人間がウマ娘に負けるわけないだろ!いい加減にしろ!!   作:なちょす

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プリティーかなぐり捨てた99世代のアニメを見て思ったの。
あのレベルでさ⋯⋯大雨の中、大外から突っ込んで覇王と名将に引導を渡す覚悟ガンギマリ勇者の秋天見たい⋯見たくない?アカン、婚姻届取りに行っちゃう⋯⋯それはそれとして、カレンチャンのパジャマ見た?あの挑発スマイルのビジュアル見た??あんなのハレンチヤン。公式が沢山ネタくれるゲームズ愛してます。そのまま闇堕ちアヤべさん助けて。


第3R : ユーコピー?今日のポピー

『きょ、今日からいっぱいお手伝い頑張りますね!』

 

 

 唐草模様の風呂敷にシューズをパンッパンに詰め込んだライスシャワーがやって来て1時間。話を聞いたところ、どうやら彼女はウチだけでは無く他のチームのお手伝いさんもしてくれるとの事。

 

 それがチーム"ベガ"───アドマイヤベガと口数の少ない寡黙な男性トレーナー率いる3人体制のチーム。未だ勝ち数こそ少ないが、そこには"スターメモリー"と言う尾花栗毛の若手ウマ娘が居たはず。ライスが助っ人なら、恐らくは中~長距離向けの子なのだろう。1度走りを見た時はどうにもいっぱいいっぱいと言うか、身に合わない走りをしていたイメージだが⋯⋯。

 

 まま、そこは彼女らの問題なので良いんだ。アオハル真っ盛り、何ならアヤべ世代は頼れるメンツの集まり。呼べば来るのも居るし呼ばなくても高笑いと共にやって来るのも居る。オマケにタヌキとセットで来るのも居る。精神安定剤のウララちゃんも忘れるべからず。うっらら〜☆

 

 今それよりも問題なのは、ウチのRobRoy.───改めロブロイだ。

 ライスシャワーとゼンノロブロイは同室の友。気弱な内面を見せながらも内に秘めたる意志の強さは中々に目を見張る物があるウマ娘同士である。

 

 だから⋯⋯ね?俺だって、気の知れた仲間同士の方が良いと思って早速併走をお願いしただけなのよ。本当にそれだけなの。

 

『どのメニューが良いですか?』って聞かれたから、ライスに渡された"並盛"、"大盛"、"鬼盛"のカードから記念に"鬼盛"を選んで⋯⋯おかわりまでセットでさ。RobRoy.──もといロブロイのポテンシャルならいけると思ったの。許してくれロブロイ。

 

 

「はぁっ⋯、はぁっ⋯⋯!」

「ロブロイさん、お顔が上がってきてるよ?頑張って!あともう少し!」

「なんっ、で、そんなに⋯⋯余裕が⋯⋯っ、ここでッ!離しますッ!!」

「うん、その調子!ライスついてく!どこまでもついて行って───逃がさないからね?

「ひッ!?」

 

 

 鬼違いだろコレ。併走ってか逃走だよ。さっきから英雄見習いが鬼宿した娘と鬼ごっこしてんの。流石レース中はカワイイカレンチャンですら震え上がらせる後輩ちゃんお抱えの準エースと言ったところか⋯⋯後でロブロイにはボーノと一緒にご飯でも作ってあげよう。や、暫くご飯が怖いかもしれない。

 

 逆に"並盛"と"大盛"ってなん───薄ら下に"鬼盛"って書いてるぅーーーッ!!ウチの中・長距離メンバー潰す気満々じゃないですかヤダー!お前ブルボン基準で練習メニュー考えたろッ!

 いや、こんな事するのはあの小娘以外居ないか⋯⋯とんだ刺客送って来やがったな後輩ちゃん。お前ウチからもカレン送りつけてクロフネ共々カワイイに染めてやる。覚悟してろよ。

 

 ⋯⋯そのカレンが乗り気になってくれればの話だが。

 

 

「カレン。今日はどうした?」

「え〜?何が〜?♪」

 

 

 さっきからゼロ距離なのよね、このドスケベサキュバス。隣にビダッッッ!と引っ付いて座ってんの。

 

 おぅ、今年もか?今年もお兄ちゃんの事をそんな薄着で誘惑する生足幻惑のマーメイドになるつもりかお前。お兄ちゃんだって成長してるとこ見せてやるからちょっと待っててポニーちゃん躾てくる。

 いくら夏だからって海物語にはまだ早ぇんだよマリンチャン。あっ、カレンチャン。

 しかも何がヤベーって、ちょっと距離取ろうとすると腕掴まれんの。ずーーーーっと微笑みながらこっち見て本当にすみませんでした命だけはお助け下さい。

 

 ポニーちゃんが俺に囁いている⋯⋯"年貢の納め時だね、トレーナーさん!"と。喋るな。

 

 昨晩何があったかは分からんが、朝俺と目を合わせてくれたのはデジタルとスイーピー、それにマルゼンとボーノだけだったんだ⋯⋯悲しい。かと思えばカレンはこうしてお兄ちゃんの横に張り付いて、覇王色の覇気を放つ始末。モルモットを見習え。アイツはジェネリックタキオンの副作用で蛍光色の覇気を顔面からひり出してるぞ。そういうので良いんだよ、そういうので。

 

 もうね⋯⋯薄々分かってる。原因は俺なんだなって、流石に理解してるの。心当たりが無くても、皆にとっては結構な事をしでかしたんだなって⋯⋯だからさ、もう、聞くよ?聞いちゃうよ?ジョーダン達には悪いけど、もうお終いにする。うん。大人の覚悟を知れ。

 

 

「何かあったろ?その⋯⋯結構前から。折角こうして2人なんだし、出来れば⋯⋯聞かせて欲しい。」

「じゃあね〜⋯⋯1個だけ教えてくれる?」

「あぁ。」

「カワイイって何かな?」

 

 

 カワイイの権化が哲学を殴りつけてきた。

 どゆこと?今何聞かれてんの??白雪姫問題???『それは貴女様でございます。鏡見ろ。』とか言えば良いのかな????そんな分かりきってる返答なんかしてみろ、叩き割られて身体でお話だ。毒リンゴに頼るまでも無く物理で沈められて、7人の小人ならぬ7人分の小人が蹂躙される世紀末⋯⋯7人分ってエグイなッ!?自分で思ってなんだけど、それはもう小人じゃねぇよ!大人だよ!!

 

 

「あのね⋯⋯カレン、今ちょっとスランプなの。だからお兄ちゃんに教えて貰いたくて⋯⋯。」

 

 

 身体で教えてって事?今犯行声明出してる?

 バ、バカ、違うだろ童貞!そうやって何でもかんでもペロリ♡される方向に持っていこうとするんじゃあない!お前三十路だろ!相手は中等部にして妹みたいなもんだろうが!少しは冷静になれ!!なった。

 

 

「⋯⋯例えばね?自分の長所に自信があって、その長所で色んな人達に幸せになって貰いたい⋯⋯そういう風に考えてる子が居るとするよね。」

 

 

 A.貴女です。お前さんのカワイイ理論にはいつも幸福感とやりがいと緊張感を感じながら楽しく仕事させて貰っています。謝謝。いつもカワイイね♡魔王みたい。

 

 

「それで、そんな子をずっと支えてくれてる人⋯⋯子供の頃から、そうやって今も変わらないまま見守ってくれてる人が居て。だからその人と一緒に頑張りたい、とか⋯⋯一緒に居たいって思うのは、普通だと思うの。」

 

 

 A.それは私です。そんな挙動をした覚えが確かにあります。心持ちは今も変わっておりませんボス。成程、やはり俺達の話なんですね。腑甲斐無いお兄ちゃんで申し訳ありませんボス。しかしそのデカすぎる感情は果たして普通なんでしょうかボス。

 

 

「でもね⋯⋯もし、その人が⋯⋯同性の人に恋してたら、どうするのが"カワイイ"かな?」

 

 

 これ俺らの話じゃねぇわ。

 

 えっ、何?今何か同人誌の話されてる?何かそういう作品見たの?薔薇系?

 いやいやいや、カレンチャンだぞ!?いつだってお兄ちゃん一筋⋯⋯自分で言うのも気が引けるが、そういう空気とムーブをかましてきてたでしょ!?何でその花園に"カワイイ"を見出そうとしてるの!?結末とか展開に納得いかなかったから、何とか自分の中で良い解釈に纏めようとしてるって事!?解釈違い絶対許せないウーマン!?

 ただでさえカワイイの権化やらインフルエンサーやらでキャラ付け出来てるのに、新しい概念をねじ込むなッ!

 

 おあぁぁ⋯⋯哲学かと思ったらもっと難しい問題だったわ⋯⋯。何て答えるのが正解なんだよ⋯⋯見た事ねぇよ薔薇の花園は⋯⋯。

 しかしここで黙ったり変に濁らすのも大人として、或いはトレーナーとして良くない。この質問の返答次第で俺の今後が決まってしまうかもしれんのだ。

 かくなる上は、カレン的に満足しそうかつ、俺の考えをフワッとラテのように添えて⋯⋯。

 

 

「⋯⋯難しいな。でも、それがその人の本心なら⋯⋯尊重したり、応援してくれた方が嬉しいんじゃないかな。」

 

 

 妹からの返答は無い。横をチラリ。

 

 

【急募】笑った妹からの逃走経路【カワイイカレンチャン】

 

 

 これ死んだわ。助けてデジたん。"お前が何言うてんねん"みたいな空気を感じる。

 これ俺の話じゃないでしょー!?言っちゃなんだけど、俺自分のチームメイト全員に弱いんだからな!?ポニーちゃんだって認めてるんだから!!別にヤス君とかモルとはそういう花園営業してねぇわッ!

 

 

「やっぱり⋯⋯そう思う?」

「⋯⋯あくまで俺の意見だから。」

「そっか。うん⋯⋯もう少し考えてみるね⋯⋯。」

 

 

 そう言ってカワイイカレンチャンは、どう見ても無理してるだろう笑顔のまま新人ちゃんの練習に混ざりに行った。アカン、あれは納得してないやつだ。お兄ちゃん失格である。

 

 

「⋯⋯どうしよう、相棒。」

「何であたしを砂に埋めながら⋯⋯いえ、良いんですけど。正直に言うとですね。皆さん、トレーナーさんがミチコさん──もとい、ミチルさんに告白した事を知ってるワケです。」

「うん。」

「昨日の夜あたしも初めて聞きましたけど、トレーナーさんがヤスさんの事を"恋人にするならああいうタイプ"認定していた事も、昨日皆さんは知ったんですよ。」

「うんうん。」

「トレーナーさん、今現在そっち(薔薇系)の人って思われてますからね。」

 

「カレン待ってッ!!待ってッ!!お願いだから説明させてッ!!!!」

 

 

 何でこっちの呼び掛けに全力疾走で逃げんだあの妹はッ!!ちょっとくらい止まってくれても良いじゃんかよォッ!!さっきまで死んでも離さねぇみたいなオーラ出してたじゃん!俺だって逃げたいよ!知りたくなかった衝撃の事実だよッ!!えっどうすんの!?本当にどうすんのこの惨状!?お前これミチコちゃんにバレたら一本背負い待ったナシだよ!!俺よか身長デカい元柔道部なんだぞあのカマは!!

 

 

「その⋯⋯大丈夫ですよ。何とかなりますって。あたしもお手伝いしますから。今回はちゃんと説明しないで逃げたあたしにも非はありますし⋯⋯。」

「相棒⋯⋯。」

「それはそれとして、ここらでトレーナーさんには現実と痛い目を両方見てもらった方が良いかなとも思ってますが。ははっ。」

「相棒⋯⋯ッ!」

 

 

 乾いた笑い、辛辣だがぐぅの音も出ねぇ。あっ、ローレルとジョーダンどうしよう⋯⋯結局ジョーダンが言っていた"いつもの"で話が完結するやつだった。怒られる⋯⋯生徒にドヤされる⋯⋯。

 

 

 そんなどうしようもない思考に耽っていた時、不意に肩を叩かれた。

 

 

 振り返ると、そこに立っていたのは1人の女性だった。

 身長はそこそこ高く、後輩ちゃんよりも僅かに低い程度だろうか。つばの大きな白い帽子の下でセミロング程の髪を後ろで結い、へそ出しホットパンツからスレンダーな脚がのぞくという、見る人が見れば目のやり場に困るだろう格好。お前の事だよ童貞。凹む。

 そして何より彼女はウマ娘。帽子から飛び出した鹿毛の耳がぴょこぴょこ動き、首からは『特別指導員』の札をぶら下げていた。目には何故かハートのサングラス。昨日マルゼンスキーと一緒に付けてた俺が言うのもなんだが、それ流行ってるんですかね。

 

 何だこの絵に書いたような真夏のビーナスは。俺全く知らんぞ。特別指導員の話だって聞いちゃいねぇ。

 

 

「勇さん、で合ってますか?」

「あっ、はい。」

「早い合流が出来て安心しました。私、秋川理事長から許可を受けて、1週間生徒さん達の指導をさせて頂く──こういう者です。」

 

 

 そう言って彼女が差し出してきた名刺にはたったひと言。

 

 

『刀削麺』

 

 

 ちょけてるのかな?

 待ってよ。ここでボケる?初対面で?危なく、『はっ?』とかいつも通りのツッコミをかましそうになってしまったんですが。いやいやいや、んなわけあるか。間違って出したんだきっと。

 

 

「貴女がアグネスデジタルさんですね。お会い出来て光栄です。私、こういう者です。」

「⋯⋯味噌ラーメン。」

 

 

 刀削麺じゃねぇのかよ。ボケにボケを重ねるな。いや重ねるのは良いけどタイミングとかさ⋯⋯妙に懐かしさを覚えてしまうのは何故だ。

 

 あっ、遠くからカレン達の視線を感じる。大丈夫大丈夫、お兄ちゃん達は平和です、ボス。

 

 

「⋯⋯その。結局、何とお呼びすれば良いでしょうか。」

「"ベイクドモチョチョ"と呼んで下さい。」

ん"っ⋯⋯嘘ですよね?」

「そうとも言います。わはは。」

 

 

 何笑ろてんねん。

 こちらの困惑など意に介さず、彼女は俺の前へと回り込み、前屈みでこちらを仰ぎみた。

 

 

「⋯⋯仕事上の相棒(・・)と、呼んで貰っても構いませんよ?」

 

 

 彼女の後ろで砂が舞った。

 

 何だデジタル。どうした、その座りが悪い両手。何か中途半端に墓から出てきたゾンビみたいになってんぞ。

 

 

「⋯⋯すみません。相棒なら間に合ってます。」

「そうですか。では、やはりモチョチョで。」

「⋯⋯モチョチョ、さん。」

「わはは。」

 

 

 何笑てんねん。

 砂から両手を出したデジタルの横でしゃがみ、もう1度綺麗に両手を埋めた。"えっ?"みたいな顔されてるが、えっ?はこっちだよ。何ビックリして反応してんだ。相棒としてのお前の今日の仕事は俺の砂遊びに付き合う事です。嘘、流石に仕事はね⋯⋯?ただちょっと皆と距離を縮める為の作戦をね⋯⋯??

 

 

「仲がよろしい様で何よりです。では早速、この後の練習について提案が有るのですが。」

「その前に⋯⋯貴女が来る事は、秋川理事長から何も聞かされていない───。」

「先ず、貴方とデジタルさんで短距離からマイルまでの生徒の指導を。貴方の経験上、今は(・・)そちらの方が合っているはずですからね。」

「いや⋯⋯話を───。」

「中・長距離のメンバーは私が。但しブルボンさんはライスさんと他のチームでしょうし、若手のダウナービートさんは貴方の指導に合わせて貰った方が今後の為にもなる⋯⋯よって、マヤノさんとロブロイさん、それからキタサンブラックさんの3人になりますね。そちらの負荷が大きくなってしまいますが、ご了承下さい。」

「あ───。」

「無論、無理はさせません。あくまでも判断はトレーナーさんのご指示(・・・・・・・・・・・)という事でどうでしょう?"うん"、ですか。分かりましたありがとうございますそれでは。あ、これ私の連絡先ですので登録して下さいね。」

 

 

 自由過ぎんだろこの姉ちゃんよォッ!!最後なんて俺の口塞いで無理やり頷かせたじゃねーか!!ちょっとぐらい話聞けよ!こっちは何にも聞いてねぇって何回言わせんだ!

 いや、1回も言ってないわ。凹む。

 

 それと"トレーナーさんの指示"とか言ってたわりに、俺に何にも聞かないで行っちまったけど大丈夫かよ⋯⋯。

 

 

「⋯⋯デジタル。あの人知ってるか?」

「いえ⋯⋯あたしよりも、トレーナーさんの方が詳しそうじゃないですか。」

「何で?取り敢えず、素性も分からねぇあのフリーダムウーマンに3人を丸投げするのはちょっと怖い。こっちは俺の方で練習見ておくから、それとなく昼まであの人の事見ててくれないか?」

「それは構いませんけど⋯⋯一応、カレンさんに話しておいた方が良さそうですね。

「カレン?」

「あっ、こっちの話です。」

 

 

 ボンッ、と砂を吹っ飛ばした相棒はそのまま起き上がり、にこやかに微笑んだ。

 

 

「それでは、張り切ってウマ娘ちゃんへの御奉仕と参りましょうか。相棒さん。」

「おーし。その前に───人が横に居るのに砂飛ばしてんじゃねぇよこの万能クソカワロリオタクがぁッ!!」

「耳ぃーーーーッ!!!!」

 

 

 

 

 

 そんなこんなで早30分。

 様子を見ていたデジタルから、残酷な現実を突きつけられてしまった。

 

 

「トレーナーさん。凄いですよ。」

「どうした?何か変化有った?」

「あの人、トレーナーさんよりもちゃんとトレーナーやってます。」

「⋯⋯⋯⋯。」

「無言で穴を掘らないで下さい。埋まってる場合じゃないです。」

「⋯⋯⋯⋯。」

「こっち見て涙ぐんでる場合でも無いですよ!?」

「だっでよぉ⋯⋯。」

 

 

 言葉の重みが違うのだ。仮に俺が他チームの生徒に、『指導が適当すぎ。バッジ返せば?』と言われたら3日寝込めば致命傷で何とかなる。だがコヤツに『トレーナーさんよりちゃんとしてますね。はぁ〜だらしな⋯⋯(超意訳)』と言われるのは心の臓にナイフを突き立てられている気分だ。

 

 例えるならば、おしどり夫婦でやってきたはずなのにある日突然離婚届を笑顔で渡された時のような感情⋯⋯独り身だけど。

 故に辛い。お涙が勝手に浮かんでしまう。うっ⋯⋯。

 

 たっ、確かにさ?俺は後輩ちゃんやモル君、それからヨシエちゃん(あのクソ)に比べればまだまだ未熟だよ⋯⋯こんなにチームとして上手くやれてるのは、ほぼ相棒のお陰だと自覚してるよ⋯⋯にしてもこんな急に現れた謎のウマ娘にまで立場を奪われては、いよいよメンバー達に本気で呆れられてしまう。

 

 

「そんなに心配せずとも、大丈夫ですってば。別にトレーナーさんがダメとか指導力不足とかは関係無いですからね!」

「何でそう言い切れるんだよぉ⋯⋯。」

「⋯⋯?あたしがここに居るからですけど。」

 

 

 中等部の勇者が見せる突然のガチトーン。不覚にもときめいた30年目の夏。

 

 しかしこれは逆に考えると、『あたしが最終関門ですから分かってますよね?後が無いので真面目にやって下さいね?カレンさんあてがいますよ?』と言う威圧感たっぷりの警告でもあるのだろう。いかん、だとしたら泣くのも凹むのも人目につかない所でだ。そしてカレンを派遣社員にするんじゃない。お兄ちゃんベッドで地獄の70連勤だよ。

 

 ⋯⋯それはそれとして、お前今言った事後悔してるな?絶対やっちまったって思ってるな??頭抱えてモジモジしおってからにこのオタクはホンッッッマそういうとこ、はぁ〜〜〜〜ッッッ!!!!

 

 

「ねぇねぇ、トレーナーちゃん!」

 

 

 項垂れた俺を他所に、モチョチョさんの元で指導を受けていたはずのマヤノが声を掛けてきた。

 

 

「どうしたの⋯⋯?」

「声小さいね。どうしたのはこっちの台詞だけど⋯⋯あのね?トレーナーちゃんから見て、マヤってどう思う?」

 

 

 どうした急に。

 何だその漠然とした質問は。何と答えればいいのだ。遠くでモチョチョさんが笑っている。こちらに手を振っている。マヤちゃんに何話したんですか?

 

 どうって⋯⋯可愛い?違うだろ。

 小さくて可愛い?それも違う。えぇ⋯⋯何を求められてんだよ。

 

 マヤノはいつだって純新無垢で、大人の女になるべく日々精進している天才キッズ。しかし色恋話に興味津々が故に、首を突っ込んでたまに自爆する節があるから⋯⋯うぅん⋯⋯。

 

 掛かりやすい───とか。

 

 

「わぁ〜っ!やっぱりそうなんだ!ありがと!!」

「えっ!?あっ、マヤ!?待って、マヤーーーッ!!」

 

 

 そうなんだって何!?やっぱり!?掛かってる自覚あったの!?いやそもそも俺のポロリ発言しっかり聴こえてるじゃないですかー!!どこからどこまでを聞いて"分かっちゃった!"したんだあの子!?それにさっきから待てって言ってるのに誰も待ちやしねぇのは何なんだ!!

 

 

「⋯⋯何で今日は、皆俺の話を聞かないのかな。」

「鏡をお貸ししましょうか。」

「凹む。んぁ⋯⋯着信?モチョチョさん?」

 

 

 振動する携帯の画面には、先程連絡先を交換──と言う名の一方的な押し付けを──したモチョチョさん。今度は何だってんだ⋯⋯。

 

 

「はい、もしもし。」

『お忙しい所すみません。今から併走を予定しているので、皆さんでこちらへ来て頂けないでしょうか。』

「えっ、皆と?それに急ですね⋯⋯併走は誰とでしょう?」

『マヤノさん、ロブロイさん、キタサンさん、私の4人です。』

「そうですか⋯⋯ん?」

 

 

 この人が?走る?現役ウマ娘相手にって⋯⋯どんな理由があるんだろうか。言っちゃなんだが、マヤは普通に強い。ロブロイやキタちゃんだって、本格化までもう少しの段階にして既にポテンシャルの塊である。失礼かもしれないが、引退後のウマ娘で彼女達の相手をするのは並大抵の事では無い。実際に走る事で実力を見極めたいのだろうか?確かにそれは普通のトレーナーには出来ないが⋯⋯。

 

 

『あ、そうだ。トレーナーさん、スピーカーモードに切り替えて頂けますか?』

「⋯⋯?はい、やりましたけど。」

 

 

 電話の向こうから、すぅーっとわざとらしく息を吸う声が聞こえ───。

 

 

ぬぁーはっはっはっは!お前の可愛い教え子達はこの私が預かった!取り返したくば、今すぐ芝コースに来るが良いッ!!』

 

 

「⋯⋯モチョチョ、さん?」

 

『わはは!誰だよモチョチョって!』

 

「えっ?えっ??」

「お兄ちゃん?どうしたの?」

 

『いさみんってばひっどーい。私とあんなに熱い夜を過ごしたのに⋯⋯。』

 

 

 丁度やって来たカレンがフリーズして耳絞ってるッ!!!!

 タイミング最悪じゃねぇかチクショーッ!そんな熱帯夜を過ごした記憶なんか無ぇよッ!!こちとら現在進行形で独り身じゃ!うっせぇわ!!

 

 

「⋯⋯トレーナーさん。」

「違っ、待ってデジタル。落ち着いてくれカレン。俺本当に知らないの。本当に本当なの。そんな無責任な事、万に1つも無いの⋯⋯。」

 

『嘘だぁ。合宿所で、皆に隠れて朝まで一緒にオールナイトしましたぁ。』

 

「んなわけ無いでしょ!?大体貴女とだって今日初めて───!」

 

 

 

『も・も・て・つ♡』

 

 

 

 瞬間───俺の脳裏を過ぎったのは1人のウマ娘。

 

 当時マヤより少し大きいぐらいだったチンチクリンの彼女は、スレにスレ切っていた俺にとって唯一のベストフレンドだった。先輩とも腐れ縁の夢女とも違う、ウマ娘の中では正真正銘の心の支えだった相手。

 

 そのウマ娘も、俺の事をこう呼んでいた筈だ⋯⋯いさみん、と。

 夏合宿の最中に、確かにやった筈だ⋯⋯99年に渡るキングボンビーの醜いなすり付け合いを。

 

 

「⋯⋯お前⋯⋯なんっ、えっ?はぁ⋯⋯?」

 

 

 全てが繋がったこの間0.5秒(体感)。ベイクドモチョチョとそのウマ娘の顔が、完全にリンクした。だとしたら⋯⋯ヤバい。

 ヤバい、ヤバい、ヤバいッ⋯⋯!!

 

 実力を見極める?

 3人に勝つのは並大抵じゃない?

 

 んなわけあるか!面白半分でちょっかい掛けやがってあのレースバカぁ!!今の3人じゃ勝てねぇよ(・・・・・)ッ!!

 

 

 

『因みに出走まであと1分だぞ♪あっそーだ!道中にクソ程スイカを並べたんだよね。後で食べたいから、全部叩き割ってからおいで!バーイ♡』

 

「はぁああああああああぁぁぁッ!?おまっ───切んなやボケェッ!!!!

 

 

 

 俺はただ、砂浜で吠えるしかなかった。

 両膝をつき天を仰ぎ見るばかり。相棒と妹から⋯⋯いやもう、周りで練習してた他の生徒達からも、『何コイツ?』みたいな目で見られているがもうそれどころじゃない。

 

 誰に聞かれたわけでも無い⋯⋯ただその言葉は、混乱した自分の心を納得させる様に、自然と零れていた。

 

 

 

 

 

 

「───"天"が、来た。」

 




ベイクドモチョチョ(刀削麺) : いきなり出てきた謎の成人済みウマ娘。アカン、ロリコンの性癖壊れちゃう⋯⋯ような展開は万に1つも有り得ない。当たり前だよなぁ?遊びに来た理由もロリコンにちょっかい掛ける理由も不明。察しの良い兄貴たちなら多分正体が分かってる。当作品においては、"速さ"の象徴。


次回、『第3R : マヤ、出会っちゃった!』

レジェンドレース──VS █████████。
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