人間がウマ娘に負けるわけないだろ!いい加減にしろ!!   作:なちょす

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誰がバブリーまっしぐらなボディコン釈迦とかよォ⋯⋯クソコラみたいな顔出しツリーコスルナちゃんとか予想出来るんだよォ⋯⋯皇帝ニンジンとか比じゃねぇレベルで笑っちまうじゃねぇかよォ⋯⋯公式にそんなふざけ方されたらどうしようもねぇだろうがよォ⋯⋯ッ!
そういうとこだぞサイゲェッ!!クッソ愛してる君の思考は百万ボルト。地上に降りた最後のエンジェル。


※当作品はアオハル杯までの時間を軸にしている為、グランドライブは名前だけの概念です。やるとしても公式のグランドライブシナリオとはかけ離れた何かが生まれるかもしれないし、今のところは皆大好きドスケベムチムチ成人ウマ娘のヘビーグッバイさんは登場しません。誰よ。



最終R : 世界を駆ける愛しのキミへ

「トレーナーさん、次こっちの子をお願いしまーす!」

「はいだらー!!」

 

 

 オフサイドトラップの呼び掛けに応えたは良いが、ウマ娘達で溢れたこの控え室では動くのも一苦労だ。スタッフさんやメイクさん達だって仕事中だし⋯⋯そもそも俺がここに居る事自体おかしいんだけどな。

 

 

 

 デジタルやマルゼンスキーとのあれこれが終わり、後輩ちゃんに呼び出された俺達はそのまま正門へと向かったのだが⋯⋯迎えに来ていたのは1台のリムジン。何故かメジロ家からの御出迎えだった。

 呆気に取られてる間に、これまた何故か正門前でテントを張っていたゴルシ&マックに俺達は全員リムジンへと叩き込まれ、揺られる事20分───連れてこられたのはウイニングライブの会場だったのだ。

 

 到着するや否や、無駄にクオリティの高いヒヨコのマスクを被ったウマ娘達に後輩ちゃんやデジタルとマルゼンスキーが拉致され、俺は『KAISER』とプリントされた皇帝人参にプリンセス抱っこをされたまま、このウマ娘達で溢れかえった楽屋にぶち込まれたのである。仕事選べって会長。

 

 因みにここまでで1時間以内の犯行だ。ヒヨコ含めてこれ『ポラリス』の計画的犯行でしょ。あのクソ女どこ行きやがった。

 

 

「あ、あの⋯⋯アグネスデジタルさんのトレーナーさん、ですか?」

「ん?そうだよ。」

 

 

 いかん、考え事をしていたらオフサイドに任されたウマ娘がビクビクしながら話し掛けてくれているじゃないか。理解は追いついていないがオフサイドにはウマ娘達のおめかしを手伝って欲しいと頼まれているのだ。

 

 ならば自分の仕事はしなければ───えっ!?この子可愛い!!ちっちゃい!!黙れポニーちゃん。お前本当にそういう所だぞ。

 し、しかし何だこの雰囲気⋯⋯心做しかデジタルにも似ている様な気がしないでも無い。いや顔は全然違うけど。違うけれどもこの可愛いに極振りしましたみたいな見た目に控え目な性格は実にGoodです。ヒヒン。

 黙れってポニーちゃん。もう寝てろよ。

 

 

「わ、私、勇者御一行のファンで!あの⋯⋯い、いつかチームに入りたいなって⋯その⋯⋯。」

「あぁ、そういう事か。ありがとう。皆に話したらきっと喜んでくれるよ。えっと⋯⋯今年入った子かな?」

「は、はいっ!私、"カゼノコ"です!よろしくお願いします!!」

 

 

 数の子⋯⋯?

 違う違うバカを言うな。風の子⋯⋯いやまぁ、子供は風の子って言うし、元気が取り柄とかそういう感じだろうか。ふふっ⋯⋯何で今それ教えてくれたの?可愛いな。お可愛いが過ぎる。栗毛のセミロングが実にcute。くりくりおめめもso much。

 

 

「い、今はまだ入ったばかりですし⋯⋯チームに入れるような実力も無いですけれど⋯⋯あの、でもいつか⋯⋯。」

「あぁ、了解したよ。最初はそれでいいんだ。ゆっくりでも構わない⋯⋯ウチはいつでも歓迎するから、自分の気持ちに決心がついたらおいで。さっ、準備───。」

 

 

「オラァッ!!メジロ宅急便じゃあ!!」

「貴女の奇行にメジロの名を使わないで下さい⋯⋯メジロにきますわ。」

 

 

 頭にこいよ。

 控え室の扉を蹴り開いたのは、俺達をここに連れて来た張本人達──と呼ぶかは微妙だが──のゴールドシップとメジロマックイーンだった。なんだその肩に担いだデッケェ麻袋⋯⋯脚出てるんですけどッ!?拉致の現行犯じゃねぇか!!怖っ!!

 

 

「⋯⋯誰を拉致ってきたんだお前ら。」

「私は無関係です!ゴールドシップさんが手っ取り早いからと勝手に───!」

「マックイーン、紐固く縛りすぎだぜ?全然解けねー。」

「そんなはずないでしょう?ちゃんと優しく縛りましたわ。」

「加担してんじゃねぇか。どの口が言ってんだ名優。」

 

 

 風の子(仮称)の髪をお団子に結いながら麻袋に視線を落とすと、ピクリともしていない。大丈夫?息してる?

 いかん、気になって手が覚束無い。これでは風の子(仮称)ちゃんも怒──クッソモジついて照れてるんですけど可愛いなこの子。

 

 

「はい、これでOK。頑張ってね。」

「あ⋯ありがとう、ございます⋯⋯。」

「さて⋯⋯その拉致してきた子も解放していいんだよな?うぉっ、固ってぇ⋯⋯マックちゃんさぁ⋯⋯。」

「で、ですから!本当に優しく縛ったつもりです!ただその⋯⋯少々急だったので、ほんの少しだけ強めになってしまったかもしれませんが⋯⋯。」

 

 

 芦毛の2人に変わって何とか紐を解き、麻袋を引っぺがすと⋯⋯中から出てきたのはこれまた芦毛のウマ娘だった。

 

 というかクロフネだった。

 

 竹輪を握り締めながら全てを諦めたように横たわってベソをかいている。いたたまれねぇ⋯⋯。

 

 

「⋯⋯トレーナー⋯⋯どこぉ⋯⋯。」

「何で他所様の担当連れてきちゃったの?」

「だってよー。ヨシエちゃんが主役を連れて来いってんだからしょうがねーって。逆らうと何するか分かんねーし。許可はとったもんな。」

「そうなのか?クロフネ。」

「⋯⋯竹輪、あげるから付いてきて欲しいって⋯⋯わ、私、まだ何も言ってないのに袋被せられて⋯⋯気付いたらここに居て⋯⋯。」

 

 

 半分以上食われた竹輪はそういう事らしい。

 いーや無理だろ。どうしてそれでイけるとか思ってんだこの2人。それともアイツか?どっちにしても後輩ちゃんはここに居ないし、この場はオフサイドと他のスタッフさん達に任せて後輩ちゃんを探しに行ってあげようか。流石にね⋯⋯可哀想⋯⋯。

 

 

「クロフネ。お前さんのトレーナーを呼んでくるよ。何が何だか分からないだろうけど、取り敢えずあそこに居るオフサイドトラップを頼れば少なくとも間違いは無いから。な?」

「はい⋯⋯何で勇者御一行のトレーナーさんが居るんですかあぁッ!?

「今気付いたの?」

「ス、スタッフのおじさんかと思ってました⋯⋯地味だし⋯⋯。」

 

 

 結構エグい毒吐くなこの子。流石第2の後輩ちゃん。距離取られるのはかなり凹む。

 

 仕方ないので泣く泣く楽屋を後にした───所だった。廊下に出てすぐ、ふと視線を感じて横を向けば、断末魔を上げた様な迫真顔の鶏マスクをした謎の女がこちらを見て立っているではないか。ヒェッ⋯⋯マスクキッショ⋯⋯下手なホラーよりこえーよ。

 あと何だその胸は⋯⋯凄けしからんな。小柄な体格より一回り大きいはずのレザージャケットを着ているはずなのに、ファスナーが『ま無理』と言わんばかりに突っかかっているじゃないか。これマジ?じゃあやっぱりRobRoy───改めロブロイってドえらい成長したんだな⋯⋯。

 

 ぎゃあ!鶏が近付いてくる!デジタル!デジタルーッ!!あれ、これヨシエさんじゃね?

 

 

「おぶれ。歩きたくない。」

「何してんだクソ女。」

「何でそう思った?」

「⋯⋯お前しか居ねぇだろ。そんなマスク付けるの。」

「はいダウト。反応に間があった。人の乳見て判断したろ。」

⋯⋯⋯⋯違うけど?

「童貞丸出しじゃん。」

 

 

 凹む。

 

 

「案内してやるからおぶれ。今日の借りは今日返せマルゼンちゃんの借りを今すぐ返せ。」

「それはズルだろ。じゃああれだぞお前。飲み行った帰りにルドルフがフレンチキスしたのは俺のおかげなんだから借り返せ。」

「それはズルじゃん。いーいーかーらーおーぶーれークソがッ!!

「分かったからローキックを止めろテメェッ!執拗に脛だけ狙ってくんな!!」

 

 

 仕方が無いのでおぶる事にしたものの、背中への弾力プッシュが半端じゃない。何だこの豊満Styleは⋯⋯ファスナーが上まで締まりきらないレベルとか、そんなの漫画の世界だけかと思ってた⋯⋯ポニーちゃんが大人しいのは幸いだがやはり童貞には少し刺激が強すぎる。中身はクソだけど。

 

 

「ステージまでよろぴく♡」

「ウザ。何だそのキッショイマスク。子供泣くわ。」

「はぁ〜〜〜?キショくないですー。後輩ちゃんが『クッソファンキーで好きですね』って言って選んでくれたんですー。まぁ勝手に被せられたから見てないけど。」

「後輩ちゃんに何やらせてんだよ⋯⋯それ外して見てみろ。」

「何だ偉そうに───うわキッショ。何これキッショ。」

 

 

 ほれみろ⋯⋯顔が近ぇ。無駄に良いのが実に腹立たしい。おぶっているせいで余計にハッキリくっきりその整った顔が目に入ってしまう。中身はクソだけど。

 

 いや、そこじゃねぇな。

 

 

「どうしたその前髪⋯⋯めっちゃ色付いてんぞ。」

「んー?良いでしょ。ポラリスカラーでメッシュ入れてもらった。」

「だから1日帽子被ってたのか⋯⋯メッシュって何?」

「分かんねぇなら勉強しろ年寄りが。」

「畜生。んで?そろそろ今からやる事教えてくれ。」

「何で知らねぇのよ。ルナが説明したでしょ。」

「あの人参の着ぐるみ、遮音性高すぎて何も聞こえねぇんだ。こっちはお前わけも分からずウマ娘達のおめかししたんだぞ。」

「アンタって昔から変なとこでクソ真面目よね。」

 

 

 渋々と言った様子で彼女は今日のイベント───『ファン感謝祭・夜の部』の事を教えてくれた。

 

 曰く、元々は年一でこういうイベントがあったらしい。名前こそ『グランドライブ』と言って違うものだったらしいが、ウマ娘主体の元、ファンに日頃の思いの丈をライブとしてぶつける場だとか。ウイニングライブが理事会主体で出来てから自然に消滅してしまったらしいが、ウマ娘達がライブをするのはそもそもそのグランドライブがあったから。

 風の子(仮称)ちゃんのように新入生として入学してきた子達だけでなく、デビューしても成績の残せていない子やドリームトロフィーリーグで一線を走る子達も好きにライブを行い、好きにファンへメッセージを送る舞台⋯⋯これはそんなグランドライブのパチモンであり、盛大なお祭り事だと言う。

 

 そのパチモン祭りで本家の会場丸々貸し切るのはヤベぇんだよ。どんな人脈してんだこの人。

 

 のらりくらりと歩いて、ようやくウマ娘達で賑わっているステージ脇が見えてきた。楽屋ほどでは無くとも結構な人数がライブ衣装に身を包んで集まっている。中には黄金世代の面々や、覇王達、勇者御一行の面々も───えっ、君達知ってたの?おじさんクソビックリなんだけど。俺ハブられた?

 

 

「まぁつまり、今まで非公式でこっそりやってたイベントを今回から本格的にやりましたって話。エキシビジョンパワーも相まって、ファンもわんさか。グランドライブ復興も近いかもね。」

「ふーん⋯⋯じゃあそれの再建も目標の内ってか。良くやるよ。」

「いややらんけど?もう私にそんな時間無いし。ルドルフが引退するってなったら───私もトレーナー辞めるから。」

 

 

 思わず脚を止めた。

 

 

「⋯⋯何て?」

「ルドルフと一緒にトレーナーも辞める。あの子とはそういう契約なんだ。」

「それは⋯⋯お前───。」

「シャラップ。今は要らない(・・・・・・)。取り敢えず、アンタにお話があるって子が居るんだから行ってあげなよ。ここまでで良いからさ。」

 

 

 そうして背中から降りた彼女は、ステージへと歩いていく。ニンジン──では無く勝負服に身を包んだシンボリルドルフ、マンハッタンカフェと半ば強引に腕を組み、初めて見る子供みたいな笑顔をこちらに向けて言った。

 

 

「後輩ちゃんと見てな。観客もトレーナーもウマ娘も───皆纏めてぶち上げてやらァ。」

 

 

 ⋯⋯⋯⋯ウマ娘のライブだろ?

 

 

 

 

 

「遅かったですね。何手伝わされてました?」

「色々だよ⋯⋯マジであの女⋯⋯。」

 

 

 2階の関係者席について早々、後輩ちゃんが何かを悟ってくれたのかそう聞いてくれた。当のヨシエさんはと言えば、俺が2階に向かっている最中に延々とやる気があるのか無いのか分からんMCをやって会場を笑わせていた。どうやら結構な人数の知り合いが来ているらしい。

 

 結局デジタルとも拉致されて以降会っていない為、今頃何をしているかは分からない。恐らくはライブに出される事確定なのだろうが、それにしたってちょっとぐらい俺に手伝わせてくれたって良かったじゃないか⋯⋯凹む。

 

 

「先輩知ってました?ウイニングライブの楽曲って、1番最初の音源歌ったのあの人らしいですよ。」

「誰?」

「あの人。」

 

 

 後輩ちゃんが指さしたのは、今まさにステージの上でゴルシとマックを引き連れてリンボーしてる変態(鶏頭)だった。ドラムの音に合わせてステージでは火柱が上がり、どこの国か分からん民族の掛け声がウォッホウォッホ流れている。ライブってか奇祭じゃねぇか。何でまたそのキモイマスク被ってんだよ。ルドルフがちょっと引くレベルって相当だぞ?カフェなんかめっちゃ距離取ってるじゃねぇか。

 

 

「んなわけねぇでしょ。」

「やっ、聴いたら分かりますって。あの人バチクソカッケェんすよマジで。」

 

 

『コッケコッコーーーーーッ!!!!』

『Fooooooooooooo!!』

 

 

「アレがカッコよくなるとか天変地異でも起きなきゃ無理だろ。」

「起きますよ。ヨシエさんなんで。」

 

『あー、あー、テステス。じゃあ例年通りOPは私らがやりまーす。今回はエキシビジョンレースがあったから、急遽カフェちゃんが来てくれましたー。何でそんなに離れてるの?おいで?』

『⋯⋯こっちを見ないで頂ければ、助かります。』

『凹む。いやぁ本当はさー、ウマ娘達にとって大切なウイニングライブの⋯⋯それもG1楽曲をこんな風に私物化すんのはどうなのって話なんだけどー。理事長からOK出たし?ウマ娘の子達からも要望あったし?クラシック路線で勝ってる子達も一緒だし?そもそも皆がやれって言ったわけだから?取り敢えず───歌ってやるから上がっていけよ。"winning the soul"。』

 

 

 マスクを投げ捨てた彼女の声に合わせ、ギターの音が唸りを上げた。まさかの生バンドである。ステージでは本番同様の火柱が吹き上がり、照明が激しく明滅する。先程まで引いていたルドルフや距離をとっていたカフェもスイッチが入ったようで、相変わらず完璧な振り付けでダンスを見せていた。そして───。

 

 

『───♪──────♪』

 

 

「⋯⋯天変地異。」

「でしょ。アタシ元の音源聴いてるんで何となく分かりますけど、あれ多分ルドルフさんとカフェさんの声に合わせて自分の声弄りながら歌ってますよ。」

 

 

 さっきまで謎リンボーしていた人間とはおよそ同一人物に思えなかった。

 

 普段出してる声よか全然低く、ウマ娘2人がメインとでも言うように邪魔をしない音域で、尚且つ自分の存在を明確に主張するようにも歌っている。かと思えば、それぞれのソロパートの際はやたらと高音で裏方に回り、ハモリに徹してメインを引き立ててもいる。

 

 サビに入ってからはもっとえげつない。本家"winning the soul"でバックダンサーズが立っている後ろのボックス型高所ステージには、クラシック路線で勝利を飾った錚々たるメンバーが勝負服でズラリである。オマケにそれぞれパート分けがされており、メインステージの3人は後ろの彼女達に合わせて歌っているときた。

 いつからこのプラン練って練習をしてたんだあの人⋯⋯あっ、マヤちゃん可愛い。頑張れ。

 

 

『──♪───♪─────♪』

 

 

 ルドルフやカフェと違い、スクリーンに表示された彼女の顔に笑みは無い。メッシュの入った前髪が憂いを帯びた表情を僅かに隠し、色んな感情を孕んだ声が次々と言葉を吐き出していく。

 ウイニングライブとはウマ娘達が応援してくれたファンに向けて感謝を伝える場。なら⋯⋯自分の終わりを決めているアイツは、今日のこのライブで誰に向けて思いの丈を伝えているのだろうか。

 

 俺には普段あんなだし、駄々こねるし、手は出してくるしで色々アレな女だが⋯⋯彼女は紛れも無く、無敗の三冠ウマ娘の名を持つ『皇帝』のトレーナー。

 

 多くのウマ娘達の夢を見てきたはずだ。

 多くのウマ娘達の前にも立ちはだかって来た。

 学園を去った子達の背中だって⋯⋯嫌という程見送りもしてきただろうさ。

 

 だからこそ歌える歌がある。"winning the soul"と言う歌詞の意味合いも、その重さも変わってくる。クラシック戦線だけじゃない⋯⋯勝利に拘るウマ娘達だからこそぶっ刺さるものがある筈だ。一つ一つのフレーズが命を与えられ、会場の熱気をこれでもかと上げていた。

 

 ⋯⋯やっぱスゲェよあの人。こういうとこあるから狡いんだよなぁ⋯⋯隣の娘も、最早ただのファンと化している。眼がキラッキラじゃないこの子。

 そうして楽曲はラスサビ前のCメロ──センターヨシエちゃんのソロパートに差し掛かった時である。

 

 

「⋯⋯後輩ちゃん。俺、今英語聴こえるんだけど気の所為じゃないよな。」

「えっ?なんか言いました?」

「ゴメン、そのまま楽しんで。」

 

 

 脳死かこの娘。絶対今英語で歌ってるし、ラスサビだってもれなく英語でハモってるわ。どんだけアレンジぶち込んでんだあの人───あっ、あっ、マイクに這わせる指の動きがどエロいッ!!!!落ち着け童貞。どこで上がってんだ。

 

 最後の"winning the soul"のフレーズを全員で歌い上げ、ライブのOPは終わりを迎えた。

 

 照明と火柱の熱気で汗をかきながら、ヨシエさんは笑っていた。満足気に、やりきったと言わんばかりのピースサインを掲げている。全く⋯⋯トレーナーを辞めるとか言ってた癖によ。

 

 

⋯⋯そんなに楽しいなら辞めんなっつーの。

 

『はーいどうもね、どうもどうもー。勢い作ったから、後はメインの子達に頑張ってもらいましょーねー。って事で次の子達カモーンヌ。』

『あはは⋯⋯どうも〜⋯⋯。』

 

 

 次の子達と言うのは、先程まで拉致されてべソをかいていたクロフネと、どこに行ったか分からなかった相棒の2人だった。

 エキシビション組ならそれぞれタイキやオグリとセットな筈なのに、何であの2人がセット───デジタル三つ編みやんけクソァッ!巫山戯んなオイッ!!それやっぱり俺の仕事だっただろ!?だ、誰だよ許可無しに弄ったの⋯⋯勿論写真は撮ったんだろうなぁ!?いい値段でも言い値で良い。

 

 相棒、お前もお前だよ。プライベートで聖地巡礼する時、俺が三つ編みしようぜって言ったらお前死ぬ程拒否ったじゃん⋯⋯拒否り過ぎて俺の事パワーだけで組み伏せたじゃん!身長30cmも違うのに!大人なのに!!何で今日は良いんだよチクショーッ!!!!

 

 だが全てを許そう。そなたは美しい。

 

 

『と言う事でねー。オシャレしたマイル王とキュートさ満点なダート王に来てもらったわけだけどー。何か言う事あるかなー?』

『そうですね⋯⋯アタシ、マイル無敗とか言われてましたけど実はさっき伝説クラスの方に負けちゃいまして。だから今後は、勇者御一行の(・・・・・・)マルゼンスキーさんをよろしくお願いします!』

 

「⋯⋯あれ?今デジたんなんて言った?」

「マルゼンスキーが⋯⋯?き、聞き間違いじゃないよな?」

「あのチームヤベぇよ。」

 

 

 相棒⋯⋯己の謙虚な姿勢を維持しつつもしれっとマルゼンスキーの事を報告してチームの広告してくれるあたりは流石と言ったところだな。実はドリームトロフィーリーグでしれっと報告しようかと思っていたが、まぁ会場もザワザワしていてほんの少し優越感。ふふっ。

 

『だから』からは絶対に繋がらねぇ爆弾発言だけどな?接続詞のマエストロかお前は。

 

 

『あっ、因みにマルゼンスキーさんがどれだけ素晴らしい走りをしたかはですね───!』

『尺足りないから後で学園のホームページによろしくねー。はい次クロフネちゃーん。』

『あっ、あっ⋯⋯ひゃ⋯ち⋯⋯!』

 

「⋯⋯後輩ちゃん、クロフネって。」

「お察しの通りあがり症です。しかもデジタルさんのガチファンなんで、今すぐ泣くか倒れるかどっちかしたいと思いますよ。」

「致命的じゃん。今までライブとか大丈夫だったの?」

「アイツ設定間違えた加湿器並にアドレナリンドバドバ出るんで、レース直後ならいいんです。直後なら。」

「難儀だねぇ⋯⋯。で?大事な話っての、教えてくれよ。」

「⋯⋯本当はもっとちゃんとした場所とか、そういう雰囲気で言おうかと思ってたんですけどね⋯⋯何もかもヨシエさんにバレてて、こういう場を用意してもらったんです。クロがデジタルさんと2人になれるこの舞台を。」

 

 

 という事は、やっぱりそういう事らしい。何となくそうかなとは思っていたが、別にそんな告白しますみたいな中で言わなくても⋯⋯童貞は勘違いをする生き物なのだ。丁重に扱ってくれ。

 

 

「受けて立つさ。全力でな。」

「何の話すか?」

「エッ。」

「そっちは別に改まって言う事じゃ無いですよ。どうせバレてんだし。」

「じゃ、じゃあ⋯⋯何?」

 

 

 親指でステージを指さした後輩ちゃんに釣られて顔を向ければ、デジタルはクロフネの手を握っていた。ずっとアイツの中で心残りだった、自分にとって覚悟を決める転換期になった後輩。その後輩に対する、デジタルなりの無言の声援なのだろう。

 本来なら2人揃ってぶっ倒れる場面だが、デジタルの顔は先輩としての優しい笑みを浮かべたものだった。本当にそういうところだぞお前は⋯⋯いい女め。

 

 

『私⋯⋯私は。次のフェブラリーSで、ここに居るアグネスデジタルさんと戦います。自分の力を全部出し切って、戦場を選ばない勇者を打ち倒します。』

 

 

 ぎゅっと手を握り返したクロフネは前を向き、堂々とした面持ちでそう宣言した。勇者バフ恐るべし。だが⋯⋯あいつの嬉しそうな表情が全てを物語っている。

 その宣言は他でも無い、俺とデジタルがトゥインクル・シリーズに残してきた最後の心残りなのだ。それならやはり、こちらも全力で───。

 

 

 

『それから⋯⋯そのフェブラリーSが終わったら、私は次の舞台に進みます。航路を中東へ向けて───皆さんがくれた"舶来の衝撃"の名前をその舞台へ叩きつけてきます。』

 

 

 

 堂々とした態度に、力強い意志を宿した鋭い瞳を向けながら、彼女はそう宣言した。会場内が静まり返ったが、1人、また1人とクロフネの発言の意図を理解した者達から上がった声が、徐々に大きなものへと変わっていく。

 

 フェブラリーS後の中東。それはつまり⋯⋯。

 

 

「先輩。アタシらやっぱ負けず嫌いなんで───ちょっとドバイで頂点(テッペン)取ってきますわ。」

「大事な話って、お前⋯⋯。」

「⋯⋯泣いてんすか?」

「いや⋯⋯ビックリっつーか、嬉しさっつーか⋯⋯何だ⋯成長したなぁ、ぼっち⋯⋯!!」

「キレんぞ。」

 

『ハーバーの皆さんが力を貸してくれました。そしてアグネスデジタルさんという目標が、私にもう1つの道を教えてくれました。私はそれを力に変えたい⋯⋯私は、私の憧れた人を超えて、ウマ娘として(・・・・・・)ここに居る事を証明したい。お姉ちゃんとそう決めましたから!だから、応援よろしくお願いします!!』

 

 

 ⋯⋯何だ。あの子、しっかり喋れるじゃんか。どっちが本性か分かったものでは無いが、間違いないのは俺達にとってかつてないほどの強敵になるって事だ。それならこっちだって出し惜しみは無し⋯⋯やれる事は全部やるしかねぇ。

 

 まだ明確な策も戦法も浮かんではいないが、レースに絶対が無いなら勝ちへの道は必ずある。茨の道だろうが悪路だろうが、俺とデジタルなら"絶対"───何で頭抱えてんだ後輩ちゃん。心做しか耳が赤い気もするし、何よりもその引きつった笑いがクッソ怖え。

 

 

『あー⋯⋯水差すようで悪いんだけどねークロフネちゃん。君お姉ちゃん居たっけ?』

⋯⋯⋯⋯⋯⋯トレーナーと、決めました⋯⋯。

『だよねー。ライブ出来る?』

『無理でずぅ⋯⋯ごめんなさぁいぃ⋯⋯!!』

 

「あんのバカ⋯⋯。」

「よっ、愛され系お姉ちゃん。」

「あーキレそう。」

 

 

 両手で顔を抑えながら天を仰いだクロフネと、両手でサムズアップをしながら床に倒れたデジタルはゴルシとマックに運ばれて行った。会場内からは、『てぇてぇ』『挟まりたい』『処すぞ』と言う野太い鳴き声が幾つも聴こえてきた。何たる絵面。あれが現マイル王と現ダート王の姿である。

 

 俺らが言えた事じゃないけど⋯⋯。

 

 

『締まんねぇな。』

 

 

 ファン感謝祭・夜の部───そして色んな想いが交差した今年の聖蹄祭は、こうして終わりを迎えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 1週間が経ち、レース場。ドリームトロフィーリーグの舞台となる会場は、スタンドを埋め尽くすほどの観客で溢れ返っていた。

 

 

『さぁ今日も始まりますドリームトロフィーリーグ。夢を求めたウマ娘達の行き着くステージで、会場内が主役の登場を今か今かと待ち侘びています。3番人気に上がったのはスペシャルウィーク。黄金世代と肩を並べる日本総大将が満を持して登場しました。2番人気はサクラチヨノオー、前走ではヤエノムテキ、メジロアルダンを下しての1着。威風堂々たる面持ちで、レースの時を待ちます。そして2人のダービーウマ娘と鎬を削る1番人気はやはり───。』

 

 

 控え室に来る前、場内アナウンスがそんな事を言っていた。

 

 ドリームトロフィーリーグ⋯⋯トゥインクル・シリーズを勝ち進み、数多の成績を残してきた強者達が集うこのステージは特別な物だ。多くの人が、ウマ娘が、彼女達の走りに夢を見る。テイエムオペラオーを筆頭とした世代も既にこの場所でそれぞれが活躍を見せていた。

 

 いつかはデジタルにもそういう日が来るのだろう。この舞台を戦場にして、沢山の想いをあの小さな身体に背負って。

 

 そんな中控え室では、真っ赤な勝負服に身を包んだ堂々の1番人気が大きく伸びをしていた。

 

 

「緊張⋯⋯は、してないか。」

「そう見える?でもそうね⋯⋯緊張と言うよりワクワクかしら。」

「お前さんの背中を追って、ダービーウマ娘が2人も揃ったんだ。初お披露目にしちゃ、最高の舞台だよ。」

 

 

 今日この場に勇者御一行の面々は来ていない。今頃生徒会室で映像でも見せて貰っている筈だ。

 

 改めて皆にマルゼンスキー加入の件を話したところ、『じゃあレースだね!』とマヤちゃんの一声が皮切りとなり、あれよあれよと今に至る。何より俺が彼女をチームに入れたがっていた事は皆が知っていた為、背中を押されてしまった。気を使ってくれたのか、わざわざ2人で行ってきて良いとのお言葉も頂戴したし。

 勿論相棒からの後押しがあったのも大きいが⋯⋯頭が上がらん。

 

 

「そろそろ行くか。皆、1番人気を待ってる。」

「えぇ⋯⋯そうね。」

 

 

 そうして控え室を後にして、長い地下バ道を2人で歩く。トレーナーに出来るのはここまでだ。何となくジャケットのポケットからヨシエさんに投げつけられた車のキーを取り出す⋯⋯未だに夢なんじゃないかと思うところは正直あった。あんまりにも突然で、突拍子も無い預け方をされたんだ。そうもなるわ。

 

 

「その鍵。」

「ん?」

「その鍵にはね⋯⋯もう1つ意味があるのよ。持ってくれた人が、"スーパーカー"の運転手。自由気ままに目的地を決めて走ってくれる人の証。君はどこへ連れて行ってくれるかしら?」

「先輩は何て言ってた?」

「行ける所まで適当に行くわ、ですって。」

「何だそれ。」

 

 

 おかしくて、2人で笑ってしまった。あの人⋯⋯光景が目に浮かぶほど期待通りの返答してんな。

 

 

「そうだなぁ⋯⋯俺なら"行きたい所へご自由に"、だ。」

「その心は?」

「悪いが、俺は運転手なんて柄じゃ無い。いつだって楽しそうに車を走らせるお前さんの隣で景色を見てきた男さ。俺にとっての運転手はマルゼンスキーなんだよ。だから行きたい所へ行ってくれ。自由気ままに走ってくれ。したら昔と変わらず───他愛も無いお喋りしながら、助手席でナビでもしてやるさ。」

「⋯⋯あははっ!何か今の君、あの人にそっくりよ。」

「そりゃどうも⋯⋯褒め言葉か?」

「勿論。ねぇ⋯⋯1つだけ教えてくれる?」

 

 

 足を止めてこちらへ向き直った彼女は、真っ直ぐ見つめてきた。

 それはあの日⋯⋯初めて彼女をスカウトした時と同じ状況。けれどその眼に未来への恐れは無い。ただ望む答えを待っているかのような、そんな信頼の眼差し。

 

 

「今、楽しい?」

「最っ高だよ。」

「そう。なら───。」

「あぁ。だから───。」

 

 

『ドライブの時間()。』

 

 

 地下バ道に反響した観客達の声が大きくなってくる。絶対強者がやって来たのだと、分かっているんだ。彼女はその声に応えるようにレース場へ歩みを進めた。

 

 

「マルゼンスキー!」

 

 

 その背中に何かを言おうとした。

 振り向かずに足を止めてくれた彼女に、トレーナーとして気の利いた言葉の1つでも送りたかったのだが⋯⋯思いの外何も出てこない。

 

 まぁ───ずっと言いたかった事はある。

 初めて彼女の楽しそうな走りを⋯⋯その勝負服に彩られた姿を見た時からずっと言いたかった事。

 

 ようやく叶った夢の1つに向けて。

 

 

「⋯⋯やっぱり、君には赤が良く似合う。」

「でしょ?♪」

 

 

 満面の笑みでピースを送ってくれた彼女は、ターフヘと駆けて行った。

 

 さて⋯⋯帰りはどこへ寄り道しようか。

 

 

 

 

 

『マルゼンスキー先頭のまま最後の直線!外からスペシャルウィーク!内からサクラチヨノオー!しかしここでマルゼンスキーが離す離す、まだ突き放す!無敗の旅路はまだ続く!4バ身引き離してマルゼンスキーが今、ゴールッ!これが"世代を超えたスーパーカー"!!』

 




クロフネ(舶来の衝撃) : 存在そのものが"可能性の塊"。当然ヤベー奴四天王の1人。あがり症なのにレースでは神格化するし、スイッチさえ入れば思考も言動も後輩ちゃん並に強気で勝気なあんちくしょうになる。入れば。当作品ではレコード勝ちしたJDDと武蔵野Sを回避した事で怪我の運命もちゃっかり回避。その分国内外を問わずに大暴れします。ここまでやって"領域"には未だ至っておらず、最終章にて勇者御一行に立ちはだかる正真正銘のラスボス。因みにデジたんガチ勢にして後輩ちゃんをお姉ちゃんみたいに思ってる姫ラブ勢。カレンチャンのパパ。

ゴル&マック : 公式の玩具。ウマ娘界のポプテピピック。最近マックちゃんがドーナツの真ん中をくり抜くバイトに興味津々なんだけどやっぱ止めた方が良いよな。(ゴルシ談)

カゼノコ(可愛い) : なんの脈絡も登場したクリクリおめめな140cmのロリ。しこたま好きなロリコンに結って貰ったお団子ヘアーがお気に入りなのでこのままアオハル中。今後もなんの脈絡も無く登場します。元ネタはアグネスデジタル産駒のJDD勝利馬。これ実質子供では?(賢さSS+)


次回、『特別R① : 聖蹄祭初日のこと』


これにて本当に第2章のほんへ終了となります。お疲れ様でした。シンザン絡みのあれこれドラマとかヨシエさんとルドルフの引退発言とかクロフネとのガチンコマッチは最終章までお預けです。何年かかるんだよマジで。
引き続き見てやっても構わんよと言う独身兄貴たちはラーメンでも食べながらうどんを食べつつ蕎麦をこねて下さい。

死闘開幕。生き延びろ、性癖破壊教室。
特別Rは1話辺り短めです。オールおふざけで何本かやるよん。
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