目覚めるとそこは廃墟   作:海砂

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第二十話

 俺は、B分隊の生き残りであるキャンベルとともに、ヨシコ(と猫)を守りながら街を探索した。これといった収穫はなかったが、ゾンビ化しかけていたマーフィーを殺し、裏切り者だったとはいえ眼前でタイレルを殺されたばかりの俺にとっては、キャンベルの生存は何にも変えがたいものだった。

 

「しかしよく生きていたな、カルロス。しかもこのお嬢さんを守りながらだろう」

 

「はっは、こう見えてこのお嬢ちゃんは、自力でゾンビくらい撃退できる子だからな。俺が守るまでもねぇよ」

 

 無論周囲を警戒しながらではあるが、俺とキャンベルは肩を組み笑いながら歩いていた。心なしかヨシコの視線が冷たい。

 

『ヨシコ、このオッサンは大丈夫だ。俺がアンブレラの部隊に入る前からの傭兵仲間でな、特に化学への造詣はハンパじゃねぇ』

 

 俺の言葉で安心させるつもりだったのだが、ヨシコは相変わらず白い目で俺たちを見つめている。まだキャンベルが信頼できないのだろうか?

 

「お嬢さんはジャパニーズか。俺も仕事でオキナワに行ったことがあるが、あれは綺麗な街だった」

 

「おいおい、お嬢ちゃんに英語はほとんど通じないぜ」

 

『オキナワくらいはわかります!』

 

 もしかしたら、俺はこの街に上陸して一番リラックスしていたかもしれない。おそらくそれは、キャンベルも同様だろう。

 俺はヨシコの背後にいたゾンビ野郎を撃ち抜き、キャンベルは車の陰にいたゾンビねーちゃんの足を砕き、ヨシコはまだ意識を持ったゾンビ犬の脳天をふっとばし、猫は頭の無い犬にネコパンチを食らわせていた。

 そうして徐々に歩みを進め、随分とデカい公園の前に立つ。門は閉められていたが、サイドにある警備員入り口のドアのカギは開いているようだった。

 

「公園か……何かあるとも思えないが?」

 

「だが、無事な人間は広い場所に避難しようとするだろう。もしかしたら生存者か、あるいは裏切り者が潜伏してるかもしれねぇ」

 

 俺の直近の目的はニコライの野郎をぶっ飛ばすことだ。奴だって生きている人間なのだから、落ち着いて休憩するなり通信するなりの場所が必要だろう。隠れる場所や建物はそれなりにあり、なおかつ見晴らしのいいこういった場所は、うってつけな気がするんだがな?

 

『私はカルロスさんとキャンベルさんにお任せします』

 

 ヨシコもこう言っているので、俺たちは警戒を緩めずに公園へと足を踏み入れた。

 街に比べるとゾンビの数は少ないが、おそらくこの公園で飼っていたのであろう動物たちの成れの果てが、ちょいちょい襲ってくる。もちろん、俺たちの敵じゃないがな。

 プチ動物園エリアを抜け、噴水をくぐり、墓地公園へと足を踏み入れた途端地鳴りに襲われた。

 

「大丈夫か?」

 

 ヨシコと猫は少しふらついた程度で問題はなさそうだ。俺とキャンベルには問題なんかありゃしねえ。もっとでかい地震に襲われたことだってあるしな。

 

 

----------

 

 

 墓地って嫌な予感がしませんか? なんか、お墓の下からヴァーって出てきそうな気がします。でもそんな事は全くありませんでした。ゾンビさんの数も路上に比べると随分少なくて、拍子抜けです。

 

「みるくちゃんは大丈夫ですか?」

 

 カピバラのおばけにかじられてますます短くなった尻尾を除けば、みるくちゃんも元気そうです。見た目はちょっと痛そうですが、痛くもかゆくも無いといった風情でスタスタと歩いてゆきます。みるくちゃんも強い子なのです。

 

 墓地公園の片隅に小屋がありました。キャンベルさんが扉を調べる間、私とみるくちゃんとカルロスさんで周囲を警戒します。あっ順番に他意はありませんよ? 私のそばにいる順番です。

 

「xxx xxx xxxxxx.xxx xxx xxxxx xxxxxx.」

 

 キャンベルさんの早口の英語はほとんどわかりません。カルロスさんに聞いてみると、鍵はかかったままで、多分そんなに重要なものも無いだろうから、別の場所に行こうとのことでした。

 むしろ重要なものってどこにあるんですかね? そういえばカルロスさんがジルのためにワクチンを探しに行った後に、ニコライさんのことについて何か言っていたような……。

 

「ニコライさんはアンブレラの上層部から指令を受けて動いてるんですよね? だったらアンブレラの施設にいるんじゃないですか?」

 

 単純に思ったことを言っただけなのですが、カルロスさんが目を丸くしています。

 

「それだ!!」

 

 そして英語でキャンベルさんと何やら話しています。後で通訳してもらったところによると、この街で大きなアンブレラ関連施設は二箇所。カルロスさんがワクチンを取りに行った病院と、街外れにある廃工場なんだとか。

 

「廃工場は危険も増すと思うが……それでも、俺たちについてくるか?」

 

 もちろん答えはイエスです。最初にカルロスさんについていくと決めた時から危険は覚悟していますよ? 別々に行っても、ジルさんについて行っていたとしても危険なのにかわりはありませんからね?

 

「xxx,xxxxxxxxx..........」

 

 キャンベルさんにもその旨をお伝えしているところで、再び地鳴りがして……目の前にいたキャンベルさんが消えました!?

 

「キャンベル!!」

 

 地面に大きな穴が開いていて、キャンベルさんはその中に引きずり込まれてしまったみたいです! 慌てて追いかけようとすると、穴の中から巨大な茶色いバケモノが姿を現しました。ミミズ? ムカデ? ヘビ?

 

「ちくしょう、ヨシコ、安全な場所に避難しろ!」

 

 まっぴらオコトワリですよ! 私はみるくちゃんをぽーいと小屋の上に放り投げると、頭を出しているバケモノに向かって、思い切りアサルトライフルをぶっ放しました。

 

『キャンベル! 無事か!!』

 

 私がバケモノを足止めしている間に、カルロスさんは穴の奥へとキャンベルさんを助けに行ったようです。バケモノも、銃撃を受けている間はさすがに身動きが取れないようで、カルロスさんを追う事も私の方に襲い掛かってくる事もなく、必死で耐えているようです。ということは、弾切れを起こしたら私もやられてしまう!!

 ところがどっこい、ムラカミさんが、この銃は撃っても撃っても弾が出てくると言っていました。こいつぁ便利です!! ひたすら撃ち続けているとやがてバケモノは牙だらけの口を大きく開き、地響きを立ててだらりと倒れました。や、やっつけられたのかな……?

 銃の先っぽでつんつんしてもびくともしないし、多分、足だと思うんですが体から短く伸びているトゲのようなものも、さっきまではぐにぐにと動いていたのに今ではピクリとも動きません。

 

 バケモノにビクビクしていると、みるくちゃんが降りてきて何発もネコパンチを食らわせていました。が、何の反応もないのでおそらくやっつけたのでしょう。やがてズルズルと重力に引きずられるようにして、穴の中へと落ちていきました。

 

「ヨシコ……」

 

 穴の中からカルロスさんが這い出てきましたが、顔が暗いです。

 

「キャンベルさんは……?」

 

 カルロスさんは、無言で首を横に振りました。さっきまで楽しそうに肩を組んでた二人だったのに……人って、カンタンに死んでしまうんですね……ひどく、怖いです。

 改めてこの世界に恐怖を感じてしまった私の表情を見てか、カルロスさんは私の頭をなでなでしてくれました。みるくちゃんも、私の顔を見上げながらすりすりしてくれます。

 

 しばらくそうした後……カルロスさんは、小屋の脇にたてかけてあったスコップを手にすると、大きくあいた穴を埋め始めました。

 

「カルロスさん……?」

 

「ここは墓地公園だからな、運ぶ手間が省けたぜ。キャンベルもあんなバケモノと一緒じゃ嫌だろうが、せめて埋葬してやらねぇとな……」

 

 私は無言で、その様子を見つめていました。みるくちゃんもじっと座って、見ていました。

 空気を読んだのか、他に化け物は現れませんでした。

 ぽつりぽつりと、雨が降り出しました。

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