人間がウマ娘に負けるわけないだろ!いい加減にしろ!! 作:なちょす
そういうデジが見たかったのでそういう話になりました。ご査収下さい。
あっ、最後に皆大好きなあの子もちょろっとお見せします。
「本当に反省して下さいね。トレーナーさん。」
『大変申し訳ありませんでした。今後はこの様な事が無いように致します。』
ブルボンさんとリトルココンさんのレースが終わった後。ライスさんが一方的にココンさんと仲良くしてる裏で、トレーナーの携帯に電話が掛かってきた。相手はデジタル先輩のトレーナーさん。
ダブルブッキングしたとかでデジタル先輩のトレーナーさんはこの場に居ない。今はそんなダブルブッキングの主犯にデジタル先輩がお説教を終えた所だった。
普段叫んでるか気絶してるか興奮してるかの3択なデジタル先輩のこういう所は初めて見る気がする。私はトレーナーにそういうの、多分出来ないし⋯⋯しっかりしてるんだなぁ⋯⋯。
向こうは今バスの中らしくて、私とトレーナーとデジタル先輩は揃って携帯の画面を覗いてる。流石にお説教されたから堪えてるっぽい。擁護はしないけど⋯⋯えっ待ってこれ反省してる?
『樫本さん達には改めて菓子折りを持って謝罪させて頂きます。ブルボンちゃんにも土下座します。この度は本当にご迷惑をお掛けしました。』
「そっすか。肩にアイさんが寄りかかってるせいでまるでお言葉がふわっふわなんすよおじ様。羽毛出してんの?」
『小鳥ちゃんはお前だけどな。だって起こせないだろこんな⋯⋯おかわわ⋯⋯さながら長期遠征の帰りに疲れから寝落ちカマした時のデジ──。』
あっ、デジタル先輩切っちゃった。
「さっ!やりましょうか!」
「掛かってますね。」
「エッ!?そんなまさか!あたしは何も問題無しです!」
「いや電話の話です。もう1回掛かってきてるんで。えっ、デジタルさん掛かったんすか?」
「⋯⋯あっ、いやちがっ、そうじゃ⋯⋯。」
「掛かった上に引っ掛かったところで対応おなしゃす。あざっす。」
デジタル先輩小さくなっちゃった。
この先輩はもぉ〜〜〜〜〜っ!!!!うっ、胸の奥がキュンキュンするっ!そうだよコレなの!マイルCに応援来てくれた時も何か最前列でずっとぴょんぴょこしてたし、こんな小さいのに強い、速い、気遣い出来るってもうずるいんだよ〜〜〜っ!!しかもこの反応って絶対自分も経験あるやつじゃん〜〜〜〜〜〜!!ライバルとか言ったけど推しでいたい。生まれてきてくれた事に感謝したい。オールウェイズ眺めたい。ウチのトレーナーと同じくらい眺めていたい。髪を下ろした姿も素敵過ぎて4K撮影したい〜〜〜ッ!!
今更だけどデジタル先輩のトレーナーさんは私の好きな物2つも手に入れてるの本当にずるいと思う。地味な人なのに。ダブルブッキングしたのに。
「⋯⋯はい、デジたんです。何でしょうか。」
『あーっ!デジたんだーっ!』
『スッゲー本物!』
もう一度だけ掛かってきた電話の向こうでは、子供達が揃ってこっちの方を見て盛り上がっていた。
真ん中の補助席で、デジタルさんのトレーナーさんだけは腕を組みながら大御所みたいに座ってる。相変わらず肩にアイちゃん?が寄りかかってるけど。やる気あるのかな。
『⋯⋯同士、聞いて欲しい。』
「⋯⋯はい?」
『今こっちには未来の原石達が沢山居るんだけどな。ヨシエちゃんが今回の失敗をエンターテインメントとして昇華させてくれるらしいんだ。だから携帯をバスのモニターに繋いで、それを皆と見てる状態なんだが⋯⋯レースはしたか?』
その言葉にピンっと耳を立たせたデジタル先輩は、何かに気付いたような顔でトレーナーさんに言葉をかける。
「いえ、今からでした。」
『そっか。なら丁度いい。』
「ですね。芝の状態は昨日と特に変化は無いです。概ねミーティング通りの内容でいけるかと。グラッセさんの仕上がり的にも、多分あたしの方に合わせてくれたんだと思います。遠目に見てもアオハル杯決勝かそれ以上には。」
『⋯⋯成程。じゃあ例の戦法は試すとしても位置取りが⋯⋯アイツのスパートを考えるなら目測300⋯⋯いや、340⋯⋯流石に厳しいかな。もう少し余裕を見て⋯⋯。』
『おじさん何してるのー?』
『シーっ。今このおじさん、自分の仕事してるから⋯⋯良く見ておくこと。あれもトレーナーとウマ娘の大事なやり取りだからね。』
ヨシエさんのフォローを受けて、バスの中の子供たちは静かに見守っていた。デジタル先輩もそんな様子を見て笑ってるけれど⋯⋯何かが違う。
見たまんまはいつもと同じ、愛くるしい先輩。
なのに何だろう⋯⋯この、妙なザワつき。落ち着かないんだ。
デジタル先輩のトレーナーさんと目が合った気がした。一瞬過ぎて勘違いかもしれないけれど⋯⋯あれ?
アイちゃんって子───起きてる?何か小さい声で言ってるような⋯⋯気付いて、無いのかな⋯⋯。
『⋯⋯おし。目測480の3カウントだ。』
「合点!ただ⋯⋯良いんですかね?それをやるのは本番までの秘策って言うお話では?」
『そのつもりだったんだけどな。どうにもそこの後輩達が迷子になったらしくてよ。なぁ、クロフネ。』
「っ。」
『出たかったもんに出られなかったのは、まぁ⋯⋯運が悪かったのもある。けれど元を辿れば、そこには俺達の存在もあったはずだ。ダートから出てきたマイラーが、芝2000の東京レース場で覇王達を迎え撃とうってんだから、世間だってそりゃザワついたよ。なぁ、お嬢ちゃん───納得してんのかい?』
「⋯⋯私はっ。」
その先は言えなかった。
"はいしてます"、"そのうえで競いたいです"⋯⋯言いたかった言葉は驚く程喉につっかえて出て来なかった。
苦しい。けれど認めたくない。この感情を正しいと信じたくない。だって出られなかった私はこの人達のお陰でダートを見つけたんだ。感謝だってしてる。してるんだよ。
『あの日から止まったままの固ってぇ秒針、2人掛かりでぶん回してやるよ。もう止まってやらねぇし、止めてもやらねぇ。難しい事考えなくて良い。ソイツはその背中に色んなモン背負って走ってる。その背中目掛けて全速力で突っ走ってこい。じゃなきゃ、置いてくかんな?』
『おじさん、デジたんの事好きなのー?』
『ゾッコンなのー?』
『嫁なのー?』
『何だとチビ共。そりゃあ⋯⋯大事さ。なんたって頼りになる相棒なんだから。今日だっておじさん、スッゴイ失敗しちゃってさ?なのにデジたんは、あそこで1人立ってる。今からドデカい戦場に行こうとしてるんだよ。自分の責任を果たす為に。』
ふと気付いてしまった。さっきから周りが物凄く静かな事に。
樫本さんは多分気付いていない。ウチのトレーナーもそうだと思う。
けれど⋯⋯後方理解者みたいな笑みを浮かべたブルボンさんが。どこか期待と嬉しさを交えた眼のライスさんが。目を見開いて驚いたココンさんが。無邪気に笑いながらデジタル先輩の前に立ったグラッセさんが。
この場に居るウマ娘、皆の顔が語ってる。
『やれるな?同士。』
「勿論です、同士。」
『オールラウンダー
「⋯⋯こんな事。」
「クロ?どした?」
「トレーナー───あの人、"領域"に入ってる。」
「走ってからにしてくんねーかな。凹むわー。」
「ゴメン⋯⋯私が足りないだだだだだッ!ほっぺ抓らないでぇ!」
「なら2度とそんな事口走んな。大丈夫⋯⋯アタシは、アンタに感謝してる。」
そうやって。
また、そうやって⋯⋯軽口で誤魔化して、悔しさだって見せないで、自分の事は後回しなんだ。いつだってそう。
私の
さっきまでのザワつきはいつの間にか消えていた。
あるのは⋯⋯チクリと刺さる胸の痛みだけ。
これはダメだ。
気付いちゃいけない気持ちだ。
抑えなきゃダメなんだ。
今は⋯⋯レースに集中しなきゃ。
「⋯⋯なんつー顔してんだか。」
◇◆◇◆◇
レースが始まってすぐ、展開には違和感を覚えた。
隣に居るクロフネが感じたデジタルさんの"領域"。アタシらがまだ見た事の無い勇者の本気モード。映像でしかないけれど、あの子の走りはこれでもかってぐらいには見てきた自信がある。
確かにあの子は前につく先行策も、後ろからまとめて差し切るだけの末脚もある。寧ろあの末脚なら、天皇賞でも見せた最終直線大外ぶっこ抜きが1番得意なスタイルなワケで。
ただ、それでも今回は───。
「マスター。」
「どーもブルボンさん。」
「貴女の感じている違和感ですが、私も今初めて実際に確認しました。恐らくはチームの練習が終わった後、2人だけであれを確立させたのだと思われます。」
「⋯⋯気付いてるんですね。」
「はい。」
ならその左の手の平にビッシリ書かれたカンペは何でしょうかサイボーグさん。外付けHDDにしてはアナログ過ぎません?ちょっと滲んでるし⋯⋯いやツッコまんけど。
「彼女は今、貴女方の運命を変えた天皇賞を再現しています。あくまでも自分の中では、ですが。」
「ほぅ、だとしたら随分───。」
「えぇ。後ろ過ぎる、ですね。」
「はい。」
もしかして右手にも書いてんのかな⋯⋯うーわ書いてる。
「あの子のレースは、映像とは言えそれなりに目を通して来ました。でも今まであんな走り方してるところなんて見た事ないです。ここに来て新しい策ぶち込もうって事なんですかね。」
「いいえ⋯⋯新しいものではありません。彼女はかつて、一度だけあれをやったことがあります。貴女やクロフネさんの知らないところで。」
「知らないタイミング?」
「そのレースはただ1度だけ開かれました。貴女方が決して知り得ない時期かつ、記録やデータを残す人は特定の人物しかいない⋯⋯そんな始まりのレースが。」
「⋯⋯"模擬レース"かぁ。」
ブルボンさんはこくりと頷いた。
あの先輩まじでタチ悪い。分かるかいそんなもん。1度だって話なんか聞いた事無いし、そもそもあの人は自分で映像記録を残したりしない。だから全部頭の中の記憶だけって事よなオーマイガッチ。
「それは狙ったものでは無かったそうです。言うなれば、事故のような偶然だった⋯⋯それでも出遅れた彼女は殿から上がり最速のタイムを出しながら先頭を走り抜けたと聞いています。」
「それ全部カンペに書いてます?」
「はい。」
捲った袖の下にまで書いてんのはもうやりすぎなんよ。耳なし芳一かな?誰に書かれたんすかそれ。自分でとか言わんでくださいね。お米ちゃんだけでも大変な事になってんのに⋯⋯あっ、これトウショウボーイさんだ。名前書いてら。
はっ?あの人夏合宿参加して1ヶ月も経ってないのに何で全部理解しちゃってんの?これだからレジェンドは⋯⋯。
「先程私とココンさんの走りを見ながら、デジタルさんは自分の中で1つの式を組み立てたはずです。それがトレーナーさんからの言葉で完成した⋯⋯2人で1人の司令塔であり選手であるからこそ、勇者御一行は道を切り開いて来たのでしょう。そして───今、この瞬間も。」
その言葉と同時に風が吹き抜けた。
ずっとモヤモヤした顔だったクロフネの前を。
聞けば聞くほど無茶苦茶で笑うしかなかったアタシの前を。
あの日の天皇賞の様に、大外から飛んできた勇者様が……たった1回
んで、一瞬こっち見て笑ったのよ。
“任せろ”って言わんばかりにさ。
「おいおいおい!普通その距離から捲ってくるかッ!?はははっ!スタート前といい、ここまでの圧迫感といいッ!君は本当に面白いなアグネスデジタルッ!!」
「……。」
「ならこっちも───!」
「⋯⋯いやこれ。」
「もう、遅いのです。」
アタシとブルボンさんの言葉が途切れる前に、デジタルさんは完璧にグラッセさんを差し切ってゴールしていた。
息ひとつ切らさずに⋯⋯ただ簡易ゴール板の向こうで立っている。
「⋯⋯声掛けなくていいワケ?」
「⋯⋯だって。」
「後悔すんぞ。今、やらなきゃ。」
「っ⋯⋯デジタル先輩!」
耳をピンと立てた彼女が振り向く。
物好きな先輩のパートナーで、ウマ娘が好きすぎるオタクウマ娘で、アタシのパートナーにとって並び立つべき目標と憧れであったその勇者は。
もう、少しも笑っていない。
開かれた目に宿るのは、ただの人間でしか無いアタシにだって分かるヒリつきと寒気。喉元に冷たく鋭利な物を突きつけられた感覚。
勇者は今───切っ先を向けている。
ゆっくりと抜いた剣を。
ずっと見守ってきたはずの"推し"に。
⋯⋯あぁ、そうですか。
クロとどう向き合うか、貴女はとっくに覚悟を決めてくれていたんですね。
アレはもうただの目標なんかじゃない。
あの子はたった今、自分の意志と覚悟を持った上で、アタシ達の明確な"敵"になった。
───真の勇者は戦場を選ばない。
それは、場所も距離も相手すらも選ばなかった、2人で1人の挑戦者の言葉だったはずなのに。今こうして敵対して初めて分かった⋯⋯追いかける側にとっては滅茶苦茶おっかねーわ。
「⋯⋯やんぞ、クロ。アンタの先輩───どーこ行ったの芦毛ちゃん?」
「先程、思い詰めた顔であちらへ走っていきましたが⋯⋯追わなくても良いのですか?」
「⋯⋯まぁ、OKす。分かってなかったのは多分アタシだけなんで。ありゃ勝手に踏ん切りつけて戻って来ますよ。」
そう⋯⋯分かってなかったのはアタシだけだ。
クロは、ずっと悩んでたんだと思う。自分の中に生まれた感情、本能、熱───それはデジタルさんに向けちゃいけないものだって、どこかセーブしていた気がする。
頭では理解している。でも心は受け入れたくなかった。その間でずっとモヤついたまんまだったから、最後で最初の1歩を踏み出せなかったんだろうねぇ。教えてやるのは、本当ならアタシがやらなきゃいけない役目っつーか責任だったのに。とほほ。
「マスター。」
「何です?」
「貴女に、ステータス : 『吹っ切れ』を確認しました。今日最初に出会った時とは違う表情です。」
「⋯⋯かもっすね。不本意ながら誰かさんがここに呼んだおかげで。」
「なら良かったです。貴女の顔色が良ければこれを見せていいと、デジタルさんの───勇者の1人から伝言です。」
そう言って笑いながら右手の袖を捲ったブルボンさん。その綺麗な肌には、後輩であるアタシへのメッセージが残されていた。
"かかってこいバーーーカッ!!m9(^Д^)"
今すぐ帰って来いぶっ飛ばしてやるよクソボケ野郎が。
◇◆◇◆◇
あの目が。あの顔が。あの走りが。頭に焼き付いて離れない。
私の中で次々生まれていく感情が喉につっかえてるみたいだ。
必死で走った。耐えられなくて、逃げるように走り続けた。
芝コースから離れて、他の皆が練習してる所も過ぎて、誰も居ない浜辺まで⋯⋯。
「⋯⋯どうしたら。」
意味も無く辺りを見渡して、息を整えるより先にそんな言葉が口をつく。どうもこうもない。向き合うしかない。そんなの分かってる。分かってるんだよ。でもさ⋯⋯出来るわけ、ない。
「っ⋯⋯出来るわけないじゃんッ!!」
「お前声がデカいのだ。何1人で叫んでるのだ?」
すぐ横から声が届いて距離を取った。誰も居ないと思ってた場所に居たのはウインディさんで⋯⋯うわっ、聞かれてた。
「⋯⋯さては生徒会の回し者か!?何を言われようとウィンディちゃんは落とし穴を掘るのも噛み付くのもイタズラするのも止めてやらないのだ!いーーーっ!!」
「やっ、それはお好きにどうぞ⋯⋯告げ口もしませんから。そもそもここ人来ないし⋯⋯。」
「ん?よく見たらお前クロフネじゃないか。話が分かる良い奴だな!特別に親分として話を聞いてやるのだ!ありがたく思え!」
いつから私はこの人の子分になったのだろう。
いや、でも聞かれたのなら⋯⋯一応はダートの大先輩だし⋯⋯ファルコンさん達も何かお世話になったとか言ってたような⋯⋯うん。
「あの⋯⋯デジタル先輩の事⋯⋯わ、私、さっきあの人の本当の本気を知ってしまって。目標だった⋯⋯んですけど⋯⋯。」
正直、ウィンディさんの事だから茶化し文句の1つでも飛んでくるかと思っていた。この人いつもデジタル先輩へのイタズラ失敗して返り討ちにあってるし⋯⋯でも。
少しだけ顔色を伺えば、ウィンディさんは何も言わないまま笑ってくれた。"それで?"と言いたげに。
「並ぼうと思ってたんです。唯一無二のオールラウンダーの、唯一無二のライバルとして。自分でこう言うのもアレですけど、凄く気にかけてもらっていましたし⋯⋯なのに、変なんですよ。最近あの人の事を考える度に、悔しくて悔しくてしょうがないんです。私が出られなかった天皇賞、私ならこう走ったのにってそればっかり。私とトレーナーだって、絶対に勝てたはずなのにって。」
「おぅ。」
「さっきだってそうです。私はあの人の目線から逃げ出しました。だって、怖かったんですよ。あのままあそこに居たら、私はデジタル先輩に⋯⋯きっと色んな事をぶちまけていたかもしれないんです。自分が分からないんですよ⋯⋯何をしたいのか。目標でいてくれた人、気にかけてくれていた人にどうしたらいいのかなんて⋯⋯。」
「ふむふむ。」
「⋯⋯あの。聞いてますよね?何で今、"何言ってるか分かんない"みたいな顔を───。」
「いやお前が何言ってるのか全然分からないのだ。」
相談相手間違えたかもしれない。
「あのな。ウィンディちゃんはイタズラするのが好きなのだ。落とし穴を作るのも、噛み付くのも。悪の親玉としてあらゆる悪行が大好きなのだ。」
「⋯⋯この時間も、ですか?」
「まぁ聞け。それでな?もし誰かにそういう好きな物を止めろー!って言われても、ウィンディちゃんは必ずこう答える。"嫌だ!"ってな。何故ならそれが好きだからだ。それがウィンディちゃんだからだ。けどな⋯⋯どうしてもそれを止めなくちゃいけない、自分を変えなくちゃいけないってなった時は⋯⋯物凄く怖い。」
普段とは違う、困った様に笑うこの人を見て、トレーナーに聞いていた事を思い出した。
ウィンディさんは1度⋯⋯レース中に競争相手の子に噛み付いたらしい。世間からバッシングを浴びたって。謝って、ちゃんと自分のやり方を見つけても、イロモノ扱いされてた時期が長かったらしい。
「皆、同じなのだ。」
「えっ?」
「デジタルの好きな物は?」
「⋯⋯ウマ娘の子達、ですよね。」
「だな。アイツはその好きなウマ娘の為に、何かよく分からん技術も平気で覚えるし、好きなウマ娘と1人でも多く走りたいからって芝もダートも日本も世界も走り回ってきた欲張りな子分だ!正直ちょっとヤベー奴だと思ってる。」
「そういう所が良いんじゃないですか。」
「大概だぞお前。じゃなーーーいッ!つまりウィンディちゃんが言いたいのは───そんな欲張りでバカ強いヤツが、自分の好きを曲げてでも、特にお気に入りなハズのお前に向き合ったって事だ。怖くなかったって、思うか?」
「⋯⋯あっ。」
「ウィンディちゃんが怖かった時は、作戦参謀が一緒にゴメンなさいを言ってくれたのだ。デジタルだってきっと、あのへんちくりんなトレーナーが居たはずなのだ。お前はどうだ?」
「⋯⋯トレーナーが居ます。」
⋯⋯そっ、か。
何で言われるまで気付かなかったんだろう。
「さっきのレースとか、本気のデジタルとか、ウィンディちゃん全然見てないから分からないけどな。お前に見せたかったのは走りとかじゃなくて、自分の変化を受け入れて、目標だって超える為の"勇気"じゃないのか?」
「勇気⋯⋯私の、変化⋯⋯で、でも、もしそれで今後とかに影響が出るような変な関係になったら⋯⋯。」
「意外とまどろっこしいヤツだなお前⋯⋯んがーーーッ!そもそも作戦参謀のやり方真似したってウィンディちゃんにしか効かないのだ!真似なんか出来るわけないのだーーーッ!何が"良い事した後のイタズラはもっと楽しいから"だ!ウマ娘のスイッチだかブレーカーだか知らないけど、ウィンディちゃんにだってウィンディちゃんのやり方って言うものがあるのだッ!おい!芦毛なのにクロフネ!」
久しぶりに名前で弄られた⋯⋯。何か1人で盛り上がってるし。ウィンディさんからウィンディちゃんに戻ったみたい。
「ウィンディちゃんもなぁー、お前には目を付けていたんだ。」
「⋯⋯そ、そうですか。」
「芝から出てきたクセに、ダートを走ったらやっぱりこっちの方が良いですなんて随分生意気で都合のいい奴なのだ。」
⋯⋯⋯⋯。
「ここらで大先輩なウィンディちゃんが摘んでやるのだ。デジタル1人から逃げ出したのにデカい顔してるお前も、そのトレーナーも、共々噛み付いてやるのだ。」
「⋯⋯れが⋯⋯。」
「あーん?」
「誰が⋯⋯好き好んで⋯⋯なら、やりましょうよ。幾らでもやっても良いんですよこっちは。私も、トレーナーも、そんな風に言われる筋合いなんか無い。大先輩のアンタが相手だろうと知ったこっちゃないんですよ。」
「おーおー、威勢がいい奴だ。お前何か忘れてんじゃないか?今お前の前に居るのは、お前がデジタルとケリをつけようとしてる舞台──フェブラリーSのチャンピオン様だぞ。」
「それが何。アンタも⋯⋯あのトレーナーも⋯⋯アグネスデジタルもっ⋯⋯アタシとトレーナーの邪魔するなら!アタシ達の可能性を邪魔するんなら!誰だろうとぶっ千切るッ!!」
自分でもバカ言ってるって思う。分かってるよ。
さっきまであんな事言ってくれてた人に啖呵切っちゃってさ⋯⋯でも仕方ないんだ。もう止められないんだ。さっきのレースから続いてたモヤモヤが、ザワつきが───アタシの中の積もった闘争心が⋯⋯疼いて仕方が無い。
そうだよ、疼いてるんだ。
だっておかしいじゃん。アタシは、トレーナーは、もっとやれる。
やれたんだ!
結果論なんて知るか!アタシ達の声も聞かないで、何が『誰もが納得』だッ!納得なんかするかッ!してたまるかッ!だから、アタシは───ッ!!
「こーんな目をしてるのだ。お前やっぱウィンディちゃんが見込んだだけの事はあるな。」
「⋯⋯はい?」
「それをデジタルに言えばいいだけの話なのだ。難しい事ゴチャゴチャ考えるから難しくなるし、そもそもそんな目をしたヤツが良い子ちゃんだけで終われるわけが無い。ちょっと考えれば分かるのだ〜。」
「⋯⋯あっ、ちょ、どこ行くんですかウィンディさん!まだ話は終わって───穴ぁッ!!」
落ちた。
さっきまで見え見えだった、こんな人の居ないところで意味無いって思ってた落とし穴に。ガチめにショック。
すっぽり私の身長が埋まるぐらいの縦穴。その上からウィンディさんはわざとらしくしゃがみ込んで、手のかかる子分を見つめる親分みたいに笑っていた。
「頭に血が上って周りが見えなくなった時程、デジタルは絶対に見逃さないのだ。悔しかったらレースでそれをやらないように気を付けるんだな。ワーハッハッー!ウィンディちゃんは帰るのだー!」
「⋯⋯助けてくれないんですかーッ!?」
「悪い事は好きだってさっき言ったばかりだろー。子分なら自力で何とかするのだー。デジタルならその倍は深くても感謝しながら這い上がってくるのだー。」
⋯⋯嘘じゃん。本当に行っちゃったんだけど。
えっ、待ってヤダヤダヤダッ!トレーナー!トレーナーの所に行きたいーッ!
何とか指引っ掛けて、こう、上手いこと⋯⋯うっ⋯⋯!砂に指引っ掛かるわけないじゃんっ!
「⋯⋯無理言わないでよぉ。トレーナーぁ⋯⋯ぐずっ⋯⋯。」
「⋯⋯⋯⋯。」
「⋯⋯あーーーーーっ!!ねぇ、お願い!トレーナー呼んで来てくれるっ!?担当がバカやりましたって言ってくれれば良いからっ!」
ウインディさんの代わりに私を見下ろしていたのは、最近ハーバーに新しく入った新人の子。
デビュー前からかなりの実力を見せつけて、数え切れないぐらいのトレーナーに勧誘された期待のホープ。
そしてそのトレーナー達の自身を尽くへし折って、ヨシエさんマッチングの末にウチに来た子。
才能を持て余したその子は、コクンと頷いて歩いていった。
「本当にありがとーーーっ!プイちゃんっ!!」
「何とかなって良かった⋯⋯ふふっ。デジタルのやつ、昨日言った通りに渾身のキメ顔したかな。ドヤっても良いとは言ったけれど。きっとさぞ可愛らしいドヤ顔して自爆した事だろう。ヨシエちゃんよー、今日は感謝しとく───。」
「しゃーねーなーキッズ共!もう1回真似してやるから見とけよ見とけよー?『取り返しに来たエンマ様の杓が思ったより太かった時のキスケ』。太すぎるッピ!!」
「他人のフリしとこ。」
あーちゃん(アーモンドアイ) : おデジ、クロ、マブの3人に続くヤベー奴四天王最後の1人にしてぶっちぎりのヤベー奴。1人だけ見えてる世界が違ってる。行き着く場所も違ってる。多分スピ賢補正20%パワー補正15%スタ根補正7%勇者バフもオマケで付いてるロリ。頭の回転と物事の吸収が半端じゃない子。実は"領域"に片足突っ込んでたりいなかったり。おデジ専用真面目モードなロリコンの思考が読めてたり読めてなかったり。
プイちゃん : 日本の脳を焼いた子。
年内は最後に1本出したいと思っております。明日しかねぇッ!!
本当なら第1部の終わりまでやりたかったですが、シリアスで2023年を終わらせるのはあまり好きじゃなかったので止めました。
って事で次回は番外編うまぴょい伝説の章
『その② : 億ション買いましょん』をお送り致します。
午前中にはあげたいっぴ。