「ウマソウルってうるさいよね」「えっ」「えっ」   作:バクシサクランオー

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再来の征服ライブ

 

 

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 運命の捻じれに引き寄せられ、トレイルラン中に新入生の中でも目立つ存在だったアドマイヤベガと遭遇した。

 あたかも『こんなの予想通りですよぉ』みたいな顔でテンちゃんが対応していたけど普通に想定外。このランダムエンカウントは稀によくある現象だけど相変わらず心臓に悪い。とっさのことなのに見事な速度と完成度でぶん回されるテンちゃんの即興会話デッキは本当にすごいと思う。

 その後テンちゃんは何か感じるものがあったのかスカウトに踏み込み、なんやかんやあって彼女をチーム〈パンスペルミア〉へ引き込むことに成功。

 

 その結果、私たちを人生の師と仰ぐようになったアドマイヤベガ――アヤベは私たちに接するときに恭しく敬語を使うようになった。

 これがよく見る類の物語の主人公なら『堅苦しいのは苦手』とかいってタメ口を要求するのだろうけど、別に私は後輩に敬語で接されることに抵抗を覚えない。何なら私だって先輩やあまり仲良くない相手と話すときは敬語を使いたい派の人間だ。

 だから別に、そのこと自体は問題じゃないんだけど……。

 

 さて、テンちゃんが『未亡人ルック』と評したときに思わず噴き出してしまったほど年齢不相応に落ち着いた、あるいは擦れた雰囲気を纏っているアヤベは、しかしながらあれでけっこう人付き合いに難がある。

 具体的に言えばココンほどではないが人間関係が嫌いだ。もともと騒がしいのが得意ではない性分に加え、円滑なコミュニケーションのためにリソースを割くより走ることを優先する求道者のような生き方をしてきたから。

 それは彼女なりに明確な指針があり譲れない一線があったのだが、そんなの周囲から見てわかるものでもないし、彼女自身わざわざ周囲に理解されようと言葉を紡ぐこともなかった。

 人付き合いが悪いというのは現代社会にとってディスアドバンテージ。まあ根は悪い子ではないし、テンちゃん曰く中央に来るようなウマ娘は温厚で理知的な気質な持ち主が多いというのも関係しているのか、概ね『遊びよりトレーニングを優先するストイックな子』と前向きに受け入れられていたようだけど。

 これは中央という特殊な環境が大きいかもしれない。中央に合格できるようなウマ娘は皆、同年代がだらだらと遊んでいるのを横目に走り込んできた子ばかりなのだ。理解できないと遠ざけるよりは、共感する方の下地が多い。力ある者を羨みその足を引っ張るより、己も負けじと努力することを選んできたからこそ、彼女たちはここまでたどり着けたのだ。

 

 そんなコミュ障気味のアヤベさんが私たちには礼儀正しい。

 顔を見かければわざわざ近寄ってきて敬語で挨拶するくらいには。

 この関係性の根底には『私たち』と『彼女たち』にしかわからない共感があるのだが、やはりそれも周囲は知りえないことであるし、私たちもわざわざ説明してやる気なんて無い。

 

 いったい何があったんだ?

 

 見る者がそんな疑問を抱くのも致し方ないことなのだろう。

 アヤベが新入生の中では頭一つ抜けた実力者として注目を集めていたこともあり、生徒トレーナー問わずいろんな憶測も流れたようだ。

 でも現場を目撃したテイオーの第一声が「ねーリシュー、いくらナマイキな後輩とはいえシメるのはボクよくないと思うなー」だったのは納得いってないよ。

 そんな気に入らない相手を片っ端から〆ていくヤンキーじみた生き方しているみたいに言われるおぼえは…………ん? あれ、いや、心当たりが無いでもないか。

 よくよく考えてみれば(少なくとも自覚している分には)自分から喧嘩を売ることはせずとも、売られた喧嘩を愛想笑いで受け流すような社交性に富んだ生き方していなかったね、私。

 テンちゃんなら舌先三寸で丸め込むのも可能なのだろうけど。私の半身もあれで喧嘩っ早いところがあるし、けっこうな数の屍を積み上げてきた気がしなくもない。

 でもやっぱりテイオーに生意気な後輩云々言われるのは納得いかない。分を弁えたクソガキみたいな生態しているくせにさ。

 

《ともあれ、未来のダービーウマ娘になれるかもしれない逸材のスカウトに成功できたのはチームとしてもよかった。さすがにこれから先のプレシーズンや決勝で通用する即戦力になるのは厳しいだろうけど、しっかり育てて経験値を注ぎ込んでいこうね》

 

 んー。テンちゃんってさ、なんかアヤベに甘くない?

 

《かもねぇ。本人にも言ったけど、もしかするとぼくにもあんな生き方があったかもしれないと思うと……同情、っていうのはちょっと違うか。見当はずれの自己憐憫ってのがもっとも近いかな。まあそんな感じだから世話を焼きたくなっちゃうのさ》

 

 でもその世話焼きが報われなかったとしても、割り切れちゃうんだよね?

 

《そうだね。それなりに凹むとは思うけど、最後には残念だったなーで済ませることができると思う。結局自分が一番大事だからね》

 

 うーん、改めて言葉にされるとこの畜生っぷりよ。

 憎まれっ子世にはばかるとはよく言ったものだ。

 そうやって十年後も二十年後も。一緒にふたりで世に幅をきかせていこうね。

 

《がんばるー》

 

 微妙に真剣みが感じられないんだよなあ。自分のことなんだからしっかりしてよね。

 

《ごめんねー。意図して手を抜いているつもりはないんだけどさ。……やっぱり『テンプレオリシュをテンプレオリシュにする』っていうのがぼくにとってゴール板だったから、その後はどうにもウイニングランっていうか。気合いを入れなおして全力を尽くすつもりでも必死さは一歩及ばないかもねぇ》

 

 私は今まさに必死の思いだよ。

 時間制限があるかもしれないなんて初耳だった。そういう情報はちゃんと共有してほしい。

 負けるつもりなんて最初から無かったけど絶対に負けるわけにはいかなくなったし、“願い”を集められる機会は一つとして無駄にするわけにもいかなくなった。

 

《別に『変化があった』ってだけでそれがマイナスなのかプラスなのかさえ今のところはわからないからね。ぼくもリシュも成長していて、頑張ろうが怠けようが時間の経過と共に起こるそれは不可逆だ。

 何なら名君暗君の評判反復横跳びした歴史上の人物なんて掃いて捨てるほどいるし、人生が終わった後でさえ何度だって評価は覆るもの。何が正しいのかなんていつだって誰にだってわからないのさ》

 

 そういう煙に巻くようなことが聞きたいわけじゃないんだよ。

 

《じゃあこう言おうか。火の無いところに煙は立たない……思いっきり誤用だけどニュアンスは伝わるだろう?

 血流が止まって壊死した部位では感じるものも感じない。ウマ娘の“掛かり”じみた激情に駆られるようになったのはリシュのいう『ぶち生き返す』の成果が出ているかもしれないってこと。そう悲観的に見るものでもないさ》

 

 うーん、当事者に慰められるこのもんにょり感よ。

 まあ悲劇の主人公ぶっても助けてくれる相手などいない。いや、この表現は語弊があるな。

 助けてくれる相手には事欠かないが、こればっかりは私とテンちゃんでなければ手出しできない領分だ。

 下を向いて蹲っていてもいいことなど何もないのだから。萎えそうになる膝に活を入れて何度だって立ち上がろう。

 敬愛する我が腐れ縁のように。

 

 とりあえず目の前に迫った最大のタスクはあれだな。

 アヤベやドトウと出会った昨年のファン感謝祭から気づけば季節は半回転し、迫り来るは春のファン大感謝祭。

 私の性分的にワクワクするような催しではないけど、手を抜かずに全力でいこう。そしてお祭り騒ぎにとって『全力』とは楽しむということも含まれる。

 うん、がんばろう。

 きっとこの先に未来があるから。

 

 

U U U

 

 

 さて、春のファン大感謝祭である。

 

《イベントとしての区分は『ファン感謝祭』で、イベントとしての名称は『○のファン大感謝祭』なの最高にややこしいよなーって()は思っていたけど……。

 大と区分するのはすなわち中なり小なりが存在するということ。要するにあれってプレイヤー目線でいえば『○のファン小感謝祭』的なイベントが存在しているってことなんだよな》

 

 おい、仮にもファンの皆様に感謝をお届けする催しに小とか付けちゃダメだろ。

 

《へへっ、さーせん》

 

 中央トレセン学園の生徒二千人全員が何か月も前から準備して、当日は学園全体を開放して行われる『ファン大感謝祭』は春と秋の年二回のみだが。そこまで大規模なものではない『ファン感謝祭』はわりと一年を通して日本各地で行われている。

 なにせURAが管轄とするレース場は札幌、函館、新潟、福島、中山、東京、中京、京都、阪神、小倉の全部で十か所。

 現代の優れた交通機関の上では片道数十分から数時間の距離かもしれない。だが地図上の距離はそのまま行動を起こす際の精神的ハードルになりえるし、単純にイベントそのものに要する時間を差し引くと日帰りは厳しいところも多い。

 

《ぼくらは主に中央開催のレースばかり出走しているけど、ウマ娘の立場からいっても移動距離というのは軽視し難い問題だもんねえ》

 

 府中まで足を運べないならファンにあらずと切り捨ててしまうのは、ファンに感謝する催しとしては本末転倒だろう。だから通常のファン感謝祭は上記のレース場で、レースが行われない日時を選んで開催される。

 派遣されるウマ娘は多くても三十人程度、普通はゲートに収まりきる人数だ。そのレース場で活躍した重賞ウマ娘が中心で、人数が集まり過ぎるとスタッフが捌ききれなくなるため逆に私レベルのスターウマ娘はそちらの催しに呼ばれることはめったに無い。

 ちなみに催し物である以上ある程度の集客が見込めなければならないため、未勝利ウマ娘が選出されることもない。応援してくれる人々に真正面から『いつもありがとう』と伝える権利は勝者にしか存在しないのだ。世知辛い話である。

 でもウイニングライブに象徴されるように、もとよりレースとはそういう世界。平等な権利なんてどこにもない。

 勝ち取るか、奪われるか。

 その妥協なき衝突にこそ多くのファンは輝きを見出しているのだから。そのきらめきの原材料が報われぬ汗と涙だと知っている身としては、なんとも言い難い気分にさせられる。

 

《それでも消えていった嘆きと切なる願いを忘れられなかったからこそ、グランドライブは生まれたんだろうね。ま、この世界線じゃあまだ来てないみたいだけど》

 

 なにそれ?

 

 話を府中に戻そう。

 かつて触れたこともあったが、秋に行われる聖蹄祭が文化祭としての色合いが強いものであるとするなら、春のファン大感謝祭は体育祭としての特色が強い。

 聖蹄祭がカフェや出店、ファン参加型のイベント等を通じファンとダイレクトに触れ合うことを主目的とするのであれば。

 今回のこれは学園のあちこちで行われる各種競技に参加する姿を見せることで、観客席のファンの皆様をもてなすもの。駅伝にバレーにフットサルなどなど、レース以外で活躍するウマ娘が見られると有名だ。

 ユニークな競技も多く、選手各員が中央の狭き門を潜り抜けるほど優れた身体能力を持つウマ娘であることを前提とした『坂路往復・大玉送り』や『アスレチックにんじん食い競走』はこんなところでしか見れないこともあり人気が高い。中には『鬼ドッジボール』のようないろんな意味で吹っ飛んだ種目もある。

 

《『ボールを破裂させた際のペナルティ』がルールブックに明記されてる球技って何なんだろうな……》

 

 レジェンド級と称されるウマ娘ともなれば、全力で投擲すれば普通にボールも凶器になるから。

 お互いに不思議パワーで保護されたウマ娘。ギャグマンガみたいなノリで吹っ飛んでも怪我どころかケロリと競技を続行できるイキモノではあるが、それはそれとして限度というものも存在する。

 『ボールを破裂させない程度の力加減』というのはわりとわかりやすい指針だと思うよ、私としてはね。

 

 むしろそれよりも私はこの時期にファン感謝祭が行われることの方が不思議だよ。

 開催は夏と冬の方がよかったんじゃない? 長期休みもあることだし。いや、その場合は逆に観客の数が偉いことになってさすがの中央でも収容しきれなくなるのか。

 でもファンに感謝するイベントなのに、孵化(メイクデビュー)も果たしていない有精卵(新入生)の子たちまで動員されるのは気の毒というか何というか。

 私たちのときはどう感じていたっけ? ……特に何も感じていなかったな。ただ新生活に慣れるので手一杯で、ファン感謝祭も対応するべき無数の新規イベントの一つでしか無かったおぼえがある。

 

《この時期だからこそ、じゃね? 春のファン大感謝祭が体育祭なのはピッカピカの新入生の紹介という側面も強いのかもしれない。顔と名前だけでも憶えて帰ってくださいってやつ》

 

 ああ、なるほど。デビューしてないんだからファンいないじゃんと思っていたけど、前提が違うのか。

 二年生以上の生徒にとって春のファン大感謝祭は自分たちの生活を支えてくれている人々へ感謝を示すイベントではあるが、新入生にとってはファンを作るための最初の第一歩なのだ。

 そう考えれば中央トレセン学園の体育祭であるにも拘らず、レースが種目に無いというチョイスにも見えてくるものがある。

 いや、それらの種目が走りと関係ないわけではないのだ。先に述べた鬼ドッジだって鬼ごっことドッジボールが悪魔合体して学園の敷地中をバスケのドリブルで走り回りながら内野も外野も無くボールをぶつけ合って点数(ポイント)を稼ぐ競技だし、他にも『クイズラン』や『自転車レース』、果ては『借り物・障害物4000m走』などなど、走行を前提とした種目は枚挙にいとまがない。

 しかしレースではない。たとえば『借り物・障害物競走4000m走』は四キロの障害物競走をなんとかこなしヘロヘロになった状態でゴール直前に借り物競走のお題をこなす必要があり、その過酷さから毎年何人ものリタイアが出る……冷静に考えれば頭がおかしい競技だな、これも。

 ともかく、トゥインクル・シリーズではありえないレギュレーション。レースというのは技術と経験の積み重ねであり、どうしたって上級生には敵わない。

 だがこれらの春のファン感謝祭特有のトンチキルールで行われる競技ならば、少なくともレース経験値による格差は最小限に抑えることができるわけだ。

 青田買い、と言えば聞こえは悪いが。素質を持った新入生をファン予備軍が見つけやすい環境と言えよう。

 

《何なら一部のファンは『あの子のことはメイクデビューどころか春のファン大感謝祭の頃から注目していたんだぜ!』などとマウントを取ることを趣味にしているかもしれないね》

 

 うーん、趣味が悪い。

 でもそういう人の業にこの業界が支えられている側面があるのも事実。誰もが清濁併せ呑む器を持つわけではないが、いたずらに拒絶反応を示すのも違うだろう。

 そういうものか、と流しておくくらいがいいのだ、きっと。

 

 さてと、ここまで長々と中央トレセン学園における春のファン大感謝祭の体育祭的側面を語ってきたわけではあるが。

 実はこれ、一般的な学校の体育祭と違って生徒全員が何らかの種目に強制参加というわけではない。

 たとえばトレセン学園応援団。古き良き熱血応援団がファン感謝祭の一日、学園中を駆け巡ってファンと共に声を張り上げ応援の限りを尽くすのは少年マンガライクのワビサビがあるとはテンちゃんの談であるが。

 そんな応援団に所属するウマ娘は感謝祭競技への参加がいっさい不可となる。応援団は自らの意思で所属を決定する分その制限も端的であるが、彼女たちに限らず競技への参加免除を申し渡される者は一定数存在している。

 たとえ体育祭的なイベントだろうと私たちは断固としてお化け屋敷やっちゃうぜーと企画を立ち上げメンバーを集めそれを通してしまった剛の者とか(一応、それもファン感謝祭の催し物としてはルールに反しているわけではない)。

 あるいは個人の名を冠したイベントの開催を学園から打診されるトゥインクル・シリーズの看板ウマ娘とか。私はこちらに該当する。

 

 イベントというものは常に新鮮さが求められる。

 ファン感謝祭は私たち中央のウマ娘にとって決して蔑ろにしていいものではないが、それはそれとして。自分でも『ねえ、これ正気?』と偶に言いたくなるローテで一年駆け抜けようとしている中で、時間と労力を走り以外に取られるのは面白い話ではない。

 催し物のために使われるリソースがレースに無関係とは言わない。レースはファンあってのものだから。でもやっぱり私は不特定多数に愛敬を振りまくよりは走っている方が好きなわけで。

 そんな問題を生まれる前に消してしまったのが私の半身だった。二度ネタは白眼視されるものではあるが、同時に王道や鉄板ネタは強い。

 そう、言ってしまうのなら。

 テンちゃんは新たな『テンプレ』を創り出したのだ。

 

 昨年の聖蹄祭で行った世代征服ライブ。

 端的に言ってしまえば、あれが()()()

 あくまで聖蹄祭の演目の一つでしかないミニライブにも拘らずSNSで話題沸騰、円盤が即座に完売しただとかなんとか。いやおい、そもそもいつの間に記録して販売されていたのか。もはや私関連グッズが多方面に広がり過ぎて何が売られていて何が売られていないのか把握しきれなくなってきている。

 

《税金関連の複雑怪奇なあれやこれやも一手にフォローしてくれているトレーナーの皆さまには足を向けて寝られないね》

 

 本当にね。

 

 ともあれ、ライブに参加できて大満足の皆様然り、ライブに参加できず怨嗟の声を上げている皆様然り、多方面からアンコールの声が殺到しているわけで。

 開催されるのが春であれ秋であれそのイベントの名は『ファン感謝祭』。である以上、ファンのご要望にお応えするのが筋というもので。

 無事に今年の春のファン大感謝祭でも私たちは件のライブを行うことと相成ったわけである。

 

 また、世代征服ライブそのものに商品価値が生じた影響でファン感謝祭実行委員の下部組織として征服ライブ実行委員会なるものも結成された。ネーミングセンスについてはノーコメント。

 そんな実行委員がライブに関連するあれやこれやを取り仕切ってくれるようになった。私が担うべき役割(タスク)は前回よりもさらに軽減されたわけである。

 私が勝ち続けている限り、ファン感謝祭で私がやる演目はこの征服ライブが常となることだろう。つまりそれは前年にも増して激戦が予想されるこの一年間、寄り道に割かざるを得ない手間暇が極限まで削減されるということでもある。

 いったい私の半身はこの事態をどこまで想定していたのだろうか。最初から計画していたような気もするし、ただの成り行き任せという気もする。

 ただ確実なのは、負けられない理由がまた一つ増えたということだ。せっかくできた鉄板ネタ、使えるうちは使い倒したい。

 感謝はあるしそれを伝えることに恥じらいも無いが、それはそれとしてめんどい。

 

 

 

 

 

 時代征服ライブ。

 それが今回行われる私主催イベントの名前だ。

 ……うん。前回の世代征服ライブのときはまだクラシックロードを完走していなかったし誇大広告と咎められたら反論のしようがなかったが、今回はまだマシ。うん、まだマシだ。そう思うことにする。

 全距離GⅠ制覇と同時に無敗のクラシック三冠を達成後に年末の有記念制覇。今年シニア級に入ってからも敗北を知らぬまま追加でGⅠ二連勝。

 もはやそれを成し遂げたウマ娘テンプレオリシュの時代だと言っても、そこまで文句は出ないんじゃなかろうか。その時代の覇者テンプレオリシュが私たちのことを指す名だという羞恥心から目を逸らせば客観的な成果は残している気がする。

 

「みーんなー! マヤだよー! こーんにちはー!! 今日は来てくれてありがとーっ!」

 

 聖蹄祭ではグラウンドをまるごと一つ特設ライブ会場に作り替えて行ったが、春のファン大感謝祭は運動系の催しがメイン。その事実は変わらず、優先されるのはそちらの方だ。ライブの為に潰せるほどグラウンドは余っていない。

 そのため本日は据え置きのステージの一つを使っての開催となる。前回みたいに私のために特設されたものではないので演出はやや控えめになるし、観客席のキャパシティも相応だ。いちおう用意されたものの中では最大規模のものだけど。

 まあ学園の敷地内にステージが複数あるって時点で一般家庭出身の私からすればだいぶおかしい……はずなんだけどなあ。トゥインクル・シリーズも三年目となると完全に感覚がこちら側に寄ってきているのを実感する。

 なんか地味だなって思っちゃうんだよね。自分が怖い。良くも悪くも人間は慣れる生き物ということか。往々にして悪い部分が表になるシチュエーションが多い気がするけど。

 

「どもどもー、アグネスデジタルです。ああいえ、ご安心ください! 皆様が来場されたのはリシュさんとテンちゃんおふたり主催の時代征服ライブでちゃんと合っておりますので!

 何でデジたんごときが壇上にいるんだって思っている方もおられるでしょうが、それ一番あたしが思っていますから。今からでも観客席に降りてペンライト振り回しちゃダメですかね?」

「もー、ダメに決まってるじゃん」

 

 観客席に広がる笑い声。

 掴みはバッチリだな。

 

 テンちゃんなら掌の上どころか舌先の上でこれだけの群衆をコロコロ転がせるのかもしれないが。

 私には無理だ。絶対に間が持たない。

 だから力を借りた。持つべきものは友達である。

 

 テンプレオリシュとはふたりでひとつのウマ娘。お互いがお互いの力を最大限に活用することに罪悪感などあるはずもなし。

 人生ワンオペで回しているやつらが言うような『自分ひとりだけで出来るようにならないと』なんて価値観は私と無縁だ。私にとって自分とは生まれたときからひとりでふたつ。自分の得意分野を自分(わたし)で受け持ち、不得意な分野を自分(ぼく)に任せることの何が悪いやら。

 だが前回の征服ライブのときとはいささか事情が変わった。『私たちが私たちであること』を不特定多数にアピールする場はいくらあってもいい。

 少なくて困ることはあっても多くて困ることは……たぶん無いだろう。仕事が入り過ぎてレースが疎かになるとか、そういうのはまた機会の多い少ないとは別の話だ。

 

 身に纏うは漆黒のコート。ジュニア級からクラシック級の最後まで共に駆け抜けた一着目の勝負服。

 友人二人が軽妙なトークで場を温めてくれたところで満を持してステージに上がった私はまず深々と観客席に向け一礼した。

 

「本日は私たちのライブにご足労いただき、まことにありがとうございます」

 

 私にテンちゃんと同じことはできない。

 自分が不特定多数からどんな風に見られているのか把握して、その上で自身の印象を操作して自らの意図する方向に場の空気を誘導することなんて私には無理だ。

 ゴール時にきっちり後続から一バ身キープするみたいなレースの展開操作ならできるんだけどなぁ。あれは事前の綿密なデータ収集ありきだし、何よりお互いにウマ娘というのが大きいから。似て非なる技術というか、私的には全然違うものなんだよね。

 でもきっと、それでいいのだ。

 私は私のままで。私にできることをやる。それであらわになる差異こそが観客に印象付けるべきもの。

 私たちは同一にして異なる存在なのだと憶えて帰ってもらおう。

 

 しかし、考えようによっては何とも皮肉なものだ。結果的に情報がひどく偏っている。

 きっと私を知らない不特定多数の目に私は品行方正な主人格(にんげん)で、テンちゃんは私を守るため牙を剥く別人格(かいぶつ)として映るのだろう。テンちゃんの方がずっと社交性は高いのに。

 

「この場を訪れてくれたすべての手を取り一人一人に感謝を伝えたいところですが、残念ながらこの限られた時間でそれをやるには足りないものが多すぎます。なので歌と踊りに代えて届けましょう。万人に平等に、そしてあなただけに。この想いを」

 

 よくわからない分野だからこそ丁重にマニュアル通りに。

 礼儀正しく感謝を告げる私の態度の理由なんてそのくらいのものなのに。

 

「限りある人生の一部を私たちのためにつぎ込んでくださったあなた方の選択。それが無駄になることは決して無いでしょう。与えられたものは余さず背負い、送り届けましょう。ここにいる誰も見たことのない景色まで」

 

 テンちゃんとは生まれたときからの付き合いだ。

 だから得意不得意を考慮しなければ半身がよく使う軽妙洒脱なそれっぽい言い回しの数々は、私の言語領域にもちゃんと保存されているわけで。

 品質を問わなければこれくらいのことはできる。表情筋の運動と声の抑揚には目を瞑ってほしい。

 

「どれほど大言壮語を吐こうと未来は不確定なもの。だからこそ瑕疵無き過去の戦績をもってそれに代えるとしましょう。昨秋の『ぼく』がそうだったように、『私』が長々と語るのはここまで。

 これから始まるライブはあなた方の“願い”を背負った私たちがこの時代を征服する、そんな未来への証明です」

 

 マヤノやデジタルと目を見合わせ、頷く。

 さあ、始めようか。

 残さず美味しくたいらげてさしあげるので、どうぞお皿にお並びくださいってね。

 

響け ファンファーレ 届け ゴールまで 輝く未来を君と見たいから

 

 三人で紡ぐコーラスときらきら漂う朝靄のイントロダクション。差し込む日光がごとき力強く温かなファンファーレ。それに合わせ登場するバックダンサーの面々。

 新式ウイニングライブメドレーのお披露目だ。

 

 




以前に歌詞が見にくいとの指摘があったので少し工夫してみました

そういえばすごく今さらですけど
この小説を投稿してから既に二年が経過していたのですよね
ここまで来れたのは間違いなく皆様のおかげです。ありがとうございます。
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