目覚めるとそこは廃墟   作:海砂

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第八話

 路面電車に戻った私は、ミハイルとカルロスに、ニコライが死んだことを告げた。

 彼はもうここには戻ってこない。マーフィーは……ゾンビ化してしまったマーフィーを、カルロスが殺した。

 彼はその直後、非常に取り乱していたが、いくらか冷静さを取り戻したようだ。

 

 探してきたヒューズを交換し、専用に混合したオイルを継ぎ足す。切れた電線は前に戻ってきたときにつないでおいた。

 これでこの電車は動くようになるだろう。

 

『ヨシコ、きみはここにいて、ミハイル隊長をお願いするざんす』

 

 カルロスはどうやら彼女に、後部車両に残るよう伝えたようだ。

 私と彼で運転席の方へと向かい、彼が運転する。彼曰く、ほとんどの乗り物は運転出来るそうだ。

 

 ゆっくりと、だが確実に電車は動き始めた。そして徐々にスピードを増してゆく。

 

「うわぁああぁあ!!」

 

 突然、ミハイルの叫び声が聞こえた。運転はカルロスに任せて私は後部車両への扉を開ける。そこには……見たくないものが、居た。

 

「……s.t.a.r.s.……」

 

 あのバケモノ、まさかこの電車にまで追いかけてくるなんて……。

 ミハイルを見る。ヨシコをかばって攻撃されたようだ。いくつもの傷が増えている。

 

「ジル、ヨシコ、前へ行くんだ!!」

 

 振り向きもせずにそう叫びながら、ミハイルは手に持ったM4A1で応戦している。ヨシコの安全が最優先だ。私は嫌がるヨシコの腕を引っ張って、前部車両へと移った。

 

----------

 

 あー……やっちまったよ。てゆーか身動き取れないんだもんよぅ。俺の中の人、いや外の人? やりたい放題やらかしてます。

 路面電車のドア叩き破って突入するわ、よし子たんには見向きもせずに、武器を構えている隊長さんに向かっていくわ、ジルたんが入ってきた途端に目標変更するわ……。

 おーい、筋肉バカ、聞こえるかーい? このままだとお前さんヤバイよー?

 そこのね、隊長さんがねぇ、トドメ刺す武器持ってるんだよー。聞いてないか。

 

 ジルとよし子ちゃんを追いかけようとした俺を、隊長さんが足止めする。イラっとした俺は、とっとと殺してしまおうと隊長さんに駆け寄った。

 ウン、見えた。隊長さんがにやっと笑いながら、左手で腰にぶら下げてる手榴弾のピンを抜くのがね、こう、スローモーションで。

 hasta la vista, BABY. 彼がそう言ったような気がした。

 

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 後部車両からものすごい爆音が聞こえて、電車が激しく揺れています。

 私は手すりにしがみついているだけで精一杯でした。

 

 ……うっすらと覚えています。多分、ミハイルさんが手榴弾で自爆したんだと思います……。

 

「ヨシコ!!」

 

 ジルさんが私の方を見ます。平気だと頷き返しました。

 

「xxx!! xxxx xx xxxxx xxxx xxxxxxx!!」

 

 カルロスさんは運転席で何か叫んでいます。引き続き電車は暴走しつつ左右にぐらぐらと揺れています、このままでは倒れるのも時間の問題です、困りました。

 でも、しがみ付いている以外に私は方法を知りません!! ミハイルさんのことも、ムラカミさんのことも今は後回しです!

 

「ヨシコ! come on!!」

 

 返事を返す間もなくジルさんに引っ張られて電車のドアから飛び降りました。いや、まだ普通に電車は加速しています。飛び降りるのは危険があぐあせぅまじゃこれたあぶ!!

 

 ……舌をかみました。その程度で済みました。

 ジルさんが身を挺して私を着地の衝撃から救ってくれたようです。

 

「……あーゆー、おーけー?」

 

「ノー、プロブレム」

 

 ジルさんは笑顔で答えてくれました。見る限り、擦り傷程度しかないようです。すごいです。

 

 電車は建物か何かに突っ込んで無残に燃え上がっていました。あのまま中にいたらと思うとぞっとします。

 後部車両は完全に切り離されていました。爆発に耐えられなかったのでしょう。

 そうだ! ミハイルさんとムラカミさんは!?

 

「うー、あー、ミハイル? ムラカ……モンスター?」

 

 ジルさんは首を振りました。わからない、あるいは、もう生きていない……そういうことだろうと思います。

 カルロスさんは、私がジルさんに引っ張られてる時に反対側から脱出しているのが見えたので、きっと無事だと思います。

 この世界にいる人たちは、私以外は皆さんお強いのです。

 ムラカミさんも、ジルさんも、カルロスさんも、ミハイルさんも。

 私だけが弱いのです。

 何も知らないし、何も出来ないし、ただ怯えてじっとしているだけしかできないのです。

 

 ……くやしいです。

 ゾンビさんを一匹退治できたくらいで浮かれていた自分が情けないです。

 そして、この先生き残る自信がありません。

 間違いなく、皆さんの足手まといになってしまいます。

 それは、ジルさんを見ててよくわかります。

 それでもきっと皆さんは、私を助けてくれると思います。

 それが、くやしいです。

 

「ヨシコ?」

 

 その場から動こうとしない私の顔を、首をかしげながらジルさんが覗き込んできました。

 泣いてません。泣いてませんよ。

 

「えーと……ジル……あいうぃる、えーっと……るっくふぉー、マイフレンド。まいふれんど……モンスター……ひーいずマイフレンド!!」

 

 英語があってるかどうか自信がありません。でも伝わると信じます。

 私はジルさんと別れます。

 一緒にいたってお邪魔虫なだけです。

 私だけならともかく、ジルさんも危険です。

 幸い、ムラカミさんが残してくれた銃と、弾はたっぷりあるのでゾンビにやられる心配はないと思います。

 っていうか、いざとなったらこれでノーテンぶち抜けばいいと思います。

 ……そして、ムラカミさんのことが心配なのも事実です。

 私は、ただ脱出したいのではなく、ムラカミさんと一緒に脱出したいのです。

 

 ジルさんは、色々な言葉を私にくれました。

 多分、考え直せとか馬鹿なことをいうなとかついてこいとか、そんな感じだと思います。

 不思議ですね。言葉はわからなくても表情と身振り手振りだけで、結構相手の考えてることがわかるようです。

 なので、私も精一杯のボディランゲージでジルさんに伝えました。

 ムラカミさんが仲間だってこと。私一人ならムラカミさんが殺そうとしたりしないこと。

 ジルさんも(……彼が、とは思っていませんが、一応同じ体なので)ムラカミさんはスターズメンバーを狙っているということにはうすうす感づいていたようです。

 

「ヨシコ、Don`t move. stay here. ok? a little time.」

 

 ジルさんは、私にわかりやすく、単語をぶつ切りにしてくれました。これならわかります。

 頷くと、目の前にある半壊した部屋から出て行って……たぶん、10分くらいして戻ってきました。

 その間に燃え上がるゾンビさんが3人ほどやってきましたが、何とか撃退できました。

 

「ヨシコ、you can have this.」

 

 ジルさんは、なんかひょろ長い銃を私にくれました。ええと、これは……ショットガン、でしょうか?

 しかも弾もたくさんくれて、撃ち方と弾の込め方も丁寧に教えてくれました。

 これを私にくれるのでしょうか。

 

「watch out everything...ok?」

 

 首をかしげていると、身振りで教えてくれました。

 私とあなたはここで別れる。あなたは周りのものに気をつける。

 多分……そういった感じだと思います。

 ジルさん、わかってくださったようです。

 

「ジル……サンキュー、アイムソーリー、グッドラック、アイラブユー!!」

 

 一瞬、きょとんとした目をして、それからジルさんは豪快に笑い出しました。

 私、何か変な事を言ったでしょうか……。

 

「all right! I wanna see again!」

 

 ジルさんは、片手を振って行ってしまいました。

 これで正真正銘、私は一人です。……ちょっと無茶をした気もしますが、気にしないことにしました。

 まずは、ムラカミさんを探します!!

 きっと、電車が来た方向にいるはずです! ……火が轟々と燃えさかっていて、とても戻れるような状況じゃありませんが。

 ここで待っていたら、来てくれるでしょうか。

 いいえ、私から探しにいくべきです! ……ドコニ?

 

 

 ……困りました。どうしましょう。

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