目覚めるとそこは廃墟   作:海砂

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第十六話

 カルロスさんの帰還は想像以上に早いものでした。

 最初は様子を見に戻ってきただけかとも思ったのですが、なんとほんの数時間でワクチンを手に入れてきたのです!

 ……まぁ、もしかして、気休めにそれっぽいモノを持ってきた可能性も否めないわけですが……でも、もしかしたら感染していない可能性もあるわけで、だとしたらジルさんがこんなに落ち込んでいるのはある意味ムダなのかもしれません。

 ワクチンを接種したことで、ジルさんは見違えるように元気になりました。病は気からって本当ですね。

 

「ヨシコ」

 

 はいはい。呼ばれて飛び出て以下略。アニメは昔の物の方がくすりと笑えていいお話が多いと思うのは私の気のせいでしょうか。いや、もちろん今でも素敵なアニメは山ほどあるんですけども。昔もたくさんアニメがあって、いいものだけが後世に受け継がれてるんでしょうかね。

 

「これからオレとジルは別行動をする。どちらについてきても危険なことに変わりはないが……多分、ジルと一緒の方がまだ安全だと思う。でも、ジルとヨシコは言葉が通じないんだろう? どちらについてくるか、ヨシコが決めて欲しい」

 

 ジルさんの方を見る。頷いているので、きっとお二人が相談して決めたことなのだろうと思います。ならば私はそれに従って……って、え? 私が決めるんですか?

 ……困りました。私は正直どちらでもよいのですが……。

 悩んでいると、カルロスさんが助け舟を出してくれました。

 

「ジルはあのバケモノに狙われている。だが彼女は脱出のために動き、それは君の目指すところと一致すると思う。オレももちろんこの街から出られる方法を探すけど、その前にやっておきたいことがある。多分、そこには敵も現れて危険も倍増すると思う。もしジルと会話が出来るんならオレは間違いなくジルと一緒に行くように奨めるんだが……」

 

 えーと、ということはジルさんと一緒に行った方がムラカミさんと遭遇する確率は高いのかな? でもジルさんが一緒だと間違いなく暴走してるだろうし。そんな状態のムラカミさんと会話が成立するとは思えません。ということはカルロスさんと一緒に行って、うっかりムラカミさんと遭遇するのを待った方がいいのかな……ええと、アレアレ? どうしましょ。

 

---------

 

 とある国のバケモノさんが「本当ニポンゴって大事だよ」とつぶやいてました。ええムラカミさんのことなんですけど。

 私も大事だと思います、元の世界に居た時はかけらも思ったことなかったんですけれど。この世界に来てからは、日本語が通じるっていうのは泣きたくなる位うれしい事なんだって身に染みて実感しましたから。

 ですから、私は少しくらい危険でもかまいません。日本語で会話することのできるカルロスさんと一緒に行くことにします。

 ジルさんとは別行動。グッドラックと言葉を残し、彼女は行ってしまいました。残ったのは、カルロスさんと私と、みるくちゃん。

 

「危なくなったら守って下さいますよね?」

 

 カルロスさんは素敵な笑顔を向けてくれるだけで返事はしませんでした。あれですか、テメーは守らなくても自力で何とかするだろ的な微笑みですか? それは買いかぶりというものです。この世界に来て初めて銃持ったんですよ? 今まで平凡な女子高生だったんですよ? 一人で放り出されたら泣いてしまいますヨ。

 

 

 あれ? そういえばみるくちゃんはどこに行ったんでしょう。さっきまで私の足元をウロチョロしていたのですが。

 

 

 ……みつけました。カルロスさんの背後にいました。カルロスさんは気づいていませんが、彼の緩んでいる靴紐を狙っているようです。お尻がもこもこしています、集中しています……飛び掛りました!

 

「うわっ何だ!?」

 

 カルロスさんは大慌てで銃を向けました。危ない、それはみるくちゃんです!!

 私が銃の先端をそらしたおかげで、みるくちゃんに銃弾は当たらなかったようです。ふう、危ないところでした。

 

「このクソ猫、置いてってやろうか!」

 

 みるくちゃんは何事もなかったかのように顔を洗っています。大物です。

 表情から察するに『テメーについていっているわけじゃねぇ、おれはおれの道を行くだけだ』みたいな感じでしょうか。今度は小ばかにしたようなまなざしでカルロスさんを見ています。か、カルロスさん、猫ちゃんを相手に大人気ないですよ?

 カルロスさんは舌打ちをしながら靴紐を結びなおしています。あ、あれですよ、きっとみるくちゃんはそのままの状態でゾンビに遭ったりしたら危ないから、わざわざ教えてくれたんですよ! ……たぶん。

 

「このバカネコにそんな知恵があるわきゃないだろ」

 

 睨んでいます、睨んでいますよ? みるくちゃんは悪口を言われたことに気付いてますよ!

 

「……へいへい、わかりましたよみるくさん、教えてくれてありがとよ」

 

 みるくちゃんがにゃあと一鳴きして、意気揚々と先陣を切って歩き始めました。

 どうやらご機嫌を直して私たちと一緒に来てくれるみたいです。

 

「カルロスさん、私もですけど、みるくちゃんもきちんと守ってあげて下さいね?」

 

 カルロスさんはやっぱり返事をしてくれませんでした(´・ω:;.:...

 

 

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 何となく予感はしていたが何てこった。まさか本当にオレについてくるとはな。

 だが前もってちゃんと言い聞かせておいた。オレには目的がある、それを果たすために……多分、人間とも戦り合わなくちゃならなくなる。そう言ったら「それでも私はカルロスさんを信じていますから」ときたもんだ。畜生、そんなこと言われちゃあ放っておくわけにいかないじゃないか。いや、ハナからそんなつもりはなかったけどさ。

 足手まといが増えたと嘆くのは簡単だが、女の子の一人ぐらい守れなきゃカッコ悪いよな。

 だがそこの! 尻尾をまっすぐピンと立てて鼻息荒く先頭を歩いてるそこの猫! テメーはダメだ。男なら自力で何とかしやがれ。いや知らんけど。ヨシコがオスだって言ってたから多分オスなんだろうさ。メスだったとしても野生の勘で何とか頑張ってくれ。

 

「ところでカルロスさん。カルロスさんの言っていた脱出以外の目的って言うのは何なんですか? 場合によってはお手伝いしますけど」

 

 余計な情報を与えるべきではないかもしれないと思ったが、すぐに考えを改めた。オレが目ざしているのは万が一生き残った仲間が居ればその回収と、裏切り者の排除。

 裏切り者とはいえ、今までとは違う、バケモノじゃない生身の人間相手のことだ。油断してソイツに近付かれてもこっちが困る。

 オレは歩きながら、簡単に状況を説明した。同じ傭兵部隊に仲間を裏切って殺し回っているヤツが居ること。ソイツの名はニコライ、オレの所属するUmbrella Biohazard Countermeasure Service……簡単にいや、アンブレラの私設プチ軍隊ってトコだな。その中でも今回の民間人救出作戦に出動したエコーチーム四個小隊のうち、デルタ小隊のB分隊隊長だ。もしかしたら路面電車で顔をあわせてるかも知れないな。

 もっとも、敵がニコライだけとは限らない。もしかしたら他の小隊に生き残りがいて、そいつも敵だったりするかもしれない。いずれにせよ、U.B.C.S.の隊員であることだけは間違いないだろう。

 

「ということは、そのニコライさんはカルロスさんと同じ服を着ているんですね」

 

「そうザン……だ。だから、見た目だけで仲間だとは判断しないで欲しい。もちろん着替えている可能性もあるし、生きている人間を見かけたら、とりあえずすぐには信用せずに疑っていてくれ。大丈夫かどうかの判断はオレがするから」

 

 オレとジルは除いて、な。そういってウインクすると、ヨシコもニコリと笑ってくれた。東洋人ってのは本当に年齢不詳だが、この子も小学生くらいに見える。あんまりムチャはしてくれるなよ? 出来るだけオレが守ってやるからさ。

 

 もう質問はないようなので、オレは意識を100%外側に向けた。さっきからゾンビどもの姿は見えねぇが、いつどこから襲い掛かってくるかわからないからな。

 街は相変わらず炎に包まれて、雲を赤く照らしている。雨が降っていないのは幸いというべきか。気配や音がかき消されることもないし、もしかしたら水を経由してあのくそったれウイルスが感染するかもしれない。オレはワクチンを打っているから大丈夫だとは思うが、ヨシコは無防備だ。

 オレは改めてヨシコを見た。日本人だということと身体つきから見て、戦争なんかとはまったく縁のない生活を送ってきたんだろう。……あまり、無理はさせないようにしないとな。

 とはいえ、この状況で全く動かないようじゃ困るんだが。まぁ、ここまで生き残ってきたことから言っても、そんじょそこらのお嬢ちゃんよりかは根性あるんだろうさ。

 

 さぁて、それじゃあ裏切り者と脱出方法を探しに行くとするか。

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