目覚めるとそこは廃墟 作:海砂
ジルはよくやってると思う。俺が右往左往している間にしっかりと時計塔の鐘を鳴らしやがったんだからな。だが、ちょうど反対側にいた俺にもしっかり見えたんだ……迎えに来たヘリが撃ち落とされる瞬間が。
俺は引き続き、他の脱出経路を探ることにした。
諦める? 俺の辞書にそんな言葉は載ってないぜ。……そりゃ、ちょっとはへこたれたりする事もあったけど、いい女がこれだけ頑張ってるっていうのに、俺が諦めたらカッコ悪いだろ?
近付いてくるゾンビどもを片っ端からなぎ倒しながら、俺は時計塔へと続く道を探し続けていた。ひとまずジルと合流した方が、きっと気もまぎれるしいいアイデアも浮かぶだろう。
それにしても、この街は滅茶苦茶だ。ろくに通れる道がありゃしねぇ。ゾンビだけじゃなくて得体の知れないバケモノもうろついているし、気の休まる暇がない。
がさり。その時、背後のかなり近い場所から何かの気配を感じた。……ゾンビか? 畜生、やられるより先にやっちまうか。
「ストップ! 撃たないでください!! カルロスさん、私です!」
その声を聞いて、俺は構えていたライフルの銃口を下ろした。……ヨシコだ。
「ヨシコちゃん、無事だったザンスね」
「はい。ジルさんに助けていただきました。カルロスさんもご無事でよかったです」
「俺はそう簡単にくたばるようなタマじゃないザンスよ」
……あれ? 俺のニホンゴはどこか間違っていたのか? ヨシコが怪訝な眼差しで俺を見つめている。
「……あの、カルロスさん……『ザンス』はいらないんですよ? むしろ、ヘンです」
そうなのか? 俺にニホンゴを教えたおフランス人は、必ず語尾にザンスと付けるようにと言っていたのだが……。
「わかった。じゃあザンスとはいわないようにするざん……するよ。ところでジルは一緒じゃないのか?」
「ジルさんとは別れて行動してます。それで、あの、お願いがあるんですが……」
何だ? この状況で、俺にできることならまぁ……するけどさ。かわいこちゃんのお願いを聞かないわけにはいかないしな。
「ムラカミさん……あの、大きなバケモノ……覚えてますよね」
「ああ」
「彼は、ジルさんを……スターズのメンバーを見ると暴走してしまうんです。なので、彼だけをジルさんとは別に助ける方法を探しているんです」
……なるほど。俺を助けてくれたアイツがどうして襲ってきたのかと思っていたが、原因はジルだったのか。そういえば、俺たちが別れ別れになったときも、奴はジルだけを追っていた。
「OK、言いたいことはよくわかった。だが、俺は俺自身が脱出する方法すらまだ探している最中なんだぜ? それに、彼は……言いたくないが、どう見ても人間じゃない。助ける方法があるとは思えないな」
うおっと! ヨシコがいきなり俺に向けて発砲しやがった!
「なんてこと言うんですか! ムラカミさんはれっきとした人間です!」
いやいやいや、アレはどう見たって人間じゃないだろう……と思ったが、言ったら今度は本気で蜂の巣にされそうだったので言わないでおいた。この子、可愛い顔して恐ろしい女だな。
「とにかく、ムラカミさんが待っている場所に案内しますので、付いてきて下さい」
「念のために聞いておくが、俺を見て暴走はしないよな?」
「大丈夫です!」
ヨシコは自信満々に答える。ジルがいなければ大丈夫なのかもしれないが、俺の中には少し不安が残った。俺は一度、ジルとともに行動したことで彼に『敵』認定されている。もしかしたらその記憶が残っているのではないだろうか。
「もし暴走したら私が食い止めます」
ジャキッと銃の弾そうを捨てる音がした。俺は正直、ムラカミよりも君の方が心底恐ろしいよ。
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ヒマです。
ぬこは向こうでとぐろを巻いています。もっふもふするのもさすがに飽きた。
でも他にすることもないので再びぬっこぬこになろうと彼に近づくと、突然みるく氏が立ち上がる。
『べ、別にぬっこぬこのこっねこねにしようなんて思ってないんだからね!』
『馬鹿野郎。外の気配に気付かないのか』
そもそもオイラの中の人は元一般人。気配を察知する能力には長けていません。
けれど耳をすますと、はしごを上ってくる、カンカン、という乾いた金属音が響いていた。
『よし子ちゃんかな?』
ウキウキと扉を開いて下を見下ろした俺は絶句した。
ギャー! ターミネーター!!! じゃない、ウェスカーさん!!
後ろでみるく氏が毛を逆立てている。……とりあえずどうしよう。
にこやかに迎え入れる
ニア 軽やかに蹴落とす
逃げる
とりあえず足が出た。俺のせいじゃない。ウェスカーさんだってスターズの一員だから、暴走しちゃったんだよ多分。きっと、うんそうだ。
「……ネメシス。お前に自我があるとは考え難いがどうやらこの仮説は正しかったようだ。判断力を与えた弊害か……ひとまず、お前には眠ってもらうとしようか」
ウェスカーはハシゴ下からなんか変な形の銃を構える。
……やばい! そう感じた俺は即座に体を縮めると、ハシゴの存在は無視して扉から宙に飛び出した!
……うん、無駄だったみたい。ベランダに着地した俺の背中に銃が打ち込まれる。痛みはない。多分、麻酔銃なんだと……思う。
遠くで猫の鳴き声がした。