人間がウマ娘に負けるわけないだろ!いい加減にしろ!! 作:なちょす
フィギュア化も凄い勢いなので部屋の片付けしないと⋯ブルボン⋯マヤちゃん⋯⋯ようやくアニメ組とかメインの3人とか夢女製造機以外にもコラボとかフィギュア化出て来て嬉しい⋯⋯お前だぞカレン。おめでと♡
デジたんとカレンとスイーピーとアヤべさんがフィギュア化したら必ず買うから。NTRと覇王とドトウも頼むよ。6万でも買うから!覇王とか1/4サイズの14万スタチューとかでもいいから!お願いッ!お願いサイゲッ!!お布施するッ!!!RobRoy.も出してぇッ!!!!推し達に日の目を浴びさせてくれたら喜んで社畜になるからァッ!!!!!頼むよ⋯⋯頼む⋯⋯。
これが『決戦編』の前書きか?そうだよ。
「何のつもりだよ。」
「何が?」
「表舞台に『神さま』なんか引っ張り出して。あの人に何も言ってなかったろ。」
「向こうが出演OK出したんだから良いじゃん。ハゲなんか知るか。」
聖蹄祭が終わり、もうそろそろ日が落ちるだろうと言う時間。観客達が帰って静まり返ったレース場で、俺はヨシエさんと2人でそんな話をしていた。
夜間用の照明が明滅を繰り返してコースを照らし出す。生徒達は一大イベントの片付けに駆り出されている為、この時間は俺達にデジタルとマルゼンを入れた4人しか居ない。
いや⋯⋯もしかしたら、件の『神さま』がどこかで見ているかもしれないが。
エキシビジョンレースが終わり、お偉方に2人で殺伐とギャルピースをお見舞いしたあの後、1人のウマ娘がターフの上へと飛び出した。
誰かさんとお揃いなのか、或いは勝手に持ってきたのかは知らんが⋯⋯馴染みのあるベレー帽。何故かトレセン学園用務員の格好でカモフラージュしていたが、その優しい顔も声色も変わっていない、俺達──と言うより、多くのウマ娘達にとっての"神さま"。
『以上で聖蹄祭の全日程を終了致します。勝者、チーム"T☆K☆G"。改めて10名の選手、それから全ての関係者各位に盛大な拍手を。見届け人は私───シンザンでした。イェイ♪』
帽子を脱ぎ、笑顔を見せた彼女の姿に会場が静まり返ったのをよく覚えている。なんなら何人かはあのスマイルにトキメキを感じた事だろう。全員が全員シンザンと言うウマ娘の事を知っているわけでは無い。それ程時間が経ってしまったし、今の時代を駆けるウマ娘達の残してきた走りだって印象強いからだ。
それでもその瞬間の歓声は、エキシビジョンレースとは比べ物にならない規模で───波は少しずつ広がり、SNSを皮切りにシンザンの事が広まり始めているのも事実。今はウマッターやウマスタでもトレンドになりつつある。
分かりやすい挑発行為だろうなぁ⋯⋯お偉方は血相変えてこっちを見てたし、何にも聞かされてなかったであろうおハゲ先輩は完全にフリーズしていた。
世間に対して隠そうとしてたものが堂々と出て来たんだ。恐らくヨシエさんは今まで以上に目を付けられるだろう。自由に動けなくなる事でどう影響が出るのかは今の所分からないが⋯⋯少なくとも、黙って大人しくするタイプじゃない事だけは良く分かる。それも含めて彼女の思惑通りなんだと今なら分かるし、まぁ、なんだ⋯⋯正直ちょっとスカッとはした。
「私からも聞きたいんだけどさ。」
「あんだよ。」
「ちゃんとご自慢の相棒と話出来たって事で良いんでしょ?ここに来てレースするって事は。」
「いやまだだけど──続きあるから石拾うんじゃねぇよ!!聞けって!!」
「あと3秒言うのが遅かったら頭かち割ってたぞバカ野郎。次紛らわしい事言ったら殺すかんな。」
ヒェッ⋯⋯だ、駄目だ、怖ぇ⋯⋯何で昔より悪態の付き方だけじゃなくて殺意までパワーアップしてんだよ⋯⋯こっちは弱体化してよわよわポニーちゃんなんだぞ⋯⋯。
「俺がマルゼンスキーにどんな感情を持っているのか、デジタルは良く知ってる。だからこんな我儘にも付き合ってくれてんだ。そんな俺が普通に話をしようとしても、デジタルは遠回しにはぐらかすと思う⋯⋯けど、今回ばかりはそれでどうこう出来る相手じゃない。」
「だからレース前に本心を問いただして逃げ道塞ごうって?」
「それだけじゃない。デジタルを⋯⋯このレースで吹っ切れさせる。これはアイツに賭けた、最初で最後の博打だ。」
「ふーん⋯⋯。」
ジャージのポケットからロリポップキャンディーを取り出して、彼女は一言だけ言い切った。
「バカじゃん。」
「知ってるよ。俺の我儘に付き合わせた挙句、自分の担当のメンタル揺らがそうってんだから。お前や後輩ちゃんならもっと上手くやれたんだろうけどな⋯⋯しょうがねぇだろ。」
「あのさぁ⋯⋯博打って、偶然の成功を狙って敢えて危険な事するって意味なワケ。言ってる事分かる?
「⋯⋯えっ、なんて?」
痛ってぇよ、蹴るなお前。
「誰がアグネスデジタルの担当をやってると思ってんの?1人しかいない担当がやるって決めたやり方を人と比べんのがそもそも無意味。トレーナーとしての判断なら、見栄でも虚勢でも空威張りでも強がりでも何でもいいから、『予定調和だぜ』とか言って黙って格好つけてろ。」
「ヨシエちゃん⋯⋯。」
痛ってぇよ、蹴るなお前。
「ちゃん呼びされんのストレートにキショい。死ね。」
「⋯⋯好き放題言ってくれちゃってよぉ。今に見てろよお前!後輩ちゃんの前にお前を泣かせてやるからな!」
「あっそ。がんば。」
クッ⋯⋯なんて余裕の表情。これもうラスボスのハッピーセットじゃねぇか⋯⋯!正直言って後輩ちゃんとクロフネ以上に勝てる未来なんか見えねぇ。
だがそれは、今のデジタルだからだ。相棒には───確証は無いが、もう1つ"先"があると思っている。エキシビジョンレースでタイキシャトルに見せたあの走り。あれを完璧にものに出来たら⋯⋯元からアイツが持っていた"領域"なんてデタラメなものを確実な強みに出来たら。
マルゼンスキーと2人、会話をしているデジタルをこちらへ呼んだ。公式戦でも無いし、ただの併走と言えばそうだが⋯⋯今2人は勝負服である。それ程までに、大事なレースだから。
「デジタル、調子はどうだ?」
「バッチリですとも!可もなく不可もなく!」
「それは多分バッチリとは言わん⋯⋯緊張、してるか?」
「⋯⋯実は少々。やっ、でもスーパーカーと呼ばれる無敗のマルゼンスキーさんと走れるなんてまたと無い機会ですからね!!全力で楽しみますよ!」
「そうか⋯⋯なら、楽しんでこい。それで、勝っても負けても───上なんか見るんじゃないぞ。」
「はい───えっ?」
デジタルは僅かにたじろいだ。何かを察したのだろう。目が泳ぎ始め、こっちが何かを言う前に言葉を探して切り上げようとしている。
逃がさねぇ。その不完全な状態でマルゼンスキーの相手なんかやらせるものか。
「デジタル。」
「ト、トレーナーさん⋯⋯アタシは、そのっ⋯⋯ちゃんと走って来ますから───。」
「デジタル、そうじゃないんだ。聞いてくれ。」
逃げようとした相棒の手を掴む。余程思う所があるのか、その力はかなり強いものだし、相変わらずこちらを向いてはくれない⋯⋯が、それならそれでもいい。
「言いたくなった時で良いなんて嘘をついたのはすまなかった───けど、どうしても聞いて欲しい。もう⋯⋯俺の夢の為に走るな。親父の事、気にしながら走るのは止めてくれ。」
「⋯⋯。」
「誰かの為に走るのも、誰かの想いを背負って走るのもお前の良い所で優しい所だ。けどな⋯⋯その根底に有るのが、ウマ娘達を近くで見たい、助けになりたいって言う気持ちじゃなくて、俺への罪悪感から来るものなら⋯⋯持たなくて良い。」
「っ⋯⋯持たなくて良いだなんて⋯⋯今言われたって⋯⋯今更、どうすればいいんですか⋯⋯っ。」
掴んだ手を振り払われる。こちらを向いたデジタルは、今にも泣き出しそうな顔だった。
そりゃあそうだ⋯⋯3年以上も自分の中で飲み込んで、無理やりにでも納得させて溜めこんでた気持ちをトレーナーに否定されたら⋯⋯ワケが分からないだろうよ。どうすりゃいいか分かんないだろうよ。
けど───ようやくこっち向いたな、相棒。
がっちり頬を押さえ付け、額がぶつかる距離で顔を寄せた。絶対に目を逸らせないように。俺の言葉を聞いてくれるように。
「どうすればいい、だなんて簡単だ。自分の為に走れ。このレースの間だけでも良い。これが終わったらお前に死ぬ程言いたい事言わせてやるし、自分勝手なトレーナーをぶっ飛ばしてくれても構わん。だから頼む、デジタル───今日だけは、今だけは俺を見ていてくれ。俺の声だけを聞いてくれ。」
「っ⋯⋯は、い⋯⋯。」
諦めたように、デジタルはゆっくり離れていった。浮かない顔のまま走る事には変わらないだろう。アイツの性格を考えればそれがどれだけ辛い事なのかは想像に容易い。
あぁ、いや⋯⋯簡単にそう言うのは失礼か。ヨシエさんはあぁ言っていたが⋯⋯やっぱり間違えたかなぁ⋯⋯もっと良いやり方、あったんじゃねぇかな⋯⋯。
アイツならきっと聞いてくれる、だなんて、それも結局は俺からアイツに向けた一方的な信頼で。やっべぇ、何か辛くなってきた⋯⋯。
「シャキッとなさい。貴方、あの子のトレーナーでしょう?」
「キング⋯⋯えっ、キング!?何でここに⋯⋯。」
ジャージ姿で現れたのはキングヘイロー。エキシビジョンでサクラバクシンオーとギリギリの勝負をした、俺とデジタルにとっては大切な『走る人生教本』であり、一流の心構えを教えてくれた偉大なウマ娘でもある。
「スタート係で呼ばれたのよ。ねぇ、デジタルさん、今から走るのでしょう?少し借りるわよ。」
「えっ。良いけど⋯⋯今のデジタルは、さ⋯⋯多分何言っても⋯⋯。」
「今だから言うの。それに、勇者はいつだって王様の言葉に耳を傾けるものでしょう?」
そう言ってキングはデジタルの所へ言ってしまった。
ヨシエさんの方を見れば、何やらマルゼンスキーにノートを見せながら指示を出しているっぽい。会話の内容は聴こえないが、時折こちらを向いては笑ってるその顔がどれ程恐ろしい事か。
トレーナーに出来るのはここまで⋯⋯後はレースが始まらなければ何も分からないし、何もしてやれない。
「⋯⋯頑張れデジタル。俺は、最後まで一緒だから。」
推しの前で浮かない顔をした相棒を見ながら、ただそう祈るしか無かった。
『なんて顔してるのよ。』
突然現れたキングさんが、笑いながらもそう言っていた。
アタシには何も答えられない。自分がどんな顔でこの人の前に立っているかも分かっていない。ただトレーナーさんに言われた言葉が、"もう考えなくて良い"っていう言葉が⋯⋯何度も頭の中で繰り返されていた。
それは⋯⋯アタシが勝手に思っていた事に対する否定の言葉。これだけは守らなくちゃいけないと、ずっと隠し持っていた本心。その本心をあの人に否定された事に、全然理解が追いついていなかった。
今までそんな事1度だって無かったのに、時折トレーナーさんはああいう事を言う。勘が鋭いのか、誰かに教えて貰ったのかは分からないけれど⋯⋯何で、どうして今だったんだろう。だってこのレースはあの人にとって本当に大事な⋯大事なレースで⋯⋯。
『何を言われたのか分からないけれど、そんな顔して勝てる相手じゃない。見なさい、デジタルさん。』
『えっ⋯⋯?』
キングさんが向いた方⋯⋯スタンドの方で、トレーナーさんは目に見えて落ち込んでいた。自信無く、誰かに祈るように手を組んで下を向いていた。
『貴女に言葉を掛けてからああなのよ。トレーナーの役目はあそこで終わって、もう貴女の事を願うしか出来ない。2人で1人の勇者なら、あの人に言葉を掛けさせた事、後悔させるような顔をしては駄目よ。堂々となさい。"真の勇者は、戦場を選ばない"のでしょう?』
『⋯⋯怖いんです⋯⋯今まであったものが急に無くなるのが。戦場を選ばないとか、勇者とか、そんなのじゃなくて。アタシはっ、ただそうする事が正しいって思い込んでたんですよ。走るしか無かったんです。相手を選ばない、バ場を問わない勇ましい者だなんて⋯⋯アタシには相応しく無かったんです。』
『⋯⋯そうね。元々貴女達に相応しいのは"勇ましい者"じゃない。』
顔に両手を添えられ、キングさんの方を向かされた。その顔には優しい笑みが浮かんでいて。
『貴女達は、"勇気を分けてくれる者"よ。』
『キングさん⋯⋯。』
『全部じゃないわ。ほんのちょっと、あと少しだけ前に進みたい⋯怖くて踏み出せない⋯⋯誰かがそう思った時に背中を押してくれるのが貴女達。大好きなウマ娘達にそうしたかったから、チームなんてものを作ったのでしょう?』
『それは⋯そう、ですけど⋯⋯。』
目を逸らしたかった。けれども、キングさんの眼は逸らしちゃいけない───そう思わせる程の力強さと温かさに満ちていて。どうしてこの人が一流か、心の底から分かる気がする。
『もう一度考えなさいデジタルさん。自分がどういうウマ娘なのか。何を力に変えて走っているのか。どうして勇者御一行なのか。貴女のエゴを、貴女自身に認めさせてみなさい。』
『で、でも⋯⋯アタシなんか───。』
『もう⋯⋯貴女に教えてあげた事、何にも伝わってないじゃない。貴女はウマ娘が好きなのでしょう?自分なんか、なんて言っちゃ駄目。他ならない貴女自身を好きになれなくてどうするのよ。少なくとも貴女じゃなきゃダメだって言う人を私は知っているわ。足並みを揃えて、一緒にやって来た人が傍に居たはずでしょう。なら信じなさい。貴女達が、勇者御一行なら。』
そんな言葉を貰って、ようやくレースが始まったけれど───。
(全然追い付けない⋯⋯走りが、分からない⋯⋯!)
マルゼンスキーさんはそもそものエンジンが違う。競ってきた相手の格が違う。レースに対する勝負勘も、他の逃げウマ娘ちゃん達と速度も違う。ペースを乱す為に揺さぶりや圧をかけてみてもまるで反応しない。先が読めない。
まるで、最初から最後まで1人で走っているかのような人。
もしもスズカさんやバクシンオーさんの走りが完成したらこうなるのかと思い知らされる。この人の眼に、今アタシは映っていない。それどころか、何も映っていないんだ。本当に自分しか居ない場所で、自分の走りをしているだけ。
差は4バ身⋯⋯仕掛け所を間違えたら2度と追い付けない。追い付いた所で引き離されるし、それじゃあこの人の眼にアタシは映らない。もっとだ⋯⋯もっと、粘って、耐えて⋯⋯勝機を見逃さない。
勝たなくちゃ。勝たなくちゃ駄目なんだ。だってこの距離は、マイルは、絶対に負けないって決めたんだから。そうしなくちゃいけないんだからッ!
そうじゃないと⋯⋯アタシは、トレーナーさんに顔向け出来ない。沢山の物を貰っておいて⋯⋯あの人のやりたかった事を、奪うだけ奪っておいて、またここで叶えられないだなんて、そんなの───許されない、のにっ。
肌のヒリつく感覚。マルゼンスキーさんは、その速度を頂点まで上げた。
限界を超えた速度、その先の───"完成された領域"まで。
差が広がっていく。
もう、止められる気がしない。
追い付ける気が到底湧かない。
これがルドルフ会長にも泥をつけた、この人の本気なんだ。
自分だけの世界で、誰にも邪魔されない自分だけの走りをする───そうして辿り着いた"究極の自己完結"。
言葉にすれば簡単でも、実際にやるのはワケが違う。ましてやルドルフさんだけじゃなくて、シービーさんやシリウスさん、ラモーヌさん達を相手にしてきた上での無敗の走り。どこまでも止まらない、他とは比べ物にならない加速を生み出すから"スーパーカー"なんて呼ばれていて。
⋯⋯嫌だ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。負けられない。負けられないのに⋯⋯っ。
あぁ、また⋯⋯まただ。また、雨が降る。
視界を全部奪うような、大雨が。
脚が泥濘んで走りづらい。
マルゼンスキーさんが、凄く遠くに感じる。身体が思うように動かない。
トレーナーさんは罪悪感なんて持たなくていいとは言っていたけれど⋯⋯止めてくれと言っていたけれど⋯⋯っ、やっぱり、出来ないですよ。だってアタシは、心のどこかで思ってたんです。もし自分が走る事になるなら⋯⋯自分の好きな事に付き添ってくれたあの人が良いと。
空いた時間でトレーナーとしての勉強をしていた事を知っていて⋯⋯他の子達のスカウトだって出来た事を知っていて⋯⋯アタシは、自分の我儘であの人を繋ぎ止めてしまっていた。
もう少し。
あと少しだけ。
この楽しい時間が続けばいいって⋯⋯その結果が、阪神JF。
あの人のお父さんが亡くなって、レースが終わった後の泣き顔を今でも鮮明に覚えている。
そうだ⋯⋯奪ったのはアタシなんだ。アタシの我儘なんだ。アタシがもっと早くに決めていれば良かったんだ。なのに───どうして、もう大丈夫だなんて、言えるんですか⋯⋯。
重い。
脚が。
身体が。
呼吸が。
⋯⋯アタシ、何の為に走ろうって思ったんだっけ⋯⋯。
でも⋯⋯でも、走らなきゃ⋯⋯だってトレーナーさんは、マルゼンスキーさんをチームに入れたがってる。アタシのやらなくちゃいけない事。走って、走って⋯⋯はしって⋯⋯はしるのって、こんなにつらかったかな⋯⋯。
あぁ───雨の音が、鳴り止まない。
「デジタル!アグネスデジタルッ!!」
⋯⋯トレーナーさんの声だ。自分の声だけを聞いて欲しいと言っていた、アタシの⋯⋯。
「お前良く聞けよ相棒!難しい事ゴチャゴチャ考えんじゃねぇ!お前が俺を"最推し"だって言うなら、俺にとっての"最推し"はお前なんだ!それだけなんだよ!」
「⋯⋯トレーナー、さん⋯⋯。」
フェンスから身を乗り出して叫んで。今にも泣きそうな顔で、必死に⋯⋯やっぱり、根っこは出来てますよ。アタシとは違います。誰かの為にそんな風に必死になれる事、良く知ってますから。
だから⋯⋯アタシじゃなくても良かったんですよ。
キングさんが言っていた言葉───どうして勇者御一行なのか。
勇者御一行は、ただのチーム名で⋯⋯2人で作った居場所で⋯⋯大好きなウマ娘ちゃん達を近くで見て、近くで支えてあげたい、そんなアタシ達の我儘の───あっ。
⋯⋯そうだ。もし、アタシとあの人が似ているのなら⋯⋯きっと"勇気を分けてくれる者"は1人じゃない。
だって同じ道を歩いて来たから。同じ夢を持っていた筈だから。
何で分かってなかったのかな⋯⋯今更なのはアタシの方だ。
ずっと余所見ばっかりだった。後ろに、上に、下に⋯⋯トレーナーさんは、いつだって横を、
トレーナーさん。
ゴメンなさい⋯⋯私はやっぱり弱いです。今だって、走るのが怖いんですよ。脚が重くて、辛くて、苦しくて、どうしたらいいかもうぐっちゃぐちゃで分からなくて。
本当は⋯⋯本当は、やめちゃいたいって、思ってます。
だって、そうしたら今まで通りで居られるから。何も失わなくて済むから。
でも⋯⋯勝ちたい。
だからトレーナーさん⋯⋯もし、許されるのなら。
私の気持ちが届いているのなら───。
私に、勇気を分けて下さい。
「俺ぁな、デジタルッ!一緒に前を向きたいから、いつだってお前と勝ちてぇんだバカヤロウッ!だから勝てッ!
「っ、だぁああああああああああッ!!!!」
前だ!
前だ!!
前だ!!!
一緒に勝ちたい───私だってずっと思ってた!それだけで充分じゃないか!
雨がなんだ!
泥濘む地面がなんだ!
アタシは"ウマ娘"アグネスデジタル!勇者御一行のエースで、あの人の勇者で、たった1人のオールラウンダー!!
だったら⋯⋯道なんて最初っから1つなんだ!前に向かって進むしかないッ!!
「マルゼンスキーさんッ!!」
「⋯⋯。」
最後の直線、捉えるならここしか無い。いつだってここが、このストレートが私の戦場だった。けれど今まで通りの走りで追いつけるだなんて思わない。集中しろデジタル。マルゼンスキーさんの走りのクセを、今ここで掴め!
息遣いを!
足の運びを!
今の思考を走りから読み取れ!
何百何千とウマ娘ちゃんを見てきたアタシにしか出来ない事⋯⋯アタシだから出来る事!!
「ここだぁぁああああ!!!!」
「⋯⋯おいで。」
まだ余裕がある。ならまだ脚を動かせる。腕だって前に前に振り続けられる。
トレーナーさんが勝てって言ったんだ。
アタシ自身が勝ちたいって思ったんだ。
この人に。伝説に。怪物に。スーパーカーに。
詰めろ詰めろ詰めろ詰めろッ!!後ちょっとなんだ!もう少しなんだ!ゴール板を抜ける一瞬でも良いからッ!前にッ!!
届け!
届けッ!
届けッ!!!
『届けぇぇえええええええッ!!』
トレーナーさんと声が重なった。
もうマルゼンスキーさんが横に居る。横に並んだ───時だった。
聞き慣れない音がしたのは。
何か、重い音⋯⋯『ガコッ』って言う⋯⋯切り替わりの───ギア?車の、ギアチェンジ───。
「楽しかったわ。デジタルちゃん。」
「⋯⋯強ぇんだよ畜生。」
あと少しだった。横並びしてからゴールまで100mも無かった。デジタルの走りだって文句無しの走り、仕掛けるタイミングも間違っちゃいない。正真正銘、アイツの全身全霊を賭けた走り。
なんでそんな相手を、その短い距離でもう1回ブッチ切れんだ⋯⋯言ってこっちはマイル王だぞ⋯⋯。
「良かったんじゃない?思惑通り、デジタルちゃん吹っ切れたじゃん。」
「⋯⋯そりゃどーも。」
「まぁ、あの子が吹っ切れたからウチが勝ったんだけど。もし不完全燃焼な半端に強いデジちゃんだったら、マルゼンちゃん負けてたわ。」
「あん⋯⋯?」
「マルゼンちゃんは、元々"楽しさの象徴"みたいな子なワケ。あの子のハートに火を点けたらまず止まらない。それどころかギアは上がるだけ。自分達が『勇者御一行』なら、楽しませる要因になるかもって思わなかったかね?ん?ん?」
⋯⋯何も言えねぇ⋯そしてウゼェ⋯⋯顔が良いのに中身が他人を煽らなきゃ死ぬみてぇな性格してんなコイツな。周りをウロチョロするなマジで。ニヤニヤしながら顔を覗き込むなマジで。
あー⋯⋯凹む。
デジタルはゴール直後に座り込んでいた。レース前からかなりメンタルがギリギリの状態だった筈。その上後半は限界以上の走りを見せたワケだ。俺は⋯⋯アイツにとんでもない無理をさせて───ケツが痛ェッ!!
「何で蹴るんだよお前ッ!」
「三十路がいつまでぴーぴーヘコたれてんだ鬱陶しい。折角レース中にカッコつけたんなら、最後までカッコつけろバカ。トレーナーなら⋯⋯やる事有るでしょ。これ持ってさっさと行けよホラ。」
「⋯⋯何だ、この封筒。」
「ラブレター。」
「そんな冗談に構えるように見えるか?」
「ちぇっ、つまんねーの。じゃあ私これから仕事あるから帰るわ。おつー。」
そう言ってデカい封筒だけ手渡した彼女は、それっきり特に何を言うわけでもなくこの場を後に───。
「おーいクソボケー。」
「⋯⋯んだよクソおんっ、なぁッぶねぇな!!」
したと思った矢先、人の顔面目掛けて何かを全力投球してきた。クッソ重いし硬いし痛い。受け取った手の平がジンジンする。冷たい感触のそれを見れば、本物か偽物か、車のキーだった。達筆な文字で書かれた『Have a nice Day!!』のプレートがキーホルダー代わりに付いている⋯⋯はっ?そのテンションで投げていいもんじゃねぇだろコレ。普通に怪我するんですが。
「それやるわ。もう要らん。マルゼンちゃーん、帰るよー。」
⋯⋯せめて何の鍵か言ってから帰れよ。結局この封筒も何だし。
いや、この際後で良い。まずはデジタルを⋯⋯大事なパートナーをどうにかするのが先だ。
フェンスを乗り越えてゴール付近まで歩けば、近づく程にデジタルがいっぱいいっぱいだと言う事に気付かされる。アイツはこんな状態になっても、レース中に俺の声を聞いてくれた。俺のエゴに答える為に、自分自身の為に走ってくれたんだ。本当に⋯⋯誇りに思う。
「デジタル。」
「トレーナーさん⋯⋯。」
「立てるか?」
「少し、待ってもらえれば⋯⋯。」
「そっか⋯⋯強かったな、マルゼンスキー。」
「はい⋯⋯全然、追いつけなかったです。アタシ、本気で走ったんですよ。」
「あぁ、見てて分かったよ。今日のお前は今までで1番の走りだった。間違い無くマイル最強クラスの走りだよ。」
「⋯⋯なのに、引き離されたんですよね。勝てなかったんですよね。この距離で⋯⋯マイルで⋯⋯一緒に、勝ちたいって、そう思ってたのに⋯⋯っ。」
「そうだな⋯⋯一緒に負けちまったんだ。だから一緒にリベンジだ。なっ?」
「マルゼンスキーさんがっ、言ってたんです⋯⋯ゴールしてすぐ⋯⋯最後に楽しませてくれて⋯ありがとうって⋯⋯だ、だから、もう⋯⋯もう⋯⋯っ。」
「⋯⋯そっか⋯勝ち逃げされるかー⋯⋯。」
薄々そんな予感はしていた。ルドルフにピークが来ているなら、それと近しいウマ娘達もそろそろだとは思っていたさ。届かなかったのも間に合わなかったのも、デジタルのせいじゃない。そういう時が来たんだろう。
泣きじゃくるデジタルを抱きしめてやれば、胸の辺りがじんわりと暖かく濡れていく。余程気力を出し尽くしたのか、しがみつくようにしてジャケットを掴む手に、もう力は残っていない。
「トレーナーさん⋯⋯トレーナーさん⋯ごめんなさい⋯⋯っ。」
「⋯⋯おぅ。俺も、ごめんな。今まで1人で走らせてきて。」
初めて付けられたマイルでの黒星。この敗北を、俺は2度と忘れる事は無いだろう。
デジタルはただ、嗚咽をこぼすばかりだった。
キングヘイロー(ど根嬢) : 走る人生教本な女。他人のシナリオで株を上げる女。自分のシナリオでも泣かせに来る女。コメディーもシリアスも美味しい一流の女。汗と涙と泥が世界一似合う女。強い信頼と人望でしか取り巻きを作れない女。カワカミのパパで女。一般トレーナーたちと一緒にウマ娘達の様々な事情を見ていく事に定評のある女。3章・4章でもコメディーをさせさせなさせーッ!
次回───『最終R(?) : 勇者の目覚め』
この女誑しめ!!
失礼だな⋯⋯純愛だよ。(OKTYUT)
今更の余談ですが、デジたんの一人称が変わる時はウマソウルがはち切れんばかりのガチ状態です。つまりヤベー奴。