「ウマソウルってうるさいよね」「えっ」「えっ」 作:バクシサクランオー
感想、誤字脱字報告もありがとうございます。
U U U
《あれ、ダスカを誘わないの?》
んー、だって、さあ。
VRウマレーターは従来のトレーニングを一新させうるシロモノだ。
今日明日中に実用化されるというわけではなくとも『そういうものがある』と知っているだけで確実に何かが変わる。
それの体験版ともなれば、それは大きすぎるほどの価値を持った情報となる。
いま私は葵トレーナーの担当ウマ娘で、同じ肩書を有するウマ娘が二人いて。
現在の学園ではアオハル杯という非公式のチーム戦が開催中で、私はその中で〈パンスペルミア〉というチームに所属していて。
そんな価値のある情報を自らが属する組織より先に他人に流すのは不義理ってもんでしょ? 利敵行為とまでは言わないけどさ。
《あー、そういう……》
まずは私と同じ、宝塚記念に出走した影響で夏合宿への参加が遅れている二人に声をかけて。次に〈パンスペルミア〉の中で気心が知れていてゲームが好きそうな相手に声をかけて。
それでもチケットが余っていたらようやく候補に挙がる。スカーレットの立ち位置はそういうものだろう。
《うーん。感覚的に理解できない部分をロジックで埋めるのは有効な手法だと思うけどさ。だからといって常にロジック優先じゃなくてもいいんだぜ? 感情が訴えかけてきたりしないの?》
べつに私情を押し殺しているってつもりはないよ。
昨年の冬に同じ状況ならまた優先順位が異なったかもしれないけど。
彼女はもう走れるもの。
スカーレットは今年の夏合宿の顔合わせに、チーム〈キャロッツ〉のメンバーの中にちゃんといたのだ。
夏合宿のハードなトレーニングをこなせるくらいには回復しているということである。もちろんいまだレースに出走していない以上、万全とまではいかないのだろうけれども。
リハビリというのを私は知識でしか知らない。どれほど繊細で持続的な努力が必要な行為なのか、目が滑るような文章越しにしかわかっていない。
VRウマレーターはいまだ試作品の域を出ない。画期的だが不安定で未完成なのだ。
せっかくここまで上り詰めてきたのに、余計なものを挟み込んで調子を崩してほしくない。
待っているのだ。
一緒に遊びたくないの? と問われたら首を横に振るのはたやすいけどね。
そういうわけで、リストの上から声をかけていって。
あっさり枠が埋まったのでスカーレットに声をかけることはなかった。
U U U
キャラクタークリエイトを始めますか? とアナウンスが入る。
だが、この時点で私の中にテンちゃんの反応がない。
はてさて、テンちゃんと一緒に仮想世界を遊べると聞いたからほいほい誘いに乗り、ゲスト枠上限いっぱいの四人まで友人を引き連れてここまで来たのだが。
私のテンションが露骨に下がった。騙されたのだろうか。技術がまだ追いついていないのだろうか。
己が物理法則にケンカを売った生態たるウマ娘、その中でもさらに輪をかけて常識外れの謎生物という自覚はある。だから科学が追走しきれないことに、ことさら苦情を申し立てる気はないけども。
期待して裏切られるのはやっぱり落ち込むし、腹が立つ。
いや、まだ結論を焦ることはないか。
キャラクリが終わってゲーム本編が始まればそこにはちゃんとテンちゃんがいる……という可能性はゼロではない。これでも一か月近く共にお仕事をしていた仲だ。浅くて短い付き合いなりに信頼関係はある。
サトノグループの変態技術者集団ども、あの人たちは本当に目がないことをいたずらに期待させるようなことは言うまい。だったらさっさと作成してしまおう。
幸か不幸か、キャラクタークリエイトで設定できる項目はとても少なかった。
『
これだけだ。
一日で終わる特別シナリオと聞いていたし、その都合だろうか。キャラクリなんてこだわる人間はとことんこだわるものだ。うかつに豊富な選択肢を用意していた日にはそれだけで時間が無限に溶けてしまう。
あと今更だが、一緒にゲームにログインしたはずの友人たちの姿も見当たらない。
こういうタイプのRPGはパーティーを組むのが前提で、どんなジョブの組み合わせにするかというのもかなり重要な要素のはずだ。前衛後衛のバランスがわからないままキャラクリを始めるのはかなりリスキーじゃなかろうか。
そうでなくとも知人友人で一緒にログインしたのなら、キャラクリの時点からわいわい話し合いながらキャラ作成をしたい人が多数派では? 私はひとりでじっくり考えながらやるのも好きだけどさ、今日はそうじゃないのだ。
このあたりは後で意見をまとめて運営に送っておくかな。仕事ではないにせよ、β版を遊ぶ身としてはやっておくべきことだろうから。
ざっくり各種ジョブの説明を流し読みして、【バーサーカー】を選択する。
Cランク以下の近接武器ならすべて装備可能というのが便利そうだ。武器を選ばない達人というより、何を手にしてもやることは同じ狂戦士というニュアンスなのだろう。剣や槍など特定の武器に特化した専業前衛職と比べると攻撃補正はやや低めだった。
また防具に大幅な装備制限がかかるが、これは当たらなければ問題ない。全般的にプレイヤースキルで補ってしまえばいいのだ。
プレイヤーたるウマ娘のスペックがそのまま適用されるというのが、VRウマレーター提携ゲーム最大の特徴なのだから。
決定ボタンを押すと、私の姿が今日着てきた制服からジョブ衣装に早変わり。外見を確認するためか、目の前に大きな鏡のオブジェクトが出現する。
おおう、すごいな……。
オオカミの毛皮らしき材質で作られた胸当てと腰巻。ごついサンダル。頭には獣の頭蓋骨でできた兜。以上。
いや、素肌の上に青い塗料で文様が描かれている。戦化粧なのだろうか。だがそれらを衣装に含めたとしても、それにしたって、うーん……。
原典のバーサーカーは戦場においてあえて防具をつけないことでその猛勇を示した者とも、獣の皮を身に纏いその力を己に宿した者とも言うし、そういう意味では原典をイメージした意匠なのだ。
粗末な骨製とはいえ兜があるだけ原典より文明的とさえ言える。
ただ、全身の戦化粧がまるわかりな衣装の構造が問題というか……お腹も二の腕も足もむき出しだ。
自分の身体に自信がないと着られないデザインだぞ、コレ。そりゃあ中央のウマ娘ならステージ衣装や勝負服などで慣れているけどさ。
平均的なヒトミミにはきついのでは?
かなり手の込んだクオリティだというのをこの時点で感じているが、どこまで流通させる気なのだろう。ウマ娘専用ゲーム? ちゃんと採算はとれるのだろうか。
あと、私だからこんなもんで済んでいるが。スカーレットあたりが着たらゲームのレーティングが上がりそう。
まあ、私が心配してやることでもないか。
くだらない雑念はここまでにして、さっさとキャラクタークリエイトの最終決定ボタンを押すとしよう。
風が肌をなでる感触。耳朶を揺らす水しぶきの音と人々のざわめき。排気ガスがいっさい含まれない、でも人間が暮らす街特有の匂い。
これがデータで再現されただけの作り物だなんてね。
目を開くとそこは中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。
あくまで『風』であってガチ中世ではないようだが。人糞がそこら中に転がっていてそれを放し飼いの豚が食べている、なんて暗黒期の雰囲気はない。
日本人の感性でも合格点を出せるくらい、きわめて衛生的な古典ファンタジー風味の光景。
テンちゃんが言っていたナーロッパというやつなのだろうか。ネットスラング発祥で当初は蔑称に近しい意味合いもあったのだが、今ではRPGによくある世界観を示す言葉として一般名詞化しつつあると、いつかどこかで語っていた覚えがある。
さて、現状確認……の前に。
やっぱり私の内側にテンちゃんを感じない。脈動がない。冷えて腐っていきそう。
「……うそつき」
マッドサイエンティストどもの挑戦は、今回は敗北に終わったようだ。
私のテンションがガクッと下がった。
ただ、だからといって腐ってばかりもいられない。私が誘ったのだから。一緒に遊んで楽しむのが筋というものだ。
絶不調は確定かつ固定だが、それはそれとしてテンションは上げていこう。がんばろう。
では改めて現状確認。
私が今いるのは噴水の前。水音の正体はこれか。
雰囲気的に、ここは街の中心部に位置する広場といったところか。キャラクリを終えたプレイヤーキャラの初期スポーン位置としては妥当な場所だろう。
待ち合わせ場所としても活用できそうだ。街並みを眺めるだけでも十分に暇つぶしできる。広場を行き交うNPCが思い思いの行動を取っているのを見ると、まるで本当にファンタジーRPGゲームに画面を越えて迷い込んだみたいな気分になる。
……テンちゃんと来られたら楽しかっただろうなあ。
「ごめん、待たせたかな?」
そしてキャラクリをけっこうサクサク進めたつもりだったのに、もうすでに二人いる。
意外だな。一番乗りだと思ったのに。ミーク先輩とデジタルの姿は見えないからちょうど真ん中かな。あの二人は他者を置いて勝手に先を行く性格じゃないから。
それはどちらかと言えば、今こうして目の前にいるマヤノとテイオーの方だ。この二人ならその場のノリでワンチャンやりかねない。
「ううん、マヤたちもさっき来たところだよー」
「あれ? え、リシュ?」
可愛らしい魔女のコスチュームに身を包みチャーミングな笑みを浮かべるマヤノと、何故か制服姿のまま目を白黒させるテイオー。
ミーク先輩とデジタル、ついでにテイオーは私と同じく宝塚記念に出走してガリガリと心身を削りあった仲なので釣れる公算が高かったが、マヤノが一発で釣れたのはラッキーだった。
加減を考えず全力で遊び倒すってときに、一番相性がいいのはマヤノだから。
ちなみに彼女は夏合宿不参加というわけでも、サボりであるわけでもなく、たまたまマヤノ陣営が休日に設定していた日と合致しただけであるということは明記しておく。本当に運がよかったのだ。
あと余談というかなんというか。
テイオーを誘ったときに『えっ、あんなことがあってまだ日も浅いのに誘ってくるの? こいつマジ?』みたいな反応された挙句、最終的に『もー、仕方ないなぁ』と言わんばかりの顔で誘いを受けられたことに対しては微妙に納得していない。
そりゃあテイオーは宝塚がトゥインクル・シリーズ初敗北だから私に思うところがあるのは当然だけどさ。
自分が負かした相手ってこと気にしていたら誰とも仲良くできないんだぞ。
だって私最強だもん。
「マヤノの格好、可愛いね」
「えへへー、ありがとー」
「ソーサラー?」
「ううん、ウィッチにしたよ。いちばん可愛かったんだもん!」
なるほど、マヤノは【ウィッチ】か。
バランスよく攻撃魔法を覚える【ソーサラー】(厳密には女性格なら『ソーサレス』と表するべきだけど、ゲームにおいて『ソーサラー』表記に統一されていることは珍しくない)に対し、やや妨害系統に寄った魔法職だったはずだ。
その分単純な魔法アタッカーよりトリッキーな立ち回りを要求されるが、それこそマヤノにはぴったりだろう。
しかしテイオーはなんで制服のままなんだ?
……ああ【すっぴん】か。そういえばあったな、そんなの。
ジョブスキル『才能開花』を使うことで一定時間、その場で即座に任意のジョブになれる。状況に合わせた最適解を後出しで選べるジョーカー枠といえば聞こえはいいが。それ以外にジョブスキルもボーナスもない、はっきり言ってしまえば上級者向けジョブだったはず。
すべてのジョブを一通りこなしてそろそろ縛りプレイを楽しんでみたくなってきた人向け、と解説テキストにも記載されていた。
ウマ娘として培った種族スキルやステータスはゲーム内にそのまま反映されているはずだし、テイオーのスペックならそんじょそこらのファンタジー生物に後れを取るようなことはないだろうけどさ。
初めてやるゲームでそういうことしちゃうとはチャレンジャーだね。
ゲームが趣味で特にダンスゲーが得意というテイオーだし、身体を動かすゲームには自信を通り越して自負みたいなものがあるのかもしれない。
そんなことを思いながら彼女の姿をしみじみ眺めていると、テイオーは相変わらず怪訝そうに眉をひそめてこう言った。
「ねえ、なんでまたリシュがログインしてくるの?」
あれ、ケンカ売られた?
「さっきミークとデジタルの手を引いてあっちに行ったじゃん。ボクたちにはここで待っているように言ってさ。β版とは聞いていたけどさっそくバグった? 回線切れて緊急ログアウトとか?」
と思ったけど、そういうわけでもなさそう。
びっくりした。急にケンカ売られたのかと思った。
本当にどうしようかと思った。私は売られたら買うタイプだから。
「って、私が最後だったの?」
「そうだよー」
「え、いや、最初からいたけど……あれ? んん?」
それはちょっと驚き。
首肯するマヤノと困惑を深めるテイオーを傍目にそう感じる。
けっこうサクサク進めたつもりだったんだけどな。ああいう設定はフレーバーテキストまでじっくり読み込みそうなデジタルや、初動がゆるやかなミーク先輩より遅かったとは。
いや、さすがに不自然だろう。
テイオーたちの反応を含め、私のあずかり知らぬところで何か起きているのはほぼ確実と見てよさそうだ。
「うーん? 何か違和感が……」
「リシュちゃん、両目とも青くなってる」
「ああ!」
ぽんと手を打つテイオー。喉の奥のつかえが取れたようにその表情は晴れやか。
対するマヤノはいつもの『わかっちゃった』ときの笑みを浮かべて言葉を続ける。
「最初にいた方はまるでリシュちゃんみたいな言葉遣いをしていたけど……どっちのおめめも赤かったよ」
えっと、それは。つまり――
ドンガラピッシャーン! 鈍い思考を雷鳴が遮る。
それはまさに青天の霹靂。
先ほどまで快晴だった空は禍々しい赤い雷光に切り裂かれ、夕方をスキップして夜になってしまったように分厚い暗雲が広がり日を遮る。
「な、なんだあ?」
「なんという不吉な雲だ……」
「これは、予言の……? ま、まさか!?」
『…………』
ざわめくのは周囲のNPCたち。
そんな中、私を含めウマ娘三人組はやけに冷静に沈黙を保っていた。
これは別に、どんなときでも冷静沈着な器量のあらわれとかではなく。単純に思い出したからである。
そういえばここってゲームの世界だったねー、と。
あまりにリアルだったから失念しかけていた。だがこうしてあからさまな導入イベントが発生すれば、いやでも思考がゲームのイベントを前にしたプレイヤーのそれになる。
ここまでコッテコテの魔王復活イベントを見せられたらねえ。この歳になるまでそれなりにゲームを嗜んできた身からすれば。
とりあえず、次に取るべき行動の指針を探すのも含めて。復活したのであろう魔王さまの
『ワーッハッハッハ! 我ここに復活せり!』
おおかたの予想通り、半透明の巨大な胸像が空に現れた。
赤い双眸に輝かんばかりの葦毛。鏡越しによく見る顔を私にはできない角度に歪め、満面の笑みを浮かべている。
ああ、やっぱりそういうことかと納得が胸中を満たした。
これでもプロのアスリートとアイドルを兼任しているような立ち位置たるトゥインクル・シリーズのウマ娘。走法のチェックしかりダンスの練習しかり鏡越しに己の動きを確認することは多いし、自身の映像記録を目の当たりにする機会にも事欠かないが。
リアルタイムで私が別人のように動くのを、外部から俯瞰するのは初めてだ。
違和感がひどくて落ち着かない。肉眼で自身の後頭部を直視してしまったような気持ち悪さがある。
なにやってんのさ、テンちゃん。
『この魔王が世を征服した暁には弥生賞のタイトルを弥生賞プイプイ記念に変更してやるプイ!』
「なんということを……」
「神をも恐れぬ暴挙じゃ!」
「なんで弥生賞? プイプイ記念ってなに?」
「さあ? マヤもわかんなーい」
恐れおののくこの世界の住人には、いったいどんな悪行に聞こえているのだろうか。
生まれたときからの付き合いだが、半身が何を考えているのか今でも稀によくわからなくなる。
ただ何となく、すでに魔王ロールプレイに飽きつつあって話を適当に畳もうとしているなー、ってのは伝わってくるけど。
『ククク……四天王を打倒し、この魔王城までたどり着いてみせるがいい! 待っているぞッ!!』
それでも五分ほど、中身が紙風船くらいぎっしり詰まったどうでもいいことをつらつらと並べ立て、最後にそう言い捨ててから空を覆いつくしていた魔王の胸像は消えた。
それと同時に空は快晴に戻り、先ほどまでの光景がまるで夢だったかのように遠くで小鳥たちがさえずり始める。
ただ、文字通りの鳥頭どもと違ってこざかしい人間たちはそう簡単に切り替えられない。先ほどの一件が夢幻ではなかった証左に小鳥たちの歌をかき消す無粋なざわめきがあちこちから広がり始める。
「あーあ、さいごまで真面目に聞いちゃったけど得られた情報は少なかったなあ」
「たぶんさっきのはイベント開始フラグで、詳細は周囲のひとたちから自分の興味のあるものを選んでいくタイプなんじゃないかな? ほら、よく聞いてみると『王様が~』とか『西の砦に~』とかフラグっぽいことを言っているひとがいっぱいいるよ」
なんだかんだ言いつつテイオーとマヤノがしっかり情報収集と考察、およびこれからの行動指針を組み立ててくれている。
悪いんだけど、私はもうしばらく使い物になりそうにないから引き続きお二人にお願いしますね。
サトノグループの変態マッドサイエンティストどもは宣言通り、確かに私とテンちゃんを同時にこの仮想世界に送り込むことに成功したようだ。
違う、そうじゃない。
ノリノリのテンちゃんの様子から察するに事故やイレギュラーではなく、事前にこうなることがわかった上で今回の一件に臨んだのだろう。
思うことは今のところ一つ。サプライズは悪い文明、滅びるべき。
これが私への悪意に基づいた行動ではないのは確実だけれど。事前に相談はしておいてほしかったぞ。
時限爆弾が爆発するまで刻々と神経をすり減らすことしかできない時間に他ならないのだとしても。それでも爆死するまでに覚悟はしておきたかったもん。
あ、いま視界端に『グランドクエスト【魔王を討伐せよ!】』って表示が出たわ。
マヤノの読み通りだとするとここから通行人に話しかけることでメインなりサブなりのクエストフラグが立ち、それをこなしていくことで最終的にグランドクエストに繋がっていく、ということになるのだろうか。
……ん? なんだこのアイコン。ついでとばかりにポップしたけど。
なになに、ウマ娘種族スキル『ペースアップ』?
あー、うん、ふむ、なるほど? つまりこれを使えばシナリオをスキップできるわけか。効果範囲は最大で最終決戦手前までと。
身も蓋もないというか、風情に欠けるというか。思うところが無いわけじゃないけど。
これは仕方のない処置だろう。
普通のゲームならセーブしてまた後日とすればいいが、これはまだ市場に流通していない筐体を利用したVRゲーム。
プレイヤーである私たちもこれでなかなか多忙な身なので筐体と参加メンバー全員の都合が次に合うのはいつの日になることやら。
つまり実質的に『次回』は存在しない。今日中にゲームオーバーなりクリアなりを迎えなければ、このシナリオは中補半端なところで永遠に放り投げられるとみていい。
だから今日中に絶対に決着までいける仕様を組み込んだ、と。ある意味で潔い。私は嫌いじゃないよ、そういう割り切り。
どうしてシナリオスキップが種族スキルにカテゴライズされているのかは激しく謎だけどね。
よし、少しずつだけど頭が回ってきた気がする。
「ねえ、巧遅より拙速でいいよね」
「いきなりだねー」
「気分次第で結論から話し始めるの、リシュの悪い癖だと思うよ?」
そう言いながらもちゃんと話についてきてくれるのがこの二人である。
「つまり最低限のクエストをこなしてレベルアップして、戦えるくらい強くなったら『ペースアップ』を使って
「えー、ボクはもっとじっくり楽しみたいなー。だいたいリシュ、テンちゃんとはやく合流したいだけでしょ?」
それ、いまさら答える必要ある?
わかりきったことをわざわざ肯定する必要もない。それにちゃんと大義名分は用意してある。
ここで素直に首肯した方が話はこじれる。それがわかるくらいには私なりに対人経験を積み重ねてきたし、今はゆっくりと頭も働いている。
「時間の経過は私たち以上にあちらの味方だ。四天王ってデジタルとミーク先輩のことだと思う」
「あー」
「うーん、そういうことかぁ」
打てば響くというか。
こちらの言いたいことをこの場にいる全員が即座に理解してくれるのは心地よい。まあこれは才能やセンスがどうこうというよりも、お互いがお互いのことをよく知っているという方が大きいが。
魔王サイドと私たちサイドで二分割された今回のメンバー。
物事の習熟速度という観点で並べなおすと、こちらのグループの方に速い者が固まっているのだ。
そりゃあウマ娘全体の平均と比べたらみんな頂点に近い上層なのだが。
そんな中で比べあって順位をつけるのがトゥインクル・シリーズのGⅠという舞台であるからして。
「デジタルもそうだけど、特にミーク先輩は時間を与えれば与えるだけヤバい。スロースターターがスローでいてくれるうちに勝負できるレベルまで上げて押し切っちゃうのが、一番勝率が高いと思う」
ぶっつけ本番みたいな状態でプロト・ウマネストに降り立ったのはあちらも同じだろう。だって他ならぬ私が選んだメンバーだ。例外といえば仕込みを行ったテンちゃんくらいか。
もしかしたら四天王になった彼女たちにはエネミーサイド特有のボス補正みたいなものが入るかもしれない。いや、あの魔王復活の陳腐なテンプレを踏襲した演出を見るに、入ると考えて行動するべきだ。
だがいくらキャラクターが優秀でも使いこなせなければ意味がない。ゲームの基本にして鉄則である。
キャラクターのスペックを掌握するのはこちらのチームの方が早い。ならばそれを活かすのは当然のこと。ゲームをしている以上、こちらの勝利でハッピーエンドを目指すのはゲーマーのたしなみというもの。
充分な時間をかけて習熟したミーク先輩の怖さはこの場にいる三人とも、骨身にしみて理解している。
強い相手に勝ってこそという考え方もあるし、なんならそっちが王道なのだろう。だが相手にはない強みが己にあり、それが強大な相手への決定打になりうるなら躊躇しないのが私たちだった。
ガチすぎる? とーぜん。遊びとはいえ本気になれないようなウマ娘ならトゥインクル・シリーズという魔境で今日まで走り続けたりしない。もっと適当なところで切り上げて、平穏無事なルートを選ぶだろう。実に賢明な判断だ。
「でもさー、“四天王”には数が足りてないよね? おデジふえる?」
「マヤノはデジタルのことをなんだと思っているんだ……」
たしかに栄養(ウマ娘ちゃんグッズ)のある場所に放置していれば勝手に増殖しそうなイメージはあるけども。
「もう半数をNPCで埋めているか、あるいは四天王だからって四人いるとは限らない理論でごり押ししているんじゃない? 少なくともこの状況でデジタルとミーク先輩が四天王をやっていないってことはないと思う」
「それはそうだねー」
むしろテンちゃんなら『四天王が四人のわけないだろ!』とか力説しそうだ。
長期連載なら裏四天王や影四天王が出てくるのが当たり前。そういう使い古された路線でなくとも苦労して倒した四天王だと思っていた相手が実はただの副官だったり影武者だったりなどのどんでん返しがあり、四天王編がきっちり四戦で終わることなどありえない、とか。
逆に打ち切り展開なら最初の一人が実質的なストーリー上のラスボスで、それをなんとかかんとか倒したところに何故か四天王最強が現れて『俺たちの戦いはここからだ!』的なエンドが鉄板、とか。
テンちゃんはそこにいないのに、克明にテンちゃんが言いそうなことが脳内を流れていく。はやくも禁断症状かな?
「メニュー画面から自分のジョブで習得できるスキルは確認できるみたい。当面はクエストをクリアしつつエネミーの手ごたえを確かめて、ラスボス戦に挑める最低ラインを計るって感じでどうだろう?」
異論が出なかったので、そういうことになった。