はかいしん こうりん 作:海砂
魔王が帰ってこない。
いつまでたっても魔王が帰ってこない。
今度こそ小一時間問い詰めてやろうと思ってたのに、帰ってこない。
暇つぶしにダンジョン掘りまくってたら、なんか色んなことがわかった。
とはいえ、コケがまっすぐ進むとか、なんかにょろーっとしたガジガジムシ見つけたりとか、その程度なんだけどさ。
あと、魔方陣をつんくつんくしてみた。
デーもんがこんにちはしてきた。真っ赤な毛並みがお美しく、つぶらな一つ目が初々しい。
「何か用?」
……困った。これといって用事は無い。
正直に伝えてみた。
「ふーん、用も無いのに呼んだんだ」
やばい? 食われるか? よし逃げる準備を……。
「……まっいっか。どうせ寝るし」
……その場で丸くなって寝てしまった。俺にどうしろと。もういい、放置だ放置。
ところで魔分ってもんもあるらしいんだがこのダンジョンには見当たらない。なので俺のお勉強はここらで打ち止めだ。
もう、魔王がさっさと勇者に連れ去られてしまえばいっそ世界も平和になるんじゃないかと思う。
もちろん、俺はそれを眺めているだけだ。積極的に手助けしたら俺も地上で暮らせないかなぁ。
破壊神から勇者にジョブチェンジとか、よくね? ダの付く神殿とかあるかなぁ。
「おい」
ん? そもそも勇者ってジョブチェンジしないとなれないものなのか? 自称勇者とかでも充分じゃね?
「こら」
でも、魔物退治するのやだしなぁ。平凡な町民とかが一番いいよね。日がな一日村の中を歩き回って、たまに勇者が来たら『わー! ほんものの ゆうしゃだ!』とか言って指差して、それで暮らせたら最高だ。
「そこのツルハシ!」
……いま、呼ばれたか? っていうかツルハシって……これのことだよな。
振り返るとちまい幼女がいた。明らかに俺……ではなく、持っているツルハシを見つめている。
ツルハシを差し出してあげるとはたき落とされた。
「人が呼んでるのに無視するなんていい度胸なんだ! オマエ、サイテーなんだ!!」
初対面の幼女にサイテー言われました。これはどういうシチュエーションなんでしょうか先生。
「アタシは魔王のムスメなんだ! もっとうやまってこびへつらえばいい!」
だんだんむかついてきました先生。コムスメですが殴り飛ばしていいでしょうか。いやいや、俺は優しいお兄さんになってここはひとつ、寛大な心で許してあげるとしよう。
「おいツルハシ! パパはどこなんだ!?」
知るか。
「オマエ、ツルハシのくせになまいきだ! パパが帰ってきたらうーんと叱ってもらうんだ!」
……こんガキャ。パパはね。勇者の調査に行ったまま帰ってこないんだよ。わざわざ教えてあげる俺ってば優しいよね。だから早くカエレ。
「……パパ、帰ってこないのか?」
うん。いつもならそろそろ帰ってくるはずなんだけど。
「もしかしてパパ、どっかでいいヤツに簀巻きにされて、コンクリ詰めにされて太平洋に沈められてるかもしれないんだ!!」
……いや、それは多分ないと思うよ……勇者はそんなことシナイ、多分。
「じゃあ仕方ないんだ。ママからの伝言伝えといて。今夜はアタシと一緒にお友達の家で魔ディナーご馳走になってくるから、冷蔵庫のコンビニめしチンしとけって」
それだけを伝えると、ムスメはのっしのっしと帰っていった。……魔王も色々大変なんだな。
「おや破壊神様、どうされましたそんな所で」
ナイスタイミングだよ魔王。今、アンタの娘さんが来て、コンビニめしチンしとけって。
「えっ! ……手を出したりしてませんよね? 信じてますからね?」
俺はロリじゃない。安心しろ。
「それにしても、きちんと亭主の夕飯を準備していくとは、なかなか見上げた妻子だとは思いませんか?」
いや、普通は思わないと思う。
「先日は家に帰ったら真っ暗だし、冷蔵庫には何も入ってないし、ポチにはほえられるし、さすがにキレてビシっと叱ってやったんですよ」
……色々と、大変なんだね。
「あっそうそう、本題です。次に来る勇者はどうやら魔界にも足を踏み入れたことのあるツワモノらしいですぞ。正直弱点も何もわかりませんでした」
本当に使えないオッサンですねアンタ。これだけ時間かけて情報それだけとか言わないよね?
「いやいやいや。ええと、笑顔がチャーミングらしいですぞ」
俺、家に帰りたい。
「あ、もう勇者来ますから」
マジで、帰りたい。
わらう せぇるすまん もぐろ LV20
「ホーッホッホッホッ……」
カッとなってやった。後悔はしていない。
俺は魔王を入り口のドまん前に放置した。
きっとアレを勇者が簀巻きにして、お持ち帰りにしてすべてが終わるんだ。
ひたすら逃げまくってやる! もう知るか!! ウワァァァァァァヽ(`Д´)ノァァァァァァン!
「破壊神様ー、終わりましたよ」
魔王の元気な声が響く。ま、まさか魔王、一人で勇者を撃退したのか……? いや、あんな装備持ってるんだから、それくらいやっても不思議じゃない。なら最初から自分でやれよ!
「いやー魔王様、世の中にはいい勇者、もとい悪魔的勇者もいるもんですね」
魔王は自分の大きさほどもある龍の置物を抱えてニッコニコしている。
えーと、ちょっと待って下さい。状況がサッパリつかめません。
「いえね、今来た勇者はもぐろさんって言うんですけど、魔王の話じっくり聞いてくれて慰めてくれて、色々気苦労とかにも共感してくれて、しかもこの、願いの叶う龍の像をくれたんですよ! ちょっと和風で非常に私ごのみです。ちょっと目つきは怖かったですが話してみるともう本当にいい人で。私久方ぶりにカンゲキしましたよ」
その龍の像、どう見ても呪われてるっぽいんだけど……ああ、魔王的にはすばらしい置物なのかな? よーわからん。
「あんなに優しくされたの初めてで、もー魔王思わず世界の半分あげちゃいそうになりましたよ!」
……えーと、つまりその、もぐろさんは、魔王に龍の像をプレゼントして帰っちゃった、と……。
「そうなりますな」
……こんなんでいいのか、この世界……マジで、俺が勇者にならねば世界は救われんのかもわからんね……。
浮かれ気分の魔王が魔界のBARに連れて行ってくれた。魔ティーニはおいしかった。
もぐろの詳細については教えないことにした。お前なんか不幸になってしまえ!
先生、俺はいつになったら元の世界へ戻れるのでしょうか……。
クロス先:笑ゥせぇるすまん