目覚めるとそこは廃墟   作:海砂

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閑話

 おれは臆病者だ。

 雷が鳴ったらベッドにもぐりこむくらいの臆病者だ。

 自分でもわかっている。

 大きな音や、自分より大きなヤツ、怖いものはたくさんある。

 

 異変は突然だった。

 窓から侵入した化け物が、彼女に襲い掛かった。

 おれは『ヤツ』が来た時点で、クローゼットの中に逃げ込んだ。

 おれは震えていた。

 悲鳴が聞こえた。

 生肉を食らう『ヤツ』の咀嚼音だけがずっと響いていた。

 

 静かになるまで、ヤツがいなくなるまで。おれはずっと震えていた。

 一体どのくらいの時が経っただろう。そっと表に出る。

 そこには、変わり果てた姿の彼女がいた。

 

 

 おれは彼女が好きだった。

 時々うっとうしいこともあったけれど、唯一信頼できる人間だった。

 そんな彼女の最期の時に、おれは何をしていた?

 怯えて、震えて、なにもできなかった。

 

 後悔はいつまでもおれを苛む。

 ただの肉塊になった彼女を捨てて、おれは街に出た。

 そこに、生者の姿はなかった。

 

 

 それから数日のことはほとんど覚えていない。

 腐肉を食らい、雨水を飲んで、安全な場所を探し続けていたのだろう。

 途中で『ヤツ』にも遭遇した。逃げ損ねて怪我もした。不思議と痛くはなかった。

 そうして逃げ惑った先で出会った人型の化け物。

 不思議と、会話が出来た。

 彼女とはなんとなく意思の疎通が出来ていた。だがそういったことではない。

 当たり前のように会話をすることが出来たのだ、その化け物と。

 まるで普通の人間のようだった。そしておれは決めた。

 おれはこいつについていこう、と。

 こいつは強そうだし、何より、おれが街に出て初めて出会った人間らしい感情を持った生物。

 見た目はアレだが悪いやつじゃない。会話をしている内に、そう思えるようになっていた。

 

 

 けれど、その時間も長くは続かなかった。

 人間とも『ヤツ』らとも違う、不気味な気配が近づいてくる。

 今度は逃げない。おれも戦う!

 

 だが、そう思っている心とは裏腹に、おれの足は竦んで、その場から動こうとはしなかった。

 化け物が、逃げる。そして、撃たれる。助けに行きたかった。でも、出来なかった。

 不気味な気配の持ち主はおれに気付くことなく、化け物を抱えて去っていった。

 

 そしておれは、また一人になった。

 

 

 彼女も、化け物も、救えなかった。

 もっとも、手を出したところで非力な俺に出来ることがあったかどうか甚だ疑問だ。

 それでも、何もできなかった。

 チキンだなんて言い訳だ。

 おれは卑怯者だ。

 同じことは繰り返したくない。

 同じことはもう繰り返したくない。

 

 

 おれは自分に誓う。

 次に、意思の疎通を図ることの出来る人間と出会ったら、必ずそいつを守る。

 おれがどうなろうと知ったことじゃない。守れなくても、守るんだ、と。

 幸い、あの化け物が教えてくれた。

 この場所で待っていれば、あいつの仲間が戻ってくる。

 おれはここで、それを待っていよう。

 今度こそ、守られるだけではない、仲間としてともに戦おう。

 

 だって、こんな世の中で、何も出来ずに死んでいくなんて寂し過ぎるじゃないか。

 

 もう、一人は怖くない。

 おれはただひたすらに待つ。

 出来るのならば、一緒にあの化け物を助けに行こう。

 

 

 

「ムラカミさん?」

 

 この子は、おれの仲間だ。

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