「ウマソウルってうるさいよね」「えっ」「えっ」 作:バクシサクランオー
相変わらず三女神の圧が強いのでがんばった。
次の周年ではその三女神がシナリオに絡んできそうですね、楽しみです。
……公式設定が出る前に好きなこと言っておこ。
宣言通り、サクラバクシンオー視点からの開始です。
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感想、誤字脱字報告もありがとうございます。
サポートカードイベント:バクシン的証明いざ参らん!
U U U
「良バ場ならきみの勝利は揺らがない」
「はい、もちろんですとも!」
前日のミーティングでトレーナーさんはそう断言してくださいました。
このタイミングでミーティングとは珍しい気がしますね。毎回、何を言われても当日には綺麗サッパリ忘れていることが多い私なので!
「だが不良バ場なら、タイキシャトルは無視できない脅威だ」
「さすがはタイキシャトルさんですね!」
“雨の中の無敵”とも謳われるタイキシャトルさん。その恵まれた体格から繰り出されるパワーは重いバ場をものともしません。
それにしても、私を誰よりもよく知っておられるトレーナーさんにこうまで言わせるとは……さては彼女もまた学級委員長の資格を持つ者なのでは?
この前もタイキシャトルさんの主導でバーベキューパーティーが開催されましたしね。“最強マイラー”と称されるほどの模範的マイル戦績と、皆を先頭に立って導く姿勢。うむうむ、私には及ばないまでも彼女もまた優等生なのでしょう。
「はて? それではリシュさんはどうなのでしょう?」
「テンプレオリシュ、彼女は……」
我がアオハル杯チーム〈パンスペルミア〉の可愛い後輩であるところのリシュさん。
ここまで無敗。今年に入ってからの主な勝利だけを数えてもクラシック二冠にNHKマイルCと、ジャパンダートダービー。アオハル杯の区分でいえば既にマイル、中距離、ダートの三部門でGⅠを制しています。まあアオハル杯のダート部門はマイルが主で、
あらゆる生徒の模範になるという学級委員長の精神を受け継いだ輝かしい戦績。あるいは次世代型学級委員長とは彼女のことなのかもしれません。
しかし学級委員長と言えば私、私こそが学級委員長!
新たに短距離GⅠへ挑戦した気概はおおいに結構、花丸を差し上げましょう、マルッ! ですが挫折を教えるのも先達の重大な役割! あなた方がこの経験を糧に大きく成長してくださることを切に願います!!
「わからん!!」
「ちょわ!?」
トレーナーさんは、それはもう力強く断言しました。
「いや本当にわけがわからん。何なんだアレ。同じチームで一年以上の付き合いがあるし、なんならサブトレーナーとしてトレーニングを監督したことさえあるが、まったくもって理解できん。良バ場とか重バ場とかもうそういう次元の話じゃない。どうしてウマ娘が壁を走るんだ!?」
リシュさん曰く、手足を問わず指が三本引っかかれば全体重を支えることができるそうです。
それならばと私も壁走りに挑戦し、うっかり校舎の壁を握り潰してしまったのも今となってはよい思い出。あのとき生徒会にそれ以上の練習禁止を言い渡されていなければ、今頃の私は学園を縦横無尽に駆け巡る三次元完全掌握型学級委員長になっていたことは疑いようがありませんね! 残念無念。
「トレーナーさん、おちついてください。その、あなたに揺らがれると私……」
ふと気づいてしまいました。
異例のタイミングでのミーティング。もしやトレーナーさんは次のレースに不安を覚えておられるのでは?
いえいえ、まさかそんな。
そんな私の疑念を晴らすようにトレーナーさんは大きく息を吐き出すと、腕を組んで笑みを浮かべます。
「ああ、すまない。少し取り乱した。
君があまりにも速すぎて理解が追い付いていない周囲に、今年もう一度教えてあげよう。最強はサクラバクシンオー、その揺るぎない事実を」
ああ、その目です。
その灼熱の瞳を私は信じようと思ったのです。あなたの言葉ではなく、あなたを。
信じると決めた以上はバクシンです。どれだけ無理筋な理論であろうと私は飲み下しましょう。それが器量というものでしょう。
言われるがまま走ったその先に、あの時あなたが約束してくれた未来がある。
スプリンターズS連覇。
それは私にとっては夢でも目標でもなく、ただの証明でした。
かくしてスプリンターズステークス当日。
本日の天気は雨のち曇り! バ場は稍重の発表となりました。
『秋の気配が近づく中山に快速自慢が集う! 電光石火・スプリンターズステークス!』
トレーナーさん曰く、私の走法は良バ場でこそ本領を発揮するそうです。つまりバクシンですね!
もっとも、たとえどんな不良バ場であろうと私はあらゆるウマ娘の模範たる学級委員長。そのスピードが揺らぐことは無いと皆様へ御覧に入れましょう!!
『人気と実力を兼ね備えた一枠一番テンプレオリシュ、今日は三番人気です』
『クラシック級でありながら三番人気に推されましたテンプレオリシュ。“銀の魔王”はここでもなお無敗の伝説を貫くことができるのか。一枠一番という好ポジション、風は吹いていると言えるでしょう』
地下バ場でお見かけしたリシュさんは、黙って一礼しただけで話しかけてくることはありませんでした。
もともと普段の彼女はあまり多弁な方ではありませんが、それを差し引いてもこれまでにない雰囲気だったように感じます。
冷たくて、熱い。まるで走る前から掛かっているような気さえしました。
私とのレースを目前に緊張するなというのは無理難題かもしれません。それでも悔いの残るような走りにならなければいい、そう思います。これは侮りではなく老婆心というものでしょう。
いえ、リシュさんがクラシック級ということもあり彼女とレース直前に顔を合わせるのは実のところこれが初めてです。あるいはレース前の彼女はいつもこんな感じという可能性もありえますね!
それならば心置きなく全力で迎え撃つだけですとも!!
『二大マイル戦覇者タイキシャトル、二番人気。七枠十三番での出走です』
『“最強マイラー”も本日はスプリントの玉座を前にした挑戦者。稍重のバ場は彼女にとって有利な要素ですが、はたして短距離の絶対王者に届きうるのでしょうか』
タイキシャトルさんはさすがの貫禄ですね。
普段は私に負けず劣らず落ち着きのないところのある方ですが、あの気迫のこもった笑み。今はしっかりと目の前のレースに集中できてるようです。素晴らしい!!
相手にとって不足なし! できれば短距離の防衛戦ではなくマイルで覇を競い合いたかった……いえ、この勝利のあとにバクシン街道をマイルまで延ばせばいいだけの話です。さすがのトレーナーさんもそろそろ許してくださる頃合いでしょうから。
『そして威風堂々とスタートを待つのはこのウマ娘。二大スプリント覇者、八枠十五番サクラバクシンオー、一番人気です。満を持して連覇に挑みます』
『錚々たる面子の中でもまったく揺らがぬ王の風格。敵は背中から追ってくるのか、それとも去年の自分自身か。記録の更新にも注目です』
観客席が割れんばかりの大歓声。びりびりと肌が震えます。
ええ、ええ、思う存分に期待してくださって結構ですとも! 私が高く評価されるのは当然のことですから。
いえ、決して観客席の皆様の声援を軽んじているわけではありません。もちろん、今ゲートに並んでいる方々を侮っているわけでもありません。
皆様の憧れであり模範であるべしと、私は今日までトレーナーさんと二人三脚でトゥインクル・シリーズを走ってきました。
私のような時代の寵児にして学級委員長が、私の選んだトレーナーさんと共にバクシンしてきたのです。ならば今日までの成果とそれに伴う評価は奇跡でもなければ過分でもない、『当然のこと』。
私が自慢げに胸を張らなければ、私より遅い方々は背中を丸めて生きていかねばなりません。つまり私が最速である以上、すべてのウマ娘が下を向いて歩くことになるのです。
当たり前の成果を受け取らないことは、成果以上のものを奪い取ろうとするのと同じくらい傍迷惑なことではありませんか?
『ゲートイン完了。出走の準備が整いました』
しんと静まり返る一瞬。
ぎゅうと高まっていく内圧。ぐぐっと自身の集中力が撓み、一段階上に昇華されきらりと光を放ちます。
どろりと時間が粘度を増したゲートの中、少し先の解き放たれる刻に指が触れ、刹那が手中にすっぽり収まる感覚。
それとほぼ同時。ゲートの冷たい金属で幾重にも区切られた右の最端から、ゆらりと蒼いオーラが立ち昇るのが視界の外でしっかり見えました。
領域具現――
唐突な青空。
鳥居の奥に見える参道。その両脇に連なる無数の風鈴。
吹き抜ける風で一斉にきゃらきゃらと鳴り出すそれは何かの笑い声のようであり、神社の独特な空気と相まって納涼とはまた別の涼しさを感じさせるものでした。
こんな荒唐無稽な世界の侵蝕を、我々の業界では“領域”と呼びます。
『今スタートを切りました! まっさきに飛び出していったのは一番テンプレオリシュ!』
『電撃六ハロンにふさわしい十六人の綺麗なスタート。だからこそ、恵まれた枠番を存分に活かし一歩先んじたテンプレオリシュの位置取りが光りますね』
ざわざわと胸の内側を無数の指がなぞり上げていくような異物感。集中力の阻害……いえ、違和感の残る手応え的に使用者なら逆に集中力を高める効果があるかもしれません。
シンプルながらなかなか厄介な性能をしていますね。リシュさんの枠番が一番で私が十五番ですから、ゲートのほぼ全域が射程範囲内ということになります。
ここがスプリントの最高峰だったからこそばらつきの無いスタートと相成りましたが、そうでなければ出遅れのひとりやふたりくらい出たのではないかと。
『熾烈な先行争い。先頭に立ったのは一番テンプレオリシュ。十六番ピッコロリズム、十四番ミニペロニー続いている。少し外に十五番サクラバクシンオー、この位置に着けています。そのすぐ後ろに十三番タイキシャトル、ここまでで先頭集団を形成』
『一番人気サクラバクシンオー、落ち着いた様子ですね。今日は先行策でいくようです』
領域具現――
白い剣がひらめく。世界がひとつ解けて消えたかと思えば、またひとつ。
青空の余韻もそこそこに、夕暮れを飛ばし広がる夜の帳。
ウマ娘がいた座標に浮かびあがるのは線香花火。ぱちばちじりじりと音を立てて火薬の光が宵闇を刻む光景は綺麗ですが、どうも私はこうやってじっと待つタイプの花火が苦手なのですよね。
あ、言ってる傍から落としてしまいました。じゅう、と満足に存在を誇示することもできず地面の上で消えた赤い玉は物悲しさに満ちていて。同時に、ぐいっと身体が抑えつけられるような重さを感じます。
ぽとりぽとり。連鎖するように落ちていく火の玉の中、細く鮮やかな火の花弁を最後まで全うさせたのは結局リシュさんの花火だけ。
ぐぐぐっと表情を歪ませるピッコロリズムさんとミニペロニーさん。すいっと加速するリシュさん。
なるほどなるほど。範囲内の無差別な共通効果ですか。判定に成功すればバフ効果、失敗すればデバフ効果を付与される、と。
ははーん。さてはこれ、過去最長の1200mになりますね?
リシュさんの“領域”については既に聞き及んでいます。
ジュニア級の頃からリシュさんは“領域”を自分の意思で具現できるまでに習熟していましたから。先輩として鼻が高いです。出会った当初から既にそうだったので具体的に私が何かしたというわけではありませんが!
他者の“領域”を切り取ってストックし、以降自分自身の“領域”として使用できるというユニークな性能。何なら私自身の“領域”を提供したこともあります。黒い剣で串刺しはなかなかに衝撃的な経験でしたとも!!
チームでのトレーニング中この身に受けたこともありますが、先ほどの“領域”はいずれも初見ですね。使えるようになったのがつい最近という可能性は……いえ、リシュさんは練習で万全に積み重ねた経験を本番でいかんなく発揮するタイプです。
この大舞台にぶっつけ本番で使ってみたとは考えにくい。今日このときのために温存していた手札なのでしょう。
たいへんよろしい! 己の全てをここでぶつけるという気概を感じます。真正面から受けて立ちましょう!!
両親は私の産声を聞いた時、『世界を善へと導く者の誕生を確信した』とよく語ってくださいました。
そして忘れもしない小学校一年生の頃、立候補を募っても誰も気恥ずかしさから手を上げず、ただ秒針の音だけが自己主張する教室の中。
担任の先生は一番前の席に座っていた私にこう言ったのです。
――みんなのお手本になれる、えらい子にしかできないお仕事よ。どう?
あの日、衝撃と共に私は自分の生き方を理解したのです。
もとより手本とは愚かしいもの。成長し、いずれはそこを過ぎ去り、かつての自分が通った道ゆえに、現在の自分の評価を高めるため過剰に軽んじて評価する。
あんなものかと。まだそんなことをしているのかと。
それでいいのです!
私ほど優秀なウマ娘でなければあるいは耐えられないかもしれません。しかし神童にして神速と当時から評判だった私からしてみれば、縁の下の力持ちをして腐る性根など持ち合わせておりませんっ!
心からの笑顔でお手本から巣立つウマ娘たちを祝福しましょう!!
巧みに立ち回る者は笑うでしょう。もっと効率的に動けばいいのにと。
賢い人は眉を顰めるでしょう。ちゃんと考えればもっと賢明な判断が下せるはずだと。
しかぁし! 効率と賢明に合わせてこねくり回され、手垢と指紋だらけになった
私は学級委員長、サクラバクシンオーですッ!!
領域具現――優等生×バクシン=大勝利ッ
桜色に咲き誇る空間。
轟くバクシン。響き渡るバクシン。すなわちバクシンッ!!
「バクシンバクシーン!!」
電光石火の煽りは伊達ではありません。
三分間の半分も要しないこのレース。スタートのときにお湯を注いだカップ麺をゴールと同時に召し上がれば、だいぶ芯の残った食感となることでしょう。
序盤の激しい競り合いで散った火花の残滓漂うカーブはあっという間に第四コーナーへと差し掛かり、そこを抜けたら最後の直線です。
「――Are you ready?」
まばたきひとつ惜しむようなスプリントの舞台。悠長にお喋りしている余裕など誰も持ち合わせているはずもなく。
それでも私たちは時折聞き取るのです。魂が触れ合うとでも言うのでしょうか。
鼓膜を介さず脳内に響く声。
きっとそれは共に走る、かけがえのない宿敵たちの心の奔流。
領域具現――ヴィクトリーショット!
広がるのは赤茶けた荒野。
吹きすさぶ風。容赦なく舞う砂埃。過酷な渇きを象徴するサボテン。
そこはまるで西部劇で見る開拓地。多くの人々が夢だけを支えに奔走した時代の写し絵。ただ空に広がる穏やかな青空は、その風景の持ち主の心象を表しているようにも思えます。
キィンと甲高く弾かれる銀のコインは決闘の合図。地面にそれが落ちると同時に素早く抜き放たれるはリボルバー。
放たれた銃弾は、自分こそが勝利を撃ち抜くのだという意志で輝いていました。
ここが仕掛け処とあなたも見極めましたか、タイキシャトルさん!
機を見るに敏。あたかも早撃ちガンマンのような素早く精密で致命的な一撃。
「ここからがっ、ホントの真剣勝負デース!」
ただ惜しむらくは、ここが短距離で相手が私だったこと。
おおきくてはやいものが背後より迫り来る、普通のウマ娘なら容易く掛かってしまうであろう重圧。ですが神速の私を脅かすには足りません。
「ハーッハッハッハ! バクシンバクシンバックシーン!!」
「クウッ! ハァアアアア!!」
ひとり、ふたりと前にいた子が脱落し、先頭をひた走るリシュさんの姿がはっきり見えます。翻る銀はまるで宙を浮くように荒れた内ラチをすいすい進みますが、残念ながらそれでも私の方が速いのです!
このままではあっという間に追い抜いてしまいますよ!? さあどうしますかっ!!
領域具現――
抜けば玉散る氷の刃! リシュさんのそれは光をまったく反射しない漆黒の長剣ですが!!
魚群を彷彿とさせる一糸乱れぬ有機的な挙動。飛来するは無数の黒剣。ただ魚群と異なるのは天敵に備えた防御的な動きではなく、獲物を狩るための攻撃的な動きだということ。
桜色の世界を切り裂くように遊泳する黒剣たちでしたが、私に近づくに連れみるみるうちに小さくなっていきます。はて、不思議なこともあるものですね。遠くにあるうちは小さく見えたけど近づいてみると思っていたより大きいというのが普通ではないでしょうか? 本日の遠近法はお昼寝中なのでしょうかっ!?
ぷすりぷすり。
私に刺さる頃には針のようなサイズにまで縮んでいました。少しばかりチクチクしますがこの程度なら問題ありませんね。なにせ学級委員長ですのでっ!!
BANG! BANG!
すぐ後ろでタイキシャトルさんとリシュさんの“領域”が競り合う音が聞こえます。
いつだったかトレーナーさんに教わったこと。同じ速度でぶつかった場合、大きくて重いものの方が競り勝つ。物理法則がどうだとか、運動エネルギーがどうだとか、詳しい理論は忘れましたが! だって私たちウマ娘ですもの。それらの法則が適用されない状況がわりと頻繁に発生するのです。
だから、小さな金色の銃弾が漆黒の長剣を撃ち砕く目の前の光景もさほど不自然なものではないのでしょう。物理の法則に真っ向から逆らっている、ただそれだけのこと。私たちの
《うわぁ、まじかー》
どこか斜に構えたリシュさんの声が聞こえました。
《『防がれる』まではある程度予想していたし、これまでも何度かあったけどさ……『直撃した上でまるで問題にならない』っていうのはさすがに想定外。山を剣で掘削しているようなもんだ。
はて、どこから聞こえているのでしょうか。タイキシャトルさんのそれとは響き方が微妙に異なるような? まるで糸電話越しに話しているかのような微妙なくぐもり加減です。
《ナリブの振れ幅が激しいってことは知っているつもりだったけど、ありゃ相当に下振れを引き当てていたんだなぁ。GⅠの大舞台でノリにノったレジェンド級がここまでのものだったとは……》
ざわり、と全身の肌が粟立つのを感じました。
空気が変わる。何かが起ころうとしている。
《本当に予想以上で――どこまでも期待通りだ》
『第四コーナーを抜けて直線に入る。十五番サクラバクシンオー、ここで行った! 十四番ミニペロニー、十六番ピッコロリズム苦しいか? 入れ替わるように十五番サクラバクシンオーと十三番タイキシャトルが上がっていきます』
『中山の直線は短いぞっ、後ろの子たちは間に合うのか!? まだ差がある。先頭は依然として一番テンプレオリシュ。中団で三番リボンマズルカ、内で脚をためています。そのすぐ後ろに七番デュオペルテ。最後方では二番フリルドマンダリンが動いた。八番アジサイゲッコウその位置から届くのか』
外側にいる方々は何も気づいていない。
魂の衝突で火花が舞い散る最前線の私たちだけが感じる、本能の警告音。
《さて、
ここで着目したいのはどの育成シナリオでも共通した条件となっている『ファン数』だ。この世界のウマソウルなるものが
立て板に水。まるで何かの公式を読み上げている数学者のようなよどみない口調。
ビリビリと足元が振動しているかのような圧の高まり。
刹那の怠慢も許されないこのレースの中で、そこだけが奇妙な静謐に満たされていました。
《バレンタイン、ファン感謝祭、そしてクリスマス。これらの時期イベントの共通項は『ウマ娘の情緒が大きく揺れ動く出来事』である、ということ。
アオハル魂爆発がウマソウルの共鳴現象による容量の引き上げであるならば、固有スキルのレベルアップは質の向上。『この世界の“願い”』を集めたウマソウルが情動を契機に
そして誰に説明されるまでもなく理解していました。
津波の前に波が引くように、あくまでその静けさは前触れに過ぎないのだと。
《名前で括れてさえしまえば形になる。『テンプレオリシュ』――その名を鋳型として、この世界の人々の“願い”が集まるように世論を誘導してきた。それがこの子の対人関係に害を及ぼすことになると知った上で、“銀の魔王”というキャラクターを強調し続けた。
さあ、証明といこうか。数は既に十分すぎるほど。
すべてはこのときのために
その宣言と同時に、何かが音を立てて噛み合ったのを私は確かに聞きました。
スキルLvアップ!
【
Lv1→Lv2
「
「
《はじめまして世界。今後ともよろしくぅ!》
次回も引き続きバクシンバクシーン!