人間がウマ娘に負けるわけないだろ!いい加減にしろ!! 作:なちょす
すみません昨日までは本当の話です。ただ勘違い物って最初に真面目な事やるのが定石じゃないかと今更気付いたので真面目にやります。
ふざけ倒したロリコン編は3日後位にお会いしましょう。
凱旋門シナリオ、モンジュー達を倒した後に片膝立ち満身創痍オタクがトレーナーの声で立ち上がるのも、ガンギマリ顔で凱旋門トロフィー掲げるのも反則的にイカしてる。僕泣いちゃったよ。兄貴たちもすこれ。
何かを忘れている気がする。
トウショウボーイさんが来てから、もう6日が経った夜。明日はいよいよ言い渡された課題の日。
一昔前、日本のレース界を盛り上げた天馬に勝たなくちゃいけない日。
正直練習は辛かった。
だってあの人鬼だったもん⋯⋯練習になると人が変わるって言うか、マヤ達3人のギリギリのラインを常に把握してるって言うか⋯⋯本当に無理って言う所までず〜〜〜っとスパルタだった。
何回か、もうダメっ!てフリをして休もうとしたけど、ひとしきり演技に付き合ってくれた後『満足した?行こっか☆』って。全部バレてたんだよね。
けど引き際は分かってて、辛いのに実力がついてきた実感は確かにあるから何も言えなくて。
───明日で終わり。辛かったけど、そう考えると少し寂しい気もする不思議な感覚。
結局あの人がどうして夏合宿に来たのかも、マヤ達に何をどうして欲しかったのかも分からないし、教えてはくれなかった。
それに、胸にぽっかり穴が空いている気がする。
何か⋯⋯何か大事な事を忘れてるんだ。
2日目の朝にトレーナーちゃんから謝られた。『昨日の夜はゴメンな。怖くなかったか?』って。
何の話か分からなかったんだよね。
思い出そうとすると、頭にモヤが掛かったみたいに何も浮かばなくて。だってティーボーさんが来た日の夜は歓迎会をやって皆でお話して、それで終わったから。
終わった⋯⋯はず、だよね?
「⋯⋯分かんないなぁ。色々分かんない。」
後1時間もすれば消灯時間。
チームの皆はそれぞれの時間を過ごしてる。ロブロイちゃんはちょっと思い詰めた顔をしてたし、キタちゃんは急に部屋を訪ねてきたラモーヌさんとお話しに行っちゃって。
キタちゃん⋯⋯あんまり良くない顔してたけど大丈夫かな。緊張もあるだろうけど、もっと違う事を気にしてたっぽいし。
調子が悪そうと言えばロブロイちゃんもそう。課題がマヤについてくる事って言われてたけど、練習の大半はロブロイちゃんのペースに合わせてたから⋯⋯マヤはまだ走れても先にロブロイちゃんの方が限界になって、休憩を挟むのなんて結構あったし。気にしすぎてないと良いけど⋯⋯。
ほんの少しだけ世界がちぐはぐな感じ。前に進んでるのに、歩かされてる見たいな。ティーボーさんじゃない
「トレーナーちゃん⋯⋯今日、見回りだったっけ。」
行ってみようかな。迷惑かな。でも───。
『覚えてないなら良かったじゃん。』
そう言って笑ったティーボーさんの顔も、驚いた顔をしていたデジタルちゃんとトレーナーちゃんの事も、頭から離れない。多分この3人だけが、正しい道を歩いてる。どう正しいかは分からないけれど⋯⋯やっぱり聞いてみよう、かな。
そう思ったらわりとすぐに足は動いていたんだけど、トレーナーちゃんが居る部屋に向かっている最中───バッタリ出会ったその人は、少しだけビックリした顔で立ち止まった。
「マヤちゃん、お散歩?」
「うん、そんな所。ローレルさんは───。」
珍しかった。あのローレルさんがジャージの袖を捲って、ファスナーも全開。少し暑そうにパタパタと中のシャツを仰いでて、まるで激しく運動した後みたい。
でも⋯⋯わざわざトレーナー棟で練習するかな?それも消灯の1時間前まで。
「運動してたの?」
「うーん、そんな感じ⋯⋯かも?今日も暑いね〜。もう1回シャワー浴びてこなきゃ。」
そう言って笑ったローレルさんとすれ違って───ピッコーーーーーンッ!!マヤレーダー探知!!これもしかしてもしかするとそういう事!?えっ、マヤ分かっちゃった!!
「ローレルさん、デジタルちゃんの匂いがするね。」
「本当?あはは!さっき移っちゃったかな?」
「デジタルちゃん、今日は夜ご飯の後からタキオンさんと一緒なんだ。ローレルさん⋯⋯デジタルちゃんとトレーナーちゃん、
足を止めたローレルさんは、にっこり笑ったままマヤの方を振り向いた。
「さっきまで一緒に居たの⋯⋯トレーナーちゃん、でしょ?もしかして⋯⋯トレーナーちゃんと───。」
少しだけ。ほんの少しだけ気まずそうな顔をしたローレルさんは、いつもよりどこか余裕が無いようにも見えた。やっぱりそうなんだ⋯⋯。
「トレーナーちゃんと遊んでたでしょーッ!ずるーいーーーッ!こんなギリギリまで!!今度はマヤも呼んで!絶対!!」
「そのまま大人になってね、マヤちゃん。お休みなさーい♪」
「何で走るのー!?絶対呼んでね!約束だから!!」
「はーい!」
⋯⋯何だろう、このマヤだけ分かってる感。こういう時って大体本当の事は違うっていうのがこの合宿でよく分かったんだよね⋯⋯それは分かりたくなかった事なんだけど。
「いーもん!もうトレーナーちゃんに直接聞いちゃお!」
「俺が何?」
「ひゃっ!?」
居た。今会おうとしてた本人が後ろに立ってた。不思議そうな顔をしてマヤの顔を見た後、いつもみたいに大人びた顔で笑って。い、いざ目の前にすると聞けない⋯⋯。
「何か声がしたと思ったらローレルは走って行くし⋯⋯何か用があったかな?」
「トレーナーちゃん⋯⋯あの、あのね⋯⋯ローレルさんと!⋯⋯何、してたのかなって⋯⋯。」
あれ⋯⋯?何でだろう、凄く恥ずかしい。
もしかしてマヤ、今凄い子供っぽい?遊んでたのが羨ましくて内容聞いちゃったりしたら⋯⋯トレーナーちゃんはまたマヤの事子供扱いするかも。失敗したぁ⋯⋯。
ほら、トレーナーちゃんだっていつもみたいに笑って青ざめてるーーーッ!!??何で!?遊びの内容聞いただけだよ!?そんなに白熱したの!?汗かくぐらい凄い事してたの!?
「⋯⋯マヤ。ローレルさんはどんな感じでいらっしゃったかな?」
「⋯⋯あの、凄く暑そうにしてて⋯⋯何か運動したのかなって感じで⋯⋯ジャ、ジャージも着崩してたよ?」
頭抱えてる⋯⋯しゃがみ込んじゃった⋯⋯本当に何してたんだろう。
「おーっすマヤノ。」
「ジョーダンちゃん⋯⋯?」
「こんな所でどうしたん?あー、つーか腰痛ぇー。明日も練習なんだけどマジで⋯⋯無駄に身体使わせんなし。」
「えっ?えっ?ジョーダンちゃんも一緒だったの⋯⋯?め、珍しいね!ローレルさんとトレーナーちゃんの3人で何してたのー?」
途端にオロオロしだしたトレーナーちゃんの方をチラッと向いたジョーダンちゃんは、不思議そうに首を傾げた後に教えてくれた。
「あー⋯⋯何って⋯⋯あれ何?カバディ?」
『?????????』
ちょっと分かんない。
分かんないけどトレーナーちゃんも物凄く分かんないって顔してる。何でトレーナーちゃんが分かんないのかは分かんない。ねぇマヤ全然理解出来てなくてちょっと落ち込みそうだよ。分かっちゃうのがアイデンティティだったのに。
「良く分からんがお前はバカでぃ。」
「うっせーっつの。バカでわりーか。」
「最高。」
『うぇ〜〜〜い。』
「帰るわ。」
「おぅ。お疲れ。」
ジョーダンちゃん行っちゃった。今って何の時間だったんだろうね。もしかして分かんない事は考えない方が良いのかも。
「それで?俺は今から見回りだけど⋯⋯。」
「ううん、何でもない!お休み!」
「そっか⋯⋯なぁマヤノ。実はデジタルに今日が見回りだって事言い忘れててさ。誰か付き添いが必要なんだけど、良かったら夜の散歩に付き合ってくれるか?」
「⋯⋯先生とかエアグルーヴさんも居るし、見つかったら怒られるよ?」
「その時は俺が怒られるさ。頼むよ。」
バレバレの嘘。本当に付き添いが必要なら怒られる事なんて無いのに。トレーナーちゃんなりに気を使ってくれたんだろうけど⋯⋯そういうとこだなぁ。それで付き合っちゃおって思うマヤもマヤだけど。
「良いよ。じゃあ何かあったらよろしくね。」
「勿論。」
「それで⋯⋯結局3人で何してたの?」
「⋯⋯枕でバシバシって。」
「枕投げ!?やっぱりマヤも呼んで欲しかったー!」
「1人が俺を押え付ける係で、もう1人が一方的に。」
「じゃあ枕投げじゃないね。皆で狙い合う遊びなのにその役割分担おかしいと思う。」
「凄い汗かくし、なんか楽しげな笑い声とかしてさ。」
「それ枕投げだよ!運動量凄いし、皆で楽しめるから絶対枕投げ!合宿のテッパン!」
「手に持った枕を何度も何度も俺の顔にね、こう。ツボに入って笑いっぱなしの奴も居て。」
「じゃあ枕投げじゃないね。投げてないもん。百歩譲っても枕叩きつけかな。待ってジョーダンちゃんもローレルさんも居たの?ホントに?」
トレーナーちゃんはニコッと笑うと、何も言わずに歩き出した。
これホントなんだぁ⋯⋯混ざる⋯⋯うーん、混ざれる⋯⋯?次呼んでって言っちゃったけど⋯⋯けどぉ〜〜〜⋯⋯⋯っ!後で!考えよ!
歩くと意外と広い合宿所の中を2人で歩いてると、あちこちの部屋からヒソヒソ話し声が聴こえた。"練習疲れたね"、とか。"明日はオフだー"、とか。"皆まとめてプリンにしてやるのッ!!"とか。最後のは何だろね。
思い思いの夏を過してる子達の話を聞くと、勿論マヤ達だって成長はしてるんだけど⋯⋯それでも明日はどうなるか分からない。それはマヤだけじゃなくて、ロブロイちゃんもキタちゃんもそう。
考えない様にしてる⋯⋯でも、考えちゃうんだ。何も本当の課題を見つけられてない自分自身が成長してるのかどうか不安になる。
そんな時、トレーナーちゃんが頭に手を乗せながら笑ってくれた。
「心配無いよ。」
「えっ?」
「マヤノが思っているような事は何も無い。だから、いつも通りのお前さんでいい。」
「⋯⋯うん。」
トレーナーちゃんはたまにこういう所がある。こっちの考えてる事を分かってるみたいに、欲しい言葉を言ってくれて。
きっとこれが大人って事なんだよね。
「あのね、トレーナーちゃん。実は用事って言うのは⋯⋯キタちゃんとロブロイちゃんの事なの。」
「2人がどうした──って、決まってるか。
「うん。」
「1つ──キタサンブラックに関しては大丈夫だ。なんたって今回はスイープが居るし、そもそもウチに来た時点で何も心配はしちゃいないさ。いつも通りの皆で接して欲しい。
2つ──ロブロイの話も聞いてる。ティーボーの奴、マヤノとロブロイに同じメニューやらせてるのに、ロブロイのペースに合わせてるんだったよな。」
「そうなの。だからロブロイちゃん、たまに思い詰めたり、マヤに謝ったりしてて⋯⋯。」
「ロブロイに教えてあげてくれ。ティーボーが付き添ってたこの一週間、そもそもお前さんの為だってな。」
「うん⋯⋯うん?えっ?そうなの??」
「知らなかったろ?アイツは最初っからロブロイがマヤノに負けるとは思ってない。寧ろ勝負が面白くなるように、課題なんて名目で正解を言ってたんだ。ロブロイにはアイツからの課題の意味、もう一度よく考えてみて欲しいかな。」
⋯⋯今日のトレーナーちゃん、何か変。変って言ったら凄く失礼なんだけど!でも何か⋯⋯ちゃんとしてるって言うか⋯⋯。
「それで3つめ。マヤノ⋯⋯お前さんの課題は、トウショウボーイに勝つ事でも無ければスタミナを滅茶苦茶増やす事でも無い。そもそもロブロイのペースに合わせた1週間じゃ、肺活量の底上げなんて無理がある。それをするのは俺の役目だ。」
「じゃあマヤはどうしたらいいの?」
「───レースを作れ。そして、トウショウボーイをよく見ておくんだ。」
ざっくりした答え。
でも───
「マヤノの強みは周りへの理解が早い事。ただそれは、お前さんが受け身の姿勢でレースに出る限り弱点なんだ。周りに引っ張られるのなら⋯⋯突出した誰かの出方が気になるのなら。そもそも自分がレースを作ってしまえばいい。走りやすいように、動かしやすいように。集中するのは特定の誰かじゃなくてレースそのものだ。だから───天馬もお前さんの掌に誘い込んじまいな。」
「⋯⋯出来るかな。」
「出来る。少なくとも、俺もティーボーもそう思ってる。それにな⋯⋯マヤノ。」
大きな手が頭をくしゃくしゃってしてくる。昔パパにされたみたいで、くすぐったいけれど少しだけ落ち着く。
「お前さんは
「トレーナーちゃん⋯⋯っ!」
「うぉっ!?な、なに!?どした!?」
ぎゅっとしてた。トレーナーちゃんは驚いていたけど、何も言わないでそれを許してくれて。『まだまだ子供だなぁ』なんて、わざとらしく言ってくるけれど⋯⋯子供っぽいマヤがこうして出来るなら、今はまだ子供のままでもいい。
いつかちゃんと成長した日に、改めてトレーナーちゃんの事を夢中にさせられたらなって思うもん。なるべく。早い内に⋯⋯。
「お悩み解決したか?あまり良い事は言えなかったかもしれないけど⋯⋯。」
「ううん、十分。もう大丈夫だよ。明日は楽しみにしててね!」
「はい、分かりました。ははっ───おっと。お疲れ様、キタちゃん。」
「⋯⋯はい。お疲れ様です。」
ラモーヌさんとの話が終わったキタちゃんが帰ってきた⋯⋯けど。その顔はどこか青くて、明らかに無理してる笑いだった。
キタちゃんの課題は、ラモーヌさんを楽しませる事。あの人は物凄く強いし、レースに関してはかなり真剣なうえに言葉もストレートだから、もしかすると今のキタちゃんには厳しかったのかもしれない。見ていてこっちまで辛くなる、そんな笑顔だった。
「あっ⋯⋯消灯時間、ですか。じゃああたし、先に休みますね!明日もありますから⋯⋯お休みなさい。」
「うん。お休み。」
「⋯⋯トレーナーちゃん。」
「遅かれ早かれこうなってた、な。ラモラモに容赦無く叩き切られたんだろうさ。なぁ、マヤノ。俺はさっきスイーピーが居るから大丈夫と言ったが、お前さんにも頼みが有る。」
しゃがんで目線を合わせたトレーナーちゃんは、両手をマヤの頬に当てた。あっ、小さい声で"ひぇ"って言った。
「んっ、んん!あの子の憧れは誰か知ってるな?」
「うん。テイオーちゃんだよね。」
「そうだ。そしてトウカイテイオーの事を誰よりも知ってるのは、同室のお前さんだと俺は思ってる。あの子は今"憧れを追うだけのウマ娘"から、先ずは"憧れに並び立つウマ娘"へと成長しようとしてるんだ。だから、キタちゃんの事を支えてやって欲しい。先輩として⋯⋯あの子よりほんの少しでも大人なウマ娘として。」
「先輩で、大人⋯⋯何したら良いのかな?」
「まずは隣で話を聞いてあげる事。その後はお前さんに任せるよ。正しいとか正しくないとか関係無く、マヤノがキタサンブラックにどうなって欲しいか考えてやってみな。」
「⋯⋯分かった!」
にっ、と笑ったトレーナーちゃんはそこでようやく立って、安心したように歩いて行った。
「俺は最後に上の部屋に行くよ。『お友だち』からデジタルも回収しなきゃだし。何かあったらいつでも頼ってくれて良いからな。」
「うん。おやすみ。」
「⋯⋯後、大丈夫?本当に無いかな?気になる事とか聞きたい事とか⋯⋯。」
「えっ、うん⋯⋯無い、よ?」
「そうか───お休みッ!!」
⋯⋯やっぱり、変だよね。無駄に元気な声の挨拶とグッドサインをして歩いていく後ろ姿を見送って部屋に入ると、流石に皆もキタちゃんの様子がおかしい事に気付いたのか、お喋りしながらもほんの少し気になってるみたい。直接聞く事はなかったんだよね。
───スイープちゃん以外は。
「⋯⋯何よ、その顔。」
「えっ?」
「ひっどい顔。」
「そうかな⋯⋯今日もちょっと疲れちゃったから、かも?あはは⋯⋯。」
「キタちゃん⋯⋯ラモーヌさんに───。」
「あっ、すみません!もう寝ましょう!トレーナーさんは見逃してくれましたけど、他の人が見回りに来たら───スイープさん?」
ムスッとした顔のままスイープちゃんは自分の布団をゴソゴソとやり出した。そして取り出した大きなハリセン──何で?──を、構えて⋯⋯あっ!
「ふんッ!!」
「いっっったぁーーーッ!!!!」
顔に⋯⋯フルスイングしちゃった。
「何か言う事は?」
「えっ?えぇっ⋯⋯??いや、だからもう寝ましょ───。」
「物理魔法ッ!!」
「いだぁッ!?」
「ちょ、ちょっと!おやめ下さいましスイープさん!」
「離しなさいカワカミッ!」
「腕力に物を言わす事は無いじゃありませんか!」
「アンタにだけは言われたくないわよ!説得力0のパワープリンセスッ!ジャンケンのグー担当みたいなポジションじゃないッ!」
「姫の誉ですわよッ!?」
「あの、ま、先ずは落ち着きましょう⋯⋯!」
「はーい、これは可愛くないので没収しまーす♪」
「何なのよ揃いも揃ってッ!アタシは───ッ!」
流石にロブロイちゃんやカレンちゃんもスイープちゃんを落ち着かせる為に動いたけれど、スイープちゃんは一向にその素振りを見せなかった。
それどころかどんどんボルテージが上がってるようにも見える。
そんな時、"ねぇ?"ってマルゼンちゃんが手を挙げた。
「もしかしてスイープちゃん、今キタちゃんが悪い魔法に掛かってるって気付いてるのかしら。実は私もそう思ってたのよ!でもこの悪い魔法、解除も上書きも相性があるみたいだから、先ずはキタちゃんの話を聞きながら解決策を探しましょ♪」
「っ⋯⋯ん。」
「ふふっ、ありがとう。キタちゃん。そう言えば私達、もう1週間近くも同じ部屋で過ごしてるのに、貴女の事をちゃんと聞いた事無かったわよね?ラモーヌちゃんとの事を無理にとは言わないわ。だから先ずは貴女の事を教えてくれるかしら。見回りなら私も居るから少しは大目に見て貰えるし、そろそろ
赤くなった鼻を押さえながら、キタちゃんは少しだけ俯く。
マヤの方を向いたマルゼンちゃんはパチッとウィンクしてくれた。『大丈夫』って言ってるみたいに。そんな対応の出来るマルゼンちゃんがやっぱりカッコ良く見えたし、居てくれて良かったって本当に思う。
「⋯⋯あたし、テイオーさんに憧れてトレセンに入りました。いつかあの人みたいになりたいって思って走り続けて⋯⋯でもやっぱり遠い人で。出来る事は、ただ我武者羅に頑張る事しか無かったんです。でもある日、ヨシエさんに『チームに来ない?』って声を掛けられました。」
「うん。それで⋯⋯?」
「嬉しかったです。だってルドルフ会長やテイオーさんと同じチームに誘われたんですから。ツルマルさんやオフサイドさんも、怪我や病気に負けないぐらい強い心を持ってる人達で⋯⋯その時、ふと思ったんです。じゃあ───あたしは何だろう⋯⋯って。」
声色が変わった。震える声で、凄く怖がってる。多分今まで誰にも言った事が無かったんじゃないかな。テイオーちゃんにも、ヨシエちゃんにも、ダイヤちゃんにも⋯⋯他の誰にも。
「会長さんみたいな強さも無くて。テイオーさんみたいなカリスマも無くて。オフサイドさんみたいな熱い闘志や執念も無くて。ツルマルさんみたいに真っ直ぐな走りも出来なくて。本当は、今でもレースに出ると怖いんです。
だから、自分がどうしてポラリスを背負えるだなんて言われてるのか分からない⋯⋯あたしは、まだ、何も分かってないのに⋯⋯テイオーさんの後ろを追っていた筈なのに、いつからか皆の後ろを眺めているだけの気がして⋯⋯。」
「それをラモーヌちゃんに指摘されたのね。」
「はい⋯⋯『何にも変わっていないつまらない子』、『トウカイテイオーの後を追うだけなら、あの子と走ってる方が退屈しないし有意義だ』って⋯⋯あたし⋯⋯何もっ、言えなくて⋯⋯!」
───遅かれ早かれこうなってた、な。
トレーナーちゃんの言葉が頭をよぎった。きっと、もうとっくに知ってたんだよね。それでも直接関わらないのは、きっとマヤ達にキタちゃんの事を知って貰いたかったから。このチームはいつだってそうだったもん。
勿論話を聞いてくれたり手伝ったりはしてくれるけど⋯⋯あの2人は、必ず最後に背中を押してくれる役。誰よりもチームの事を見てる、一心同体の勇者。
だからマヤのやる事は⋯⋯キタちゃんに言わなくちゃいけない事は⋯⋯。
「キタちゃん。」
「はい⋯⋯。」
「テイオーちゃんってね。昔、毎日の様に泣きながら帰って来てたの。」
「えっ?」
「会長さんに憧れてポラリスに入りたいってずーっと言ってたんだけど⋯⋯ヨシエちゃんも会長さんも、テイオーちゃんがそう言った時に必ずレースで負かしてね。最初はそれでも『会長凄い!』って言ってたんだけど⋯⋯とうとうヨシエちゃんが言っちゃったんだ。
───『期待し過ぎたかな。
キタちゃんは少しだけ身震いしてた。多分、心当たりがあるんだと思う。誰かに憧れる気持ちは勿論分かるし、そうなる為に色んな事真似してみようとかも凄く分かる。
まぁテイオーちゃん以上に大泣きして引き摺ってたのは、そのキツく言った本人らしいんだけど。生徒会室が洪水になるってブライアンさんがボヤいてたし。
⋯⋯ゴメンねテイオーちゃん。
多分キタちゃんの前では良い先輩であろうとしてずっと頑張ってたんだよね。でも今だけはお願い。マヤの知ってる、泥臭くて頑張り屋なキミを話したいんだ。
「⋯⋯意外と言うか、不思議な感じです。だってテイオーさん、凄いしっかりしてて頼りになりますし。ヨシエさんもそんなテイオーさんに色んな仕事任せたり、心を許してる感じがするのに⋯⋯。」
「だってキタちゃんが居てくれたんだもん。」
「あ、あたしですか⋯⋯?」
「うん。それに⋯⋯テイオーちゃんは自分で道を見つけたんだよ。
憧れは目標にしなきゃいけない。並んで同じ景色を見る為に。
憧れは超えなきゃならない。そこより先に歩いて行く為に。
未来の自分が誰かの憧れで居られるように、自分の憧れは打ち倒さなきゃいけない。テイオーちゃんは自分でそれを見つけて決めたの。何度負けても、悔しい思いをしても、脚を骨折をしても。
───だからあの子は、『皇帝』を超える『帝王』なの。諦めを知らない、最強無敵のウマ娘。」
「並んで、超えて⋯⋯打ち倒す。」
「今は分からなくてもいいと思うな。悩むのも全然アリ。だってそれは、キタちゃんが自分に本気で向き合ってる証拠だもん。」
「マヤノさん⋯⋯。」
この子にもそうであって欲しい。キタちゃんだけの、キタちゃんにしか出来ない事を見つけて⋯⋯きっと『帝王』よりも強くなって、『
そして思うんだ───い、今のマヤ、ちょっと大人っぽくなかった?何か後輩の面倒を見れる頼れる先輩みたいな感じ出てたよね!?
こういう時に限ってトレーナーちゃん居ないんだからもーーーっ!!
「⋯⋯あたし、明日はやってみようと思います。何をどうするかは分かってないですし⋯⋯やっぱり、自分がラモーヌさんとなんて荷が重い気がしますけど⋯⋯。」
「っ〜〜〜!ちょっとッ!!」
「スイープさん⋯⋯?」
「そもそもラモーヌさんだって、アンタの中身見てちゃんと喋ってんのよ!言い方は確かにアレだけど、"走らない"って言ってない時点でキタサンの事もちゃんと見てる!それでも小難しい事考えて不安がるんなら───アタシが魔法で奇跡の1つでも見せてあげるわ!そうすれば出来ない事なんて無いって分かるでしょ!」
あれ?なんか流れ変わった??ま、魔法の内容によってはもしかしてフォローとか必要なんじゃ───。
「えっと⋯⋯どんな、魔法?」
「今から花火打ち上げてやるんだからッ!!」
スイープちゃーーーーんッ!?それはマヤ達でもどうにもならないよ!?何かフォロー出来るかなって思ったけど多分本当に奇跡起きないと無理なやつ来ちゃった!!こっ、これ大丈夫!?うわぁーーーん、トレーナーちゃーーーんッ!!デジタルちゃーーーん!!戻ってきて何とかしてよぉ〜〜〜〜〜!!流石のマルゼンちゃんもカレンちゃんも次の手を考えちゃってる〜〜〜!!
「あの⋯⋯スイープさん。あたしなら大丈夫だから、その⋯⋯魔法は───ハリセン置いて!?本当にどこから持ってきたのそれ!?」
「使い魔のとこ!!」
「トレーナーさぁん⋯⋯。」
「良いから見てなさい!魔法はいつだって、そんな
しん、とした部屋。
夜空には星だけが輝いていて、それ以外は何も無かった。誰も、何も言えない状況で、スイープちゃんだけはただ1人⋯⋯窓に向かって走って───
「キタサン。」
「は、はいっ。」
「良く覚えて起きなさい。これがアタシの魔法⋯⋯出来ない事なんて───何っっっにも無いんだからぁッ!!」
勢い良く開けた窓の向こう。
部屋とブルボンさんをブルっと震わせた轟音。
炸裂した大輪の花が、空を色付かせていた。
『⋯⋯えっ??』
「ほらっ!ほら見なさいよ!マヤノも!カレンも!カワカミも!ロブロイも!アタシの魔法を!どう!?凄いでしょ!?今アタシが1番ビックリしてるわ!でも当然よね!天才魔法少女スイーピーなんだから!♪」
「⋯⋯花火。」
「出ちゃったね⋯⋯。」
「あらあら⋯⋯流石、トレーナー君が勧誘にお熱な魔女さんね⋯⋯。」
「スイープさん⋯⋯あたし、あのっ、この花火⋯⋯っ、多分⋯⋯忘れないです⋯⋯!」
「泣く暇あるなら明日は我武者羅に走りなさい!ラモーヌさんのド肝抜いてくればいいわ!」
「はい〜〜〜⋯⋯スイープさぁあぁぁぁん!!」
「ちょっと!?暑苦しいから引っ付かないでよ!攻撃魔法ッ!」
「いったぁッ!?そのハリセン置いてっ!武器だよそれ!?」
きっとここにデジタルちゃんが居たら大喜びしてたと思う。
どうしてかハート型ばっかりだったけれど、大小色んな大きさの花火は確かに打ち上がってて。すっかり見蕩れていたその魔法をもう少し近くで見たくて、窓際に近付いた時だった。
「だからってお前、火力を考えろ!エアグルーヴがすっ飛んでくるわッ!」
上からそんな声と一緒に、窓を閉める音がした。この上はタキオンさんとカフェさんの部屋⋯⋯それに今の声。
───俺は最後に上の部屋に行くよ。『お友だち』からデジタルも回収しなきゃだし。何かあったらいつでも頼ってくれて良いからな。
「あっ。」
きっと聞いたのはマヤだけだと思う。だからこれはマヤだけの秘密。トレーナーちゃん達がどこまで知ってたのかは分かんない。でもトレーナーちゃん、ウチのチームだけにはヨシエちゃんぐらい分かってる時があるから、もしかしたら知ってたのかも。それならスイープちゃんが居るから安心してくれって言ってたのも納得出来るもん。
このチームでなら、きっと大丈夫。
マヤは明日⋯⋯あの人に挑むんだ。目的がどうであれ、勝ちたい。
勝って、今よりもっとキラキラな自分になる為に。
「たっだいまー麗しの彼女達!!何か花火やってなかった!?ビックリしたよねぇ!あっ、コレ見て!コンビニに味噌バターカレー牛乳ラーメン売ってたの!食べる人ー!はーい!」
天馬さん、自由が過ぎるよ。
「⋯⋯。」
「カレンさんも、気付きましたか。」
「ブルボンさんもですか?」
「はい。向こうの窓⋯⋯カーテンの隙間から───黒いモヤが見えた気がして。気の所為だとは思いますが、少々嫌な寒気を感じたもので。」
プリンにしてやるの : 言ったのは勿論"プリンニシテヤルノ"。チーム『エニフ』の1人。エニフはペガスス座ε星、アラビア語で馬の鼻。だから何だと言う話。グダグダうるせぇプリンにしてやるのッ!今後も他のメンバーがどこかで出ます。死ぬほど暇な時に探してみてね♡どうせ暇でしょ(ブーメラン)
以下チーム『エニフ』
・オヌシナニモノ
・アイアムハヤスギル
・プリンニシテヤルノ
・オレハマッテルゼ
・クツシタヌゲタ
・オジュウチョウサン
次回、『第4R : ユーコピー?(図)太すぎるッピ!』
皆まで言うな。兄貴たち⋯⋯今、レイヴンなんやろ?闘争を求めてるんやろ?ワイもや、分かっとるで⋯⋯それはそれとして天皇賞春秋のレイを誰か下さい。