いですけど⋯⋯あっ、なにかお話しされてたんですか?」

「勇者御一行や他のチームのトレーナー方について少し。」

「あぁ、成程!同期ですけどあの人、物凄く真っ直ぐウマ娘の子達に向き合ってますよね!私とミークも何度か助けて貰いましたし、毎年商店街の福引で温泉旅行当ててるって聞きましたよ!次出したら出禁とも!」

 

 

 あの人ヤベーなマジで。同じ話を何人にしてんの?ほんでもって何ネイチャさんのホームでアウェイになりかけてんのよ。そら毎年特賞だけ撃ち抜く奴いたら出禁にもなるわ。アタシにはそんな真似出来んつって、やかましわ。

 

 

「ふふっ、あのチームは皆仲良しですし、私もそういう所は憧れが──あっ!ち、違いますよ!?今のは尊敬の念を込めてる意味なので安心して下さい姫野トレーナー!」

「矛先の向け方エグすぎてビックリしました。安心して下さいの意味が謎なんですけど。」

「えっ、あの、いつも一緒に居るので⋯⋯そういう感じなのかなぁ、と⋯⋯。」

 

 

 ⋯⋯あれ?ウチらそんな風に見られてたん?マ?

 そりゃ確かに尊敬はしてるし、変人で人の話聞かねぇロリコン気質ではあるけどウマ娘第一の所とかは素直に良いなって思うし、やたらと気に掛けてくるっつーか"後輩ちゃん後輩ちゃん"ってかまちょしてくるとは思ってるけども。わりかし楽しませてもらってる節はあるけども。ボッチの時から面倒見てくれてる辺りは感謝してるけども。

 そういう⋯⋯はっ?いや、いやいやいや。そういう感じってそういう感じ?っべーな、賢さ足りてないわアタシ。

 

 

「諸君!急な呼び出しにも関わらず集まってくれて感謝したい!」

『お疲れ様です。』

 

 

 ここぞとばかりに威勢の良い挨拶でやって来たトレセンの理事長秋川やよいさん。子供。合法ロリかと思ったら脱法ロリだった、多分先輩(ロリコン)好みの偉い人。

 労働基準どうなってんだって最初の頃は思ってたけど、最近はもう慣れてしまった自分が居る。ツッコミ出したら身が持たんし、少なくとも知り合いの歳上に3人ほどツッコミ塗れのヤベー男女が居るから。

 そもそも学園自体は言う程おかしくはないワケで。

 

 

「皆に集まってもらったのは他でも無い。実は新しくウマ娘用に向けた楽曲の話が上がってきた為、学園内でも顔の広い諸君らに、歌い踊って広めてもらいたいのだ!」

「はぁ⋯⋯楽曲。この資料で良かったですかね?」

 

 

 ずっとテーブルの上に置かれていた裏向きの資料。めくってみれば、恐らく曲名だろう題目がデカデカと書かれていた。

 

 ───ぴょい♪っとはれるや!

 

 あっ、違うわ。学園規模でヤベー所だったわ。

 なんなん"ぴょい♪"って。うまぴょい伝説の時も思ったけど、どんだけこの学園"ぴょい"って単語に情熱注いでんのよ。そんで何この人ウチらにぴょい♪させようとしてんの?ぴょい♪するってなんだし。動詞?んな動詞ある?

 まま⋯⋯言っても?題名ぶっ飛んでるけど普通の歌とか有るし?多分そのパターンっしょ。

 

 ───笑顔で滑り台を滑る (※重要)

 

 あっ、違うわ。これ尊厳根絶やしにするつもりだわ。

 えぇ⋯こわ⋯⋯アタシの職場こわ⋯⋯もはやぴょい♪の要素何1つとして無いのが更に拍車をかけてこわ⋯⋯。

 

 

「あー⋯⋯理事長?やるのってアタシ達3人だけですかね?ヨシエさんとかこういうの好きそうですけど。後はヨシエさんとか。ヨシエさんとか。」

「姫野トレーナーは彼女に何かあるのだろうか⋯⋯ゴホン。無論彼女にも声は掛けようと思ったのだが、これ以上の協力はこちらとしても忍びなくてな。」

「円トレーナーって何かされてましたっけ?」

「ウイニングライブも含め、ウマ娘達が歌う楽曲に関しては彼女が最初に歌ったものを音源としているからな!ライブの練習で使われている曲は、その音源を元にウマ娘達が歌ったものへとアレンジされている。今回はその⋯⋯少々、笑顔が引き攣っていて⋯あの⋯⋯ちょっと、もう、頼みにくい⋯⋯。

 

 

 流石のヨシエさんも"ぴょい♪"は辛かったんですね。分かります。

 

 いやそんな事よりオリジナル音源のボーカル全部あの人とか初耳なんだけど。ブッチギリでヤベー人じゃん。リーニュ・ドロワットの時も、モルさんとペア組んで踊ってたからウマ娘よか目立つ美男美女コンビだったし。何?逆にあの人何が出来ないの?常識的行動?普通に失礼だっつの。

 

 理事長がパソコンから流してくれた音源は、確かにヨシエさんの(ちょっと可愛いに寄せた)声で───いーや歌詞がファンシーだなこの歌。いい歳した大人が歌って踊るもんじゃないってマジ。ファンキーまっしぐらだっつの。んで滑り台滑るんでしょ?はれるやどころか荒れるわ。

 

 

「では諸君、忙しい中申し訳ないが、よろしく頼みたい!」

『分かりました。』

 

 

 あれ?今時間飛んだ?会話何段階すっ飛ばして了承されたん?アタシまだOK出してないんだけど。何で2人共そんな乗り気なんですか。

 

 樫本さんとか、この間遂に前転出来たみたいな話ファーストの子から聞いたんだけど運動大丈夫なんかな。命掛けてません?

 葵さんも葵さんで『ミークの為』って言ってますけど、多分ミークさん踊らないです。もう『ミークの為』って言ったもん勝ちなミームみたいになってます。

 

 これアタシの感覚がズレてんのかな⋯⋯多分そうかも。ちょっとウチのエアグルーヴさんにツッコミしてもらわないと。"なわけ"、つって。やかましわ、たわけ。

 

 

 

 結局断れない流れのまま話が終わってトレーナー室。理事長から幾つか貸して貰ったオリジナル音源のライブ楽曲を垂れ流してるわけだけれども。

 

『────♪──♪』

 

 バッッッチクソカッケェなこの人の『winning the soul』。何でトレーナーやってんだろ。普段女性って言うより女の子した声出してんのにどんな声帯したらこうなる?『ぴょいっと♪はれるや!』のギャップもあるから余計にインパクト強ぇ。丁寧にハモリパートも別録してるし⋯⋯。

 

 

「なーに聴いてるの?トレーナー。」

「クロ、アンタも『UNLIMITED IMPACT』聴いときな。多分もう2度と聴けないから。」

「えっ。私ダートクビ宣告?ライブ練習でもう何回も聴いて──誰これうっま!?」

 

 

 芦毛の髪を揺らしながら、小生意気な妹分が鼻歌を奏でる。こうしていれば普通のウマ娘なのに、一言多いわ勇者御一行の前じゃ失神するわと賑やかしてくるアタシの担当。そんなクロフネは、こっちを向いて思い出したように言った。

 

 

「そう言えばさっきお客さん来たよ。暇が出来たら連絡してって言ってた。」

「誰が?」

「ミスターシービー先輩。」

「⋯⋯⋯⋯はっ?」

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 タキオンと共に生徒会室に呼ばれて約10分。知りたい事を教えてくれると言っていた筈の彼女は、向かいの席で楽しげに笑っていた。

 

 と言うより───。

 

 

「ねぇお茶菓子食べる?手作りなの。紅茶にもピッタリ合うように味も整えたんだ。」

「おや、それは期待出来そうだ。君が食べさせてくれるのかな?」

「えっ!?やるやる!はい、あ〜ん♪タキオンちゃん、巷で夢女製造機って言われた事無い?」

「覚えは無いが、その呼び名に興味はある。教えて貰っても?」

「毎秒でも恋しちゃう人って事♡」

「ハッハッハッハッ!デジタル君のような事を言うねェ君も!」

 

 

 完全にホストクラブ。あぁいや、2人共女性だから、この場合は変わってくるのだろうか?何にせよ本題が無いまま延々とこの空気が続いているのは確かだ。時折タキオンと眼は合うが、どうもアイコンタクト的には様子見との事。全く⋯⋯タダでお茶菓子食べたいだけでしょ。

 

 

「『ポラリス(ウチ)』に来ない?歓迎するよ?」

「魅力的な提案だ。けれども、そこで辛抱強く待っている彼の眼がイカれている内はどこにも移るつもりは無いよ。料理も捨て難いし、何より果て(・・)を見せると約束してしまったからね。」

「そっかぁ⋯⋯残念だけど、しょうがないね。と言うわけで担当の子達にこれでもかと愛されているモル君?お待たせ。私と君の仲だから何でも聞き給えよ。虚言、妄言、持論、考察、夢小説。さぁ選ぶが良い。」

「ありがとうございます。しかし、ここはタキオンに任せようかと。彼女の知りたい事が僕の知りたい事ですから。」

「だってタキオンちゃん!彼ピの許可出たよ!」

「彼ピと言うよりモルピさ。カフェがへそを曲げてしまうから、内密にね。」

 

 

 タキオン、人差し指をヨシエさんの口に当てるのはやり過ぎだよ。その人、今にもトんでしまう。

 満足気に笑ったタキオンはティーカップを手にしながら僕の隣へと座り直した。足を組んでリラックスするのは良いけれど、どこに行っても態度が大きいね、君は。

 

 

「聞きたいと言っても、君の見解が昔と今でどう変化したのか教えて欲しいだけさ。度々ウチに来ては、君は興味深い意見を言うだけ言って去っていっただろう?例えば───ウマソウルという概念。」

「うん、言ったね。人とは根本的に違う身体の構造だけじゃなくて、食べる量とか勝利に対する執着心とか云々かんぬん。」

「実は研究が行き詰まってねぇ⋯⋯また君の意見があればと───。」

「嘘おっしゃい。キミの眼はそんな事言ってないよ。有るのは私への興味と関心。持ってる引き出し全部開けさせようって魂胆の顔してる。好き。」

「ふふっ、ダメか。しかしウマソウルというものに興味があるのもまた事実。良いかな?」

 

 

 彼女の笑みが深くなった。徐に立ち上がったヨシエさんは、自分の作業机の引き出しを漁っては分厚い冊子を何冊か取り出して、タキオンの前に置いた。

 

 

「少し昔話をしよっか。奇跡のウマ娘、トウカイテイオーの復活劇。」

「あぁ。」

「あの子、3回骨折してるでしょ?それで1年休んで出場した有記念で、1番になって帰ってきた。でもさ⋯⋯1回目の骨折でルドルフみたいな"無敗の三冠ウマ娘になる"っていうのが叶わなくなった時、思い出したんだって。あの子⋯⋯昔、そうなる"ユメ"を見たんだよ。」

 

 

 冊子の1冊を手に取って流し見すると、おびただしい迄の文字がページを埋めつくしていた。

 ウマ娘達の名前。"ユメ"の内容。それが起きた日。前兆。起きた時の状況。レースの内容。本人談か彼女の予想か。

 事細かに記されたそれは、ウマ娘という存在に関係した伝記にすら思えてしまう。

 

 

「それ、"ユメ"と同じ道を歩んだ子達。こっちの冊子は自分が出場したレースに"運命レベルの何か"を感じた子達の情報。学園中走り回って色んなウマ娘達に話を聞けば、まぁ出るわ出るわ大豊作。途中で人雇おうかと本気で思ったよね。モル君、46ページの上から3人目。」

「えっ?はい───"アグネスタキオン"。」

「キミが自分で言ったんだから、見解の変化なんて私よりも感じてるんじゃない?ねぇ──皐月賞で終わる筈だった(・・・・・・・・・・・)アグネスタキオン(超光速のプリンセス)。」

「⋯⋯君は。」

「要するに、タキオンちゃんにはタキオンちゃんの、テイオーにはテイオーのウマソウルがあってさ。怪我とか勝ち負けとか色んな要因全部が予定調和の道でしか無かった。その道にある障害が"ユメ"。越えるには分岐点を探す必要が有るけれど、基本的に認識なんて皆曖昧だから、トレーナーとウマ娘⋯⋯後は周りの環境や関係性が必要不可欠。そんでようやく越えたその先に有るのが"可能性"───って言うのが、調べた事に基づく私の妄想!はい、質問は?」

 

 

 沈黙。僕とタキオンは彼女の顔を見て、ただ黙るしか無かった。

 妄想?

 1人でこれ程までの情報を集め、恐らく誰よりも真実に近い話を述べながら⋯⋯彼女はこれを妄想と切り捨てるのか。

 

 

「無い?おっけ、じゃあそれあげるから好きに使って。あっ、そうそう!昔話で思い出したけど、君達⋯⋯特にモル君に見せたいものがあるんだよ!ちょっと待ってて⋯確か胸ポケットに⋯⋯無いな。スーツの内ポケかな?うーん、胸が邪魔。」

 

 

 演技か本心か、彼女は矢継ぎ早にそう話すと自分の内ポケットに手を入れて───足を踏まれて痛い。

 

 

「余りジロジロ見るもんじゃないよ、君。」

「見てないさ。もしかして拗ね──痛たたたた。」

「そろそろ無神経に効く薬でも作ろうか?」

 

 

 耳を絞られた。どうにもこういう時のカフェやタキオンは扱いが難しい。僕が君達から離れるわけ無いのに。

 

 

「あったあった!これ探すの苦労したんだよ?2~3ページだけコピーしてたんだ。」

「これがその昔話⋯⋯?」

「ほぅ、実に興味深い。少々拝見させて貰うよ。」

 

 

 渡された用紙にはギッシリと文字が羅列されていた。"運命に噛みついたウマ娘"との事らしいが⋯⋯これを今の時間だけで読み解くのは骨が折れそうだ。

 

 

「ねぇモル君⋯⋯読んでるとこ悪いんだけど、1つだけ聞かせてよ。シンザンのトレーナーって───知ってる?」

「えぇ、勿論。有名な人ですから。確かその道のお家の跡取りでしたね。貴女と同じ位の歳の優秀な人だったはずです。理事会が直接見繕ったトレーナーだと。」

「あぁ、うん、そうだね⋯⋯君の言う通りだよ。」

 

 

 彼女の顔は浮かないものだった。

 ふむ⋯⋯シンザンの事に関しては、僕の興味本位で調べた事。昔話はタキオンに読み解いて貰うとして、こっちの引き出しを開けてみてもいいかもしれない。恐らく⋯⋯彼女の本心がここにある。

 

 

「シンザンの事は少しばかり調べました。多くのウマ娘達を導き、支え、神と呼ばれていた彼女の在り方は、どこかデジタルさんにも似ている。それは僕も思いますよ。だからこそ貴女は目を掛けているし、庇おうともしているのでしょう。」

「⋯⋯庇う?」

「貴女と理事会が犬猿の仲なのは、ある程度学園で過ごしたトレーナーなら知られている事です。そしてデジタルさんは特異な生徒。バ場も距離も問わない、適正を覆したオールラウンダー──"戦場を選ばない勇者"なんて最もな広告塔(・・・)を使わない手は無い。けれど貴女は、理事会に対して宣言をした。"そのチームに手を出したら噛み付く程度では済まさない"、と。」

「盗み聞きしてたんだ。良い趣味してるね。」

「たまたま聞こえたんです。通りがかった際に。」

「ふ〜ん?」

 

 

 笑ってこちらを見ているだけなのに、肌がヒリつく。恐らく今のが嘘だと言うことは既にバレているのだろう。目に見える地雷原に脚を踏み入れたのだから多少は覚悟の上だ。

 

 

「貴女は何がしたい。誰の為に、どうしてあんな演技までして動いている。まるでお偉方を敵視している様にも見える貴女の本心を───。」

「してるよ。敵視。だってシンザンのトレーナーはちゃんと居るんだから。」

「⋯⋯えっ?」

「居るんだよ⋯⋯冴えない顔して放任主義の、自由気ままなバカ親父が。」

 

 

 彼女は膝の上で固く手を握り締めた。真っ赤になるほど力強く。そしてその眼にはやり切れない哀しさがあった。

 

 

「昔はさ⋯⋯トレーナーなんてウマ娘のおまけだったの。その道のお家柄じゃなきゃ見向きもされない、誰も興味を持ったりしない時代。話を聞きたかったら、ウマ娘に直接聞けばいいんだから当然だよね。シンザンのトレーナーもそうだった。一般上がりの、ただの物好きでウマ娘好きなトレーナー⋯⋯。私とルドルフが成績を残してきた時、私が他のトレーナー達と違って表舞台にバンバン顔出したから、少しずつ世論は変わっていってさ。時代の変わり目に気付いた上の連中は、シンザンとそのトレーナーに話を持ちかけたんだよ。"シンボリルドルフに託してみないか"ってね。」

「託す⋯⋯それは、良い事なのでは?貴女方が期待されていたと言う話の筈です。」

「そう信じて2人も了承した。で、蓋を開けてみれば──シンザンを取られたんだよ、あのバカ。ルドルフと一般上がりトレーナーに時代を切り替えるには、トレーナーの方にも分かりやすい下克上が必要でしょ?だから理事会が見繕った坊ちゃんにシンザンを渡して、私がそれに勝つように見せたの。」

 

 

 作られた歴史。作られた常識。その話が本当なら、"新時代の到来"と大々的に言われていた過去の記事や意見が全て間違っていた事になる。時代は⋯⋯シンザンの時に、既に変わっていた。

 

 

「ですが、それは学園側が見逃したという事になって騒がれるでしょう。知っている人だって居るはずだ。」

「知ってても理事会に楯突く人間なんて居ないよ。タイミングが悪かったんだ。理事長がやよいちゃんに本格的に変わる前だったから⋯⋯前任、トレーナーの意見もウマ娘の意見も尊重する優しい人でさ⋯⋯シンザン達の意見を尊重したんだ。"自分達は良いから、これからを見守って欲しい"って。結局2人揃って共倒れしたけどね⋯⋯ねぇ、モル君。」

「はい。」

「自分は大丈夫って言い聞かせて、使命感に駆られて───ゴールしても大好きなトレーナーが居ないウマ娘の気持ちって⋯⋯どれだけ辛いんだろうね。」

「⋯⋯あまり握りすぎると、手を痛めますよ。」

「⋯⋯そうだね。歴史の授業はこれでお終いにしよっか。」

 

 

 内ポケットから携帯を取りだした彼女は、そのまま静かにテーブルの上に置いた。

 どれだけ辛いか⋯⋯その答えを僕は持たない。

 ただ分かるのは、どれ程強い精神を持っていたとしても、年頃の少女達には耐えられ難い痛苦でしかないという事。もしそうだとしたら⋯⋯恐らくシンザンの引退レースは、彼女本来のポテンシャルを発揮出来ないまま終わった不完全な出来レース。ヨシエさんの中では、1度たりとも勝った事など無いのだろう。

 ついさっきまで恐ろしささえ感じられた目の前の彼女が、酷く弱々しいものに思えた。

 

 

「演技してるって、君は言ったね。それも結局は子供じみた理由で理事会相手に嫌がらせしてるだけ。巻き込んじゃったあーちゃんとか、あのトレーナーさんには申し訳ない事したなっては思ってる。でもさ⋯⋯私にとって、大事な日常だったんだよ。あのトレーナーさんとつまらない事で毎日喧嘩して、それを"仕方ない奴らだ"って笑う人が居て。そんな普通が大事だった⋯⋯それで良かった。」

「1人で動く必要は無いじゃないですか。あの人にも言って、一緒に出来ることはある筈です。」

「それはダメ。言ったでしょ?理事会相手に喧嘩なんか売ったら、それこそまともに動けなくなる。あの人は私みたいに好き勝手やれる人間じゃないし、担当の子達でいっぱいいっぱい。それに⋯⋯あーちゃんっていう大事な原石も、きっと『勇者御一行』に未来を見てる。私とルドルフがやるしかないんだ。あははっ、私達はもう終わり方を見つけているからOK、OK。」

 

 

 間近で見てきたからこそ悔やんでいる。時代の変わり目になったのが自分だから責任を感じている。

 心など、とうの昔に折れているのかもしれない。それでもやらなければならないから、虚勢を張り、心に嘘を塗り固め、同じ轍を踏ませないようにしか出来ない⋯⋯不器用な人だ。

 

 

「ルドルフの夢は叶えさせる。その上で私は神様の歴史を戻すよ。在るべき歴史を、あるべき人達に⋯⋯それが私のやりたい事。」

「余程その人を慕っているようですね。」

「かもね。でもさ⋯⋯仕方無いんだ。だって───。」

 

 

 彼女は優しく笑う。目尻には僅かに涙が浮かんでいるけれど⋯⋯恐らくは、これが本当の。

 

 

 

 

「惚れちゃった相手なんだから。エゴでも、ちゃんとお返しぐらいやりたいよ。」

 

 

 

 

 いつから話を聞いていたのか、隣で資料を読み耽っていたタキオンが静かに笑った。

 

 

「げーっ!こんな時間!ヤバイヤバイ、クソ共──あ、違う。ファン連中に腹パンされる!」

「急に情報量増やしますね。何か予定が?」

「打ち合わせがあるの!羽目外す為の大事な打ち合わせ!」

「おや、まだ羽目を外すおつもりで。」

「そりゃあね。なんたって聖蹄祭兼ファン感謝祭(・・・・・・)だから。って事で私先に上がるから、適当に寛いでて!カップとかは放置でヨシっ!じゃあね!」

 

 

 最後まで慌ただしく過ごしながら彼女は部屋を後にした──と思いきや、扉が勢いよく開けられた。

 

 

「そうそう、タキオンちゃん!あの子の脚、見てくれてあんがとね!」

「構わないよ。彼女も大切な研究対象だ。オフサイドトラップ君によろしく伝えておいてくれたまえ。」

「りょ!じゃっ!」

 

 

 本当に慌ただしい。

 ⋯⋯思う所は色々あるけれど、あの本心はルドルフ以外に見せていないのだろう。恐らくは昔馴染みな『勇者御一行』のトレーナーさんにも。

 やはり伝えた方が良いんじゃないだろうか。

 

 

「惚れた弱み、ね。全く耳が痛い⋯⋯。」

「タキオン?」

「何も。君も、誰かさんに伝えようなどと野暮な事を考えるんじゃないよ。」

「けれど───。」

 

 

 口を塞ぐように、彼女の人差し指が口に触れた。

 

 

「意見は不要。彼女が良いと言ったなら放っておけばいい。顔で無関心を装いながら首を突っ込むのは君のクセだ。」

「あのまま1人でやらせるのかい?彼女、いつか本当に自分を見失ってしまう。」

「寧ろ何もしない方が邪魔にならない。それに考えても見たまえ。どれだけ天才と呼ばれようが、皇帝と呼ばれようが⋯⋯1度定着した歴史を変えるには余りにも小さな水源。しかし幸か不幸か支流は3本生まれたワケだ。もしその内の1つに変化──例えば雨すら味方に付け、他の支流全てを巻き込む激流へと変化したものがあるならどうだ?『ウマ娘がこういう存在である』と体現する2人が居れば?彼女は1つ確信している。だからこそずっと待っているんだよ。」

「何を?」

 

 

 疑問を浮かべるこちらの顔を見て、タキオンはわざとらしく、大袈裟に溜息をつきながら言った。

 

 

 

 

「"可能性"という剣を携えた───勇者の目覚めさ。」

 




後でふざけ倒すとは言え───。
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