人間がウマ娘に負けるわけないだろ!いい加減にしろ!!   作:なちょす

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長くなったので急遽分割しました。これは賢い。
本当に賢かったら1ヶ月以上も空かない定期。

トプロの育成をようやく終えて再燃中。あっ、燃え尽きてたわけじゃなくて外遊びの用意にうつつを抜かしてて⋯⋯へへっ⋯⋯。それと3話まとめて書いてて⋯⋯へへっ⋯⋯。
年内にPart1+αのコメディー終わらせて新年は何とか上手いことやって上手いことやりたいですね。(語彙力)



ファースト(1/2) : さよならブルボンさん

「お客様、ここは如何ですかー?」

「ぉおぁぁあぁぁ⋯⋯めっちゃ効く⋯⋯えっ、ローレルさんガチでマッサージ上手くないすか?」

「沢山経験してきたからね。後は⋯⋯ここかな?えいっ、えいっ。」

「あぁぁぁ、そっす、そこっすヤバ〜〜〜〜〜!」

 

 

 この桜エッチすぎんか?

 オッサンみたいな声出したバ美肉ギャルのせいで相対的にスケベさが強調されている気がする。確かに桜軍団の中では一際大人びている印象は有るよ?後2人はノンストップ委員長とはっけよいワンコだもの。

 にしても待って欲しい。だからと言って人のトレーナー室をそういうお店みたいにするやつがどこに居る。ここに居た。ガッデム!

 

 な、何だその眼⋯⋯何思わせぶりにニッコリ笑ってんだよ怖えな。そんな優しい顔してるけど怒ったらタックルしてくるし絶対言葉責めとか得意だろお前。手の扱いも凄そうだもんな。ウチの妹分に匹敵するかもしれん。

 まぁアレは怪物だからお兄ちゃんが手隙になった途端ポニーちゃんに手好きしてくる可能性があるのだから、恐ろしさで言えば妹分の方がまだ上なのが救いだ。救いとはなんだ?教えてくれソクラテス。

 

 いかん、このまま放置するのは非常に良くない気がする。折角ヤス君も来ているのだから、彼に助けを求めよう。

 

 

「貴方、マーは言えるかしら?」

まー。

「ふふっ⋯⋯よろしくてよ。」

 

 

 ダメだ青鹿毛に遊ばれてる。玩具取り上げたら露骨に拗ねるからメジロの扱いには気を付けねばならない。何だこの空間。

 

 

「ちょい、ちょい。」

「何だオッサン。」

「オッサンに言われたかねーわ。いや、ずっと気になってたんだけどさ⋯⋯何でラモーヌさん居んの?

「お前とローレルが来る前から居た最古参メンバーだぞ。アイツの退屈しのぎと俺のフィーリングが合致したからお前さん達はこの楽しい集いに居るOK?だからこれから一生ラモラモと走って、どうぞ。」

「初耳なんだけど。はっ?初耳なんだけど⋯⋯。」

「お前さんもよろしくな、ドンメル。ブァッ!!

 

 

 無言のハリセンが顔をぶち抜いてくぅーッ!!野郎隠し持ってやがった!普通に痛いッ!そういうとこだって言ってんだろお前ッ!そろそろ返せよそれ!何かスイーピーも振り回してたけど既に影響されてんじゃねぇかチクショーッ!

 

 ヌッ、扉のノック。この16ビートは後輩ちゃん。

 

 

「居るぞー。」

「うわ何すかこの空間。」

「どした?」

「どしたっつーか、先輩に客人っつーか。彼女候補名乗ってるヤベーおじ様達が玄関前にスポーンしてんすけど。」

 

 

 ⋯⋯正直、いつか来るとは思っていた。ミチコちゃんへの告白という俺の不始末が齎したこの夏の大誤解。奴の配下の妖怪共が、そんなおもしろ話を知らないわけが無い。どこから情報が漏れたかとかは考えたくないが⋯⋯アイツらは普通の人間の手に負えるものでは無い。俺とヨシエちゃんが、ボコボコにしてやりたいという唯1つの共通認識でタッグを組むレベルなのだ。つまりハゲと同レベルに手を焼く猛者共。

 

 罵れば喜び、蹴れば悦に入り、唾を吐こうものなら感涙されるとかいうドM集団⋯⋯その悪鬼共、おぉ正しく我が友ミチコちゃんの配下である。本人は至って普通なのになんでこうなるのかが分からない。そして何で今日に限って来たのかもサッパリ分からない。もっと言えばその変態集団の8割は既婚者という世紀末。俺はアレ以下なんだ⋯⋯。

 

 凹むのは後にしろ三十路。少なくとも目当ては俺かヨシエちゃんのどっちかだろう。いや多分俺だ。

 

 今日は絶対に構ってなどいられないのだ。樫本さんはあれでいてか弱い生き物、扱いを間違えると俺のように凹んでしまうかもしれん。後輩ちゃんほどの接点は無いが頼られているのなら勇者御一行としてはいつでもお助けせねばならぬのが義務よ。ふふっ、良いぞ俺。ココンはブルボンとのあれこれを解消する為みたいだが、ビターグラッセにはNewおデジの練習相手になってもらおう。

 

 

「ジョーダン、ローレル。後は各々解散していいぞ。俺は今日戻らないから。メジロのお姉様はどうするよ?」

「そうね。今日は特別なお誘いがあるから、それに乗るつもり。」

「そうかい。ヤス君で遊ぶのも程々にしとけよ。あっ、後輩ちゃん、アレお前さんの同期で俺の後輩⋯⋯って、まぁ知ってるか。」

「アタシ同期居たんすね。」

「お前。」

「だって。」

 

 

 だってじゃねぇよ可愛い返し方しやがって萌えキャラが。いい加減自分がシベリアンハスキーの着ぐるみ着ただけのハムスターだって事理解しろよジャンガリアン。

 着ぐるみ着てんのヤス君だけど。あっ!ほらショック受けてるじゃん!お前の優秀さにコンプレックス持ってんのにアウトオブ眼中されてるの今知った感じだよコレ!マーちゃん着ぐるみが白目剥いてるもん!魔改造だろ。

 

 

「じゃあ行くか。おデジも拾っていざ鎌倉ってやつだ。」

「アホくさ。」

「お前。」

「だって。」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 絶対めんどくせー事に巻き込まれてるわ。別にアタシ要らなくね?寧ろこの人絡みで面倒くさくない事の方が少ないし⋯⋯っべーわ、さっさと帰るべきだった。割とガチでこんなんやってる場合じゃねーんだけど。えっ⋯⋯帰りたい。

 

 

「今スランプか?」

 

 

 隣のオッサンは徐にそんなこと言い出した。

 

 

「クロの奴ですか?確かに最近ドツボにハマって伸び悩んでますね。今のままじゃデジタルさんの相手出来ねーってなもんで。」

「何焦ってんだよ。」

「そう言ってるんですけどねぇ。」

「お前にしか言ってねーぞ俺は。」

 

 

 ⋯⋯こういう所。何柄にもなくマジな顔してこっち見てんだか。

 

 

「クロフネは確かに責任感強いけど根本はそこじゃねぇよ。ドツボにハマってんのは、お前さんが自分の出してる指示と、クロフネの成果が見合ってない事に納得いってねぇからだろ?あの子はそれを良く見てる。だから後輩ちゃんの指示についていけない、変われていない自分が"そもそも足りてない"って思い込んでんだ。お前さん達はどっちも真っ直ぐだから。」

「⋯⋯いつ見てんすか。アタシらの事。」

「たまに。けど俺が見れてない分は相棒の考えだ。アイツのがよっぽどお前さん達のこと、先輩として見てくれてるよ。はっ?俺無能過ぎんか?凹む。」

 

 

 勝手に喋って勝手に凹んでら。

 大体こういう一人相撲してる時はヘッタクソな嘘ついてる時で。どうせことある事に様子見てたんでしょうに⋯⋯いやこれガチかもしれん。だとしたらアタシの先輩無能過ぎんか?ウケる。

 

 徐ろに手をポンと叩きながら何か閃いた顔でこの人は言った。リアクション古っ。

 

 

「今日見に来いよ。クロフネ連れて。」

「⋯⋯良いっすけど、何でです?」

「お前らに火ぃ付けてやるよ。何で伸び悩んでるのか、俺もデジタルは分かってんだ。と言うより⋯⋯まぁ、何だ。責任は取る。」

 

 

 責任取るとか言われた。はっ?今そこじゃねぇだろ。もっと頑張れアタシの賢さ。頭ドーベルさんかよ。

 

 そんなこと言って笑って。何でそんなにこっちを気にかけるのかさっぱり分からんけど。アンタはロリ専門でしょうがって言いたいけども。

 そう言われたからには、こっちは何も言えないわけで。

 

 だから乗ってみる事にした───はずなんだけどなぁ。

 

 

「どうも、お2人さん。」

『どーもー、ヨシエさん。』

 

 

 ニッコニコ笑顔の皇帝の嫁がいらっしゃって。こういう顔してる時、大概上手く事が進んだ試しは無い。毎日の様に繰り広げられてる学園名物、『過激なウオ×スカ』がスタートする合図。ほら、青筋浮かんでら。

 

 

「後輩ちゃん、ちょっとゴメンねー。そこのアホ借りてもいいかな?」

「どうぞどうぞ。」

「悪いけどそんな暇ねーぞ。俺は今から後輩ちゃんと悪霊退治に行くんだから。あと樫本さん達が待ってる。」

 

 

 オマケみたいに言ってんの大丈夫なんかな。知らんけど。そもそもアタシはあの軍団の相手したくないんです。スランプ気づく前にここ気付いてもろて。

 

 

「何で樫本さんなんですかねぇ?」

「そりゃあお前、今日はファーストと模擬レースだからだよ。」

「あぁ、そう。自白ありがとう。こっち来いバカヤロウ。お前のせいでバケモン共が我が物顔で百鬼夜行してんじゃねぇか。」

「だーから今それを解決しに行こうって言ってんだろうがよ。何ダル絡みしてんだマジで。」

「ダブルブッキングカマしといて随分上から物言ってんな、お前な。あーちゃんに全部バラしてやっても良いんだぞボケナスが。あ?」

 

 

 ダブルブッキング。

 その一言で、滅茶苦茶面倒くさそうな顔で受け答えしてた先輩は急に『あっ』みたいな顔してこっちを見た。見んな。アタシ絶対やりませんからね。

 

 

「分かったらこっち来て下さい。」

「⋯⋯⋯⋯あい。」

 

 

 よーし、空き部屋入ったな。アタシは自分の仕事果たしました。レースはちゃんと見に行くんで、お先に失礼でーす。

 

 

「あっ、ヒメちゃん!」

 

 

 うわぁ撃墜王。勇者様も居らっしゃる。

 いやもう終わったじゃんコレ。逃げられんじゃん。

 

 

「ねぇねぇ、トレーナーちゃん見なかった?」

「見てないですね。」

「えっ、何で嘘つくの?」

「えっ、何で分かんの?」

「お顔に出てるもん。」

 

 

 アタシクソ雑魚過ぎんか?もっと頑張れよ表情筋。お袋さんが泣くぞ。

 

 

「ところでデジタルさん、髪下ろしてましたっけ?似合ってますけど。」

「エッ!?いや、まぁ、これはアレですよあの、何と言いますか⋯⋯アレです!はいっ!」

「トレーナーちゃんに『それ良いじゃん。大人びて見えるしそういう感じも好きだなぁ』って昨日言われてたもんね!」

 

 

 さすマヤ。勇者様小さくなっちゃった。元から小さいけど。

 

 

「お待たせー。いやーゴメンね急に。」

「ヨシエちゃん!ねぇねぇ、トレーナーちゃん見なかった?」

「えっ?見てないよ?今日は何か用事あるとか言ってなかったっけ。」

「そっかぁ。」

 

 

 ヨシエさん、そのクソデカい麻袋引き摺りながら知らないは無理っす。マヤノさんも流石に眼がそこにしか向いてないっすわ。デジタルさんなんか虚無顔してんじゃないすか。絶対中身が相棒だって気付いてるでしょコレ。

 

 

「あっ、用事ってアイちゃんの??」

「なーんだ、知ってたんじゃん。そういう事。」

「テイオーちゃん言ってたもん!ヨシエちゃんがすごく楽しみにしてるって!」

「ねぇそれ聞き捨てならない。ちょっと待ってね。」

「ウキウキで準備してたんだっけ?だったら絶対行かなきゃ!」

「待ってってば。マヤちゃーん?」

「トレーナーちゃんと一緒に何かやりたかったんだもんね!叶って良かったねっ!!」

「⋯⋯勘弁してよ。」

 

 

 そう言いながら麻袋に足掛けたけど、アタシ今何見せられてんの?照れ隠しか職場のパワハラ現場かもう分かんねーわ⋯⋯この人本当にオジサンの2つ下なんかな。

 ただそうなる気持ちは分かります。さすマヤ。怖いもんねぇだろこの子。

 

 

「⋯⋯一応聞きますけど。その麻袋なんです?」

「ゴミ。」

「そっすか。」

「ポニーちゃぁん。」

「多分ですけど、そこ足掛けたらダメな場所だと思うんでもう少し上踏んでやって下さい。じゃっ、アタシはもう行きますから後はよろしくお願いしました。はいサヨナラ。」

「ちょっと待った!」

「ナチュラルに尻を撫でないで貰えませんかね。」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯あっ、もしかして嫌だった?」

「そんなに理解するのに時間掛かります?⋯⋯どうしました。」

「いやね、ちょーっとお願いがあって⋯⋯へへっ。」

 

 

 あぁ、これ尻拭い系だわ。だから尻触られたんかな。やかましわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯と言うわけで、あのオジサンは来れなくなりました。ヨシエさんも引率で来られないので、代わりにアタシがあれこれします。」

 

 

 ほら沈黙。普通他所のチーム焚き付けて予定ぶつけるかね⋯⋯あっ、元々焚き付けたのアタシだわ。クソが。

 

 聞けばあのオッサン、アーモンドアイさん含めた子供達の夏イベントに参加するみたいで。そもそもそのイベントが将来的にトレセンに来たいウマ娘やトレーナー志望の子達にあれこれ経験してもらう学園主催のイベントで。そこにあの人と何故かリッキーさんが加わってあーだこーだしようってな話。

 玄関先に居たオネエ様達はまさかの子持ちで、イベントの参加者兼保護者だとか。ここに来たのはあのオジサンを迎えに来たらしく、もれなく全員あのヤベー2人の知り合いでもあると。ヤベー奴ばっかじゃんマジで人間関係イカれてんな。

 

 あー⋯⋯ライスさんにお姉様って言われたらあのオネエ様達と被るんだけどマジでどうしてくれんのこれ。どこに責任追及すりゃいいのよ。

 

 そしてどこからどう見てもリトルなココンさんキレてる。そりゃそう。オマケにイメチェン勇者様がどうもさっきから───。

 

 

「クロ。その子死ぬ気で止めて。絶対土下座or切腹カマすから。」

「分かってるけど力強くてッ⋯⋯!!おっ、落ち着いて下さいデジタル先輩〜〜〜!!」

「いいえ!コレばっかりは!今回ばかりはぁっ!アタシがもっとスケジュールを把握していれば⋯⋯あの人の予定を覚えていればぁ〜〜〜っ!!カーッ!何で忘れてたのデジたんのバカバカバカッ!チームの誤解もルドルフさんとの話もっ!5%⋯⋯いや3%位はアタシにも非があるんですよぉっ!」

 

 

 以外と余裕あんな。さすデジ。立場と扱い方を良く分かってらっしゃる。でも非が無い97%をもっと労わってもろて。

 

 

「⋯⋯はぁ。あのさ。そっちの都合とか知らないから。アタシはミホノブルボンと走れればそれで良い。アンタは元々そこのトレーナーの担当でしょ?」

「はい。」

「なら問題無いじゃん。やるならさっさとして。こっちだって暇じゃないんだから。あとデジタル。」

「はいぃ⋯⋯。」

「誰が見たってダブルブッキングした奴が1番悪い。頭下げる前にあのトレーナー何とかしなよ。⋯⋯それだけ。」

 

 

 あらら、すっかり角が取れちゃったんですね。

 グラッセさんも樫本さんもそれを知ってるのか、何かニヤニヤしてるし。

 デジタルさんはようやく落ち着いてくれたし。あっ、何か勝手に気絶した。ココンちゃん角取れツンデレ概念の誇大妄想したな。

 

 ブルボンさんはかき氷食ってるし。えっ、何してんの?これから走るんですよサイボーグさん。頭痛起きとるやん。

 

 ライスさんは横で楽しそうに笑ってるし。えっ、何で居んの?お米ちゃんってば最近研ぎ汁が出過ぎてお姉様も行動が読めないんよ。

 

 何だろう。ウチのチーム大概イロモノになってきたかもしれない。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

『貴女に⋯⋯私の影は踏ませません。』

 

 

 それが、久しぶりに出会ったミホノブルボンからの宣戦布告。

 あの眼。あの口調。そしてあの威圧感⋯⋯アオハル杯の時とはまるで別人の様な姿。

 勇者御一行の話は、ハーバーのトレーナーや他のウマ娘たちが話している噂程度では知っていた。

 

 国内外、芝もダートも問わず、マイルで絶対的な立場に居るアグネスデジタルとそのトレーナーが作りあげたイロモノ(・・・・)チーム。そもそもあのレースローテーションを走るなんてバカげてる。普通のトレーナーならまず考えないし、普通のウマ娘は走ろうともしない。場所が変わるだけでどれだけ足への負荷と走りに影響が出るか分かったもんじゃない。

 

 ⋯⋯けれど、アイツらはやり通した。

 

 "そこにウマ娘が居るから"───たったそれだけの理由でそれだけの事をやらかした(・・・・・)んだ。

 

 ライスシャワーに言われた事をふと思い出す。

 アオハル杯に勇者御一行が出ていなかったから優勝出来た、と。自分のお姉様がそう言っていたのだと。

 

 だから賭けてみた。その滅茶苦茶なチームに。

 正直ミホノブルボンがどう変わってようと、アタシにとってはどっちでも良い。

 

 ただ1度⋯⋯サイボーグと呼ばれる本気のアンタと競いたかっただけ。

 戦場を選ばない勇者の近くで何が変わったのか。ソイツと走ってアンタは何を見たのか。あのトレーナーが何を考えてるのか⋯⋯負け続けて来たから、それを間近で感じるのも悪くなかったんだ。

 

 ───なのに。

 

 

 

 当の本人は砂浜に刺さってたし、さっきもずっとかき氷を食ってた。

 トレーナーはダブルブッキングした上に今日の事を"良い練習"呼ばわり。

 

 何より1番ムカつくのは⋯⋯ミホノブルボンに叩きつけられた宣戦布告が、勇者御一行のトレーナーに言われた"良い練習"が、全くその言葉通りになってる事。

 

 

「2400mの大逃げとか⋯⋯何考えてんの。」

 

 

 アグネスデジタルのトレーナーの代わりにやって来たハーバーのトレーナーが、レース前ミホノブルボンに何を吹き込んだかは分からない。ただアタシも、コイツも、あのトレーナーも⋯⋯これがあの日の続きだって事を分かってる。分かってるからある程度の実力は予想していたつもり。

 

 それが勇者御一行(イロモノ達)の干渉で全部狂った。こっちは完全に予想外。ミホノブルボンは本気でこのまま逃げ切るつもりらしい。時折こっちを睨みつけるかのような剥き出しの闘争心が、別人のウマ娘を映し出しているようだった。

 

 走れば伝わる何か⋯⋯感覚というか、相手の執念みたいな物。

 それはアタシらウマ娘が幾度と無くレースの中で経験してきた、アタシらにしか分からない感覚。

 その感覚が言っている───この別人を作りあげたのは。サイボーグを完成させたのは、間違い無くアグネスデジタルとそのトレーナーだと。

 

 もう2000mはノンストップ⋯⋯どこかで落ちるはずのミホノブルボンは一向にバテル気配も落ちる素振りも見せやしない。滅茶苦茶で、ムカついて、どこまでも自由気ままで自分勝手な、ペース配分も何も無い走り。

 

 それをアオハル杯で見られたなら。

 

 

「ココン、間に合わないぞっ!ソイツは落ちないッ(・・・・・)!スパートを掛けるんだ!!」

 

 

 そんな事⋯⋯アンタに言われなくても分かってるっつの。このままアタシ1人がペースを考えながら追いかけたところで、ミホノブルボンは逃げ続ける。それどころか、そのまま差し切るつもりだ。

 

 ⋯⋯サイレンススズカ(異次元の逃亡者)にでもなったワケ?冗談。

 

 負けらんないのはこっちも同じ。

 ハーバーには意地と精神で負けた。

 ポラリスには手も足も出ないままねじ伏せられた。

 今度は勇者御一行が出ていれば、自分達が3位でしたなんて言われて引き下がれるわけが無い。

 そのまま終わるだなんて冗談だ。

 

 

「舐められたまんまで───やらせるかッ!!」

 

 

 影を踏ませない?笑わせんなッ!いつだって死ぬ気で練習してきた。樫本トレーナーを信じてやって来た。1人でもやれる⋯⋯そんなアタシにも力を貸してくれた人に、これ以上負ける姿を見せるワケにはいかないんだよッ!

 

 

「ふふっ。」

「ッ!」

「もしかしたら、私達はどこか似ていたのかもしれません。ただ気付かなかっただけで。」

「⋯⋯何言ってんの。レース中に。」

「何となく。そう、伝わったので。もう少し早く出会えていたら変わっていたかもしれませんね───この結末は。」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「クロ。ちょっと席外すわ。ブルボンさん戻ってきたらよろしく。」

「えっ?えっ!?何で!?どこ行くの!?ヤダヤダヤダ置いて行かないで1人にもしないで約束したじゃんッ!!」

「んな約束してねーわ。急に重力増やすな。」

「はーい。行ってらっしゃい。」

 

 

 2400mの逃げ切り勝ち。ウチに居た時よかスタミナの持ちも土壇場の根性も上がってる。やっぱり先にライスさんだけ送っといて良かった。あの子が1番ブルボンさんの変化を分かっていたから。あの子のアドバイスと今日の走りを見なかったら、アタシはずっと決めあぐねていたと思う。

 

 あの子の居場所はウチじゃない。伸ばせるのは⋯⋯本当の意味で吹っ切れさせるのは、アタシじゃ無かった。

 正直クッソ悔しいけど、それは後。今は離れた場所で見ていたこの人(・・・)と話さなくちゃいけないって思う。

 

 

「初めまして、ですよね。ブルボンさんのトレーナーさん。チームハーバーの姫野です。」

「⋯⋯初めまして。」

 

 

 あの子と一緒にクラシック路線を駆け抜けた、2人目のトレーナーで最初のマスター。どこか羨望の眼を送るこの人がここに居ることは予想外だったけど、多分ヨシエさんの根回しだと思う。

 

 

「良かったんですか?ここで。」

「良いんです。私は、あの子から逃げたんですから。会う資格なんて有りません。」

「そうですか⋯⋯聞いて良いのか分かんないですけど、どうしてここへ?あぁいや、別に悪い意味じゃなく。気になっただけっつーか⋯⋯じゃなくて、気になりまして。」

「⋯⋯どうして、でしょうか。ただ、電話が掛かってきたんです。"アグネスデジタルのトレーナー"を名乗る人から、見に来て欲しいって。連絡先はルドルフのトレーナーさんから聞いたそうですけど。」

 

 

 完全に予想外。まさか2人がかりで根回ししてたとは思わんて。

 ただ⋯⋯だとすると、あの人はあの人なりに気にしてたんかな。よく分かんねー人。

 

 

「来るのは、正直怖くて。無理はしなくて良いって言われたんですけど⋯⋯本当に不思議なんです。あの子の夢から目を背けて、あの子の前から勝手にいなくなって、それなのに⋯⋯。」

「いや不思議も何も⋯⋯気になってたのなら未練があるって事じゃないですかね。あっ。アタシはそう思います。」

「⋯⋯ですね。ふふっ。もしかして話すのが苦手だったりします?」

「あー、まぁ、はい。そんな感じです、ね⋯⋯口が少々アレなので。」

 

 

 普通の常識持った同性の先輩とか話した事ないっす。すんません。ネジ緩んだ年上の姉さんなら居るんですけど。ボッチですんません。

 

 走り終わった2人を遠目に見ながら──あっココンさん。古今無双の癒し(ヒール)がそっち行きました。頑張って下さい。

 

 

「ココンさん。」

「これ、ドリンク⋯⋯どうぞ?」

「物真似はもういいって───本家じゃん⋯⋯合わせ技止めろ。」

「青森です。」

「はっ?何⋯⋯。」

「あのねココンさん。ブルボンさん⋯⋯ふふっ!青天の霹靂なんだって。」

「はっ?それアンタが急に来てビックリしてるだけじゃん。」

「うんっ!!」

 

 

 すんませんココンさん。そんな『はっ?』みたいな顔でこっち見られても困ります。ほら、ウチの学園は自由意志を尊重してるんで。ライスさんの研ぎ汁ヤバいでしょうけど米ネタに関しては自分もノータッチでやらせて貰ってます。ウス。

 

 

「ライスちゃんもブルボンも⋯⋯すっかり元気ですね。貴女のお陰で。」

「あれを元気と見るかは人によりそうですけどね。」

「あははっ、確かに。私⋯⋯今は地方の方でサブトレーナーみたいな事してるんです。皆いい子達ですけどね⋯⋯どうしても、あの子の顔が過ぎるから。本当は、もう辞めようかなって、思ってたんですけど。」

「へぇ。いつ学園(中央)に戻ってこられるんです?」

「⋯⋯はい?」

席は有りますよ(・・・・・・・)。」

 

 

 言うまでもなく驚いてらぁ。それはそう⋯⋯言っといてなんだけどアタシもそう思ってるとこ。この人今地方っつったな?やりやがったよ、ヨシエさん(あの人)

 

 

「皇帝のトレーナーが、"辞めます"に対して"はいそうですか"だけで終わらせるとは思えませんし。現に貴女が辞めたなんて一言も理事長から聞いてないですから。地方への長期出張(・・・・・・・・)、お疲れ様です。」

「⋯⋯?⋯⋯。⋯⋯⋯⋯??」

「ブルボンさんみたいな反応しますね。その宇宙旅してる感じ。多分そういう感じに何か上手いこと話が纏まってると思います。」

 

 

 先輩は知らんけど、少なくともアタシやこの人は全部ヨシエさんの掌の上でコロコロさせられてたってのは良く分かる。今気づいた。これ言いながら腑に落ちなかった部分が急に嵌ったわ。

 

 ブルボンさん達から聴いていたのは、自分達のトレーナーが辞めたとか言う生徒さん達の中での又聞き(・・・)の話。噂話なんて大概ロクなもんじゃない。そもそもアタシがヨシエさんから聞かされていたのは、要約すればこうよ。

 

 "世間を黙らせるぐらいの力量で、あの4人の道が正しかった事の証明をしてくれ"、と。

 

 途中からぶち込まれてそれだけ聞かされた所で、こっちは何の事か分かるワケも無く。とにかく必死こいて言われた事やるしか無かった。あれ絶対言葉足りないっての。何でポラリスの子達がノータイムであの人の意図を理解出来るのか本気で分かんねーのよ。天才集団こわっ。

 

 ⋯⋯アタシがブルボンさん達の面倒を見てたのは仮。何でかって言われたら、今この人もライスさんのトレーナーさんも、トレセン学園からしたらただの出張応援期間中。幾ら時間が経ってあの時よりマシとは言え、戻って来たらきっと世間の目はこの人達に向くんでしょうよ。良くも悪くも。

 

 だから戻ってくる時必要なのは、世間に不安感を持たせる様な中身じゃダメなワケで⋯⋯そのお膳立て(・・・・)が必要だった。

 

 ハーバーではこれだけの成績を残した。

 でも元はと言えばその走りを確立させたトレーナー達の力。

 だから⋯⋯あの2人が戻ってきたら、もっとヤベーのが見れんぞ。

 信じるも信じないも、後は走りを御覧じろってなもんで。

 

 それを宣言する為の手段が、"期待の若手"とかクソいらねぇ広告を世間様に引っ提げられたアタシだっただけで。まんまと使わされた女よ⋯⋯とほほ。

 オマケに自分の力不足も分かっちまったもんで、仮移籍中のブルボンさんも本格的に先輩の所に預けようと思ってるし。あー⋯⋯とほほ。

 

 

「いつでも待ってますから。決心ついたらって事で、よろしくお願いします。あっ、文句は皇帝の杖か戦場を選ばない勇者の片割れにどうぞ。あの人達は大体あぁなんで。何なら1発ずつ殴りつけときましょうか?やらせて下さい。」

「えぇ⋯⋯?いや、そこまでは⋯⋯戻って、良いんですかね。」

「良いと思いますよ。好きに生きましょ。」

「そうですか⋯⋯私は───。」

 

 

 そう言った矢先、言葉を止めた彼女は目を見開いて前を見ていた。

 視線の先には、これまた驚いた顔のブルボンさんが居て。何か口を開きかけたと思えば、あの子はただ目を瞑り⋯⋯柔らかな笑みを浮かべながら、手を振ってくれた。

 

 

「⋯⋯あの。お礼を伝えて頂けませんか?2人のトレーナーさん達に。」

「ウス。勿論。」

「ありがとう、ございます。本当に⋯⋯元気で良かった。さよなら、ブルボン。またね。」

 

 

 手を振り返しながら、この人は泣いていた。それでもきっと、何かに踏ん切りを付けるには充分だったと思う。

 その言葉には、少しの明るさも混じっていたから。

 

 それはそれとして面白くねーから、やっぱあの2人シバいたろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいクソボケェ。折角だ、ブルボンちゃんのトレーナーに連絡取るとか言ってた理由聞かせてみろ〜?私が動いてやったんだからなぁ。」

「うわダルっ。んだ急に⋯⋯最近な?"翼を授けるレッドブルボンです"、みたいな事を言い出してよ。後輩ちゃんに殺される前にこっそりメンテナンスに出してバグを取り除いて貰おうかと⋯⋯。」

「お前何だマジで。勘違いだけで人生謳歌し過ぎなんだよ、ぶち殺すぞ。もう手間取るもん全部貴様に押し付けてやるわ。」

「は?別に良いけど頭下げろよ?『お願いします』ってな。」

「は?まずは『お願いします、頭下げてお願いして下さい』だろうが。」

『はぁ?』

「はぁ〜〜〜〜〜んっ!!!!」

『キタサンブラック。』

「あっ、すみません、そっ、そういうフリかと⋯⋯思って⋯⋯。

『100点。』

「テイオーさん!あたし100点貰いました!」

「うん、そうだね。でもそこまでにしよ?バカって移ると大変だから。」




樫本さん(理子ちゃん) : 紹介忘れてた。かよわい生き物。前転できるようになった。元祖ギャップ萌えの女。でも温泉旅館には行く女。立ち絵がフラダリな女。初めて完凸させた女。

研ぎ汁 : ウチのライスから出るアドレナリン的サムシング。

オネェ様達 : 何人居たかは描写してないので独身兄貴たちの脳内で百鬼夜行絵巻を思い描いて下さい。やって良かった、死滅回遊。

マッサージ月桂樹 : 多分そういうお店。テーマパークに来たみたいだぜ。



次回、『ファースト(2/2) : 2000(ミレニアム)マイラー』


今回よりは短いです。そろそろ触れたいクロフネちゃん。
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