目覚めるとそこは廃墟   作:海砂

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第十五話

 ムラカミは、約束の場所にいなかった。

 ヨシコはパニクっていたが、俺は正直な所ほっとしていた。……いつ襲い掛かってくるかわかんねー様なバケモンと、一緒に居たくないのは人情ってヤツだろ?

 

「ヨシコ、行こう。この時計塔のどこかにいるはずのジルの事も気にかかる」

 

「……はい……」

 

 居たのは白い猫が一匹だけ。敵意は無いようなので放っておく。俺達が出て行こうとすると、一緒についてきた。

 

「この子も、連れてって良いですか?」

 

 好きにすりゃあいい。わざわざ抱いていくってんならともかく、勝手についてくる分には問題ないだろう。

 怪我してるようだが、腐っている様子は無い。……ゾンビになっちまってたなら、問答無用でぶっ殺すんだけどな。

 ヨシコは猫に向かって、見失わないように付いてきて下さいね、と言い聞かせている。変な女だ。

 猫の方もにゃんと一言返事をした。……もしかして言葉が通じてるのか? まさか、な。

 

 俺達は、揃って時計塔最上階のハシゴを下りる。猫はひらりと綺麗に飛び降りた。結構な高さがあるんだが、猫ってヤツぁどういう足の仕組みしてるんだろう。

 

「とりあえず……この塔の全部の部屋をしらみつぶしにあたってみるか……」

 

 俺がそう言い終わらない内に、どこからか銃声が聞こえた。

 

 

----------

 

 

「s.t.a.r.s.……」

 

 私は、時計塔の庭に座り込んでいた。ヘリを撃墜されてから今まで、ずっと。

 どうしても、体が動かなかったのだ。

 絶望。それが、私の体を覆っていたものの正体。

 このままではいけないとわかってはいても、目の前で希望を打ち砕かれた現実は、私を奮い立たせるまでにかなりの時間を必要とさせていた。

 

 けれど、いつまでも落ち込んで入られない。何か、他の方法を探さなければ。

 きっと、カルロスやヨシコもそうしているはずだ。

 そう思い、立ち上がろうとした。その時、時計塔の扉が開き、出てきたのは……あの、化け物だった。

 

 

 むしろそれは、歓迎すべきことだったのかもしれない。

 私の体は、まだ死にたくないとこんなにも足掻いていたのだと思い知る。

 意識するよりも早く、私の体は化け物の攻撃を避け、M92Fを素早く手にとって撃ち返す。

 ……効果はない。もっと強力な武器を使わなければ。

 効果のないハンドガンは放り捨てる。こいつを撃退した後に、後で回収すればいい。

 奴の攻撃をかわしつつ、持っているはずのもうひとつのハンドガン……44口径ステンレスマグナムを取り出した。

 ミハイルが命がけですら倒せなかったこの化け物を倒そうなどとは思っていない。とりあえず今は追い払えればいいのだ。

 だが、奴はその巨体に似合わず、非常に俊敏だった。私が狙いをつけるまでのわずかな間にものすごいスピードで私に駆け寄ると、その豪腕を振り回す。

 危ういところで避け、改めて銃を奴に向ける。

 その時。

 奴の手が伸びた。そう見えた。

 だがそれは手ではない。……ブラッドを殺す時に使った、あの触手!

 予想外の攻撃をかわす間もなく、触手の先端が私の肩に突き刺さる。

 

「……ッ!」

 

 痛みに耐えかねてマグナムを取り落とす。できることならば地面に転がってのた打ち回りたい。その苦しみを必死に堪え、落とした銃を拾った。そして、狙いを定めるまでもなく、近づいてきた奴の腹部に向けて連射する!!

 

「グ……ォオ……」

 

 奴は、かなりのダメージを負った様だ。それでも私は続けざまに撃つ。弾が無くなって空撃ちしていることにも気付かないくらい必死だった。

 そして奴は、時計塔へと逃げていった。良かった、追い払うことが出来た……。

 安心と同時にずくりと右肩が痛む。

 嫌な予感がする。思い出せ、奴の触手は粘液に塗れていた。まさか私は……あのおぞましいウイルスに感染してしまったのではないだろうか……?

 心臓が早鐘のように鳴り響く。肩はどくどくと脈打っている。違う、これは傷に対する痛みで、決してウイルスのせいじゃない……!

 

 私はその場にへたり込む。もし、感染していたら、どうする? じわじわと緩やかに、私もゾンビの仲間入りを果たしてしまうのか。

 嫌だ、嫌だ、それだけは絶対に嫌だ!

 ここで今すぐ死ぬべきか。それとも、感染していないかもしれないという、ごくわずかな希望にかけてみるか。

 ふと、先ほど投げ捨てたハンドガンが目に入った。今の私ならば、あれを一発撃つだけで死ぬことが出来る……。

 

 ぐらりと視界が反転し、そのままブラックアウトしていった。

 

 

----------

 

 

「ジルさん、ジルさん!」

 

 カルロスさんと二人で銃声のした方に走っていくと、時計塔の庭で倒れているジルさんを発見しました。あわてて駆け寄りましたが、なんとか意識はあるみたいです。

 

「カルロスさん、ジルさんを安全なところに運びましょう!」

 

 カルロスさんは頷くと、迷うことなくジルさんをお姫様抱っこしました。さすが海外の方は、こういう時に照れや躊躇がありません。……ムラカミさんだったら、きっと恥ずかしがって悩みまくるんだろうなぁ。でもきっと、最終的にお姫様抱っこするんだろうなぁ。

 

 ムラカミさんは、どこにもいませんでした。待ってるように言ったのに、何かあったのでしょうか。

 ムラカミさん、自分は助からない方がいいと思っているフシがあったので、もしかしたら一人でどこかへ行ってしまったのかもしれません。

 ……負けませんよ。私は絶対にムラカミさんも一緒にこの地獄から生還するんです!

 

 でも今はとりあえずジルさんが最優先です。カルロスさんと一緒に、時計塔の一階にあるチャペルのような部屋に向かいました。

 ……あれ? ここには私が転落したアイテムボックスがあったはずなんですが……ぶっ壊れてますね。

 カルロスさんが祭壇にジルさんを寝かせた時に、どうもジルさんの目が覚めたようです。二人で何か話していますが、早口の英語はさっぱりわかりません。

 

「……ヨシコ」

 

 しばらく問答した後、カルロスさんが私を呼びました。ジルさんはそっぽを向いています。

 

「ヨシコ、どうやらジルはゾンビどもになっちまうウイルスに感染してしまったらしい。俺はワクチンを探しに行ってくる。ヨシコはここでジルと一緒にいて……もし俺が間に合わなくてジルがゾンビ化しちまったら……殺してやって欲しい」

 

 !! ジルさんが、ゾンビになってしまうのですか!?

 

「いや、はっきり感染したかどうかは微妙らしいんだが……それでも、ワクチンがあれば俺たちの今後の活動にも役立つはずだ。俺は絶対にジルを助けて見せる。ヨシコは、ジルがゾンビになっちまわないように励ましてやってくれ。あの、くそったれなウイルスなんかに負けないようにな」

 

 多分、私に出来ることはそのくらいです。ジルさんをここに一人で残していくわけにもいかないし、私かカルロスさんのどちらかがワクチンを探しに行くとすれば、成功する可能性が高いのはどう考えてもカルロスさんです。

 

「わかりました。あ、でもひとつだけお願いがあります。もし途中でムラカミさん……モンスターを見かけたら、私のところに戻ってくるように伝えて下さい。ワクチンがあったら、もしかしたらムラカミさんもたすかるかもしれませんよね?」

 

 カルロスさんは、困ったように笑って頷きました。……ええ、わかってます。すでにゾンビと化してしまった人間にワクチンの効果があるはず無いということは。

 それでも、ムラカミさんを元に戻してあげる方法はきっとどこかにあるはずです、私はそう信じています。

 

「猫ちゃんはどうしますか?」

 

 ついてきた白猫ちゃんも、ここに一緒に残るようです。カルロスさんは『俺じゃなくてヨシコになついてるようだしな』と笑っていました。

 いつまでも猫ちゃんではアレなので、何か名前をつけてあげることにしたいと思います。

 うーん……白いから、シロ? 猫だから、タマ? 呼んでもピンとこないようで、猫ちゃんもそっぽを向いてしまいました。

 うーんうーん……ミケ……は違いますよね、白猫だし。白、白……ミルキー?

 あ! 振り向きました! ミルキーちゃん! ……またそっぽ向いてしまいました。じゃあ、ミルクちゃん!

 今度はビンゴ! だったようです。しっかりと振り向いてがっちり目があった後に、にゃあとお返事をしてくれました!!

 

「みるくちゃん」

 

「にゃあ」

 

「みるくちゃん!!」

 

「うにゃ!」

 

「あなたのお名前はみるくちゃんですね!!」

 

「にゃーお!」

 

 コレで決まりました。みるくちゃんは、喜んでいるようで私の足元におでこをごっつんこしてきます。ちょっと、痛いです。

 

 さて、次はジルさんの番です。大丈夫ですよ! とお伝えしたいのですが、英語でなんていうのかわかりません……。

 

「ジル……」

 

 ジルさんは、振り向いてくれました。こころなしか、目が少し赤いです。泣いているのか、それとも感染してしまったウイルスの影響なのか……多分、両方じゃないかと思います。

 なんて言えばいいのでしょう。私の少ない語彙の中で、相手を励ます英語……そうだ!

 

「ジル、ドンマイ!」

 

 ……あ、あれ? ジルさん何だかポカーンとしています。しまった、ドンマイは日本語だったのかしら……。

 

「えーとえーと、ね、ねばーまいん! どんまいん! じるいずおーるおっけー!」

 

 絶対この英語は間違っています。みんなは真似しないでくださいね、とほほ。

 でも、ジルさんにはなんとなく伝わったようです。

 

「thank you Yoshiko...but I'm afraid of that Virus」

 

 あ、あふ……? ダメです、わかりません。なんか習ったことあるような気はするのですが……。もっとまじめに英語を勉強しておくべきでした。

 でも最後のは多分ウイルスのことだと思います。だから、えーと、ウイルスに感染してしまった……とか?

 

「It may be I had better die...」

 

 メイビー……えーと、たぶん? ダイ……死ぬ? ハブベターはなんでしたっけ……shouldと同じ意味でしたっけ? 死ぬべき……だっ、ダメじゃないですか!!

 私はグーで、ジルさんの頭をコツンしてやりました! 死んだらダメですよ!

 きっと、ジルさんは不安なんだと思います。自分がゾンビになってしまう恐怖とか、傷付いた体とか、色々なものと戦っているんです。

 彼女の頭をよしよししてあげました。ずーっとよしよししてあげました。

 ……ジルさんは、ありがとうといいながら泣いていました。

 

 私は、自分が何も出来ないことが腹立たしいです。カルロスさんのように直接何かをしてあげることも出来ず、言葉で慰めてあげることも出来ない。あの強いジルさんがこんなに弱っているのに、頭をなでてあげることしか出来ないんです。

 本当に、私は無力です。

 悔しいです。

 何か、私にできることはないんでしょうか……。

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