紡がれる『帝』の血脈   作:シントウ

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無印読品さん、カルデスさん、zincさん、リョウ・タッキーさん、森型さん、評価ありがとうございます!

今回はミカドの同期ブエナビスタの回です。
少し短めですが楽しんでもらえれば幸いです。

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものであり実在するものとは関係ありません。


帝の日常/ブエナのレース

松戸厩舎 馬房

 

『悔しい〜!!!!!』 ガンガンガンガン!!!!

 

俺ノゾミミカドが芙蓉Sで勝利した数日後に行われたブエナの新馬戦。そこでブエナは3着となり負けてしまったらしい。

 

『ブエナ、落ち着けって…他の奴らに迷惑だろう』

『そうそう。それに新馬戦で勝てる馬ってそんなに居ないんだよ』

 

※こいつら新馬戦で勝った奴らです。

 

『ふ〜んだ!!』プンスコ

 

あらら、これ俺たちじゃどうしようもないわ…どうしましょ…

 

『騒がしいぞ、お前ら』

 

俺らが困っているとある一頭が声を出した。

 

『最初負けたかってウジウジしよって…そんなんじゃ次の未勝利戦、勝てるものも勝てなくなるぞ』

『も、モナーク先輩!』

 

俺たちの会話に入ってきたのは『アドマイヤモナーク』というこの厩舎では古参に入る重賞馬だ。オーラ先輩と同じ冠名を持ち、既に40戦もレースに出走しG1にも出走経験もある先輩馬だ。

 

『どういう事〜?!私が勝てないって言うの〜!?』

『違う。むしろお前は俺なんかよりも内に秘めた才能も根性も上だ。俺が言いたいのは負けてウジウジするんじゃなく、なんで負けたか、次はどうすれば勝てるかを意識しなくちゃいけない。それに気づかなくちゃ俺みたいに未勝利から中々抜け出せなくなるぞ』

 

モナーク先輩の言葉にブエナの怒りは少しだけ収まったが同時に怪訝そうな表情をした。

 

『どう言うこと?』

『俺はデビューしてから一年弱はずっと未勝利馬だったんだよ。あの頃は中々勝てなくてな、負け続けた俺は闘志をなくしていたんだ。けど5回ぐらいの未勝利戦で負けてふと思ったんだよ。『なんで俺は勝てなかったんだ、俺自身今まで何を思って走っていたんだ』ってな』

 

その話を俺たちは黙って聞き続けた。

 

『負け続けて俺は『負ける』ことが当たり前になっていたんだ。『勝つ』ことが分からなくなっちまっていたんだよ。俺は誰よりも早く先頭に立って勝つことが目標だったはずだ、なのにこの体たらくはなんだって思い始めてな。それを考えていたら勝利への闘志が俺の中にまた戻って来た。そこから俺は負けてそこで終わるんじゃなくて、”負けても勝利に繋がるものをそこから死ぬ気で見つけて身に着ける”ことにしたんだよ』

『負けても……』

『勝利につながるものを…』

 

俺たち競走馬の世界は厳しい世界だ。勝つことがない馬ははっきり言って余程のことがない限り、多くはそこで馬生を終えてしまう。勝ち続けなければいけない世界なんだ。

でもモナーク先輩は負けても負けても諦めずに走り、少しづつ成績を出し始めた。自分が勝つことを信じて。

 

『ブエナビスタ』

『は、はい!』

『負けて悔しがるのはいいことだ。それはまだお前が気持ちでは負けていない証拠だ。だがなそこで止まっていたらお前は勝つことは難しくなる。負けて学べ、そして勝利を掴む為に考えろ!闘志を失った奴はそこで終わる、だが闘志を失わない奴、もう一度燃やし始めた奴にはチャンスがある!それを掴むのはお前自身の力だ!いいな!』

『は、はい!!分かりました、ありがとうございます!』

 

ブエナはモナーク先輩にお礼をし、次のレースに勝つために考え始めた。

 

『モナーク先輩、ありがとうございます。俺も勉強になりました』

『ふん、気にするな。少しうるさかったから注意をしただけだ』

『先輩は素直じゃないな〜。ミカド、先輩は負けた子が出てくるといつもああやって喝を入れてあげるんだよ』

『オーラ、お前もG1で負けた時かなり荒れていたじゃないか』

『先輩、それは言わないで』

 

少し恥ずかしがるオーラ先輩、オーラ先輩をからかうモナーク先輩、それを見て笑う俺を横にただ一頭ブエナだけはその輪に入らずひたすら考え続けていた。

 

 

===

 

 

ブエナビスタside

 

京都競馬場

 

私ブエナビスタはあの時モナークさんに言われた通りにあの時何故負けたのかをずっと考えていた。

 

(あのレースでは最初に出遅れたのがまず一つ。そしてそれに焦ってモタモタしちゃったこと。次にスローペースになっていたから私みたいに後方から行く子たちが不利になりやすいレースだって安堂(あんどう)さんが言っていた)

 

あの時の負けは私がレースに集中しきれなかったからだ。

 

 

『1番人気、ブエナビスタ。馬体重は450kg、前回よりも2kg体重を落として来ました。ここで勝利し無事に未勝利戦から脱出なるか?』

 

ゲートに入り、集中する。今の私がすることはただ一つ。

 

「ブエナビスタ、そろそろゲートが開くぞ。集中しろよ」

『大丈夫だよ、安堂さん。前みたいなミスはしない…』

 

 

『全頭ゲートに入り態勢整いました』

 

 

さあ、魅せてやろう。私の走りを…

 

 

ガゴンッ!!

 

 

『スタートいたしました!各馬綺麗なスタートを切りました』

 

 

前と同じように後方から。でも落ち着いて…

 

 

『ブエナビスタは後方から6番目の位置で脚を溜めています』

 

 

勝負を仕掛けるのは最後の直線…今はただそのタイミングを待つだけ。

 

 

『第4コーナーを回って直線に入る。先頭はトーアクレセント、後方からハッピーパレードが上がって来た』

 

 

直線に入って安堂さんの鞭が入る!

 

『行くぞ!私の末脚はアイツにも負けない!!』

 

 

『っ、大外からブエナビスタが凄い勢いで上がって来た!前の馬をごぼう抜き!一気に先頭に躍り出る!!リードを2馬身、3馬身と開いて行く!!凄い脚だぞブエナビスタ!!』

 

 

『これが本当の、私の走りだぁぁ!!』

 

初めてゴール板を最初に駆け抜けた私は勝利のチャンスを見事に掴み取ったのだった。

 

 

『ブエナビスタ、1着でゴールイン!!2着にハッピーパレード、3着は固まってまだ正確には分かりません!ブエナビスタ、見事未勝利戦を脱出しました!』

 

 

「よくやったなブエナビスタ。いい走りだったぞ」

『ありがとう、安堂さん。今度はしっかりと走り切りましたよ』

 




軽い紹介

アドマイヤモナーク 7歳
父ドリームウェル 母スプリットザナイト 母父トニービン
アドマイヤオーラと同じ馬主が所有する重賞馬。未勝利戦を8回も行い、その後は条件戦などに多く出走し重賞レースにも出走できるようになった経歴を持つ馬。
松戸厩舎の古参で負け続けた自分だからこそ勝利と言うものがいかに重要だと言うことを誰よりも理解している。
結構お節介で厩舎内で負けた馬がいると喝を入れに来る。

今回の話で出て来たモナークは何回もレースに負けても諦めず全盛期ともいえる時期がすぎても最後まで走り続けた馬です。諦めないと言うことがいかに重要だと言うのが彼は最も理解していると思います。

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